訓練場に途切れる事なく銃声が響く。
磯貝俊夫は、特殊部隊制式装備の司馬重工製の短機関銃を構え、無機質な表情を張りつけたまま引き金を絞り続ける。次々と現れる訓練用ターゲットを寸分の狂いもなく撃ち抜いていく。
最後の標的に銃弾を叩き込んだところで演習が終わる。肺に溜まった緊張した空気をまとめて吐き出すと、被っていたヘッドギアを脱いだ。汗で濡れた髪を乱暴に掻き上げる。
「……まだまだだな」とぼやく。
かつて磯貝が隊長を務めるSATの部隊は、東京エリアにある勾田プラザホテルで、人間を逸脱した力を持つ超人と戦った事がある。
当時、あらぬ罪を着せられ、逃亡していた民警――里見蓮太郎を確保するために、部下を引き連れてホテルに乗り込んだ磯貝達は、そこで徹底的に彼我の差を思い知らされる事となった。
右腕、右脚にバラニウム製の義肢を装着した黒衣の少年は、刹那の内に部下達を沈め、最後に残った磯貝がサブアームの拳銃を抜いた瞬間に、正体不明の武術をもってして制圧した。のちに彼の使用した武術があの名家、天童家によって生み出された天童式戦闘術であると知った。
里見蓮太郎に対しては申し訳なく思っている。
上からの命令だったとはいえ、無実の人間に銃口を向けたのは、警察として末代まで恥じるべき所業だったと改悛している。
だが、それ以上に磯貝が許せないものがあった。
対テロ――つまりは対ガストレアではなく、対人間に特化して戦闘訓練をしてきた自分達が、手も足も出なかった力不足感。それこそが、磯貝が自省の念以上に、心に蟠っている感情であった。
「…………」磯貝は自らの右手に視線を落とし、それから拳を握り締めた。
里見蓮太郎冤罪事件の裏で糸を引いていたのは、他ならぬ警視庁の重役であった櫃間篤郎および、彼の父親である櫃間総監であった事をあとから知った。里見蓮太郎に敗北し、病院で寝たきりとなっていた磯貝達は、全てが終わってから全てを知らされたのだ。
そう。
何もかもが手遅れとなったあとに――。
櫃間親子の陰謀によって、彼らの悪事を告発しようとしていた勇気ある民警、水原鬼八は殺された。そして彼の意思を継いだ、彼のイニシエーターであった紅露火垂も、里見蓮太郎と共に事件を追っている最中に命を落とした。
磯貝は思う。
自分達が強ければ――一般市民を守るために存在する自分達警察にもっと力があったのならば、彼らを救えたのではないかと。上層部からの命令に従って、銃の引き金を引くしかない立場なのは重々承知しているつもりだったが、ここ最近磯貝はそんな虚妄にばかり取り憑かれてしまっている。
強くならなければならない。
またいつか同じような事が起きた時に、自信を持って銃把を握れるように。救うべき命を取り溢さないで済むように――。
「……もう一周くらいなら、回す時間もあるだろう」再び磯貝はヘッドギアを被り、銃を携えた。