ブラック・ブレット8 Träume 破滅の病巣   作:鏡之翡翠

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 夜空の彼方へ消えていく機体を見送りながら、蓮太郎は大きく深呼吸した。

 草木の青臭さが鼻腔に広がり、冷やされた空気が肺を満たしていく。それに伴って、脳にも酸素が行き渡り、思考が徐々にクリアになっていくような気がした。

 天秤宮(リブラ)の鎮座する那須鉱山より、南西二キロ地点。当初の予定通りの場所に降下はできた。

 ――これで時間のロスは最低限に抑えられるはずだ。

「――全員、周囲を警戒だ」と三ヶ島が言った。彼はすでに自身の武装であるMP5(サブマシンガン)を構えて、銃口を闇の中へ向けている。「フォローし合える距離を保って、各自武装の最終チェック。そこから出発する」

「分かった」蓮太郎が頷く。XD拳銃を抜き、遊底(スライド)を引いて弾丸を薬室に装填。安全装置を外して臨戦体制を取る。当然ながら、蓮太郎を含めて全員の銃には消音器(サイレンサー)が取りつけられている。

「こういう時に仕切れる人がいるとありがたいな」すぐ隣にいたリカルドも、八九式を構えた。

 近接主体の延珠と里緒の二人がポイントマンを勤めて先導する。そして隙の大きい狙撃手であるティナを囲うようにして、蓮太郎、リカルド、三ヶ島、咲良(さくら)の四人が一つの塊を作る。

 ここから先は未踏査領域(ガストレア達の庭)を生身で突破しなければならない。僅かな油断が死に直結する危険地帯だ。

 慎重に慎重を期して、蓮太郎達の一団は森を進んでいく。

「……なあ、ところでよ」と蓮太郎は小声で、そばに居た黒づくめのイニシエーターに話しかけた。

「何ですか、里見蓮太郎」応答したのは、ヘッケラー&コッホ社のUSP拳銃を携える加倉井(かくらい)咲良だ。

「それ、いったい何なんだ?」

 三ヶ島のペアを勤める少女の背には、巨大なアタッシュケースが肩紐で背負われている。彼女達の身体能力ならば、動きに支障が出るほどではないだろうが、(はた)から見てても明らかに重量を感じるそれは、異様な存在感を放っていた。

「社長」と咲良は仏頂面のまま、三ヶ島に視線を向ける。「構わないよ」と三ヶ島が言うと、咲良は溜息と共に続けた。「ただの武器ですよ、バラニウム製の。特段珍しいものでもありません」

「そうか」蓮太郎も特に問い詰める気はなかった。あっさりと納得して、再び周囲の警戒に戻る。

 靴底が湿った地面を踏み締める音、虫の囁き、草木のざわめき――。それら全てがダイレクトに鼓膜に届くほど、他の物音はしなかった。静寂のさなかで響く微かな音の波が、不快感を催させるように、何でもないはずの響きが嫌に心へのしかかる。

「…………」目標地点へ降り立つ直前、上空から確認できたゾディアック・ガストレアの様相を思い出す。

 ――あれが……天秤宮(リブラ)……。

 ヒルやミミズを想起させる縦長の体の両側には、多数のいぼ足が生えており、体液に塗れた体表がグロテスクに光っていた。鉱山の頂上に陣取った巨大生物は、さながら休眠状態にあるかのように微動だにしていなかった。ただ一つ。その下腹部にぶら下がったウィルス(のう)を除いて――。

 遠目からでも分かるくらいに脈動するウィルス嚢は、見る者全てに根源的な恐怖を与えてくる。暴力による厄災ではなく、病原菌による惨禍(さんか)。病気という、生きていれば誰もが等しく経験するだろう災い。苦痛を想像できてしまうからこそ、それがどうしようもないほどに肥大化した時の恐怖は計り知れない。

