パンパカパーン! 魔法使いと合流しました!   作:尻尾の抜け殻

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魔法使いのおじさんと秘密

□

 

「お前…どうしたんだ。体調でも悪いのか」

 

 

ブラックマーケット内某所、普段通りに仕事をしていると、唐突にそんなことを仕事仲間に言われた。

建設現場での昼休憩中、げっそりした俺の様子を見かねての言葉だったのだろう。

四日間似たようなことを他の仕事でも言われていたので、そういう言葉の返しは用意している。

 

 

日曜日に、学生とトラブルがあって。

有り金全部差し出したんすよ。

だから金がなくて。

 

「災難だな。

まぁここいらの人間からしたらありふれた日常の一つだ。

この現場の大半は似たような経験があると思うぞ」

 

他の仕事でも同じこと言われましたよ。

自衛手段は持っているつもりでしたが、勝てないってわからされました。

 

「ハハ、そんなもんさ」

 

 

このブラックマーケットの建設現場での仕事は日雇いの日給制だから好んで受けている。

また、大っぴらに言えない現場のためにその分給料も高い。口止め料だ。

もちろんトラブルは自己負担、保証もなし。

電話を入れれば対応した仕事に就けるし、只管に楽だ。当日までどこに行かされるかすら教えてもらえないが。

対価は身の安全だろうか。

たまに口裏を合わせたかのようにマーケットガードが来るので丁重にお引き取り願い、高額の収入を得ている。

 

 

「お前さ、スマホとか持ってないのか。

連絡が取れると仕事も楽だしもっと稼げるはずだぞ」

 

あると便利だなーとは思いますよ。

戸籍持ってない私でも手に入れようはありますけど。

厄介事も多いでしょ、こんな世の中なんだし。

 

「そうかぁ? ま、お前がそう思うならそれでいいか。

で、そんなお前にすぐに稼げる仕事があるんだが。前と同じでさ」

 

 

□

 

「パンパカパーン! 魔法使いと合流しました!」

 

 

翌日、土曜日午前。

ミレニアム市内、駅を降りてすぐに勇者は角待ちしていた。

真横からいきなりのファンファーレに心臓が張り裂けるかと思った。

人の往来のあるこの場所でなければ叫び声を上げていたかもしれない。

跳ねる心臓により過呼吸気味になったがどうにか手で押さえつけて事なきを得た。

いつから俺はここまで小心者になってしまったのか。

こんな小娘に手玉に取られていたら今までの人生一体何をしていたんだ、と過去の自分に顔向けできない。

ごほんと何度か咳払いして勇者に向かい合う。

勇者は相変わらず清々しい程の笑顔でこちらを見上げていた。

 

 

「こんにちは、魔法使いのおじさん。

さあ! アリスと冒険を始めましょう!」

 

 

朝からハイテンションの勇者に連れられてゲームセンターまで移動した。

相変わらず横を歩いてくれない。

 

 

 

□

勇者よ、今日は別のゲームをするぞ。

 

 

ミレニアム、ゲームセンター。

今週からイベントステージが解禁になる故に予想はしていたが、いつもは埋まることのない筐体が今日は順番待ちで行列ができていた。

人数からしてワンプレイが終わると待ち時間は30分で済めば運がいい方だろう。

まだゲームセンターが開店してそこまで時間は経っていない。

これからまだまだ人が増える可能性もある。

早々に切り捨てるべきだと判断した。

別に時間を浪費することを躊躇しているわけではない。

勇者と何もしない時間ができるのがちょっとだけ怖いだけだ。

ビビってるわけじゃない、年の差を考えろ何を話すんだ。

 

 

で、勇者よ。

実を言うとこのゲームセンターは先週が初めてなんだ。

何かおすすめのゲームはあるか?

ないなら適当に決めるが。

 

「アリスのおすすめですか…

うーん、どれも捨てがたいです。

強いて言うなら…」

 

 

彼女は遠慮がちにゲームセンターの一角を指差した。

そこには円柱状の筐体が置いてある。

へぇ。

 

 

メダルゲームか、懐かしいな。

 

「この前学校帰りにユズたちと遊んで、またやりたいなと思ったので。

…ダメですか?」

 

いや、むしろ良かった。

それにこれなら勇者も参加できるんじゃないか?

