ブラック・ブレット8 Träume 破滅の病巣 作:鏡之翡翠
「ありったけのバラニウム弾を持ってこい!」多量の銃声に負けぬ、多田島の怒号が響き渡る。「
メガフロート刑務所を背に、民警、刑務官、警察の連合部隊がガストレアの大群と対峙する。
突如として出現したガストレアに、現場は騒然としている。すでに一般人にも多数の被害が出ており、予断を許さぬ状況だ。
磯貝は自身の拳銃に、バラニウム弾が装填された弾倉を突っ込みながら、「モノリス近郊を警備している自衛隊は何をしているんだ!?」と激昂する。「これだけのガストレアの侵入を許した時点で、未曾有の
「馬鹿野郎! この数がモノリスの隙間から侵入なんかできる訳がねえだろうが!」多田島がニューナンブを乱射しながら吠える。「文字通り湧いて出たんだよ!」と叫ぶ。「意図的に大量のガストレアを、東京エリア内に解き放った連中がいる!!」
「…………ッ!」
「お前だって気づいてんだろ、磯貝! こんな事が実行できる力とイカれた倫理観を持った組織を、俺は一つしか知らねえ!」
「五翔会ッ……!」
「奴らが裏で糸を引いてるのは間違いねえ! このガストレアの大群も、おそらく天然じゃなく『養殖』だ! 見ろよ、現れた連中のほとんどがステージⅠだ!」
確かに多田島の言う通りだった。
連合部隊と衝突しているガストレアも、討伐され、そこらに転がっている死骸も、軒並み常識的な生物の輪郭を象っている。単一の因子を発現させただけのステージⅠ。ガストレアの成長段階で言えば、初期も初期だ。
――あの事件のあと、多田島から聞いた話の中に、『抗バラニウムガストレア』の研究所についての話があった。
磯貝の脳裏に、『
それは里見蓮太郎が、あの鋼鉄で覆われた冷たい研究所の地下深くで目撃した景色だ。
袋状になり、密集して天井に垂れ下がる黄緑色の物体。その全てに、培養段階にあるガストレアが封じ込められていたという。
――発見した研究所は、最終的に里見蓮太郎が爆薬で処理したと伝え聞いている。
――だが、やはり……。
研究所は他にもあったのだ。機械化兵士の少年が目にしたのと同等の規模を有していたかは定かでないが、少なくとも東京エリア中に感染源ガストレアをばら撒くのに十分過ぎるほどのストックがあったのは確かだ。
もはやショートしつつある警察の連絡網にも、東京エリアの至るところでガストレアが猛威を振るっているとの通達が溢れていた。
――五翔会は、『ブラックスワン・プロジェクト』で生み出された『抗バラニウムガストレア』を行動可能な最低限の段階まで培養し、まとめて解き放った。
――その目的は何だ? まさかリトヴィンツェフ一派と繋がっているのか?
最悪の想定が頭を掠める。
ただでさえ
「磯貝!」回り続ける負の思考を斬り払うように、多田島ががなり声を飛ばした。「避けろッ、上だ!」
多田島に呼応し、とっさに視線を上空へ向ける。羽虫を象った飛行型ガストレアが、今まさに磯貝めがけて突っ込んでくるところだった。
磯貝は銃口を跳ね上げ、ノータイムで応射。破裂音が重なり、硝煙臭が鼻を突く。再生阻害効果を持つ弾頭が次々に羽虫へと食らいつき、毒々しい色の体液を撒き散らす。
だが、それでも羽虫ガストレアの勢いは相殺されない。たんぱく質の弾丸が無慈悲に切迫してくる。不味いと思った瞬間、横合いから銃声。多田島の放ったバラニウム弾が、羽虫を側面から殴りつけたのだ。
奇声を発しながら、羽虫があらぬ方向へ投げ出される。アスファルトに叩きつけられ、幾度か痙攣したのちに力尽きた。
「ボサっとしてんな! 一瞬でも判断を誤れば、肉の塊になるか、奴らの仲間入りかだぞ!」
「っ……すまない」磯貝は額に浮かんだ汗を濃紺の袖で拭った。
やはり普段から民警と共にガストレアの処理対応に当たっているだけはある。多田島はこれだけの危機的状況に陥りながらも、全くと言って良いほど本質を見誤っていなかった。
中年の刑事は立て続けにまくしたてる。「しょせんはステージ1だ! 落ち着いて対処すれば遅れは取らん! 接近を許して体液を注入されんようにだけ気をつけろ! 俺に仲間を撃たせるなよッ!!」