 蓮太郎は改めて心に決める。

 絶対に、リトヴィンツェフ達の起こす生物テロだけは食い止めなければいけない。

 連中の悲願が成就すれば最後、延珠や木更、ティナといった大切な者達、そして蓮太郎自身も、想像を絶する苦痛を味わったのちに非業の死を遂げる事となる。

「――里見」思考を寸断するように、リカルドが自分を呼ぶ声がした。

 澱んだ考えを頭の脇に追いやり、蓮太郎は傭兵の方に意識を移す。

「ちょっとばかしヤバいかもしれんぞ」

「何だって?」

 リカルドが顎をしゃくって前方を示す。釣られて視線を移動させると、蓮太郎は思わず息を飲んだ。「……っ!?」

 先を行っていた延珠と里緒も、すでにこちら側へ戻ってきており、引き攣った表情で一点を見つめている。

「蓮太郎……」という延珠の低い声が、否応なしに事態を理解させてくる。

「ガストレアの死体ですね」ティナが言う。「しかもこれは……全てステージIIからⅢです」

 そこかしこに散乱しているのは、引きちぎられた肉片と臓物の欠片だ。

 もはや元となったのが何の生物かも判別できないほどに、複数の因子がかけ合わさったと思われる高ステージのガストレア。それらが軒並み屠られて生命活動を停止している。

 見渡す限りの死体の山を見て、思わず吐き気が込み上げてくる。

 しかし、血臭はともかくとして、鼻を突く腐敗臭は漂っていない。

「まだ死体は新鮮だ」リカルドは八九式の銃口の先で、肉の塊を(つつ)きながら、「ついさっき、ここで大規模な戦闘があったのは間違いない」と言った。

「ガストレア同士の共食いでしょうか?」

 ティナが首を傾げながら推測を口にするが、リカルドはかぶりを振った。「いや、たぶん伊熊将監だ」と銃砲の指し示す位置を変える。「見てくれ。ここだ」

 全員の視点が銃口の先に集まる。

「これは……足跡ですか? 靴底の痕ですよね……?」

「そうだティナちゃん」傭兵は頷く。「こんな未踏査領域の奥深くに来るような物好きなんて、そうそういない。リトヴィンツェフ達が通ったあとって可能性も捨てきれないが、それなら足跡は複数あっても良いし、何より奴らの移動手段から考えてタイヤ痕がないとおかしい」

「あとは銃痕の有無だな」と蓮太郎が言う。「リトヴィンツェフ一派の装備は、ほとんどが銃火器だ。マーク・メイエルホリドはナイフも使ってたけど、あの刃渡りじゃ、ここまでの事にはならないはず」

 里緒がこくりと頷いた。「ほとんどの死体が真っ二つに両断されてる。あの男は確かバラニウムの鉄板を武器に使ってたから、傷跡からしてまず間違いないよ」

「私にとってはこれ以上ない朗報だ」と三ヶ島が言った。「将監がここを通ったのは確かだ。やはり将監は那須鉱山に向かっている」 

「……美梨ちゃん」とリカルドが拳を握り締めながら呟いていた。

 蓮太郎は横目でリカルドを見やり、彼の胸中に想いを馳せる。

 将監がこの場所を通過したという事は、当然ながら彼に拉致された谷塚美梨もここにいたという事になる。

 おそらく、彼女はそこまで戦闘に()けたイニシエーターではない。

 モデル・ドルフィン――イルカの因子。

 直接的な戦闘力ではなく、脳機能の発達にウェイトを置いた『子供達』。

 かつて将監のペアだった千寿夏世は、美梨と同じ因子を持ちながら、高位序列者に恥じない実力を持っていた。しかし、序列下位の民警でしかなかった美梨が同じステージに立てるとは到底(とうてい)思えない。

 そんな少女がガストレアの軍勢のど真ん中に放り込まれる光景を思い描き、喉の奥から吐き気がした。きっとリカルドは蓮太郎以上に臓物が冷え切っている事だろう。

「大丈夫だ、藤沢さん」思わず声をかけていた。努めて冷静な態度を装いながら、蓮太郎は続ける。「今の将監は美梨って子を自分のイニシエーターだと思い込んでる。……乱暴に扱う事はしないはず。きっとあの子は無事だ」

