ブラック・ブレット8 Träume 破滅の病巣 作:鏡之翡翠
去っていく黒衣の少年と、相棒の少女を見送りながら、磯貝は心を落ち着かせるように深呼吸する。
対峙するのは
機械化兵士。
里見蓮太郎の同類――。
「…………」磯貝は無意識に
先ほど少年に話した通り、五翔会構成員の継麻貞蔵、そして志籐夏樹と春樹の能力については把握している。BMI端末、斥力フィールド、光学迷彩。人間の延長線上にありながら、その境界を超える事に成功した者達――。
対して、磯貝達の装備は常識の範囲を逸脱する事はない。
メインウェポンは、直近に更新された
サブアームは同じく九ミリ弾を発射する自動拳銃と、バラニウムの刃を持つサバイバルナイフ。そして爆発物がいくつか。当然、こちらも司馬重工製だ。
SATの作戦で頻繁に使用されるポリカーボネイト製の盾は、今回携行していない。機械化兵士の攻撃力の前では、気休めにもならないと判断したからだ。
その代わり――
「――脚か……もしくは全身に何かを仕込んでいるな?」継麻が
「どうだろうな」と磯貝はあくまでシラを切り通す。
「まあ良いさ。
継麻の
だが、軽量化の弊害で機器そのものの安全レベルは極めて低い。安全装置は通常のエクサスケルトンと比べて、ほぼ存在しないと言って差し支えなく、僅かな操作ミスや故障が命取りとなる。
――それでも……俺達にこれを着ないという選択肢はない。
元高序列のプロモーターやイニシエーター、機械化兵士と対峙すると決めた時点で、使えるものは全て使うと誓った。それ相応のリスクを負わなければ、先を
『――隊長』と思考を寸断するように、耳許の
『ああ』磯貝は答える。『問題ない』
『了解』
隊員達が動く。磯貝、広野を含む四人が二人一組に分かれて両翼に散開。残り二人が後方へ
SATの面々が臨戦体勢に入ったのを見て、継麻貞蔵は蔑むような笑みを浮かべた。「理解できないな。何を思って僕らの前に立ち塞がる? モノリスの内側に引き篭もっていれば、もう少し長生きできたろうに。自分達の
僅かな逡巡すらも見せず、磯貝は答えた。「守るべき対象である事――それだけだ」
「ははッ! 何を言い出すかと思えば! 逆だろう!? 里見蓮太郎は兵器だ! 僕らは人智を超えた力を与えられた兵器だ! あの少年はそれを理解している! だから両手を血で染め続けている! お前達のような無能のボンクラ共を守るためにな!!」
「その通りだ」磯貝は否定しない。「全ては俺達が弱かったからだ。俺達に力がないから……あの少年を一人で戦わせる事になってしまったんだ」
本来であれば、少年の味方であるはずだった自分達が、
磯貝の脳裏に一人の少女の名が浮かぶ。
磯貝達が出会う事すらなく、五翔会の凶刃に倒れたイニシエーター。
警察の選択次第では救えたかもしれない幼い命――。
「――もう二度とあの少年から奪わせはしない。俺達のやった事……選択肢を間違えた過去は消せない。だが、未来は変えられる。彼と彼の周りの人間達が悲しまないで済むように――ここで
「……ああ、分かった。本気で
「一度で十分だ。お釣りが来る」
架空のロックンローラーの名言を前に、継麻の口許が僅かに綻んだ。
「さながら今の僕達は『鯨』と『蝉』といったところか? どちらが『鯨』の側になるかは分からんがな」
「どちらにもならないさ」と磯貝は言った。「最後まで生きて立っているのは俺達だ。だから五翔会――お前は好きな方を選ぶと良い」