ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男   作:路地裏の作者

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 第七話、投稿です。

 それに伴い、主人公設定に少し追加します。今回の話のネタバレになりますので、出来れば今話を読んでからご覧下さい。


007 その者の名は・・・

 

SIDE:キリト

 

 レイジとの特訓からしばらくして、ようやくギルド本部にする家が購入できるという段になって、俺たちはギルドリーダーのケイタを除いた5人で、迷宮に潜ることになった。

 

「……そこは、最前線近くの未踏破地域で、そろそろ帰ろうかという段になって、パーティーの中でシーフ役だったダッカーが、トレジャーボックスを見つけたんだ」

 

 ◇ ◇ ◇

 

「未開封のトレジャーボックスが見つかるなんて、めったにないぜ。俺達で開けちまおう」

 

「そうだな。これで新品のギルドホームに、豪華な家具でも入れよう」

 

「え…でも、止めておこうよ。万一罠だったら……」

 

「大丈夫だって。ここまで大した敵も出なかったし、万一罠でも俺達なら十分対処出来るって」

 

「…いや、俺も止めておいたほうがいいと思う。ダンジョンでは何が起こるか分からないからな」

 

 シーフ役を勤めていたダッカーの罠解除スキルが心もとないと感じた俺と、サチはそのボックスを開けることには反対した。最前線に出ていた俺は、最近のダンジョントラップが凶悪化の一途を辿っていると感じていたことも大きかった。

 

「何だよ、キリトは慎重だな。だったら多数決で決めようぜ」

 

「そうだな。ここは一つ、民主的なやり方を取るか」

 

 結局、その結果は賛成三、反対二。賛成側の三人が喜び勇んでボックスへと近付き、ダッカーが蓋を開け放った途端―――

 

 

―――部屋一杯に、大音量のアラーム音が響き渡った。

 

 

 あのボックスは、やはり罠だった。それも最悪に近い形の。モンスターを呼び寄せる『アラームトラップ』と、転移を無効化する『結晶無効化空間』の組み合わせ。その事態に、メンバーはパニックを起こした。

 

「う、うわあああ!?」

 

「転移も出来ないなんて、ありかよっ……!」

 

「ササマル、ダッカー! 早く俺の後ろに! 背中合わせになって、死角をなくすんだ!!」

 

 そこで動いたのが、ずっと黒猫団のタンク役を勤めてきたテツオだった。同じ壁戦士ということもあって、サチと同等かそれ以上にしごかれていたからな。

 

「わ、わかった」

 

「けどよお……これじゃジリ貧だぜ…?」

 

「分かってる、このまま少しずつ出口に近付くんだ。……サチは?!」

 

 サチは余りの大群に、地面にへたり込んでしまっていた。俺は彼女を背中にかばい、周りの敵の動きに注視した。

 

「あ、ああ……」

 

「サチは、俺が必ず守る……だからお前らも早くこっちへ!」

 

 トラップの発動とともに、後ろのドアは閉ざされていた。恐らくこれはトラップの根源であるボックスを破壊しないと、中からは開かないタイプだろう。外から救援が訪れるか、中でボックスを破壊しないと、俺達は全員ここで死ぬことになる。

 

(っ、そんな、こと……!)

 

 認められない。俺はサチと約束した。君は死なないと。俺が守ると。それなのに……

 

 

「認められるかああああっ!!」

 

 

 水平に振りぬいた片手剣が、斜め上に跳ね上がり、手前側にいた人形(パペット)系モンスターを、合計三体も屠った。さらにライトエフェクトを纏ったままの剣が、垂直に振り下ろされ、奥にいたもう一体を葬り去った。

 

 片手剣三連重攻撃、≪サベージ・フルクラム≫。最近覚えた連撃系の重攻撃で、最前線でも、めったに使い手は目にすることがない。こんなものを使えば、流石に俺の正体が皆にバレるだろうが、そんな事は関係なかった。

 

(皆を死なせてたまるか……!)