「……ああ、分かってる」答えはしても、その感情の矛先は蓮太郎には向いていなかった。

 ――変に気遣わない方が良いのかもしれない。

 そう考えを切り替えると、「三ヶ島社長」とタクティカルベストにスーツ姿の男の方へ振り向く。「ここからどうする? これだけのガストレアの群れ……逃げ延びた奴が、まだ近くに潜んでいる可能性も捨て切れない。より一層慎重に――」

「――どうやら、そうもいかないようだ」三ヶ島の低い声音(こわね)が、鼓膜を不気味に揺さぶった。

「蓮太郎ッ、あれ……あれは……!」怯えた様子の延珠が暗闇の先を指差している。釣られて視線を移すと、後悔が一斉に押し寄せてきた。

「う、嘘だろッ……!?」背筋に冷たい感覚。

 暗闇からこちらに照射される無数の赤い眼光と、自身の視線が交差する。

 ――いったいいつの間にッ……!?

 (とばり)の向こう岸には、限界まで押し殺した息遣いと共に、ゆっくりと包囲網を狭めてくる獣の群れがいた。

 徐々に襲撃者達の姿が露わになっていく。デザートカラーの体毛と、ところどころに黒斑(くろぶち)模様のある小柄な哺乳類――その様相を呈したガストレア。長い鼻面と長い四肢を見て、蓮太郎は確信する。

「ハイエナのガストレアかッ……!」

「同族の死肉を漁りにきた……ってところかな」と里緒が溢した。「元となった動物の習性を見るに」

 延珠が僅かな希望を声色に滲ませる。「そ、それなら……おとなしく引き下がれば戦わずに済むんじゃ……?」

「たぶん無理だね」

「ああ」と蓮太郎も里緒に同意した。「元となった動物がどんな習性をしていようが、あいつらはそもそも全く別の生き物なんだ。奴らの目の前に俺達っつう生きた人間がいる以上は……!」

「強引に突破するぞ!」三ヶ島の怒号が轟いた。「総員、戦闘準備!」

「くそッ!」

 ――やるしかねえのか!

 蓮太郎は毒づきながらXD拳銃を構える。その他のメンバーもそれぞれの武装を構えて臨戦態勢を取った。それを開戦の狼煙(のろし)だと受け取ったのか、ハイエナ型ガストレアの一団が一斉に唸り声を上げて散開した。

 ――確認できただけでも二〇体はいやがる!

 ――全てステージⅠとはいえ、数が多過ぎる!

「延珠! 下がってろッ!」今にもガストレアに飛び掛かろうとしていた延珠を左手で制し、一直線にこちらへ突進してきた個体へXD拳銃を発砲。消音器(サイレンサー)を装着された銃口がくぐもった銃声を鳴らす。バラニウムの弾丸はハイエナの眉間を直撃し、一瞬で意識を刈り取った。

 三ヶ島が後退気味にMP5を連射し、ハイエナの注意を引きつけ、彼から九〇度離れた位置から咲良が横撃(おうげき)する。さらに三体ダウン。

 リカルドは三ヶ島とは対照的に、自分ごと突っ込みながら八九式を唸らせる。傭兵に纏わりついたハイエナ達が、同時に彼を食い殺さんと動いたところで、高速で刃の軌跡が走り抜けた。里緒が駆け抜けざまに放った斬撃が、哺乳類もどき達の四肢を関節ごと叩き切った。

 痛みに悲鳴を上げるハイエナ達の脳髄や心臓を、機械的とも言える手捌きで、傭兵の持つナイフが破壊していく。

「里見! お前は前に出過ぎんな! その義肢はリトヴィンツェフ達とやる時まで温存しとけ!」

「わ、分かった……!」

 小型ガストレアの処理については、リカルドの方が一日の長があるようだった。

 あまりにも手慣れた鮮やかな手口で、弾丸の消費を最低限に抑えながら群れを片づけていく。普段からモノリスの近郊で、多数のガストレアと対峙する自衛隊由来の戦い方なのだろうか。実際に彼らが戦うところを見た事がない蓮太郎には、想像する事しかできない。

