パンパカパーン! 魔法使いと合流しました! 作:尻尾の抜け殻
□
不安であんまり眠れなかった。
ミレニアム郊外。
一晩を過ごしたネットカフェを出て、重くなる足を半ば引きずりながら街中を歩く。
昨日の反省点を踏まえ、普段は使わない探知を行ったが、付近に勇者の姿はなかった。
ミレニアムの郊外とはいえ、このビル群の中では全探知は骨が折れる。
故に付近の外を歩いている人だけに絞ったが、疲れるだけで成果はない。
室内にいるのだと確信を持てたが、まぁ、そりゃ、このゲーセンの中だろうなって。
ゲームセンターに到着して建物を見上げる。
土日に毎日ゲームセンターに入り浸るんじゃねーよ(自虐)
覚悟を決めて中に入った。
聞き慣れた騒音にもとれる電子音、それなりに人は多い、学生はもちろんのこと、獣人や機械の人間も入り乱れている。
どこから来るか、そう思って普段以上にキョロキョロして彼女の姿を見つけた。
一昔前からある有名な格闘ゲームの筐体にちょこんと座っている。
今日はあの傭兵を思わせる朱色の子供と一緒だった。
「クソっ!
折角コンボが最後まで繋がったのに!」
「そのキャラクターのコンボの最後は吹き飛ばすか足元に叩きつけるか。
吹き飛ばしたらアリスのターンです!」
後ろからその対戦を眺めていると、どうやら勇者が有利な状況らしい。
まるで機械を思わせる精密な動きで面白いくらいにコンボを突き刺していく。
起き攻めもしっかりしている。
対する朱色の子は対策が上手くできていないのか起き攻めにレバガチャで対抗している。
みるみる内に画面端まで追い詰められてサンドバッグになっていた。
「チッ、くそ、もっかい!」
2PWINという表示と共にすぐに再戦を挑んでいた。
邪魔したら悪いな、と思い声をかけずに先週と同じ筐体へ。
筐体のゲームは期間限定のイベントが始まって間もないが、人は横並びの筐体に収まる程度にしかいなかった。今日は俺が順番待ち第一号だ。
ネットカフェで調べたがさすが科学の町ミレニアムというか、かなりの数のゲームセンターが見つかった。
ビルの中にもゲームセンターがあるそうな。
実際に見たわけではないが、プレイヤーが程よく分散していると見ていいだろう。
ゲヘナのゲームセンターとはまた違う趣がある。
あそこも決して田舎ではないし様々な筐体が置いてあるが、ミレニアムほど新しい物ではない。そしてやたらと混む。
しかし逆にインベーダーのような、かなりレトロな筐体はミレニアムにはあまり置いていない。探せば固まって置いてある場所があるかもしれないが。
古い物は決して悪いというわけではない。
少なくともゲームにおいてはそう思っている。
待ち時間もゲームセンターの醍醐味の一つだと思っている。
大抵の人間はスマホを触っている、俺は持ってないからかなり暇だけど。
気分を変えるために別のゲームをするのもいいが、流石にイベントステージが気になる。
どんな新カードが排出されるかは事前告知された情報だけで、どこのどの場所で掘れるかはわからない。
特定のキャラでボスマスへ直行できるがどんな敵が出てくるかまでははっきりとわかっていない。
昨日の夜からネットカフェで一通りを調べたが、不確かな情報もまだ多い。
その情報が確かかどうかを確かめるのもまた一興だ。
わからない時は最高戦力で一巡するのが楽だろう。
案の定先にやっているプレイヤーはコストの高いキャラを使い、力でねじ伏せるパワープレイで挑んでいる。俺も同じことを最初にやろうとしていた。
このゲームはゲーム内で備蓄が設定されていて、強いキャラだけでは何度も周回ができなくなっている。
金の力である程度備蓄を増やせるが、増やせる程度はたかが知れている。
しかし中堅者くらいであれば事前準備はしっかりしてきているはずだ。
ちらりと見える備蓄の量は桁が違う。
視線を感じて勇者の方を見るとこちらを見ていた。
何が嬉しいのかこちらに手を振っている。
あっちの方に先に行くか。
「パンパカパーン! 魔法使いと合流しました!」
…毎回それやるつもりか勇者。
それとその先輩、先週は世話になった。
「おう。っていうかさ。
もう来ねーかもって思ってたが」
目的はゲームだから。
まぁ気楽にやるつもりだ。
待ち時間暇だから見てていい?
