パンパカパーン! 魔法使いと合流しました!   作:尻尾の抜け殻

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魔法使いのおじさんと侍女1

 

近未来の乗り物。

SF映画やそういう企画のテレビ番組の中で、精巧なCGで作られた乗り物があった、と思いを馳せる。

それは空を飛ぶタイヤのない車であったり、人も乗れるホバリングするドローンであったり。

近年現実的な形で再現がされていたりと技術の発展は目覚ましいものを感じる。

この世界に来て、加えてミレニアムに来てからはそういう近未来の技術が特に身近に感じる。

 

で。

 

現実にそれがあるとして、常人の感覚ではやはりこう思うのだ。

安全面ってまだまだ度外視されてるよなって。

先に方向性を確立させてから安全面を詰めていくってやり方なのかな。

あぁそうだ。

この世界のヘイローを持つ人間は、頑丈だった。

 

 

うごあー。

 

 

受け身を取るのがとても上手くなった、と言っておこう。

綺麗に塗装されたアスファルトを滑走して鎧が摩擦で削れていく。

 

機械の背にしがみ付いてしばらく。

すっかり日が落ち夜になった。

 

疲れた。

すこぶる疲れた。

 

そもそもこのボール状のタコみたいな機械は人を乗せる機構など持ち合わせていない。

溝がやたらとあるデザインなので引っかかりはそれなりにあるが、それだけだった。

硬いバランスボールにしがみ付いている感じ。

 

まぁ、なんというかね。

10回くらい振り落とされてるよね。

 

機械で、しかも飛んでいる故にか、殺人的なカーブで最短距離を突っ切るものだから初見時なんて欠片も対応できなかった。

自分で運転していたらまだ落ちない程度に減速したりするのだろうが、生憎目的地もわからない全自動だ。

ジェットコースターのようなレールのあるアトラクションの方がまだ先が見える分身構えることができるだろう。

落ちてコンクリートの地面を滑走した後もその都度戻ってきてくれて静かに待ってくれるんだけどさ。

何度ぶっ壊してやろうかと思ったか。

学習でもしやがったのか曲がる直前に予備動作が加わってから簡単には落ちなくなったが、次からはもっとまともな乗り物を寄こして欲しい。

 

 

そんな今の俺の姿は目立つはずだが人と遭遇することはなかった。

そういうルートを割り出しているのだろう。

ミレニアムから出てしばらく経つ。夜になる頃には別の都市に踏み入っていた。

が、どうにも様子がおかしい。

都市クラスの建造群があるが人の気配のない建物が多すぎる。

光のないビルはそう珍しいことではないが、今は都市が眠る深夜ではない。

そんな不気味なビル街を抜けていき都市の中心部へ進むに連れて、光が灯る建物が増えていった。

ただ変わらず人の気配がない。中にいるのは人ではなく機械のみということだろうか。

その内に周囲から爆発音と地響きが聞こえ始めた。明確な人の気配というやつだ。

鉢合わせる可能性があったのだろう、俺がしがみつく機械はルートを変えビル群の路地を駆け抜けた。

建物の中に入ってからは安心感しかなかった。もうすぐ終点なのだとわかったからだ。

安心し過ぎて階段を上った先のカーブで壁に打ち付けられたが。

何階あるのかわからないほど長い階段を浮遊する機械が俺を乗せて高速で動くから遠心力は十二分だった。

壁に傷が入っているが知らん、弁償は俺じゃなくて勇者に請求してくれ。

服も鎧もボロボロなんだけど。

機械の人間たちが俺を見たらほぼ全裸の不審者とか言って通報されるんだろうか。機械の連中の貞操観念は未だに謎が多い。

尻穴からガソリンを給油というブラックマーケットの同僚の冗談が、嘘か真か怖くて聞けていない俺である。

俺の認識阻害の魔法が効くから間違いなくヒトというカテゴリに属しているはずだが、知らない方が幸せな事実は世の中には多くあるのだ。

 

疲れのあまり軽く現実逃避を始めてしまった。

建物内部もドンパチやっているのか銃声が遠くから聞こえている。

唐突に案内役の機械が停止した。

階段の先がなかった以上、ここが最上階だろう。

扉が通路の先にあるが、そこが終点だろうか。

機械を降りて扉の前に立つ。

 

 

「…!