 

 その重いと共に、俺は封印していた上位剣技も使ってがむしゃらに戦った。それでも余りに数が多く、段々とサチから切り離されていった。

 

「キ、キリト!」

 

 その叫びに思わず後ろを振り向くと、サチは腕の長い人形数体に囲まれ、盾の後ろに何とか隠れているような状態だった。俺が急いで戻ろうとすると、今度は反対側からも声が上がった。

 

「キリトォー!」

 

「頼む、援護に来てくれ!」

 

「くっ、ゴメン、キリト! 俺だけじゃ、二人を守れない」

 

 その声に、向かおうとした足を思わず止めてしまった。その一瞬が、致命的な遅れとなった。

 

 サチの横にいた人形が盾を掬い上げるように跳ね上げ、サチが無防備となってしまったのだ。

 

 

「い、いやああああっ!!」

 

 

 その叫び声と共に、周りにいた数体の人形の腕が、ソードスキル特有のライトエフェクトを纏う。

 

 

「やめろーーーーーっ!!!」

 

 

 その叫びは、無情なモンスターにも、神様にも聞き入れられず、サチにその攻撃が振り下ろされる―――

 

 

 ――――――ハズ(・・)だった。

 

 

 ブゥゥゥゥゥゥンと、独特な風切り音を立てて、何か円形の物体が飛来した。紅いライトエフェクトを纏ったそれ(・・)は、サチを取り囲んでいた人形共の身体を、硝子でも砕くように粉々に砕いていった。

 

 

 そしてそのまま――弧を描く円形盾(バックラー)は、入り口を外から開け放って入ってきた、レイジの手へと収まった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

「―――あのとき、≪風林火山≫は、俺たちと同じように未踏破地域に隠されたお宝がないか調べに来てたらしい。そんな中、レイジがいきなり妙なことを言い出したらしくてな……」

 

「一体何を……」

 

「『みんなの声が聞こえる。恐怖と絶望で苦しんでる人がいる』って……」

 

「それって……≪聞き耳≫? 確か今回の74層攻略でも、似たようなことがあったわよね?」

 

「いや、≪聞き耳≫じゃない……アイツはそれを言い出した後、いきなり走り出して、俺たちを見つけたんだそうだ。ただ俺たちがいたトラップ部屋は、入り口が完全に閉ざされていた。外から入ることは出来るだろうけど、中の様子は≪聞き耳≫でも分かるわけが無い」

 

「じゃあ、一体……」

 

「俺にも分からない。分かるのは、サチに迫っていたモンスターも、皆に迫っていた奴等も、全員レイジの≪シールド・ブーメラン≫で吹っ飛ばされて、サチは一命を取り留めたってことだけだ」

 

 その後その勢いのまま、レイジは黒猫団の全員を壁際まで回収し、俺が何とかトラップの破壊に成功するまで守りきったんだ。モンスターに殺されかけたサチは完全に放心状態だったけど…、ともかく俺達と≪風林火山≫の一行は、真新しいギルドホームで待っていた、ケイタに報告した。俺がトラップをものともしなかったわけも、レベルも、ベータテスト出身者であることも。

 

「……『≪ビーター≫のお前が僕たちに関わる資格なんて無かったんだ』って、そう言って……、ケイタは俺をギルドから追放した」

 

 俺は、ギルドに関わろうとした自分の愚かさを責め、「二度とフィールドに出たくない」と泣き叫ぶサチのことをレイジと≪風林火山≫のヤツラに任せて、前よりも攻略に明け暮れた。そんな時、あのクリスマスイベントが起きたんだ。

 

「クリスマスイベントの報酬の噂……聞いたことあるだろ?」

 

「確か……≪蘇生アイテム≫じゃないかって言われてたのよね? でも結局、デマだったって話聞いたけど……」

 

「いや……デマじゃない。実際俺が確認したからな」

 

「え!?」

 