別にいいけどよ、とぶっきらぼうに言う勇者の先輩はまた格ゲーの筐体に向かい合った。
「あ、では魔法使いのおじさんとネル先輩とで戦いますか?」
いいけど隣では狭いから反対側の筐体にいくぞ。
「はい、それでアリスはネル先輩にコンボを教えます!」
この筐体は隣同士で戦うこともできるし、同じゲーセンであれば別の筐体同士でも戦える。
この格ゲーは久々だ。
バランス調整がなければ前と同じように動けるが。
「あっ」
「なんだよ?」
「い、いえ。何でもないです」
どうやら勇者は察したらしい。
これでもゲヘナでは色々な格ゲーをやってたんだぜ。
「ぶっ飛ばす!」
「う、うわぁあん!
ネル先輩が殺人犯になってしまいます!」
向かいの筐体にまで殴りかかってきた彼女の先輩を羽交い締めにして止める勇者。
コンボが長いし一回でかなり削れてた、ほとんど何もさせずに終わった。
「アリスも一度ネル先輩に対してやったことがありますが。
同じことになりました」
お前もやったんかい。
まあ難しい動きだし、できる人とできない人で動きも違うしな。
コンボは失敗したら大きな隙になる。
最初の頃は同じキャラでも安定をとって短いコンボを幾つもやっていたし。
できるからやってることだし。
ハメ技ができる方が悪い。
つまり俺は悪くない。
「どいつもこいつもセコい手使いやがって!」
異常な強さだとバランス調整でなくなるはずだが、なくなってないのでヨシ!
とはいえ大人気ないのは確かだった。
準備運動は終わったから、とキャラを変えてもう一度。
今度は長いコンボがないけど一発が大きくてその分隙も大きなキャラだ。
練習相手には最適だろう。
駆け引きが多いから楽しいキャラでもある。
強いキャラじゃなくて好きなキャラでいかせてもらおう。
「レバガチャはダメです。
攻撃を受けても落ち着いてコンボの終わりを待ちましょう」
「ぐっ、この!
その図体でジャンプばっかりすんじゃねぇ!」
キャラがキャラだけにかなり善戦できたと思う。
タイミングに慣れたのか彼女の先輩は一時間経つ頃にはバッタの打ち落とし方が上手くなっていた。
思ってたんだけどさ。
なんでメイド服なんて着てるんだ?
そういう制服なのか?
「あ?
あー、そうか。
そういやおっさんは一般人だったな。
ま、そんな感じだ」
勇者の先輩と交代し勇者が俺と戦うことになった。
流石に教えるだけのことはある、と負けが込み始めた頃、ふと気になったことを聞いてみた。
一般人、という言葉に違和感を覚えるが学生から見ればそんなものだろうか。
やっぱりそうなのか。
いや、制服にケチをつけるつもりじゃないが、違和感しかなくてな。
「もう慣れたが、そりゃそうだ」
からからと笑う勇者の先輩。
メイド服といえば言葉の通りメイドの仕事着だ。
女性の使用人、家政婦、様々な家内の仕事をするための服、なのだが。
この世界のフォーマルとはいえ銃を持ってるし、対人に対する姿勢も中学生とはとても思えない。
なんか、掃除=相手を消すって意味が似合いそうだ。
言動とスカジャンはヤンキーそのものだが。
「ネル先輩は戦うメイドですので!」
「一応は機密だからバラすなよ?」
やっぱりそっちのメイドなのでは。
クリーニング=イレイザーでは?
どうしよう、知ったら存在を掃除する(隠語)タイプかな。
主に勇者がその機密とやらをかなりフランクに話し合ってるんだけど?
大丈夫? 駄弁った勢いで情報漏洩して口止めで息の根を止められない?
仕立て人勇者になるけど?
俺は何も聞かなかった。
それでいいだろ?