久々に腕が鳴るぜ。

 

 

これは円状にブロックが分かれているゲームで二人で参加できる。

メダルをレールに投入して内部に落とし、内部のメダルを雪崩れ落とすメダル落としのゲームだが、メダル以外にも様々なものが内部に置いてある。

ジャックポットなどボーナスタイムが発生するアイテムなのだろう。

懐かしい、昔と何も変わってない気もするが内部にあるディスプレイややたら派手な装飾と電子音が興味を引く。

早速メダルを購入しようとしたのだが、勇者が待ったをかけた。

 

 

「こんな時のために、アリスはこどものカードを取り出した!」

 

 

勇者はICカードを取り出してメダル購入機へかざした。

なるほど、こういうのが普及する前しかやっていなかったがカードはメダル貯めておくには適している。同じ系列のゲームセンターなら使い回しができそうだ。

見たところメダルの投入口もある、終わりはここにメダルを入れて次回に持ち越すのか。

50枚ほどじゃらじゃらと黒いカップにメダルが注がれる。

遊ぶにはちょっと足りないかもしれない。

 

 

勇者よ、おすすめは300枚ほどだ。

追加で買うなら金くらいなら出すぞ。

 

「いえ! アリスにはまだコレがあります!

パンパカパーン! アリスはおとなの財布を取り出した!」

 

 

黒い長財布を勇者は取り出した。

見覚えがありすぎるその財布に目頭が熱くなるが、勇者は特に気にすることもなく札を投入した。

ちらりと見えた中身は先週のままで今日まで使ってこなかったのか手つかずのようにも見える。

 

 

ゆ、勇者よ。

クエスト報酬で渡したその財布だが、誰かにそのことを言ったりしたか?

 

「もちろんです。

モモイやミドリ、ユズにも話しました」

 

…そっか…その子らに、何か言われたりしなかったか?

 

「いえ、特に何も言われていませんが?」

 

 

ほんとにぃ?と疑問が口に出そうになるが嘘を言っているようにも見えない。

カード類は持っていないのだが領収書などがそのまま詰め込まれていて恥ずかしくなる。

ゲヘナじゃ公園とかでスケバンが他人の財布の中身を数えてたりすることもあるがそんな感じか、ここまで倫理観バグってるのかこの世界はよ。

 

 

「モモイが言っていました。

メダルゲームをする時はまず目を凝らして地面を観察すべし、と」

 

それは止めてくれ。

で、勇者よ、選択肢が二つある。

一つ目は簡単で楽にメダルが稼げる道。

二つ目は難しいがその分チャンスが多い道。

どっちがいい?

 

 

メダルが薄く落ちやすそうな配置のものと、メダルが分厚く積み重なり動きにくそうな配置のもの。

後者にはメダル以外のボーナス用アイテムも多い。

 

 

「二つ目で。

険しい道のりを行くのが勇者です!」

 

その意気や良し。

じゃー昼までを目途にやるか。

 

 

実を言うと一つ目の道の方が長期的に考えて難易度が高い。

急がば回れの体現である。

二人して長い椅子に座ってメダルを投入し続けた。

ジャックポットは出なかったとだけ言っておこう。

 

 

 

□

昼の時間を超過した。午後2時。

めちゃくちゃ面白かった。

久々にやるからそう思うのかもしれないが、こういうゲームも有りだ。

購入した時の半分くらいに減ったメダルを勇者のカードに保存してもらう。

昼を済ませてからまたやるか別のゲームをやるか決めよう、とゲームセンターを出た。

 

で、何を食べるか、だが。

前回は勇者に選んでもらったし今度は俺が選ぶか。

ジャンクフードが場所もわかりやすいし無難か?

甘い物以外で何があるか。

俺が店を選ぶと言ったからか背後を常にキープし続ける勇者に若干の居心地の悪さを感じながらミレニアムの郊外を歩く。

ゲームセンターからそれほど離れていない位置に外で食べられるフードコートがあった。

昼から少し時間がズレているからか混雑はしていない。

パラソルがさしてある丸テーブルで売店から買った二人分のラーメンを置いた。

 

 

これは持論なんだが、こういうなんでもない場所で食べるなんでもない普通のラーメンやらハンバーガーは実は特別なんだ。

…なんでかわかるか。

 

「特別、というのがアリスにはわかりません。

普通とは一般的で低価格のラーメンを指すなら特別とは相反していると思います」

 