なるほど、貴方もエリドゥへ来ていたのね」

 

 

まだ何も操作もしていないが扉が開いた。

重要な部屋のはずで、扉の前には認証の必要そうな端末が設置されていたが素通りできた。

察していたが自動扉を開けると認識阻害は容易く突破された。

開いた扉のその音に視線が必ず向かってしまうからだ。

もう後には引けない、と部屋に踏み入る。

 

 

どうも、会長さん。

ここが君の城か。

悪いが菓子折りなんて気の利いた物は用意していないんだ。

すまないね。

 

 

室内をざっと一望する、モニターが幾つも壁に取り付けられている。

おそらく都市の中心部分、管制室もしくは指令室のような場所らしい。

警戒心を露わにしながら朝見たばかりのスーツ姿の女性がそこにいた。

彼女の周りには朝に一緒にいた護衛の機械はいたが、メイドはいなかった。

勇者もこの部屋にはいないようだった。

彼女が俺をここへ呼んだということはない、推定だがこの自称会長は勇者と敵対しているはずだからだ。

さっさと彼女と合流したいが。

 

 

会長さん。

勇者は、あの子はどこだ?

 

「…貴方は理解しているの?

あれはキヴォトスに終焉を招く存在、あれを野放しにすれば世界は滅ぶのよ」

 

 

唐突にスケールが大きな話を振られた。

そういう設定だろうか。

いや、冗談を言っているようには聞こえない。

彼女の人柄すら知らない俺はそれが冗談だと笑い飛ばすこともできる。

キヴォトスの、それもゲヘナという地域を知っている身からすれば、大真面目な顔をして信じられないような倫理観を披露する異常者も多く見かける。

そんな連中がいるから一概にそれが誇大妄想と言えなくもないのだが。

 

どちらにせよ、返答するにしても情報が圧倒的に足りていない。

 

 

何の話だ?

俺は彼女に呼ばれて来たんだ。

状況も何も知らされていない。

終焉? 滅ぶ?

どういうことだよ。

 

「…?

待ちなさい。貴方は先生の、シャーレ側の人間ではないの?」

 

…先生がここに来ているのか?

まさかここに来るまでの銃声は彼らのものか。

 

 

予想外の名前を出され面食らう。

キヴォトスが滅ぶという話も少しばかり真実味が帯びてきた。

どうやらとんでもない争いに勇者は巻き込まれているらしい。

いや、彼女の話を鵜呑みにするならあの勇者こそが渦中の人となってしまうが。

 

 

「……貴方は、どこの人間かしら。

先生側ではないということは、シャーレとは別の連邦生徒会のエージェント? それともゲヘナ? トリニティ?」

 

先に言っておくが、質問したのはこちら側だ。

先にこちらの質問に答えてもらいたいが。

 

「トキが敗れた今、私と先生との戦いは勝敗が決している。

けれど別の勢力が横やりするならば見過ごすわけにはいかないわ。

あくまで私が負けたのは先生だから」

 

互いに一方通行の会話は彼女が拳銃をこちらへ向けることで終わった。

見たところ護身用の物だ。

こちらから先に話すことを促すだけものだろう。

非常に時短で合理的な判断だ。

何の変哲もないハンドガン程度ならこの鎧を貫くことはないが。

ヘイロー持ちの力は個体差が大きい。

一発が致命打になり得る可能性もゼロではない。

向こうもこちらがまさか丸腰だとは思っていないだろう。

ほぼ全裸だから隠す場所もないわけであるが。

俺の出方次第で話が進まないのは目に見えた。

息を強めに吐いてから彼女の質問に答えた。

 

 

俺はどこかに属していないし、どこでもない。

彼女の友達って言っただろ。

それ以上でも以下でもない。

さっきも言ったようにここには彼女に呼ばれて来たんだ。

君が朝に言った留学ってのが嘘だってことしか知らない。

 

「そこからなの?

