パンパカパーン! 魔法使いと合流しました! 作:尻尾の抜け殻
□
起きたら昼前だった。
壁に掛けた時計を見て敷布団から体を起こした。
自分の家だ。
昨日は確か、終電でギリギリ帰って来れたのだったか。
駅から出た時には既に日付が変わっていて、家に辿り着いてそこそこに眠りに就いたのだった。
風呂は当然家にはない、銭湯に行くべきだが先にやることがある。
台所に転がっている酒類を水洗いして缶用の袋に入れる。濡れているが気にしない。
水曜日は丁度ゴミ出しの日だった。今日の回収は月一の缶や瓶類だった。
朝を過ぎているがまだギリギリなんとかなるだろうか、と袋一杯に地区指定のゴミ袋に入れた。ダメなら来月出すことになりそうだ。
遅すぎる朝食を更に遅らせてゴミ袋を片手に外へ出る。
欠伸を零しながらマンションの階段を降りてゴミ捨て場へ向かった。
どこか遠くから聞こえる工事の音だけが環境音の平日の午前中。
この地区はゲヘナにしては比較的治安がいい。
戦闘行動そのものが起きにくい場所なのだ。
理由は、と寝起きの頭を起こすために考えている内に目的の場所へ着いた。
マンションの目の前にあるゴミ捨て場にはまだ収集車が到着していないようだ。
理由はゴミ袋が大量に置いてあるままだったからだ。回収が終わっていたらこうはならない。
帰ってきてまだ置いてあったら回収しよう。
どさりと置いて踵を返した。
□
「おう、重役出勤じゃねえか」
知ってるか、フリーターは実質重役なんだ。
「じゃ俺ら全員重役だな、おい、こいつも今の仕事に加えてくれ。
まだ間に合うだろ、重機の資格は――ないが大体動かせる。だったよな?」
ああ、いつも通り自己責任で大丈夫だ。
もちろん持ってるやつがいないなら乗るって体でよろしく頼む。
ブラックマーケットの職安に顔を出すと見慣れた機械の顔触れが来ていた。
どうやら運が良かったらしい。
既に午後を回ったところだが、これから仕事へ向かうのか見慣れた仕事着の機械の人間たちが一角に集まっている。
時間も時間だし今日の現場は近場だろうか。
仕事着に着替えてヘルメットを被って輸送車に乗り込んだ。
あいつがいないな、今日は休みか。
「デカルトのことを言ってるのか?
あいつらはもう来ねぇよ、団体でここを出たはずだ」
そっか。
「理由は知らん、大方やりたいことが見つかったか、割に合わねぇって今更気が付いたかだろ」
生きてるならそれでいい、ここ最近多いだろ、行方不明者。
「今更だ、ここじゃ行方不明なんて日常茶飯事だぜ」
それはそう。
「ま、出て行きますって捨てセリフを言えるだけマシじゃねえか?」
確かに。
なんとも前向きなセリフだな。
それは決して皮肉ではなかった。
別れのセリフを言えるだけ人として良いと思うからだ。
知り合いが欠けたことに僅かばかりの寂しさがあるが、死んでいなければ縁が合ったら会えるだろう。
人が消えることはよくある話だ、大人の彼ら彼女らは自分なりの事情があってこのブラックマーケットで働いている。
まともな生き方ができない人間たちの集まりはいずれ世間から淘汰される。
理由はどうあれ最終的にはこれに尽きる、まともに生きている人たちに悪いから。
言ってみれば俺は不明な海外国籍で不法滞在している外国人。
免許もないのに機械を運転できるし、住民票もないのに仕事をしている。
世の中にいない方が良い類の人間であることに、疑いはない。
そんな俺のような人間が表立って歩いている、世の中なんてそんなものだ。
言葉を交わせるだけマシとも言えるが。
「あいつ、お前のことはなんにも言わなかったな。
いなくてラッキーって感じだったぜ」
そりゃな、俺、あいつに金貸してたし。
「いくら?」
50万。
「ま、そんなこともあるさ」
いいや、俺は堂々とあいつに会うことができる。
あいつは後ろめたさを抱えたまま俺と会う羽目になる、この差は大きい。
常に精神的に優位に立てるんだぜ。
これは言ってみれば投資だ。
あいつという存在に俺は50万払ったんだ。
