ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
プロローグ
プロローグ
とある階層、とある森。
『ガアアアッ!』
「っと!」
ゲームでありながら遊びではない……そんな矛盾した世界の中で、ギルド『風林火山』の面々は、目の前の敵―――リザードマンロードの集団と戦いを繰り広げていた。
「リーダー! うかつに突っ込みすぎッス!」
「わぁーってるよ! テメエらこそ気をつけろ!」
ギルド≪風林火山≫のリーダー、クライン。デスゲーム開始当初から、このギルドメンバーを引っ張り、ついにこのソードアート・オンラインの頂点、『攻略組プレイヤー』までのし上がったプレイヤーだ。乱暴な口調とは裏腹にメンバーの信頼は厚い。
……たとえ普段が、三枚目キャラでも。
「余計なこと、ぬかすんじゃねェ!!」
「リーダー! 戦闘中に、何、電波受信してンスカ?!」
「うるせぇぇぇぇ!!!」
……ツッコミは、次元の壁も越えたようだ。
「一体ずつ、確実に仕留めるぞ! 今回の目的は経験値稼ぎだが、一番の目的は、全員生きてデスゲームを出ることだからなあ!」
『了解!』
「オレらに、死亡フラグが立ったッスネ」
「縁起でも無ェェェェェェ!!」
そうこう言う内に、前衛部隊が各人の武器にライトエフェクトを纏わせる。これこそこのゲームの特徴といえる、≪ソードスキル≫。それは、この世界を形作った一人の天才が生み出した、極めて強力な攻撃手段だ。事前のモーションから技後の硬直と制約も多いが、この世界では最強の攻撃手段と言えるだろう。
まず第一陣がそのソードスキルで、リザードマンロードの一体に集中攻撃を始めた。
『ガアアアァァァッ!?』
そんな断末魔と共に、その一体はその身体を一片のポリゴンへと霧散させた。その後、襲い掛かる他の敵を、あるいは攻撃し、あるいは盾で防ぎ、見事に前線を維持していた。
―――そして、そんな中に。
周りのメンバーに比べ、一際若い、あるいは幼いといえる少年がいた。その髪は、色素を抜いたように純白で、純朴そうな顔立ちに、白とブラウンのコートを纏っていた。左手に黒地の金属で中央にダイヤのような輝石がはまった円形盾(バックラー)を持ち、敵の眼前で盾をかざし、後ろの仲間達を守っていた。
「……えぇと、リーダー。出来れば、早めにお願いできるかな。壁戦士(タンク)部隊のHPに不安があるかも」
「分かった! 不安があンのは、オメエか? それとも他の二人か?!」
「二人だよ。HPがイエローになったら、二人とも下がらせて回復させて欲しい」
ある意味外見通りの、柔和な、あるいは気弱そうな口調で話す彼こそ、この物語の主人公、名前はレイジという。
「ありがたいけど……レイジは大丈夫なのか?」
「大丈夫……いざとなったら、僕も
「分かった。頼りにしてるぜ、壁戦士(タンク)部隊・部隊長」
明らかにギルド内でも最年少と分かる少年だったが、それでも仲間からの信頼は厚かった。それというのも、彼が出現条件すら不明な謎のスキルの保有者であり、ギルド内でもクラインと同等かあるいはそれ以上とも言われる実力者だからだ。
「……! 二人とも下がって! HPが半分を割った!!」
「「オウ!!」」
その合図と共に、前線を維持していた二人は一度離脱した。HPをポーションで回復しようにも、最前線では次々に攻撃を喰らってしまうためだ。これで、前線は彼一人。対して、敵はHPが全快でこそないものの、3体。攻撃部隊(アタッカー)は側面から来る敵をけん制しており、すぐには来られそうに無い。
―――ならば。
「ハッ!」
『! キシャアァァァ?!』
今の今まで、壁戦士であったはずの彼の攻撃に、目の前のリザードマンロードはひるんだような声をあげ、ポリゴン片へと砕け散った。その身体には彼の右手―――何の武器も持たぬ
『『!! キシャアアア!』』
仲間の死に怒ったのか、それともそんなAIなのか、残り2体の敵は奇声を上げて、一気に襲い掛かってきた。それに対して、彼の行動は、
その身を、守るハズの盾で、相手を殴りつけることだった。
『ガアッ?!!』
その一撃は、盾で繰り出されているにも関わらず、左側の敵を一撃で砕き、HPを全損させた。
……本来、盾には『攻撃判定』がない。それは当たり前のことで、盾はあくまで防具の一種であり、武器ではないからだ。だが、何事にも例外は存在する。
その一つは、この世界では一人しか持ち得ないユニークスキル、『神聖剣』。その性質は単なる盾装備を越える圧倒的な防御力と、盾にも存在する『攻撃判定』。それを保有する者にとって、その盾は自分を守る城塞であり、振りかざす鉄槌だ。