間違ってない。

特別でない普通っていうところが、特別なのさ。

 

「???」

 

年をとるとどうも普通ってのにチャレンジし辛くなるんだ。

だから若い内になんでもない普通ってのをよく知っておくべきなんだよ。

良し悪しを知るためにはまず悪しを知らなくちゃいけないっていうか。

 

「そうでしょうか。このラーメンは悪いとは思いません」

 

む、そりゃそうだ。

言い方が悪かったな。

確かにこのラーメンは何も悪くない。

訂正しよう、と言っても上手い言葉が思い浮かばないな。

 

「でも魔法使いのおじさんが言いたいことは伝わりました!

よくRPGである、なんでもない日常こそ宝だった、という件ですね。

日常系から一転する異世界転移モノで使われる展開です」

 

うーん、まあそんな感じ?

 

 

嘘である。

年をとると胃もたれて少量しか食べられなくなる都合、どんどん食べ物が質の高い物に寄ってくる弊害を伝えたかっただけである。

日頃から質の良い物を食べ続けていると年をとった後に本当に質が良いのか悪いのかが判断できなくなるから良し悪しを若い内に知っておくべきなのだ。

 

質の悪い脂身たっぷりの焼肉を食べた翌日にトイレに小一時間籠る中年の気持ちをこの勇者には味わってほしくない、これが老婆心ってやつだろうか。

 

ズルズルと力任せにラーメンを啜る勇者をぼんやりと眺めながらそんな毒にも薬にもならない話を思い浮かべた。

 

 

 

 

□

ゲームセンターへの帰り道。

もうすっかり夕方だがゲーマーの土曜日は自由なのだ。

気分良く前を歩く勇者の後ろを歩いてイベントステージは明日やろうと考えていると。

 

 

「イヤーッ!!」

 

 

叫び声が聞こえた。

場所はゲームセンターからまだ少し離れている。

路地の方からだ。

勇者もはっきり聞こえたようで路地の方へ顔を向けていた。

人の往来はある。

誰かが通報するかもしれないし、しないかもしれない。

 

 

「アリス、突撃します!」

 

…あぁやっぱりこうなるか。

 

 

迷いなく勇者は路地裏へと走っていく。

見て見ぬふりをしたいのだが、仕方がないか。

――何が仕方がないんだ?

歩き出そうとする足を止めた。

いつからそんなにまともな人間になったのか。

人助けをするような人間じゃないだろう俺は。

自分のためだけに人生を使うと決めただろう。

高望みせず底辺ではなく、程々でいいのだ。

 

そもそも、俺はまだ勇者に対して当然のことを話していない。

俺に話しかけるな。

その言葉を言えれば解決するはずなのに、俺は先延ばしにしている。

こんなところにまで逃げ癖が染みついているとは恐れ入った。

誰かを傷付けたくないし、とは綺麗事だ。

俺自身が一番傷付きたくない。

根本にあるのはその考えだろう。

小心者そのものじゃないか。

 

 

人の往来のあるこの場所にまで機関銃の掃射音が聞こえて場が騒然とした。

気が付けば路地へ走り始めていた。

 

 

 

路地の角を抜けると数人のスケバンの学生が壁に向かって機関銃を掃射していた。

壁が崩れて土煙が舞い上がっている。

傍には倒れている獣人と、勇者の大きな銃だけが落ちていた。

 

何に向かって機関銃を掃射しているのか、理解した時には一番近い学生に拳を振りかぶっていた。

 

めきゃり、と人の体からは鳴らない音が伝わる。

魔力を込めて殺す気で殴った。

常人なら首が吹き飛んでいる力だがヘイロー持ちのスケバンにはその通りにはならないらしい。

路地の壁に叩きつけられたスケバンはヘイローが掻き消え意識を失ったことを目視した。

当然のように認識阻害はその効力を失う。

 

 

「なんだお前――」

 

 

二人目、機関銃を握ったままこちらを向いた学生の脇腹を蹴り上げる。

かひゅ、と肺の空気が出た音が聞こえるがヘイローは消えていない。

その場で崩れ落ちて咳き込んでいる。

 

三人目、とはいかなかった。

残った数人が俺の方へ機関銃を向けていた。

弾より速く動くことはできない。

機械の鎧に銃弾が当たる。

痛みよりも衝撃が酷い、立っていられない、倒れてもまだ銃弾の威力により体が後退していく。

 