その分の何かをあいつは為すだろう。
為してもらわないと酷いぞ。
「為せなかったら?」
ちょっと不幸な目に遭い続けてもらう。
「うへぇ、俺、お前からはびた一文借りねぇわ」
まぁ冗談は置いといて、俺が貸し借りを持ちかけたんだ。
利子もないし期限もない。
要るか要らないかで言うなら要るってその時は言ってたな。
代わりに俺が借りる時はよろしく頼むって伝えてある。
「口座の代わりか?」
そんなところだ。
実際今、金に困ってる。
そんな雑多な話をしながら輸送車は止まった。
外はアビドスのどこか、砂が道路に斑に散っているから確実だろう。
今日の現場はここのようだ。
工事道具は既に用意されている。
現場監督らしい担当者曰く、砂漠化により老朽化した道路の舗装とブラックマーケットまでのライフラインの確保らしい。
正規の手順を踏んでいないのが不思議だが、そこは俺たちの雇い主のやり方だろう。
「そろそろ名前と顔を変えなきゃならんな」
唐突に彼はそう言った。
周期的な話だ。
長くこの仕事に就いていると都合が悪いそうだ。
面倒くさい、と彼は続けてため息を吐いた。
前から思ってたんだけどさ。
整形ってどうしてんの。
機械の体で。
あれだろうか、金型の成形みたいな感じで新しい頭よ、とか言うのだろうか。
俺も機械の人間扱いだが中身は肉なんで、ヘッドパーツをそれとなく交換しているだけなんだが。
その上で認識阻害は滞りない。
「基本は闇医者だな。
なんだ、もしかして正規の医者のとこ行ってんのか?
アイツら金を積まれればゲロるからおすすめしねぇぞ。
麻酔もしっかりしてくれるいいとこ教えてやるよ」
闇医者がゲロらない保証がどこにあるんだよ。
あーいや、なんていうかな、身内がやってるところなんだ。
ゲロったら互いに連鎖するから言えないってわけ。
「そうか、伝手があるのは強いな。
羨ましいぜ」
麻酔…麻酔すんの彼ら。
どこに麻酔の針が通る場所あるの。
いや、普通に米の飯食ってるし考えるだけ野暮かもしれない。
昔ガソリンをケツから給油してるやつがいたが、あれは本当にサイコ野郎だったのかそれがスタンダードなのかわからなくなる。
聞いてはいけない気がする。
夕方、日が傾いてしばらく。
仕事を始めてまだ数時間だが割と捗っている。
元々途中まで進められていた形跡が逆に不安を煽る。
当然のように辺りには銃痕など戦闘の跡が残っている。
普通に死体が残っている現場で仕事をしたこともあるが、あの時は臭いがヤバかった。それに比べるとマシな部類かもしれない。
使っている道具が良いのかそれとも舗装に使う物資が通常のそれとは異なるのか、そのどちらもか。
このまま夜間もぶっ続けで仕事を行う。
労働基準なんて存在しない、指定されたラインへ到達するまでが仕事だ。
時間が来たら飯を食べたりするのだが砂が舞っているので誰も食べようとしない。
彼らが手を止めるのは水分補給の時くらいだ。
人通りもない砂漠への入り口だ、夜はクソ寒いがみんな機械だから何も感じないのだろうか。
魔法で適温にしているから俺はなんとか着いて行っているが、魔法がなければと思うとぞっとする。
ぞっとしてから思い出したかのように尿意を催した。
仮設トイレとかあったっけ。
そんな設備なかった気がするんだが。
もうなりふり構わず木陰というか崩れた建物の陰でやるしかない、と周りをキョロキョロしていると呼び止められた。
「そこにいたのか。
気を付けろよ、さっき遠くで機械の集団がいたんだ。
武装してる。」
別の同業か?
「違う、どこかのPMCかもしれねぇ。
自立戦車と自走兵器、あんなのがここらを徘徊してるとは知らなかったぜ。
現場監督がビビッて引き上げるとか言ってるんだ、金が出るならそれで構わないが出ないなら止めるしかねぇ」
流れ弾怖いもんな。
戦車だったら流石に助からない。
「ああ、クソ、こういう突然出てくる不安要素は嫌いなんだ」
それはそれとしてトイレ行きたいんだけど仮設トイレない?