いえ、そもそもエリドゥから外部との連絡手段なんてあるはずがない。

ましてやアリスはここに来てからずっと眠らせていたはず」

 

それは知らないんだけどさ。

勇者の声で、指定した地点に来いと。

 

「……Divi:Sion、無名の司祭、名もなき神々の王女。

これらの名称に覚えはあるかしら」

 

ない。

あっ、ゲームの設定的なやつ?

 

「……」

 

 

彼女の拳銃を握る手に力が入ったのがわかる。

冗談を言っている場合ではないことはわかるが、マジで心当たりがない。

両手を挙げて入り口から部屋の隅に移動する。

背には壁、逃げ道を自ら封じたわけだが降参の意図は伝わっただろうか。

 

 

今のは君の聞き方が悪いと思うが。

本気で心当たりがない、と言えば納得するか?

自分で言うが、俺を弁護できる人間はいない。

 

 

「確かに、効率の悪い聞き方だったかもしれないわね。

本当に何も知らないのであれば。

ここまでのセキュリティを突破してきたということは、ヴェリタス…いえ、ヒマリクラスのハッカーだということかしら。

それなら何も知らずにここへ来られた辻褄だけは合う。

…いいえ、そこまでの腕ならどうしてアリスの情報を知らないの?」

 

ハッカーじゃないけど?

 

「貴方がハッカーではなくとも手引きした誰かがそうでなくてはあり得ない。

監視カメラのセキュリティに侵入したことすら気付かさえない完璧な潜入、改竄かしら?

最高レベルの権限がないと入れないこの部屋に正面から入ってきたこともそう。

貴方の背後にいるのは個人ではなく組織かしらね。

改めて尋ねるけれど、貴方はどこの所属?」

 

返答は同じだ。

ここに来たのはあの子に指定した場所に来いと乗り物を寄こされて乗ってきただけ。

深く勘繰っているようだが、俺の背後に組織なんてないし、そもそも俺は何も聞かされていない。

 

「隔離だけでなく意識を奪っているアリスが貴方をここまで案内した、と?

見え透いた嘘ね」

 

 

一から俺の状況を話したいが聞き入れてくれるようには見えない。

またも話が平行線になりつつある。

常識的に考えて、個人でここまで来れるはずがないのは確かだ。

それは機械のナビゲートがあったからだが。

 

偶然や運ではあり得ない、ここは戸締りで鍵の掛かっていないような田舎ではない。人の気配がないとはいえ最新最先端の都市だ。

俺にも流石に違和感に気が付く。

もう一度閉じられた入り口に視線を向ける。

 

 

ここに来るために俺に寄こされた機械、あれはミレニアムの校章がなかった。

そもそも人が乗れるような構造でもなさそうだった。

タコかクラゲかはわからないが、触手のあるボール状の機械だ。

何か知らないか?

 

「……その形状の機械に心当たりがあるわ。

しかし、廃墟からミレニアムに運ばれた物は全て破壊されたはず。

…ここに至るまで一切のセキュリティを抜けて、監視カメラすら抜けてきている?

そこまでの技能を持ったハッカーがいるとは思えない。

けれど、辻褄を合わせるなら、やはり」

 

 

 

深く考え込むような仕草をして、彼女は鋭い目を隅にある部屋へと向けた。

同じく俺も、深く考え込んでいた。

勇者が俺を呼んだのだから、勇者によるものであるとわかる。

わかるが、そもそも彼女一人のやっていることだとは思っていなかった。これは案内される前から確信していた。

勇者にそこまでの知恵はない。彼女と行動を共にする誰かの助けがあるのだと勝手に思っていた。

そこまでわかっていてこの誘いに乗ったつもりだった。

しかし、彼女が一人きりだったというのなら、一体誰が俺をここに呼んだのか。

勇者の仲間であるミレニアム側の誰かだろうか。

だとするなら先生にくらいは俺の存在を事前に知らせていたはずだし、もっと早くに合流を促したはずだ。

魔法使いのおじさん、その言葉は確かに彼女しか使わないはずだ。

だが、それが勇者のものではなかったとしたら?