 異形の軍団が作る包囲網に、徐々に綻びが生まれていく。

 それが決定的なまでに広がった瞬間を、三ヶ島は見逃さなかった。「全員走れ! 私と藤沢君が殿(しんがり)をやる!」

「了解だ!」とリカルドが応答し、三ヶ島と並び立ちながら、八九式を散発的に撃ちながら後退していく。

 小銃と短機関銃の銃声を置き去りにしながら、蓮太郎も動く。「皆、着いてこいッ」

 対物ライフルを携えているせいで白兵戦に向かないティナを守るようにして、蓮太郎が包囲の穴を突破。延珠と里緒が続く。殿が撃ち洩らした一体に銃撃を叩き込みながら、咲良が追いついた。

「藤沢さん達も早く!」

 蓮太郎が手招きすると、殿二人が頷き、全速力でこちらへと駆け出した。近接組に周囲の警戒を頼み、蓮太郎と咲良の両名が拳銃を照準。追い(すが)ってくる残党を葬っていく。

 這々(ほうほう)(てい)でリカルド達が合流し、再び全員で走り出す。

「ハイエナ達は……追ってこないか……」背後からこちらを追ってくる足音がないのを確認し、疲弊に染まった息を吐き出した。

「さすがに戦力差を理解する頭はあるみたいだな」リカルドが息を切らせながら言う。「そこは相手がガストレアで助かったと思うべきか……」

「おそらく幾度かの戦闘は避けられない」三ヶ島が差し込むように口にした。「必ず全員で那須鉱山まで辿り着くぞ」

「ああ。分かってる」

「蓮太郎……」延珠が沈んだ声音を洩らした。見下ろすと、どこか申し訳なさげな表情を浮かべている彼女と目が合う。

「どうしたんだ?」

(わらわ)……何もしてない。今の戦い……ただ見てただけで、皆の役に……」

「…………」蓮太郎は思わず黙りこくってしまう。

 こんな状況に彼女を連れ出しておいて今さらだが、なるべくなら彼女を戦わせたくはない。それは蓮太郎の偽らざる本音だ。だが、その理由を彼女に言う訳にはいかない。

「――良いんだよ、延珠ちゃん」助け舟を出したのはリカルドだった。「この突入チームの大将は里見だ。そんで延珠ちゃんは大将の相棒だ。だから、どーんと構えとけば良いんだよ。さっき里見にも言った通りだ。おたくら二人は敵さんのボスとやる時まで力を温存しといたら良い」

「そ、そうなのか? 蓮太郎?」

「あ、ああ。そうだ」若干しどろもどろになりながらも、蓮太郎は笑って言った。「頼りになる仲間ができたって言っただろ? 道は藤沢さん達が切り開いてくれる。だから俺達はリトヴィンツェフ達と戦う事に集中しといたら良いんだ」

「私もさっき何もできてませんけどね……」とティナが苦笑いと共にフォローを入れる。

 延珠の目に輝きが戻っていくのを確認し、蓮太郎は胸を撫で下ろした。

 ウサ耳少女に聞かれないよう、小声でリカルドに礼を述べる。

「何か言えない事情があるんだろ?」傭兵の察しは良かった。

「……ああ」

「別に無理に言わなくて良い。話したくない事の一つや二つ、誰にだってあるもんだ」

「……すまない」

「謝るのもなしだ。成り行きとはいえ、俺達は仲間だ。だから俺が困ってる時は頼むぜ? 大将」

 リカルドの大きな手のひらがバシバシと蓮太郎の肩を叩く。彼の優しさが、そこから広がっていくような気がした。

「見えてきたぞ」と不意に三ヶ島が言った。「那須鉱山だ」

 全員の目線が前方上空へと移る。森の向こうに、大仰に(そび)え立つ山と、その山頂でとぐろを巻く大型ガストレアの姿が露わになる。

 すぐにでも手が届きそうな距離と錯覚しそうになるが、蓮太郎達が降下したのは、目的地から二キロ離れた座標だ。先ほどのハイエナ襲撃のせいで足止めを食らったのも相まって、まだ一キロも進めていない。向かう場所と止めるべき敵のあまりのスケールの大きさに、頭がくらくらする。

 陣形を崩さず、かつ最大速度を維持できる動きで、ちっぽけな人間達の小隊が突き進んでいく。

 その時だった。

 ――……何だ?