「あぁ、話が早くて助かるよ」
合っているか若干怪しいが、凡そ彼女の正体に察しはついた。
ま、俺が世話になることはないだろう。
先日は悲しい行き違いにより彼女にケツの穴を増やされかけたが、その問題は解決しているし。
後は勇者のような例外かどうかを確認するだけだ。
先日の件、彼女も勇者のような例外の場合は面倒なことになる。
さて、少し早いが俺は飯に行くつもりだが、どうする?
□
ミレニアム近郊、ゲームセンターから一番近いファストフード店。
外のフードコートの丸テーブルで各々の食事を買うことにした。
俺が誘っておいて言うのもおかしいが、こんなナンパ紛いの誘いに乗らないようにしなよ。
「はは! なんだおっさん、今更奢るのが嫌になったのか?」
いや、奢るけどさ。
俺が悪人や詐欺師だったらどうしてたんだって話。
「生きているのを後悔するくらいにぶっ飛ばしてやるだけだが?」
そっすか…
勇者の先輩は騙されてから報復するのか。
一度は信じてみようというところは彼女の根っこの部分が出ているのかもしれない。
勇者もだぞ。
勇者も先輩と同じでぶっ飛ばせばいいって思ってるのか?
「アリスは魔法使いのおじさんを信じていますので」
じゃあ俺じゃなかったらどうしてた?
知らないおじさんに同じように食事に誘われたらどうする?
「…それでもアリスは行こうと思います。
勇者は前進するのみ、です!」
そのおじさんが勇者を騙していたら? おじさんは魔物だったんだ。
「残念ですが、光の剣の錆にするしかありません。
経験値を置いていってもらいます」
なるほどなー(震え声)
二人とも一度は信じようって姿勢はすごいと思うよ。
俺はもう、なんでも疑ってかかってしまうから。
疑うのが癖になってしまってるんだ。
それが間違いだとも思わないけど、こんな風に人を疑うような大人にはなるなよ。
そういう人間はちょっと損をするんだ。
「損、ですか?」
疲れるんだよ、全てに。
そしてたまに思い出すのさ、自分はなぜこんな苦しいことを続けているんだろうってな。
何もかもが嫌になるってセットで。
ま、人それぞれ色々あるさ。
君らもたまに考えてみると良い。
――さて、じゃあ考えてる間に俺は先にハンバーガーでも買って来るかな。
悪いが札しか持ってないし、俺が先に買って小銭作って来るわ。
それで好きなの買ってくれ。
その後なんということもなく、無事に昼食は終わった。
彼女の先輩の前で鎧の頭部を取ったが反応はなかった。
認識阻害は効いている。
例外はやはり勇者のみ。
あの日勇者に会うためにゲームセンターへやってきて、俺の認識阻害を突き抜けたのだろう。
□
ゲームセンターに戻ってから言葉もそこそこに互いに別の筐体へ座り、各々の時間を過ごした。
イベントステージの周回難易度はやはり高く、一周ごとのカロリーが高い。
情報を集めつつ手軽な編成と操舵技術を取得すべきだ。
来週こそは完全制覇を目指そう。
勇者が隣にやってきて先週のように俺のゲームをしている様をずっと見ていたが、他の客も似たようなものなのだが、本気で何が面白いのかわからない。
ただ、もしかすると彼女はこういうやりとりそのものを楽しんでいるのかもしれない、そう思った。
今週は全然目的のゲームを遊ぶことができなかった。
勇者との付き合いができてしまったことを抜いても、順番待ちが発生していることが大きな原因だ。
しかし筐体のイベントとはそういうものでもある。
期間限定という卑劣な運営の集金手口に俺も抗うことができない。
今しかできない、今しか手に入らないというやり方に札束で答えるしかないのだ。
それはもしかすると一種の強迫観念かもしれないし、自己顕示かもしれない。
人によってそのゲームへの取り組み方は違うからだ。
誰かは必ず言うだろう、それは無駄なことだと。
それはそうだ。
ゲームという娯楽は、否、娯楽とは全て、かけがえのない無駄な時間を手に入れるためのものなのだから。
だって、それでも、面白いから俺はゲームを続けている。
という脳内で論理武装を施しながら、明日のことを考える。
――平日の日中なら人は少ないし、周回も捗るよな。
久々にやりますか、平日昼間からゲーセン浸り。
定職じゃない故の特権みたいなものだ。
ダメ人間一直線だが。
一人きりで没頭できる。
これでいつもと同じだ。
誰にも邪魔されず、静かないつもの日々に戻れる。
ふと、それで良いのか、という気持ちが過る。
頭を振ってその考えを振り払う。
金が少し心配だが、帰りの電車賃さえなんとかなれば、どうとでもできる。
「魔法使いのおじさん、もう帰る時間ではないのですか?」
勇者は平日は学校だろうか。
学生なのだから当然だ。
もしかすると平日も放課後にここへ来るかもしれない。
つまりはその時間を避ければ、次に会うのは今度の土日となるわけだ。
あぁ、もうすぐ帰るよ。
俺はもう二巡くらいやってから帰る。
勇者は明日から学校だよな、もう帰って休むべきだろう。
「そうですね、残念ですがそうします。
あの、昨日の件ですが…」
改めて他言無用で頼む。
昨日話したことは覚えているな?