 

頭の中で考えが巡り続けている。

確信しているのは猛烈な嫌な予感だった。

何かの策略に嵌められたのは間違いない。まだそれに悪意があるのかもわかっていない。

理解できないのはその意図だ。

なぜ俺をここへ連れて来たのか。

意味もなくセキュリティを欺いてまで俺をここへ案内するとは考えにくい。

たとえ先生側が知っていたとしてゲーム友達なだけの俺に何の価値があるのか。

ヘイロー持ちですらない俺は戦力にはならないはずだ。

 

なら、逆に考えよう。

俺に価値があるとすれば、それはなんだ?

一つしかない。

――魔法だろう。

勇者が俺を呼んだのならば、それは俺が魔法を使えて役に立つからだろう。

勇者は唯一俺の魔法を知っている存在だから。

だから、俺をここへ呼んだ人間は、俺と勇者の関係を知っているのではないか。

 

こじつけが過ぎるだろうか。

巻き込みたくないと言った勇者が自らの意思で人を役に立つか否かを勘定に入れるはずがない。

俺の存在をもっと前から知っている者がいるかもしれないし、勇者から俺の存在を知ったのかもしれない。

後者なら彼女は俺との約束を破ったことになる。

そのどちらも否定したいことであるが。

 

明らかに判断する材料が足りていない。

はっきりと言えることは、まだ見ぬ先生やミレニアムの会長とは別の勢力があり、俺はそいつによってここへ導かれたのだということ。

否、誘き出された。

 

それに今考えるべきことは相手が俺をここまで呼んだ理由を考えることだけではない。

この状況を如何にやり過ごすこと、何よりもそれが第一だ。

 

ごうん、と何かの音が室内に響いた。

 

 

「エリドゥ内部のネットワークを一部遮断した。

電力以外はスタンドアローン、つまりは独立して機能するように切り替えたわ。

貴方の言葉をすべて鵜呑みにするつもりはないけれど、少なくとも得体の知れない誰かが内側に潜んでいるのは確実だから。

情報のすり合わせをしても?」

 

 

ドアを開くのも一苦労だけれど、と彼女は言葉を続け銃を下した。

それはつまりこの都市から脱出することも難しくなった、ということだろうか。

それは俺にとって悪い知らせだが、それは同時にここへ確実に来るであろう先生一行の到着が遅くなるということでもある。

それを加味するとむしろプラスに働いたと思っておこう。

どうせ俺の痕跡を完璧に隠すことは不可能だ。

彼女にとって俺がその得体の知れない誰かの仲間であるという可能性もまだ残っている。

そこまで織り込んで実行したのだろうが。

彼女の両脇には護衛の機械もいる。

今の状況でも彼女は自身の優位を崩していなかった。

確かに彼女の言う通り、自分一人で状況を理解するのは無理なのも確かだった。

 

 

了解した、では俺の方から。

ここに来た目的と経緯だが。

朝、君が言った留学が嘘だとは当然知っていた。

だが肝心のあの子が助けを拒絶した。

だからもう、仕方がないと割り切るしかなかったんだよ。

…で、夕方、あの子から連絡が入った。

指定する地点に来てください、と。

寄こされた機械の背に乗って、今ここへ来た。

今になって助けが必要になったのだとばかり思っていたが、違うかもしれない。

 

「関係は?」

 

趣味がゲームなんでね、仕事のない休日をミレニアムで過ごしていた。

あの子とはゲーム友達で俺とゲームを通して一緒に遊んでいた。

ただそれだけだ。

キヴォトスの終焉だの何だの、今初めて聞いたんだよ俺は。

 

「今回の騒動については把握していないのかしら?」

 

あぁ。

学生ではないしミレニアム自体詳しくないから、君が本物のミレニアムの会長かどうかも半信半疑だった。

というか今も本当かどうかの確信はない。

名前は合致しているが生憎、顔までは覚えてない。

 

「貴方が勇者と呼んでいるアリスについてはどこまで知っているの?」

 

電車と並走するくらいのスペックこそ持っているが、ゲヘナの風紀委員長を知っている身からすればそういうことができる子もいるのだろうな、としか。

それと以前あの子と一緒にゲームセンターにいたメイドの先輩から少しだけ事情は聞いている。

3月より前の記憶がないということ、くらいだが。

 