「ねぇよ、今は我慢しろ」
こういう作業場においては仮設トイレが普通はあるのだが、今回はそういう配慮はなかった。
仕方がないので席を外して作業場から外へ出た。
砂漠の一角で用を足す。
雲一つない夜空、工事による騒音は少しの距離をおくだけで気にならなくなった。
遠くでこちらを見る目がある。
夜道の遥か向こう、砂漠の奥の奥地から。
大きな蛇が静かに佇んでいる。
確かにそいつと目が合った。
――人が小便してる様をガン見すんなよ。
用を足した後を砂で隠して踵を返す。
汚れなくて良かったがやっぱりご飯は帰ってから食べようと思った。
工事の喧騒の元へと戻る。
夜間用のライトを丁度設置し直したのか眩しい光がこちらへ向いた。
「お前な、こんな時に姿を消すんじゃねぇ。集団行動だぞ。
…頻尿か?」
どちらかというと糖尿かな。
「どちらにせよ中年から爺に片足突っ込んだ証拠だクソ。
死因が小便にならなくて良かったなクソが。
ほらよウェットティッシュだ、死ねクソ」
知ってるか、ミミズに小便をかけるとばい菌が逆流するんだぜ。
「それは迷信だ。
で、今安全確認が終わったところだ、どうやら武装集団は砂漠の奥へ向かったらしい」
こんな夜中にご苦労だな。
「だな、帰って来る前に終わらせてしまおう。
進捗から急げば日が昇る前には今回の予定のラインに到達するらしい。
最後はドローンで済ませられるんだと。
急いで仕事に取り掛かろうぜ」
月明りと現場用の強いライトに照らされて仕事を続けた。
深夜を超過したあたりで仕事が終わった。
重機はその場所に放置したままで俺たちは輸送車の中に乗り込んだ。
職安へ到着し、給金をもらったのは朝日が差してすぐのことだった。
□
木曜日の朝。
ゲヘナへ徒歩で帰ってきた。
決して短いとは言えない距離だが始発電車に乗ろうとすると待ち時間でそのまま眠ってしまいそうだった。
眠気に抗うために徒歩を選んだが果たして正解と言えるだろうか。
疲れと眠気で重くなる体を無心で動かした。
見慣れた街並みが見え始めた頃、視界に見慣れないものが映った。
マジか…!
スーパーマーケットの表に、自販機やガチャガチャの筐体群の隣に。
1プレイ100円の駄菓子ゲームがそこにあったのだ。
ボール状のガムをゴールまで転がす子供向けのゲーム筐体。
電源不要、ゴールできなくても転がしたガムは手に入り、ゴールできればもう1個ガムが手に入るレトロゲームだ。
もちろん俺はやったことがない、完全初見だ。
かつてこういうレトロゲームがあったと温泉宿で耳にした程度だった。
しかも二台、別種の筐体が隣り合っている。
ハンドルを握り動かしてみるがちゃんと動く。
初めての感覚だった。思わず身震いする。
二台とも新品の筐体に見えた。
昨今のレトロゲームブームに合わせて新しくできたのだろうか。
100円の投入口の隣には既にパンパンに詰まったガムボールが見える。
外に設置するなんて湿気る原因になるのではないのだろうか。
いや、そんな細かいことはどうでもいい。
人目があればプレイするのは避けるが今はどうだ。
日中でも夜でもスーパーマーケットの周辺は基本的に人通りが多い、だが今このタイミングであれば問題ない。
そして電源が要らないのだ、つまりスーパーが開店する前の今でも遊べるということ。
思わず懐の財布に手を伸ばす。
札しかない、辺りを見回して自販機へ。
札を投入して適当に安いジュースを買う。
運が悪い、100円ピッタリの自販機がない。
仕方なく120円の缶ジュースを買い、出てきた残り880円を握り締める。
8回もできる。
誰もいないスーパーマーケットの前で100円玉を筐体へ投入する。
ことん、とガムボールがレールの上に落ちた。
少し興奮気味にハンドルを両手で握り締めた。
初めてのゲームだ、初めての感覚だ。
二度とは味わえないこんな新鮮な気持ち、楽しまないと損だ。
ゆっくりとハンドルと連動したレールを動かしてゴールへ進める。
記念すべき一回目は傾け過ぎて最初の直線をそのまま駆け上って脱線した。
かたん、ガムが1個膝元の排出口から出てきた。
残り7回。
ダメだ、一度もゴールにたどり着けない。
力の加減は把握したがゴール前の穴に何度も落ちてしまう。