「はい!」
手を大きく振って勇者はゲームセンターから出て行った。
昨日、勇者との別れ際に一応、念のため、再三、魔法についてを言わないように頼んだ。
ただ、勇者の通報により警察も動いている。
学生である彼女の立場を考えると、もう俺の存在については話さないわけにはいかないだろう。
勇者の学校内でもしも警察やこのミレニアムを統括する生徒会のような部門と接触がある場合、魔法以外は正直に話すように伝えた。
口裏を合わせる段取りもつけたが、まるで全然不安は拭えない。
どこまでここの警察や生徒会が有能なのかはわからないが、ゲヘナしか比較対象を知らないため、打てる対策は全部打つべきだろう。
「おっさん、昨日の件ってなんだ?」
うおっ、勇者の先輩、いたのか。
軽く手を振り返して勇者を見送ってすぐ、少し前から姿が見えなかった彼女の先輩が近くに立っていた。
相変わらず傭兵みたいな目つきの鋭さだ。
聞かれていたのか、危なすぎる。
だが口裏を合わせる打合せだけは勇者としているし、こういう時の言葉も用意してある。
俺の趣味が大道芸でな、ジャグリングとか見せるつもりなんだ。
道具も用意しなきゃだし、来週に見せるって約束をしてある。
まだ下手くそだから他の人に見られたくないんだが、まぁ、あの子ならいいかなって。
――そうか、来週か。
…ま、いいんじゃねえの?
含みのある言い方だったが、何か予定でもあるのか。
彼女も見に来る、と言った場合のプランは必要なさそうだが。
「チビ自身から記憶のことは聞いたか?」
いや、聞いてはいないが。
「察してはいる、ということか。
あんまりあいつがいない場で言いたくはないが、今年の3月より前の記憶がない。
情緒も部活で養ったとまでは聞いてる。
ミレニアムが調べた情報だし、先生も同じことを言っていた」
先生、あの、シャーレの。
彼女らにとって先生という言葉は教育プログラムの機械や担当者というものではない。
一人の男性に行きつく。
この世界での政治については疎いが、最高責任者の一人と言える存在と思っているが。
そんな存在が一生徒を把握しているのか。
それくらいに勇者は特殊な存在なのだろうか。
いやゲヘナとトリニティの条約を結ぶことができた立役者とはニュースで聞いている。
本物の聖人、それに準ずる人間。
もしかすると普通の人の枠組みで考えてはならないのかもしれない。
考え出したら切りがない。
ただ一つ言えることは。
つまり、勇者はまだ0歳児ってことか。
「――ハハッ!
そういうことだ!