「メイドの先輩?」

 

名前は…なんだったかな。

思えば互いに自己紹介はしていなかった。

朱色の髪でヤンキーみたいなジャンパーを着てる、小…中学生くらいの子だ。

 

 

こちらが名乗れない都合で自己紹介はそもそもしていない。

向こうも名前や身分を気にするような子ではなかったこともあるが。

普段のやり方が裏目に出てしまっただろうか。

思い出しながら印象の濃すぎるメイド先輩の特徴を伝えた。

 

 

「その人物には心当たりがあるわ。

ネルが貴方を認めているならば…認識を改めるべきかしら。

――いいえ、それが本当だという証拠はない。

連絡手段も…たった今私が断ってしまったわけだし…」

 

 

自分のした行動が早速裏目に出たからか会長がおろおろしている。

メイド先輩、おそらく一発で個人特定されとるが。

やはりあんな特徴的な子がいたらミレニアムじゃ目立つのだろうな。目力すごいし。

どうやらこちらの事情は理解してくれたらしい。

ただ、名前もそうだが身元になるようなものは不明のままだ。

依然として俺はどこの誰かもわからない勇者の友人(仮)という具合だろうか。怪しいことこの上ない。

だが今更友人の名(デカルト)と名乗るのは後に信用を落とすことになりかねない。

彼女の持つミレニアムの頂点という肩書がこれ以上怪しませてはならないと言っている。

彼女くらいの権限を持つ人間に俺は無力に等しい。

 

 

ではこちらの番だ会長さん。

君にとって勇者、天童アリスは何なんだ。

君は何をするつもりなんだ。

 

「アリスと私個人との関わりは少ないわ。

だから私の目的から話すべきでしょうね」

 

 

腕を組み、考えるような素振りを見せる。

連動するかのように周りの機械も位置を微調整する。

なるほど、この周りの機械は要人護衛のロボットか。

常に護衛に適切な位置関係を維持するシークレットサービスの代用品みたいなものだろうか。

朝に彼女の隣にいたメイドがその代わりを務めていたのだろう。やはり只者ではなかったらしい。

同業だと考えられるメイド先輩への株が上がっていく、あの子そんなにすごい子だったんだ。

 

 

「端的に言うならば、私の目的は天童アリスのヘイローの破壊よ」

 

――それは殺すって認識で合ってるか。

 

「相違ないわね」

 

…そこまで必要なのか?

 

 

ブタ箱とか管理局に送るとかそういう次元の話ではなかった。

かの七囚人ですら死刑の話はない。殺したいという話は山ほど聞くが。

勇者には大量殺人、ないしはそれだけの罪があるということなのか。

 

 

「ミレニアムの郊外の廃墟で彼女は見つかった。

廃墟はミレニアムでも手に余るオーパーツや兵器が野晒しにされている危険地帯。

連邦生徒会自ら立ち入りを禁止している場所でもあるわ。

私が彼女を知ったのはそんな廃墟へ踏み入った先生を監視していたから。

入る時にはゲーム開発部の三人と先生だけだったのに、帰ってくるときには一人増えているのだもの。

その時点で異常だと誰でも気が付くでしょう?

おそらくミレニアムの学生名簿も改竄されたもの、彼女らとヴェリタスに繋がりがあるのは最初から分かっていたことだから。

正常な手続きを経て入学した生徒ではないのは確定している」

 

 

先生を監視していたついでに見つかった。

そんな風に聞こえる。

いや、それだけ先生の存在が見過ごせないということだろう。

そこから勇者について調べ始めたということだろうか。

勇者が見つかったのはおそらく彼女の誕生日である三月、そこから今まで調べていたということになる。

 

 

「貴方は知らないだろうけれど、数日前の校舎の倒壊は彼女の力によるものよ」

 

へぇ、あれを彼女が?

だが知ってるか?テレビではその後やんわりと濁しているが、エデン条約でのトリニティではもっと酷いことが起きていたらしいぜ?

あれと比べると校舎の倒壊なんてこの世界じゃ日常茶飯事じゃないのか?

