パンパカパーン! 魔法使いと合流しました! 作:尻尾の抜け殻
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火曜日。
夕方のゲームセンター、平日の昼間よりも夜の方が人は多い。
会社帰りの会社員や学校部活帰りの学生が訪れているからだ。
そろそろだ、と筐体のゲームを止めて荷物を片付ける。
この二日間でイベントステージはある程度片付いたが、本命の最高難易度クリアとレアキャラ掘りはまだ手を付けられていない。
ネットカフェを利用して確認したが、SNSや攻略サイトでは錯綜している情報がそろそろ落ち着き始め、確度の高い情報が出ている。
俺にとってこのゲームはこれからが本番なわけだ。
本番なのだが、そのままプレイするわけにはいかなかった。
勇者の存在だ。
勇者が学校をサボってまで見たいと言っているのだ、できるはずがない。
もちろん勇者のためではない、これは紛れもなく自分のためだ。
今日この場で決着を付けてからでないと、気持ちよくプレイができない。
それが理由だった。
来たか、勇者。
いつものミレニアムの制服と自分の丈ほどもある銃。
いつになく真剣な表情の勇者がゲームセンターの自動ドアを通ってやってきた。
その表情が少しだけ意外だった。
いつもみたいなのほほんとした、もとい表裏のない朗らかな表情ではなかった。
それほどまでにこの戦い真剣になっているのだろうか。
パンパカパーンって言わないし。
「魔法使いのおじさん、一つだけ聞きたいことがあるのですが。
譲れないものがあると人間は戦うしかないのでしょうか」
それ以外にももちろん選択肢はあるはずだ。
戦いというものは一つの表現でしかないからだ。
俺が戦いを選んだ理由はその方が簡単だから。
そして納得せざるを得ないからだ。
勝ち負けってのはそういうものだと自分が納得できる。
それは昨日俺が言った言葉についての疑問なのだろうか。
真剣な顔つきで言う彼女の真意についてはまだわからないが。
人類の歴史は戦いの繰り返しだ。
資源や土地、人種や言語、あるいは文化。
争いの起因となるものは多い。
互いが自身の意見を通すならばぶつかり合うのは必然。
だが、実際のところ、俺が言う戦いはそんな重く苦しいものではない。
知ってるか勇者。
真剣勝負をした後に食べる飯は美味いんだ。
全力を振り絞って、戦って、悔いのない戦いをしたのなら、きっとその日の夕食は何物にも代え難いスパイスになるだろう。
これは勝っても負けても同じだ。
若い頃の友達の受け売りなんだけどな。
でも心の底から同意してる。
美味い飯を食べるために俺は戦っているんだ。
今日もそうだぜ?
勇者、君はどうだ?
「……」
確かに勝てば得るものがあって負ければ失うものがあるかもしれない。
争いを楽しめ、とまでは言わないが、真剣に戦うという過程を楽しむように俺はしている。
苦しいだけの戦いなんてない方がいいに決まってる。
…もしかして勇者は俺との戦いは苦しいのか?
だったら――
「――いいえ、魔法使いのおじさんとの戦いを、アリスがそんなことを思うはずがありません。
学校で、ちょっとだけ。
どう話したらいいか…」
学校の話だったか。
待って、今まで言った言葉、普通に恥ずかしいんだけど?
「学校での話は止めておきます。
そういう話はあまり口外しない方がいいとユズが言っていました。
でも、勉強になりました。
アリスも今日のご飯が美味しくなるように全力を尽くします!」
よし、行くぞ!
俺たちの戦いはこれからだ!