じゃあなおっさん、来週、全部終わったら話そうぜ」
そう言って彼女は踵を返してゲームセンターを出て行った。
意味ありげなことを言い残して行かないでもらいたい。
そういうのは寝る前くらいにふと思い出して気になって、寝つきが悪くなる元なのだ。
□
夜、ミレニアム郊外の公園で。
コンビニで買った携帯食を食べ終わり、ゴミ箱へ放り込んで立ち上がる。
ミレニアム郊外にあるこの公園は先週寝泊まりした段階で人祓いを敷いている。
陣地版の認識阻害だ。
人払いではなく人祓い、人という災いを祓い聖域化している。
俺がこの公園にいなければ発動しないし、起点は四隅ではなく中心部にあるベンチだ。
俺以外に競合がいないこの世界においては外部から破られることもない最上の防壁と言える。
だが勇者はそれを貫通してきた。
勇者に対して別の対策が必要だ。
幾つか案を考えているが、一つずつ試すわけにはいかない。
だから考えうる最高の防護を最初から使うことにした。
ヒトという種の五感全てから存在を消す魔法だ。
…正直これは使いたくない。
認識阻害は俺を認識した上で気が付けない無意識の改竄だ。
俺の姿を見た場合に発動する条件付きの魔法。
それに対し、今から施す魔法は完全に外界から俺の姿を消す魔法だ。
認識阻害ではなく、認識遮断というべきか。
これは燃費が致命的に悪いし使い勝手も悪い。
元の世界では対同業者用の魔法と言われている。
同業のいないこの世界においては無用の長物である。デメリットが多すぎるからだ。
長時間の演算により脳が正常な判断を損ねる程度に疲弊し、道で他人とぶつかることも多いし、レストランで水を出されない。
ただそれくらいに効きが強い分、勇者に効くに違いなかった。
最初から全力を出すのが、俺の流儀なものでね。
□
「嘘をついたんですね?」
……
翌日、月曜日の夕方。
朝からゲームセンターを満喫して、疲れたので公園で寝転んでいたら普通に勇者が来た。
例の如くベンチから倒れてスリップダメージを受けたが勇者はそんな軽口を言うこともなく、細い眉を寄せて俺を見下ろしている。
数秒ほどフリーズした。
なんでわかるんだよ、という当然の疑問といい感じの魔力使用による疲労感がむしろ頭を冷静にさせた。
初めて見る表情だ。
いや、これと近い表情は頭を急に触った時だったか。
何に対してそう言ったのかなど、尋ねるまでもない。
様々な言い訳を咄嗟に思い浮かべた。
が、言葉に出すのを止めた。
大なり小なりの嘘が問題なのではない、嘘を吐かれたという事実が何よりも彼女にとって重要なのだと思った。
考えてみれば俺が勇者に魔法のことを言うなと彼女にとって守る必要のない約束をさせておいて、俺は嘘を吐いたのだ。
あまりにもフェアじゃない。
すまない、勇者、俺が不誠実だった。
確かに帰ると言ったのは嘘だった。
「別に嘘をついたのを怒ったわけではありません。
アリスも覚えがありますので。
会社を休んででも、ゲームをしたかったんですよね?」
それは…そのぉ…
ある意味合ってる。
合ってるけど、なんか…
底知れない罪悪感と意も知れぬ空虚感。
なんで俺、こんな小さな子に諭されてるんだろう。
「モモイが言っていました。
学校を休んでやるゲームは格別だと。
アリスもそう思います。新作のRPGを目の前に我慢ができません。
でもそれだとダメ人間になるとユウカが言っていました。
それもそうだと思いました」
斜め下を見る。
それって暗に俺がダメ人間だと言っているんじゃないのか?