まだ別種の一台があるというのに。
排出口には8個ガムボールが溜まっている。
これ以上は詰まってしまうかもしれない、と色の異なる幾つかを口に入れた。
美味い。
青りんごのような甘酸っぱい人工甘味料の味が染みる。
続けて口元に放り込もうとしたが、意外と一粒が大きく咀嚼するのに集中した。
糖分故にか少しだけ冷静になった。
何も今日しかできないわけじゃない、残り一台は後日やろう。
見られたら恥ずかしいし、まだ店員も出勤していない今のような時間がやはりベストだろう。
次の仕事終わりがまたこんな時間ならできる。
仕事終わりの楽しみができた、と自販機で缶コーヒーを買う。
残り8回で確実に終わらせる。
同僚からもらっていたウェットティッシュにガムを包みゴミ箱へ捨てる。
意味もなく腕の機械鎧を外し、指の体操をしながら筐体に向き合った。
深呼吸してハンドルを握り締める。
…くそ、同じところで脱線した。
学びを活かせていない。
細かい力の加減は難しい。
勇者なら二度目はないだろう。
彼女ならきっと一回目は盛大に失敗して二度目は確実に通す、そんな気がする。
いや、もしかすると力の加減を覚えるまで何度も失敗するかもしれない。
だとすれば俺の方が早くクリアできるかもしれない。
…いない人間の話をするべきじゃない。
通算12回目、俺は一度目のゴールへ到達した。
微妙な力加減に息まで止めていたからか、吹き出すように大きく息を吐いた。
追加分を含めて落ちてきたガムは合計13個、幾つか食べて今も口に含んでいるが、残り半数近くでも多過ぎる。
捨てるのは忍びないし、持って帰るしかない。
袋があれば良かったのだが。
コンビニでビールでも買うからその袋に入れるか。
というか両替代わりに使った自販機で購入した缶ジュースと缶コーヒーもまだある。
甘さを打ち消すためにまた噛んでいたガムを包んで捨てて缶コーヒーを開けて飲み干す。
無糖の苦さが丁度良い。
ガム複数と缶ジュースを握り筐体の前を後にする。
……
「……」
自販機の前に人影があった。
大きなその銃に一瞬勇者かと思ってしまうが目を凝らさずとも誰なのかわかる。
特徴的な銃に特徴的なヘイロー。
どうしてゲヘナの風紀委員長がこんな朝方にこんな場所に。
俺がゲームで遊んでたの見られてないよな。
いい大人が人気のない場所で子供用のゲームに白熱してたらキモイどころじゃなさそうだが。
目が合ってしまったので軽く会釈して缶コーヒーを自販機横のゴミ箱へ捨ててその場を離れる。
気持ち足早に。
目が合った瞬間気まずそうに目を伏せられた気がする。
完全に見られてんじゃねーか。いつからだよ。
見ちゃった、みたいな雰囲気を出すの止めてくれ、その空気も俺に効く。
駆け出したくなる足を必死で歩きにまで抑えて帰り道に就いた。
□
朝、再び自宅で目を覚ます。
起きてすぐに時計を見て、まだ昼にはなっていないことに安堵する。
それほど長く眠れていないが流石に今日は体を洗わなくては。
コインシャワーへ向かうべく着替えを持って外へ出た。
おう、重役出勤じゃねーか。
「フリーターは実質重役なんだろ?」
午後、昨日と同じ時間に同じ場所で。
昨日の続きらしい仕事の依頼があったので受けた。
ぞろぞろとよく見た顔触れが集まりつつある中で世話になっている機械の男が現れた。
どうせ来ると思ってたからもう受けておいたぞ。
「ありがとよ。見たところ昨日と同じ面子だな」
昨日の今日だからな、帰って寝て起きたらこの時間になるだろ。
「違いない。
昨日みたいなトラブルは勘弁願いたいぜ」
それから程なくして時間が来て輸送車両に乗り込んだ。
ガムの残りを袋に入れて持参してきている。
口元が恋しくなるのは煙草を吸う人だったか。
俺は愛煙家ではないが、口直しに使えるはずだ。
輸送車両に揺られながら話を続ける。
実際、何が目的だったんだろうな。
規模は聞いてないがちょっとした軍隊なんだろPMCってのは。
「ああ、マーケットガードと同じ部類だろうがあっちの方が専門性は高い。
つまりは戦闘職のプロたちだ。
警備とか手広くやってるこっちとは同じようで違うのさ」
そういや前はマーケットガードやってたんだっけ。
「もう五年も前の話だ。
で、今日は仮設トイレ持って行ってもらうように伝えたか?」