 

 

言葉尻が強くなる。

必要ではない情報を織り交ぜてしまった。

 

 

「『今回は』その程度で済ませられただけ。

然るべき事態の為に監視を依頼して、ものの見事に目の前で事が起きてしまっただけ。

次があるなら巡航ミサイルの比ではなくなるわ。

四六時中アレの監視をしろというなら一体どれだけのリソースを割かなければならないのかしらね」

 

 

街頭テレビで報道されていた校舎の残骸。

あれをやったのが勇者だったのか。

死傷者はいないらしいが、人が死んでいても不思議ではなかった。

実際ニュースではその時女子生徒が一人意識不明となっていた。

彼女らは銃弾に撃たれても痛いですむ存在だが、瓦礫に圧し潰されても同じだろうか。

 

聞こえるように彼女に舌を打つ。

彼女が普通ではないことは薄々気が付いていた。

だがまだこの世界基準では普通の域を出ないのだと思っていたし、今もそう思っている。

内心苛立っている自分が隠せない。

何よりも透けて見えるのが、

 

 

「必ずいつか同じことが起きる。

今度はもっと大規模かもしれない。

その時が来ないように私は――」

 

まだ君は俺に言っていないことが多くあるらしいな。

――先に言っておくが。

俺は勇者がどういう存在だろうが、どうだっていいんだよ。

大方それを知って事の重要性とやらを問いたいんだろうが、むしろ俺はそんな世の為人の為ってことが嫌いなもんでね。

どうせ君は彼女に言ったんだろう?

お前は危険だから死ぬべきだ、と。

それをあの子は同意してしまったわけだ。

 

 

何よりも透けて見えるのが、あの子がそんな話を聞かされて平気な顔をしているはずがないということ。

だからこそ従い、だからこそ俺を巻き込みたくないと言ったのだ。

あの時のあの言葉とあの涙は、自分の死を受け入れるためのものだった。

 

まだ一年も生きていないクソガキが、自分の運命を受け入れて死のうとしている。

 

 

「…貴方も私が間違っていると?」

 

…別に間違ってねぇよ。

間違ってるのはあの子だ。

 

 

あの子は世の中の汚い部分を知らない。

何も知らずに、のうのうと、純粋に生きている。

だから、いつしかそういう現実を直視して大人となっていくのだ。

見苦しいくらいに生き汚く生き抜いて、その上で死ぬ。

それが人間の生き方だ。

俺はそうして生きてきたし、これからも無様に生きていくだろう。

それが生きていく責任だから。

たとえどれだけ恨まれようが疎まれようが、死ぬことを肯定してはならない。

そんな現実が受け入れられなくても。

 

 

一発勇者にぶちかまさなくちゃならなくなったな。

 

「……?」

 

こっちの話ということにしておいてくれ。

で、貴方も、と言ったな会長さんよ。

そりゃ誰でも間違っていると言いたくもなるぜ。

俺は彼女の友人としてここに来ているんだ。

友人が事故を起こしたという理由で死刑にされかけている、そんなこと納得できる奴なんているはずがないだろう?

発表されてないだけでその事故で大量殺人でも起きたのか?

 

 

今の反応を見るに今回の争いの中心はそこなんだろう。

誰が正しくて誰が間違っているか。

漠然と今回の騒動の全容が見え始めている。

 

 

まずは話を続けてくれ。

別に君の選択を否定するつもりはない。

平和を願う君の姿勢は間違いではないし、その選択は誰かが考えなくてはならないんだろうさ。

むしろ為政者としてはごく普通の選択なのかもな。

この街に住む多くの人間の命を預かる者として、おそらく君のやっていることは間違っていないのだろう。

上に立つ者として個人の命と大多数の命なら後者を選ぶのが当然とも言える。

 

 

だからといってヘイローを破壊する(人を殺す)ことになるほどのことではない。

赤の他人の話であれば聞き流すところだが。

 

 

ただ、これは客観的な意見だ。

俺と勇者が出会わなければ、それ以上は何も思わなかっただろうな。

勝手にしてくれって感じ?