いや……俺、ダメ人間だった…
目頭が突然熱くなる。
鎧の頭を着ていなかったらバレていただろう。
「泣かないでください。
まだこれからです、魔法使いのおじさん。
先生が言っていたんです。
そんな時はいっそ、満足するまで打ち込む方が、我慢するよりも健全だと。
有給申請してやり切るべきだと」
まさに聖人の発想だ。
一見ダメな大人の言い訳に聞こえるが、これまでの彼の功績を鑑みるとこの世の本質を捉えていると言える。
「明日からアリスも付き合います。
だから、イベントステージを頑張りましょう。
だって、何も間違っていないのだから」
間違っていない、その言葉に胸を打たれ、かけた。
勇者、君は学校へ行くべきだ。友達も君がサボると心配するだろう。
「それは確かに、そうかもしれません。
でも…」
俺は勇者に嘘を吐いてしまった。
大人の俺が子供の君に、魔法のことを言うなと約束させてしまったのに、だ。
だからお詫びをさせてくれ。
「お詫びですか?」
魔法を見せるよ。
知ってるか? 魔法ってのは人を幸せにするために生まれたんだぜ。
勇者の周りに薄い緑色のシャボン玉のようなものが幾つも浮かび上がる。
見える範囲は広がっていき、夕方の薄暗くなっていく公園をシャボン玉の泡が一面に広がった。
勇者が恐る恐るそれに触ってみると弾けることなく、勇者の指先にくっついた。
これは空気中にある魔力を可視化したんだ。
人工物の多い都市部じゃあんまりこういうのは観れないんだが、木々がある公園ならこうなる。
同業がいないから取り合いになることも――
途中で説明を止めた。
なぜなら必要がなかったからだ。
勇者の方を見ると公園を踊るように走り回っていた。
走り抜けると風を切るようにシャボン玉が空へ舞い上がって行く。
公園の端から端までを埋め尽くすような風景は、今、この公園にいる勇者だけのものだった。
とても楽しそうで何よりだ。
ちょっとしたイルミネーションのような幻想的な風景を維持することに力を注いだ。
□
ぜーはーぜーはー
「魔法使いのおじさん、大丈夫ですか?」
完全に日が沈んでしばらく。
暗くなってからも緑のシャボン玉のようなものは薄く光っていたのでかなり映えていたが、俺の魔力が限界を迎えた。
ベンチに座って息を整える。
魔力枯渇で意識が飛びそうだ。
鎧を動かすのすらしんどい。
万全の状態だったら苦もないが、今日はほぼ一日認識遮断を続けていてほぼ底をついた。
勇者、俺の気持ちは伝わったか。
改めて嘘を吐いて悪かった。
許してくれないか?
「許すも何も…いいえ、わかりました。
アリスは魔法使いのおじさんを許します」
そうかい、なら学校へはちゃんと行くんだぞ。
俺は一人で大丈夫だから。
「うーん」
んんんん????
「アリスは確かに魔法使いのおじさんの嘘を許しました。
ですが、それとこれは別問題です。
…だって、アリスも魔法使いのおじさんとゲームを楽しみたいですし…」
が、学校をサボってでも楽しみたいのか? 本当に?
「はい!」
畜生、振り出しに戻りやがった。
だがプラスに考えろ、これで状況はイーブンだ。
何の憂いもなく、学校をサボらせないことだけに専念できる。
あと一つ、何かが必要だ。
よし、こうしよう。
震える足でベンチから立ち上がる。
もしかすると魔力枯渇よりも加齢による体力の限界が見え始めているのかもしれない。
知っているか勇者、互いの主張が食い違い、交わることがない場合、どうやって決めるかを。
人類の歴史が物語っている。
戦いだ。
戦って決着を付けよう。
「!」
いや、待て勇者。
戦いは戦いだけど、殴り合いじゃないし、まずはその銃を降ろせ。
俺たちはゲーマーだ。
ゲームで戦おう。
勇者、お前にゲームで戦いを申し込む。
今日はもう遅いから明日にな、と付け加える。
立っているのがやっとだし時間稼ぎがしたい今からでも俺は全然まるで問題はないが、勇者が家に帰るのが遅くなるのは教育上よろしくない。
震える足を延ばして体を直立させる。
大事なのは条件だ。
俺は仕事に行かず平日にゲームをして、勇者は学校へ行かせる。
これが妥協の許されない絶対的な条件だ。
俺が勝てば勇者は学校へ行くんだ。
俺が負けたら…いや、違うな。
もっとシンプルに行こう。
勝った方がなんでも言うことを聞くってのでどうだ。
もちろん可能な範囲内で、だ。
「…わかりました。
受けて立ちましょう。
でも、どんなゲームで戦うのですか?」
そうだな。
格ゲーが定番だ、昨日と同じゲームを続けてやるのも悪くない。
手の内を互いに知った状態だとかなり戦いにくい、それがとても良い。
だが、二人でやってないゲームで戦うのもまた面白いと俺は思う。
…そこまで得意ではないんだが。
勇者、音ゲーで戦おう。
全身全霊で君を倒す。
明日の夕方、いつものゲームセンターで待っているぞ。
…明日はいつも通り学校にちゃんと行くんだぞ?
わかったか?
フリじゃないからな?
予定があったらその次の日でもいいし、更にその次の日でも問題ないからな?