 

「光よ!!」

 

 

鼓膜が破れるくらいに銃の音しか聞こえないのに、その声だけははっきりと耳に入った。

顔を上げるとボロボロの勇者の姿と倒れ伏したスケバンたちの姿があった。

俺が撃たれている間に自分の銃を拾って撃ったらしい。

機械鎧がボロになったが無事だった。

ギシギシと関節部が曲がっているせいで動かしにくい。

 

勇者が血だらけだった。立っているのがやっとに見えた。

ミレニアムの制服がボロボロになり所々肌が露出している。

 

生きているならまだ時間は残されている。

銃弾による裂傷なのか頭から出血している患部に手をかざす。

青白い光が路地を照らした。

魔法が効いていないことに気付いたのは魔法を行使してすぐだった。

効きが悪いだけで通るかもしれない、と路地裏を覆うほど強い光を掌に込める。

出血が止まって他の部分を治そうとすると、回復魔法を使った場所以外から出血が止まっている。

あまりにも早過ぎる、気がする。

もう回復魔法が必要ないように見えた。

流石はヘイロー持ちというべきか。

となると転がってるスケバンたちもすぐに起き上がるかもしれない。

 

 

で、叫び声はこの子か?

 

 

倒れている獣人の子供を確認するが打撲と浅い裂傷があるだけだった。

気絶しているのは銃器で殴られたからだろうか。

同様に治す。

ヘイロー持ちではないため傷の治りは遅いがきれいさっぱりなくなった。

 

 

「事象の解析不能、これは! 魔法! 魔法ですね魔法使いのおじさん!

魔法使いのおじさんは魔法使いだったんですね!!」

 

 

ずっと面食らっていたのか勇者が飛び跳ねるように喜んでいる。

普通に無事そうでもう笑えて来るんだが?

言葉のゲシュタルト崩壊が起きているが今日一番のハイテンションになっている。

 

倒れているスケバンたちを彼女たちの機関銃から作った急造の鎖でぐるぐる巻きにする。

 

 

「警察を呼びました!」

 

 

スマホを俺の方に向け勇者はやることをやったとばかりにそんなことを言った。

模範的だ。きちんとしてる。

認識阻害をかけ直して全力疾走でその場を離れた。

 

 

 

□

ミレニアム郊外の公園。

サイレンが市内に鳴り響いている。

獣人の子供をそのままにしてきたがたぶん大丈夫だと思う。

勇者曰く、獣人の子供を人質に武器を捨てろと言われたらしい。

これは天才、なんでスケバンなんてやってんだ。

普通なら死んでいるが、いや、これで死なないからこの世界はこんな世の中なんだろうか。

 

 

「あの…ごめんなさい。

アリスが考えなしに先走るから。

外の世界から来た先生は銃弾一発で致命傷になると聞きました。

魔法使いのおじさんも同じですよね?」

 

次から気を付ければいい。

これは俺の選択だ。

勇者が気にする必要は…あるにはあるけど。

反省点を活かして次に繋げようぜ。

 

 

もしかしなくても、あの状態から勇者は一人で巻き返せたかもしれない。

機関銃の弾が切れたら抵抗すればいいはずだし。

俺ももっと冷静になればよかった。

 

 

「それで、魔法のことですが」

 

他言無用で頼む。

外の世界の力だ。

広まれば研究所送りにされてしまいそうだ。

 

「そうですか。アリス、了解しました。

――えへへ、二人だけの秘密ですね?」

 

そうだな。

頼むぞ、おじさんの人生は今勇者に委ねられたんだからな?

マジで頼むぞ?

ポロリは禁止だからな?

 

 

猛烈に嫌な予感がした。

念を何度も押して勇者に言うが彼女は笑み深めるばかりだった。

記憶を消せない勇者が俺の秘密を知ってしまった。

ラーメンを食べた後に無茶な動きをしたからだろうか、なんか、冷や汗と胃がめちゃくちゃきりきり

 

 

 

 

 




次回、魔法使いのおじさんと尋問


6/3どうあがいてもおじさんが社会的に抹殺される未来しかなかったので修正します。キャラ崩壊すみませんでした。
次回、魔法使いのおじさんと○○
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