ダメだって。
「ダメとかいう問題じゃないんだけどさ。
まあいいか、そういうコストの分が金になるならさ」
それはそう。
何が金に変換されてるのか謎だがな。
「金回りに本当に疎いよなお前は。
リスクと保険保証を度外視すればそれだけ金になるってことの証明みたいなもんだ。
だから普通の人間は仕事を受けられないし表に出せない。
何も知らない人間が聞いたら卒倒するぜ、リーマンの一月の給料が一週間
も経たずに手に入るんだからな」
それも職種によると思うがな。
それだけの利益を雇い主が得ていて、それが俺たちに還元されてるってことだろ。口止め料も含んでさ。
毎回契約書まで用意されてる。
「ま、俺たちは雇い主を知らないがな」
知る必要は今のところないなぁ。
知ったら確実に良くない未来になりそうだ。
そんなの調べるよりパチンコしてた方が価値があるだろ。俺たちはさ。
「俺は運が絡むのは嫌いなんでな」
なんにせよ、そんな労力を使うくらいなら別のことに力を入れた方がいいってこと。
頭が回る奴が消される場所なんだ。
頭空っぽで利用されていた方が幸せなんだよ俺たちは。
自ら一線を越えなければ俺はそれでいい。
「…それもそうだ。
聞いたか、職安にいる職員、情報屋を兼業してたらしいが自宅で亡くなってたらしいぜ。
窓口の一人だ」
人が変わったなとは思ったがそうだったか。
残念、とまで深く関わってないな。
顔見知り程度だった。
「消されたんだろうな。
情報屋ってのがどれだけ儲かるのか知らないが、器用なことをするから目を付けられる」
彼は運が悪かったんだよ。
生きていたら二度と同じ目に合わないように上手く立ち回れるようになっただろうに。
知らない内に誰かの逆鱗に触れて、知らない内に消される準備をされるんだ。
俺たちも同じ轍を踏みそうな仕事をしているだけに決して他人事ではないところが怖いな。
もっと楽に、埋蔵金とかそこらで発掘できたりしないか。
「埋蔵金か。
聞いた話じゃアビドス砂漠のどこかには古代遺跡があるらしいぜ。
んで、それを追ってミレニアムと連邦生徒会が連携して捜索してるそうな。
もしかすると件のPMCもそれ関連かもしれないぜ」
遺跡ね。
まぁ遺跡って言うか廃墟ならたくさんあるけどな。
というかミレニアムか、あそこはそんな前時代の遺物とか一切興味なさそうなんだけど。
「そういう部署でもあるんだろ。
そういえば俺も聞いたぜ。
ミレニアムで学生に財布を盗られたんだってな」
盗られたっていうか、差し出した。
「命乞いでもしたのか?」
した。
実質した。
「実質ってなんだよ。
そんなにヤバい生徒があそこにはいるのか」
いる。
「一体どんな子供なんだ」
実質筋肉モリモリマッチョウーマンな生徒だ。
俺の体重を超えた身の丈程もあるごつい銃を苦も無く背負ってるし。
あのゲヘナの風紀委員長並の傑物だと思ってる。
「だから実質ってなんだよ。
その筋肉モリモリと風紀委員長との落差が酷すぎるんだが、イメージが。
しかし聞いた話ではトリニティでも翼の生えたゴリラみたいな生徒がいるとか。
ホラー映画に出てくるゾンビみたいな生徒がいるとか。
わからないものだな世の中ってのは。
お前の言う通りゲヘナの風紀委員長が一番まともってのは強ち間違いではなさそうだ。
その子供?はどんな感じなんだ」
思い上がっていた俺の心をベキベキにへし折り、それどころか無自覚に人を殴りつける(言葉で)子だ。
因みに走って電車に追い付ける。
「うわぁ…
時代の最先端を行くミレニアムだからな、肉体改造なんてお手の物ってわけか」
これ以上はあんまり聞かないでくれるか、その件については結構ナイーブになってんだ。
「そ、そうか…悪かったな」
こうやって噂は尾ひれがついていくんだろうな、と俺たちの話を聞いていた他の機械の人間たちのざわつきを聞き流してガムを一つ頬張った。
今頃勇者はどうしているだろうか。
きっといつもと同じ朗らかな表情で学校へ行っているんだろう。
約束通り土日にミレニアムでゲームをするのだが、金は多分大丈夫だ。
…早速中指を知り合いに向けて立ててないよな?
明日は金曜日。
今日のこの仕事が終わったら準備するか。
前編的な話。オチが…ない!