ゲーセンの入り口近くでテンション高めに音ゲーコーナーへ向かう大人と子供。
その気恥ずかしさを乗り越えた俺は無敵だった。
□
昨日言った通り、音楽ゲームで決着を付ける。
対戦型の音ゲーでスコアが高い方が勝ちだ。
ただ、音ゲーは基本的には覚えるゲームだ。
だから経験が多い方が圧倒的に有利。
故に、俺と勇者が知らない曲で戦う。
もちろん難易度はむずかしいでやる。
「し、知らない曲ですか…?」
そうだ。
見ろこのラインナップ。
普段テレビを見てない俺からするとマジでわからん。
こっちじゃゲームやアニメも基本ネットカフェでしか摂取ができないし。
テレビなんてマジでミリも観てないぞ。
街頭テレビくらいじゃないか。
「アリスもゲームの歌やテーマなら自信はありますが、ドラマはあまり観ていません」
太鼓の筐体の前で撥を叩いて曲をずらりと見比べる。
聞き慣れた音楽やBGMはあるが、最近追加されたアイドルの歌やドラマの歌は初めて聞く。
流行の歌とか知らない。
これは如何に高得点を叩き出す戦いではない、低い点数を出さない戦いだ。
「これは…上手く叩けないと気持ちが辛いです」
アドバイスをしてやろう、ミスした時の恥ずかしさはノリとテンションを上げ続けることで覆い隠すんだ。
意識して知能レベルを下げれば余裕だから勇者もやれ。
「えぇ~、アリスにはそんな機能ありませんが…」
デバフだデバフ、それか状態異常。
状態異常にかかってるから仕方ない事なんだ。
「アリスには基本的な状態異常は効きません」
なんだ? 自分から状態異常になれないのか?
勇者なら状態異常すら味方につけろ。
ゲームでもあるだろう、状態異常にかかればバフが付与されるんだ。
「うっ、一理ありそうな…なさそうな…」
全然リズムが合っていないのにそれっぽい撥さばきで凄まじい低得点を叩き出していく。
割と人の目はある、筐体が場所を取るものだから目立つのだ。
近くを通るスケバンから冷めた視線と嘲笑のような幻聴が聞こえる。
身の程をとか、初心者かよ、とか聞こえてきそうだ。
ハハ、心が苦しい。
いけない、正気に戻るな。
隣を見ると勇者が少し頬を染めて恥ずかしそうに太鼓を叩いている。
精密機械のような動きを見せる勇者も音ゲーは苦しいようだ。
最近の曲は一定のリズムではなく意味不明の変調が多いから尚苦しい。慣れてる人はそこでぶち上がるんだろうが。
戦えている、肉体のスペックが圧倒的に劣っている俺が勇者と戦えているぞ。
良かった、本当にこんなクソみたいなルールにして良かった!!
「アリスの勝利です。
勝利ですが…こうも虚しい勝利もあるのですね…」
普通に負けたわ。
スコアを見ると割と接戦だった。
もちろん悪い意味で。
互いに知らない曲というルールの元なら曲を知らなくても反射神経の良い勇者が有利だったのかもしれない。
くそ! 策士策に溺れる!
勇者よ、それはある種の賢者タイムだ。
勉強になったな。
勇者でありながら賢者の力を知ることもできたし。
「賢者の姿ですか…これが?」
賢者という力の代償だ、人は何かの犠牲なしには何も得ることはできないんだぞ?
まぁ、とりあえず、さ。
知ってる曲で口直しするか。
「…そうですね」
ネットカフェでよく見聞きするアニメやゲームのBGMでプレイ。
しばらく無言で叩いていたが途中からいつものテンションに戻れた。
普通に俺が勝った。
なぁ勇者、さっきのルールなかったことにしない?
「魔法使いのおじさん、次は何で戦いますか?」
!!
次、次はだな…
まだだ、まだ終わってない。
そうだこれは三本先取の戦い(今決めた)
他の音ゲーで勇者に勝つ。
何で戦う?
DIVAかビーマニか、俺でも勇者に太刀打ちできそうなゲームはないか。
いや、そういえば口直しで普通にプレイした時、普通に俺が勝ってたよな。
あんな縛りで戦うなんて精神的にきついし、もう何も考えず普通に戦った方が良い成果が出るのではなかろうか。
勇者、次は俺も全身全霊で戦う。
さっきももちろん全身全霊だったけど。
さっきまでの俺と同じと思うんじゃないぞ。
「望むところです!」
ダンレボ…じゃなくてダンスラで勝負だ。
知っていると思うが俺は全身鎧を着ている。
機械製の特注品だ。
それがどういうことを意味するかわかるか?
「これは…防御力を捨てて素早さに特化させる、外装のパージですね!」
元々この世界のゲームセンターは機械の人間の為にも荷重制限はかなり高めに設計されているがそれはそれ。
機械鎧はそれなりに重い。
といってもゲームセンターの椅子を壊したことはないし動きにくさは魔力を通してほとんど無視して動かしている。
要するに気持ちの問題なのであるが、戦いにおいて気持ちは何よりも大事だ。
心機一転してダンスの筐体のステージへ上がる。
隣で勇者が持っていた銃を荷物置き場へ置いているのが見える。
ミシィ、と荷物置き場の台が軋みを上げる。
……あれ、俺より重くね?