話が変わってしまうが、ちょっとした老婆心を伝えようか。

 

 

「…老婆心?」

 

 

鼻で笑うような言葉、どこか投げやりな諦めのような感情が垣間見えた。

この場に彼女が一人きりだったということ、先生に負けたということは、そういうことなのだろう。

もしくは彼女は多くの人間に止められたのかもしれない。殺すとなると当然だろう。

彼女に賛同する者が多ければこの場にいる人間の数も、彼女のその陰りを見せる表情も変わっていただろうか。

言うべきことはすべて先生や彼の周りの人間が言うだろう。

俺から彼女個人に送るべき言葉はない。

先生が君に何を言ったかは知らないが、と言葉を区切る。

 

 

勇者の処刑という前例ができてしまえば、世界は破滅する。

何故なら第二第三の勇者が現れるからだ。

たとえ君が止めたとしても、違うと言っても止められない。

なぜなら勇者の友人たちがそれを許さないからだ。

『何故勇者が罰を受けたのに、彼女らは罰を受けないのか』

人は倫理観から公平さを求める生き物でもあるが、本質はそれ以上に納得を求める生き物だ。

今の理不尽を未来の理不尽で帳尻を合わせる。

今度は第二第三の勇者の友人が納得を求めるために同じことをするだろう。

君の言う世界の破滅とは違う、俺から言ってみればそれは秩序の破滅だ。

今回はその友人は極少数だったかもしれないが、それが100人200人規模になってみろ、ただそれだけで都市が崩壊する規模の紛争になるだろう。

 

「そんなことは起きない。

天童アリスという存在は唯一無二だから」

 

それを正しく理解しているのは君だけじゃないのか。

だから君は先生たちに理解を求めていたんじゃないのか。

それができなかったから、君らは戦ったんだろう?

そして勝敗は決した。

俺が今言ったことは君の想定する破滅と比べればマシかもしれないし、起きるか起きないか不透明な未来だ。

ただ、起きるか起きないかで言えば、君がこの騒動を引き起こした理由も俺からすれば同じに見える。

だからこの話は終わりだ。

平行線だからな、これ以上続けるなら俺とも殴り合うしかない。

 

「……」

 

 

腕を組んだ指を強く握り、彼女は顔を伏せた。

先生がここへ来るのは確定事項だ。

故に時間がない、最悪の場合は彼女に眠ってもらうことになる。

そうなったらなったで後でややこしいことになるのは間違いないんだけど。

 

 

話が逸れるが、先に聞きたいことがあったんだ。

朝、どうして俺と勇者を会わせたんだ。

時間に余裕がなさそうだったのにわざわざ時間なんて作って。

俺が君なら誰にも会わせなかったと思う。

 

「…少なくともアリスが唯一してきた要求はそれだけだった。

それを無視して暴れられても困るから。

彼女の最後の心残りが貴方だったということかもしれないわね。

自身の存在に納得して消えてくれるなら、私としても有り難かった」

 

……最後の心残りか。

 

 

君は納得できたか。

そんな意地の悪い言葉を飲み込んだ。

知れば知るほど殺し辛くなる。

彼女は納得して勇者を死なせる為に彼女のことを知ってしまった。

それがたとえ些細なことだとしても。

今、一体どれだけの自己弁護をしているのだろうか。

自分が正しいという言葉は最早、自己暗示に近いように見える。

自分は間違っていた、その事実に気が付きながらも認められない。

その最後の一押しをするのは、少なくとも俺じゃない。

この騒動の当事者同士で結論を出すべきだ。

これ以上水を差すのは部外者のやることじゃない。

 

 

「肝心の本題をまだ話していない。

これにはヒマリも同じ結論に至っている。

私がこの騒動を引き起こした根本的な動機であり要因」

 

 

ヒマリという人間を知らないわけであるが、どうやら彼女と同等の力を持った人間なのだろう。

きっと先生側にいるのだろうな、その人物は。

 

 

「天童アリス、あれは人間ではない。

貴方たち機械の人間とは違う、言うなれば物質に意思が宿っているような存在。

あれは無名の司祭が崇拝するAIであり、オーパーツであり、遥か昔の記録が存在する『名もなき神々の王女』

私の見立てでは王女とはある兵器を実行するコードを内包した存在、もしくは兵器そのもの」

 

――人間じゃない?