 蓮太郎の意識を僅かな違和感が(かす)める。

 その正体を探ろうとするより先に、直感が答えを弾き出した。「――ッ、不味いッ!」と叫ぶ。「またガストレアだ! 俺達の横に張りついて並走してやがる!!」

 蓮太郎の覚えた違和感。それは足音の多さだった。明らかに今いる人数以上のもの響き続けている。

「右です!」とティナがバレットM82の銃口を言葉で示した方向へ突きつけた。

「数はッ!?」

「二体……! さっきのハイエナ型ですッ!」

「追ってきやがったのか……!」

 蓮太郎が歯噛みし、(そば)にいたリカルドが、「何で今さら?」と疑問を(てい)す。「群れの仲間を殺られて、一度は引き下がったはずだろ?」

「分からない……けど連中がもう一度俺達を襲う理由ができたらしい事は確かだ」

「いずれにせよ数の優位はこちらにある!」三ヶ島が走り込みながら、短機関銃を持ち上げる。「かかってくるなら応戦するまでだ! ここで殺し切るぞ!」

 射程持ちの面々が得物を再び構えて迎撃態勢を取る。

 追跡してきたハイエナの残党と、蓮太郎達が衝突しようとしたまさにその瞬間だった。「――違うッ!」という切迫した叫び声が耳に飛び込んだ。陣形の中でも比較的安全な位置にいた延珠が、決定的な誤解に気づく。「()()()()()()()! ()()()()()()()()!」

「うっ、え――!?」訊き返そうとした時には、すでに遅かった。

 不意に周囲に薄い影が落とされ、それが何なのか把握するより前に、リカルドに首根っこを掴まれて無理矢理後方へ投げ飛ばされる。直後、ドグシャアッッ――!! という土塊(つちくれ)が爆散する轟音と共に、視界を覆い尽くす何かが落下してきた。

 巻き上げられた砂塵(さじん)が晴れるより先に、その巨体の全容を視認してしまう。

 デザートカラーの体毛に黒斑模様。先ほどまで戦っていたハイエナ型達と同じ見た目――ではない。

 その体躯は優に五メートルを超えており、明らかに元となった動物以外の因子が発現している。

 おそらくはステージⅢ。

 蓮太郎は確信する。

 ――こいつが……ハイエナ共の親玉か!

 一度は退けたガストレア達が再び襲撃してきた理由は、どこまでも単純だった。

 自分達のボスが狩りに参加するから――。

 次こそ仕留められるという確信。それがハイエナ達を突き動かす原動力だ。

 辺り一帯に強烈な獣臭が立ち込め、地獄の底から響くような唸り声が脳髄を不快に揺さ振る。一際大きく輝く赤い瞳が、問答無用で蓮太郎達の心臓を鷲掴みにかかる。

 ――出し惜しみしてる暇はないッ!!

 覚悟を決める。ステージⅢ相手に義肢とカートリッジなしで戦う選択肢はない。一撃で仕留め、すぐさまここから離脱する。

 ――天童式戦闘術一のッ――

「――耳と目え塞げえッ!!」

 右拳を握り込んだのとほぼ同じタイミングで、リカルドからの大喝(だいかつ)。直後に視界の端を掠めた物体がピンを抜いた音響閃光弾(フラッシュバン)だと分かった瞬間、反射的に瞼を閉じて両耳を塞いだ。

 瞬く間に撒き散らされる爆音と爆光。金槌で側頭部を強打されたような衝撃が鼓膜の奥で弾け、閉じた瞼の裏側まで届くような強烈な閃光が、網膜を焼きにかかる。「――…………ッづ……!?」

「今すぐ逃げろ」という咆哮だけが、やけにはっきりと聞こえた。 

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