猛烈に嫌な予感がしてきたがもう引き返せない。
「なるほど、モニターから流れてくる判定ラインと同時にタイルを踏むのですね」
勇者が初めてやりますみたいな空気を出している。
尚更負けられない、俺が初心者狩りしているみたいだが、恥も外聞も捨てて戦わないと勝てない気がしている。
勇者のチュートリアルは残像が映るレベルで俊敏だった。
□
「次はこれ! これをやりましょう魔法使いのおじさん!!」
六戦六敗。
魔力全開で勇者の動きに着いて行っているが素の反射神経の差が出ているのかそれとも音感が勇者の方があるのか、接戦の末に負け越している。
俺自身決して音ゲーが特筆するような上手さではないし、勇者も動きが速いだけでリズムなどはそこまで得意ではなさそうではある。
なんだ、何が足りないんだ。
若さか?
調子に乗っているわけでもなく、純粋に楽しそうに勇者がゲームセンターの一角を指差している。
次はドラム式洗濯機の筐体をやりたいらしい。
その姿を見て、勝負にばかり集中していてゲームを楽しむということが疎かになっていることを自覚した。
もちろん勝負も楽しむことの一つだが、楽しみ方の方向性は勇者と少しずれている。
まぁ、もうこれだけ負けてたら勝負なんてどうでもよくなるわ。
俺も音ゲーそのものを楽しもう、普段もそうだし。
ドラム式洗濯機にお金を投入して手袋をはめた。
俺が勝った。
□
改めて、俺の負けだ勇者。
これ以上ないくらいに気持ちよく、負けさせてもらったぜ。
「お疲れ様でした!」
ミレニアム郊外のファミレス。
夜になって少し、明日も学校がある勇者ではあるが、勝負の結果が結果なので何も言えずにいる。
ただそれでも苦い結果ではない、気分は晴れやかだった。
楽しかった、と思う。
さ、飯にしよう。
適当に頼むけど何か食べたいものがあったら言ってくれ。
「魔法使いのおじさんの好きなもので大丈夫です」
そうか、折角だし普段食べてないやつ選んどくか。
で、勇者、昨日言った話を覚えているか。
勝った方がなんでも言うことを聞くって話だ。
「はい、覚えています」
学校をサボってゲームを見たいってのを阻止するつもりだったがそれを止める権利は俺にはない。
勇者の希望に合わせて明日からゲーセンで落ち合おうか。
「いえ、その件ですが、アリスは明日からも学校へ通います。
おじさんのゲームを見たいのは変わらないのですが、学校での時間も大切だとアリスは気が付いたので。
…本当に残念なのですが」
いやいやいや、残念なことじゃないぞ。
学生の日々というものは掛け替えのない時間だ。
君の青春を謳歌するべきだ。
土日だったら俺は確実にゲームセンターにいるし、後は勇者次第だからさ。
「それで、お願いなのですが。
魔法使いのおじさんには悪いと思うのですが、イベントステージの高難易度攻略とレアキャラ掘りを待ってもらえませんか?」
恐る恐る、という面持ちで勇者は切り出した。
平日は学校の宿題もあるだろうし部活もあるだろう。
土日まで攻略を待ってくれという話だ。
わかった。
勇者の言う通りにしよう。
丁度俺もゲヘナの方へ帰ろうと思っていたところだしな。
学校をサボるのを阻止できればまずは解決だ。
土日は人が込むが初週は終わっているし人も減っていくはずだ。
お金も結構減ってきているし一度ゲヘナへ戻って次の土日まで金を稼ぐこともできそうだ。
俺が了承したからか彼女は安心したように普段通りの笑みを浮かべた。
「それで二つ目のお願いですが」
二つ目ぇ!?
「え?
だってアリスが六回勝負に勝ったので、魔法使いのおじさんは六回何でも言うことを聞くのではないのですか?」
あー、なるほどな。
そういうことね。
強欲かよ。
いや、負け続けてどうでもよくなったけど勝負の回数増やすのに何も言わなかった俺が悪いか。
幸いにも勇者の願いは無茶なものではなく、ゲームをする約束だった。
それこそ友達にするような軽い口約束だ。
「最後ですが、また昨日見せてくれたような魔法が見たいです。
できればアリスも使ってみたいな、なんて」
いいぞ、あの公園の中でなら周りにもバレないし大丈夫だ。
ただし勇者が使えるかどうかはわからない、それも今度の土日に調べようか。
ただ前にも言ったが他の友達に見せたりとかはできない。
「了解しました!