そしてもう一つが……エクストラスキル『体術』と、それに連なる
体術もその他の格闘系エクストラスキルも、基本的には武器攻撃ではなく、自身の身体そのものや、その身を包む防具を武器とすることを主眼としている。だから、
そして今繰り出された技こそ、エクストラスキル『体術』の一つ、単発重攻撃ソードスキル≪シールド・チャージ≫。打撃系の威力を秘めた、彼の最も得意とするスキルだ。もっともさらに上位の『拳術』を含めた、格闘系のスキルの共通装備制限として―――『素手と、ナックル系武器の装備以外認められない』という制限を満たす必要があるが。
『キ、キシャアア!?』
「ワリイ、遅れた!」
敵の消滅にも油断なく、最後の相手に向き直ると、他の敵を掃討し終えたクラインが、カタナのソードスキル『ツジカゼ』で、敵の身体を爆散させたところだった。
「大丈夫だから、いいです。…他の皆は?」
「オウ。アタッカーに二人、HPが3割減ってる奴がいるが、タンクは今回復が終わった。全員無事だ」
「……よかった。そろそろ、インベントリが一杯だね」
「オメエもか。こっちも大体一杯になっちまってる。少し早いが、帰るか」
そう言ってクラインは皆の方へ行こうとしたが、今日最大のピンチはこれからだった。
『キシャアアアアッ!!』
「なっ!?」
『リーダー!』
突如として横の茂みから、新たなリザードマンロードが曲刀を振りかざし、クラインめがけて襲い掛かったのだ。その手の刀はすでにオレンジのライトエフェクトを纏わせており、今からでは誰も間に合わない―――かに思えた。
「フッ!!」
短い呼気と共に、モンスターの、ヒトよりも一回りは大きい身体が、沈み込み、足が地面にめり込んだ。エクストラスキル『体術』の蹴り上げソードスキル≪ネリョチャギ≫。威力は無いに等しいが、モーション自体に、短距離ダッシュからかかと落としを含み、筋力が相当量あれば、頭部ダメージによる
―――そして彼は、壁戦士(タンク)となるために、筋力特化型のビルドなのだ。
「―――とどめだね」
その言葉と共に、いまだ動かぬトカゲ男に向け、彼はオレンジのライトエフェクトを纏った右手を振りかぶり、左手を大きく前へと突き出した。
本来、此処まで上位の階層では、どんなモンスターであれ、一撃で倒すことは叶わない。レベル・スキル制MMORPGとはそういうもので、下の階層なら高レベルキャラで一撃で倒すことも可能だが、上層では通常不可能。
ましてや、彼は壁戦士(タンク)。攻撃ではなく、防御こそが本来の役割なのだ。
……しかし。
彼は、そんな常識を打ち破るもの。
「ハアアアアアアッ!!」
裂帛の気合を乗せ、右手を打ち出す。オレンジの光を伴ったその拳は、トカゲ男の胴体へと吸い込まれ、その身体を爆散させた。
これこそが、彼の切り札。格闘系最上位エクストラスキル≪鉄拳術≫。
装備制限として、ナックル系武器の装備すら認めない、『利き手は、素手のみ』という、余りにもあまりな制限が付いているが、その代わりこのスキルは、通常では考えられない攻撃力を得ることも可能なのだ。
……もっとも、威力に伴った
だがその分威力は折り紙つきで、今トカゲ男を一撃で消し去った単発重攻撃ソードスキル≪モウリュウケン≫のように、ビルドとかみ合えば、一撃必殺すら可能なスキルなのである。
「……ワリイ。しかし、相変わらずとんでもねえスキルだな」
「何で持ってたのかすら、分からないけどね」
彼は、このスキルをどうやって覚えたのか知らない。いや、
その後どうにか気を取り直したクラインは、全員のHPを一度回復させた上で、帰還を指示した。帰りは、敵も出たもののほとんどが単独で、特に問題もなく帰ることが出来た。
―――こんな感じが、僕のアインクラッドでの生活。
だけど、僕は此処以外での生活を知らなかった。
それもそのはずで、僕は、このデスゲームが始まるより前の、『自分自身』を失っていたから。
僕は、外ではどんな人間だったのか? どんな生活を送っていたのか? 疑問は尽きないし、知りたいと思うけど、この生活が今の僕にとっての真実。
僕の名前はレイジ。謎のスキル≪鉄拳術≫の保有者であり、『金剛』の二つ名を持つ攻略組プレイヤーだ。
ROで使うのは、基本的に技名くらいに抑えておきます。システムまで入れたら大変なので…
同じ素手系小説で、にじファン時代の名作、『無刀の冒険者』には及びませんがこれからがんばります。