ブラック・ブレット8 Träume 破滅の病巣   作:鏡之翡翠

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 倒壊しかけた部屋で、継麻とマークが向かい合う。

「イニシエーターと離れてよかったのか」とマークが問う。「それとも俺がこの距離で外すとでも考えているのか」

 それぞれが右手に持った拳銃の先端が、互いの眉間を正確に捉えている。二人の間合いは二メートルにも満たない。引き金を絞れば最後、人間の反射神経が反応するより早く、バラニウムの弾頭は脳味噌を弾けさせる事だろう。

 それを理解してなお、継麻はカミソリのように薄く笑った。「試してみるか?」ぱっくりと割れたこめかみからとめどなく血を流しながらも、継麻の声の輪郭はブレる様子はない。

「……やめておく」マークは静かに銃を下ろした。それを見た継麻も、得物を下げる。マークは銃口の代わりに視線で継麻を射抜きつつ、「目的とやらは達成したんだろう?」と問うた。「望み通り、アンドレイの足取りはお前達に筒抜けになった」

「その通りだ。第一の目的は達成できた。僕らの監視の目は、すでにアンドレイ・リトヴィンツェフとユーリャ・コチェンコヴァを捉えている。五翔会からの刺客は僕達だけじゃない。すでに近隣を張っていた部隊がまとめて差し向けられているはずだ」

「ずいぶんと楽観的だな。一山いくらの有象無象共がアンドレイ達に太刀打ちできると本気で思っているのか?」

「いいや?」継麻が不敵に笑って答えた。「確信を持って言える。束になってかかっても秒殺だろう。序列二桁のイニシエーターとはそういう存在だ」

「仲間が殺られるところまで含めて、お前達の思惑という訳か」

「良く分かっているじゃないか。()()()()()()()()()()()()

「…………」マークは沈黙して一歩後ろに退がると、耳に装着したインカムに手を当てた。「ミーシャ、撤退だ。ああ――里見蓮太郎にやられた者達は全員ここに置いていく。……分からないのか? あの傭兵が赤目と共にここに来た時点で、アレンスカヤも敗北しているはずだ。回収は諦めろ。――ああ、構わない。すでに準備は整っている。今からアンドレイとコチェンコヴァを迎えに行く」

「滑稽じゃないか。たった二人を殺しにきただけで、これだけの損害だ」

 この状況を意図して作り出した張本人の挑発を受けながらも、マークは感情を引っ込めたまま答える。「些細な事だ。最終的な目的さえ果たせれば、辻褄は合う」

「負け惜しみか」

「好きに想像すれば良いと言っている」これで問答は終わりだとばかりに、マークは踵を返した。部屋の出入口に向かって歩いていく。

 その後ろ姿を見送りながら、「アンドレイ・リトヴィンツェフの何がそうまでお前達を惹きつける?」と継麻が問いかけた。「マーク・メイエルホリド。それだけの実力があるのならば、食い扶持に困る事などないはずだ。別に『呪われた子供達』への偏見がある訳でもないのだろう? その手腕を別の立場で振るう選択は、本当になかったのか」

「愚問だな」マークは一寸の逡巡も見せなかった。「天秤宮(リブラ)によって大ミンスクエリアが地獄と呼ぶのも生温い状況に陥れられた時、俺達の生き方は一つしかなくなった。死に損なった俺達の命は、このためだけに使い切るべきなんだ」

「はは。悪趣味なサバイバーズギルトだな。その先にあるのは、かつてお前達がその目で見た景色そのものだという事が分からないのか」

「その再現こそがアンドレイの悲願であり、延いては俺達の生きる目的だ」

「どこまでも破滅を望むか」と継麻は刺すように言った。「ならば、やはりその先にあるのは殺し合いしかないようだ」

「……今さらだな」

 マークが部屋から出て行き、足音が遠ざかるのを確認してから、継麻はハンチング帽を深く被り直し、「さて」と軽く口にして(とんび)コートを(ひるがえ)した。「もう物語は止められない。僕らも含めて、舞台上の人形は壊れるまで踊り狂う定めなのだからな」

 

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