次のお休みが楽しみです!」
ファミレスの椅子に座ったまま万歳をして勇者は喜んでいた。
当初の目的は達したし、まぁ、万事解決と言えるかもしれない。
「それで魔法使いのおじさんはどうしますか?」
俺?
ああ、俺も一回勝ったからか。
七戦一勝が俺の戦績だった。
学校をサボらせないのは達成しているし、特に言いたいことはない。
いや、あるにはあるが、この空気で言うようなことではない。
このイベントステージの期間が過ぎたらミレニアムには近づかないようにする。
今言えば折角の楽しい空気を壊すことになるだろうから。
ああ、そうだった。
一つだけお願いがある。
勇者、この前のような人助けはいつもやってるのか?
それは獣人を助けた時のことだった。
彼女の肉体のスペックとこれまで何もなかったことから、一人でも問題はないのだろう。
勇者のヘイローの力なのかもしれないが、ゲヘナの風紀委員長とある意味遜色ない性能を持っているように見える。
いや、運動性能に至ってはそれ以上だ。
「はい、アリスは勇者を目指す者として、人助けのような緊急クエストも常に受注しています」
そうか、まぁ、その緊急クエスト自体はいいんだが。
どういえばいいかな、強くても一人で戦うなというか。
勇者よ、ゲヘナにも勇者のような人間がいてな?
不良生徒を止める最高の抑止力的な。
…違うな、ゲヘナにはレベルカンストのガチ勢が一人だけいるんだ。
掻い摘んで話すことにしよう。
その子にしかできないクエストが一杯あって、片っ端から受注していくんだが、追い付かなくてさ。
結果的に寝る時間が少なくて過労死寸前だと噂で聞いた。
勇者にもその兆候があると俺は見てる。
人助けをするなとは言わないが、無理はするなよ。
それがお願いかな。
「わかりました! アリスは無理はしません!」
よっしゃ、じゃあ俺のお願いは終わりだ。
「あの! そのゲヘナの勇者さんのことを知りたいのですが」
俺も詳しいとは言えないが。
プライバシーのために名前は伏せる、治安がそこまで良くないゲヘナを、そこまで良くないに押し留めている人間だ。
もちろん彼女だけではないが、彼女の代わりとなる人間はいない。
直接的にも間接的にも助けられた住人は多いはずだ。
個人的な接点もないし、俺の知ってるのはそれくらいだが。
「アリス知ってます、それは社畜と言うんですね」
そうだ。
勇者はそんなふうにならないように定時出勤と定時退社できるところに就職するんだぞ。
社畜勇者なんて現代の風刺そのものだからな。
救済するならまず自分からだ。
「わかりました!」
祝勝会と反省会を織り交ぜたような、取るに足らない話をして。
夕食なのにおやつのような食事をして。
「魔法使いのおじさんは、譲れないものがあると戦いますか?」
唐突、でもないか。
今日の最初に言っていたな。
まぁ、戦うんじゃないか?
何のために戦うかにもよるが。
確か勇者の学校の話だったか。
友達とのトラブルかな。
そういう話は止めた方がいいと自分で言っていたが。
話したい気分なのだろうか。
「お菓子を巡ってミドリとモモイが喧嘩をしていました。
喧嘩自体はよくあるのですが、ちょっとだけ悲しくなって。
アリスはお菓子ならどれもが美味しいと思うのですが」
ああ、お菓子のどっちがおいしいって論争ね。
あるある。
よくあることだよ。
可愛いものじゃないか。
「きのことたけのこ。
どっちが美味しいかという」
勇者、その争いに加担するなら命を懸けろよ。
「どちらもおいしいという言葉は許されませんでした」
どっちがおいしいかっていうのが争いの元だからな。
交通事故に遭ったとくらいに思っておきなよ。
良かった。
勇者が〇〇派は殺していいって言ってました!とかいって銃を取り出したら手に負えなかった。
そうなる可能性のある争いだからなそれは。
勇者は嫌いな食べ物とかあるのか?
「野草です」
お、おう。
そうだな、野草は美味しくないもんな…
いきなり火の玉ストレート投げてきやがった。
なんだ、勇者の学校か部活かはサバイバルでもやってるのか?