いや、さすがにそれは。

無理があるだろう、あんな普通の――

 

 

この世界において人類とは機械の人間と獣の人間に加えて、彼女らのようなヘイロー持ちの人間の三種類だと俺は捉えている。会っていないだけで他の種族もいるかもしれないが。

それらとはまた違う種族ではなく、機械であり兵器であり装置だということ。

会長の隣にいるような、ただの道具で同じ生命体ではないと。

勇者が人ではない…?

いや、以前彼女が怪我をした時確かに血が流れていたはずだ。

確かに怪我の治りは早かったがこれもキヴォトスのヘイロー持ちならば個人差があるだけで常識の範囲内のはずだ。

 

言いたいことは分かるが何一つとして理解ができない。

 

 

「理解が追い付かない? それとも解釈が追い付かないのかしら?

でも、それは仕方のないこと。

きっと貴方は兵器としてのアリスを知らないのね。

ミレニアムの一角を崩壊させた姿は、貴方たちの言う勇者にはとても見えなかったわ」

 

……なる、ほど。

 

 

それは、俺の知っている勇者とは別の側面が、彼女にはあるということか。

しかし、それならば。

 

 

「その反応。

どうやら貴方も薄々気が付いていたようね」

 

 

言葉を詰まらせた。それを察して彼女は言った。

そんなつもりで詰まらせたわけではない。

だが、それならば辻褄が合うことが出てくるのだ。

3月より前の記憶がないこと、情緒を部活であるゲーム開発部で培ったこと。

いや、そんな些細なことよりも。

 

 

 

瞬間、目の前で、強い光が横切った。

 

 

 

意識を失っていた。

鈍痛から背中を部屋の壁に打ち付けられていたのだと気付く。

未だ土煙が舞っていることからほんの僅かな時間意識を飛ばしていたらしい。

一瞬の出来事に何が起こったか理解が追い付かなかった。

顔を上げて立ち上がると部屋は様変わりしていた。

地面を抉るほどの何かが部屋の中央を通り抜けていったようだ。

扉を物理的に壊し土煙が舞い上がっていた。

会長の護衛の機械の残骸が辺りに散乱している。

部屋の反対側でおそらく直撃したであろう会長が倒れていた。ヘイローは消えていた。

護衛の機械は主を守り、その勤めを果たしたらしい。

駆け寄って脈を確認する。

どうやら気絶しているだけらしい。

頭からは血が流れている。これだけで済むとは流石ヘイロー持ちだ。

擦っただけのようだが念のため手をかざす。

青白い光が出血をすぐに止めた。

言葉もなくずっととこちらを見つめている視線に見せつけるように魔法を使った。

 

 

すげーな勇者。

この前不良たちに撃った時よりも強いじゃねーか。

 

「コード名『アトラ・ハシースの箱舟』起動待機」

 

それで。

お前が俺をここへ呼んだってことで合ってるか?

 

 

俺をここへ呼んだ誰か。

勇者は俺との約束を破ったわけではなかった。

だが、その誰かが俺の魔法について知っているのは当然だ。

勇者の兵器としての側面。

つまり勇者自身が俺を呼んだのだから。

二重人格、その認識で合っているだろうか。

 

 

「最優先排除対象を確認。

これより障害を排除します」

 

…そういう設定かー?

 

 

軽口を叩いてみるが一切の反応を見せない。

声は届いているはずだが。

俺をここへ呼んだ目的も理解した。

理由は分からないが兵器としての彼女が俺を危険だと判断したのだろう。

自らの手で確実に排除するためにここへ呼んだということか。

手の込んでいる上に無駄が多すぎるが。

俺に執着しているようにも取れる。

 

部屋の奥から無機質な赤い目がこちらを見つめている。

 

天童アリスは人間ではない。

この事実にどこか納得している自分がいた。

初めてだった。

自分の魔法が欠片も効かない人間に出会うのは。

効果が弱い(レジスト)どころではない、全くの無効化。

人間ではないからそもそも効果が通らない、そんな事実に気付くはずがない。

 

 

俺の使った魔法は全て、勇者には効果対象外だった。

 

 

 

 

 

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