ブラック・ブレット8 Träume 破滅の病巣   作:鏡之翡翠

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貞蔵(ていぞう)さん、あの人負けてしまいそうですよ?』

 志籐(しとう)夏樹(なつき)は、眼前で繰り広げられている命のやり取りをぼんやりと見ながら、傍らにいる(とんび)コートの男を見やった。

 鳶コートを着こなす継麻(つぐま)貞蔵は、『そもそも助ける義理がないだろう』と言う。『ここのところ東京エリアで数を増してきている非合法な傭兵……民警崩れや自衛隊崩れが多いと聞く。奴らはただの敗北者だ。ペアのイニシエーターを失いまともに戦えなくなった者、あるいは国防という使命から逃げた臆病者――そのどれもに、もはや価値はない』

『言っている事が分かりません』

『すでに負けている者に手を差し伸べる必要はないという事だ』

 脱獄したアンドレイ・リトヴィンツェフ及び、彼を救出しにきたユーリャ・コチェンコヴァ。彼らと運悪く鉢合(はちあ)わせた民警と傭兵は、ユーリャとの圧倒的な戦力差を前に、()(すべ)もなく蹂躙(じゅうりん)されていった。

 プロモーターと(おぼ)しき男が首を()ねられ、それを目の当たりにしたイニシエーターが戦意喪失(せんいそうしつ)し、残った傭兵が単独でユーリャ・コチェンコヴァの対処に当たったが、結果は火を見るより明らかだった。

 致命傷こそ避けてはいるが、脇腹を負傷し、倒れ()したミリタリージャケットの傭兵はもはや反撃に転じる余裕もない。勝敗はすでに決している。

『それでー、ここからどうするのー?』間延(まの)びした声で春樹(はるき)が問いかける。『今ならどっちかは殺せると思うけどー?』

 傭兵と交戦しているユーリャも、それを傍観(ぼうかん)しているリトヴィンツェフも――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()。リトヴィンツェフ達と傭兵達が会敵(かいてき)してからここに至るまで、ずっとこの場で死闘を観戦(かんせん)していた。

 にも関わらず、誰一人として継麻(つぐま)達の存在に勘づく事はなかった。

 継麻は少しだけ考える素振(そぶ)りを見せてから、『いや、ここで乱入するのはやめておこう』と口にした。『仮にどちらかを処理できたとして、残ったもう片方に逃げられては元も子もない。……(しゃく)ではあるが、タネが割れたあとに攻め切れる相手でない事は確かだ』

『それでは』と夏樹が視線を遠方に移す。『当初の予定通り、モニター管制室(かんせいしつ)の方を襲撃(しゅうげき)――でよろしいですね?』

『ああ』継麻が首を縦に振る。『あの場を護衛しているリトヴィンツェフ一派の内、二人を先に片付ける。まずは(けず)れるところから削る。そして対策を固めた上で本命を叩く。いつものやり方だ。行くぞ、夏樹(なつき)春樹(はるき)

 (きびす)を返し、モニター管制室の方向へ歩き出した時、不意に、『ていぞーさん、あれ』と夏樹が何かを指差した。()られて継麻(つぐま)も指先が示す方向を見やる。

 次の瞬間、『……ははっ』と継麻(つぐま)は笑った。『敗北者同士で傷を舐め合うか。面白い。その邂逅(かいこう)がのちの運命を変える事になるのなら、僕はその未来のレールに同乗(どうじょう)するのを楽しみにしておこう』

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