ミレニアム怖すぎだろ。
その…野草?を好きな人もこの世の中にはいるんだ。
探せばきっと、必ずな。
その人の前で野草は嫌いです、こっちの方が美味しいです、と言ったら好きな人はどう思う?
その論争の発端は凡そそんな感じだ。
優劣を付けたがるのは人の性かそれとも業か。
…好きとか嫌いとかの次元を遥か彼方に超越している人間も中には数多くいる。
あるいは彼ら彼女らは争いそのものが大好きな戦闘狂ともとれる。
勇者がそんな人間がそこらに普遍としていることを知れば発狂してしまうかもしれない。
それかそっち側に染まるか。
「それではどうすればいいのですか?」
相互理解がベターな方法だ。
野草の良さをその人に教えてもらえばいい。
理解できればそれで良し、できないなら正直に言うかどうかは君次第だ。
理解できるまで深めようとする姿勢は俺は好きだが。
大概は大人な対応をしてしまう。
理解を止めてそういうものだと投げてしまう。
人との衝突を避ける方が楽だから。
「うーん、アリスには難しい話なのかもしれません…」
勇者の心のままに動けばいい。
正解かどうかはその場次第だ。
全てが上手くいかないのが世の中だからな。
この子の善性は不安定だ。
それは記憶がないから。
今年の三月以前の記憶がない、と勇者の先輩は言っていた。
生まれたまだ一年も経過していない子供にそういう社交性を求めるわけにはいかない。
これからの長い学校生活でゆっくりと形成されていくのだろう。
ゲームに傾倒しているのは何故なのかわからないが。
ゲーム開発とかの部活動が関係しているのだろうか。
ゲームが面白いから、というのは全面的に同意するけど。
「話が戻りますが、二人の争いで私はどうすれば良かったのでしょうか」
難しい問題だ。
本来であればどちらも良い点があるから、どっちも美味しいというのは100点満点の回答だと思うが。
「でも争いはなくなりませんでした」
一言で争いがなくなるなら誰も争わないんだよ。
自分が正しいと思うなら何度でもどちらも美味しいと言ってやれ。
勇者の言い分も間違っていないと保証するぞ。
食べ物の趣向なんて十人十色だしさ。
勇者が二人が争ってほしくないと心から思うなら、誠意はきっと伝わるだろう。
「ところで魔法使いのおじさんはどうするのですか?」
俺か?
俺は、そうだな。
聞き分けのないたけのこ派をぶん殴って黙らせる、かな。
知ってるか、殴り合いも原始的な対話なんだぜ。
「なるほど、ぶん殴って黙らせる。
とってもわかりやすいです。
アリス、覚えました!」
ちょっと待て。
しまった、ついうっかり本音が出た。
失言だったかもしれない。
勇者の力で有言実行されたら血を見ることになる。
善性が形成される前に俺が悪性になってんじゃねーか。
勇者よ。
俺でも心の中で思うだけで実際に行動には出ない。
何故だかわかるか?
俺は大人だからな、避けられる争いは避けるんだ。
今のはネットでの社交辞令みたいなところもあって。
「アリスは子供ですので」
完璧な返しで言葉が詰まる。
今の話は無し、と素直に言うべきだろうか。
この勇者とのコミュニケーションは綱渡りなのだと気付かされる。
もしかしたら今まで俺は、とんでもないことをこの子に吹き込んでいるではなかろうか。
後々に他者との軋轢を生まないために対抗策が必要だ。
勇者よ、仮に聞き分けがなく、こちらの対話がどうしても相手に通じない場合、一つやれることがあるんだ。
これは人類の超法規的措置の一つ、相手との対話を打ち切る必殺の奥義だ。
親しい相手には絶対にできない究極の秘奥義。
知りたくないか?
「あまり意味はわかりませんが、必殺技は欲しいです!」
よし。
実際に行動に移る前にまずはやることがあるんだ。
最悪それだけで十分な力がある。
いいか、勇者。
聞き分けのない相手に向かって中指を突き立ててやるんだ。
「中指をですか?」
そうだ。
それだけで相手は対話を打ち切り勇者にバトルを挑んでくるだろう。
相手をぶん殴る必要なんて実はどこにもないんだ。
重ねて言うが、これは見知った相手や親しい相手には絶対にするな。
顔も名前も知らない相手でのみ使える必殺技と思え。
「わかりました。
パンパカパーン、アリスは必殺技を修得した!」
とりあえず最悪の事態は避けられただろうか。
と、週末まで俺はそう思っていた。