「≪還魂の聖晶石≫。死亡後十秒以内、ポリゴンが砕け切る前なら、プレイヤーを蘇生できるアイテムだ」

 

「十秒……」

 

 だが当時の俺は、そのアイテムがそんなものだとは知らなかった。≪ビーター≫として、せめて今までの攻略で死んでいったヤツラを、誰でもいいから蘇らせてやろうと考え、俺は必死にそのクエストに挑んだ。

 

「結局アイテムの正体を知って、絶望してた俺に……レイジがデュエルを挑んできたんだ」

 

 結果は惨敗。ただ腕を、剣を振り回してるだけみたいな俺に、アイツは……

 

「全力で、クロスカウンターかましてきてな……その上、言うんだよ。『死んだ人たちの命も、全部ドブに捨てる気!?』って。それで目が覚めた」

 

「うひゃあ……」

 

「その後、アイテム自体はクラインにやったんだが……ダメ押しで、サチからも励ましのメールもらってな。『自分はもう前線には出られないけど、俺ならいつかこのゲームをクリアできる。だから命を粗末にしないでくれ』って。どうやらレイジのヤツが告げ口してたみたいで……」

 

「そう……。じゃあ、キリト君は、レイジ君に世話になりっぱなしってことね」

 

「ぐっ……まあそんな感じで、どうにも顔を合わせにくいんだよ。それに、もう一つ理由があってな」

 

「何?」

 

「あー、アイツ別に隠してないって言ってたし、オープンにしてるから言うんだけど……」

 

「だから何?」

 

 

「アイツ……記憶喪失(・・・・)なんだ」

 

 

「…………え?」

 

 アスナは、そんな俺の言葉に、驚いた様子だった。無理も無い。俺だってクラインにこの話を聞いたときは驚いた。

 

「記憶喪失って……外傷性のものは、ありえないわよね。一体、何時から?」

 

「あの≪はじまりの日≫から二日と経っていない。このSAO開始とほぼ同時期からだそうだ」

 

「そんな……じゃあレイジ君は、外のことを何も覚えてないの?」

 

「ああ。ただ記憶のことだが、実を言うとたった一つだけ手がかりがあるんだ……」

 

「え?」

 

 そう、実はアイツの現実での身元について、俺には一つだけ心当たりがある。けど、俺はそのことをレイジ本人にも、クライン達にも話していない。

 

「手がかりって……一体どんな? まさか現実(リアル)で知り合いだとか?」

 

「いや、知り合ったのはSAOに来てからだ。……俺が知ってる手がかりって言うのは、アイツにそっくりなプレイヤーに、一度会ったことがあるんだ」

 

「本人じゃないわよね……兄弟とか?」

 

「そうなのかも知れない。現に、レイジの奴はSAO開始当初から記憶の手がかりを求めて、外見のカスタマイズはしていないそうだ。アイツの純白の髪(・・・・)は特徴的だろ」

 

「そうね。髪染めが店にも置いていない、最下層の『はじまりの街』からその外見だったのなら、最初のキャラメイクのときにその外見にした可能性が高いわね」

 

「俺が会ったそいつは……レイジと同じ外見で、黒髪(・・)だった。SAO開始後、すぐの話だよ」

 

 俺が出会ったアイツ(・・・)は、円形盾こそ持っていたものの、片手剣の使い手で、間違いなく髪は黒かった。あんな印象的な出来事をそうそう忘れたりはしない。

 

「それなら……その人をレイジ君に紹介してあげれば良いんじゃない? それではっきりするでしょ?」

 

 俺も、出来ればそうしたかった。……けど、

 

「……もう、いないんだ」

 

「…………え?」

 

「その……レイジにそっくりだったプレイヤーは、SAO開始後すぐ、俺の目の前でモンスターの群れに囲まれて死亡してる」

 

「………………」

 

 部屋に、沈黙が下りた。事実上、レイジの記憶に関する手がかりは、永遠に失われてしまったに等しいからだ。あと手がかりがあるとしたら、現実世界で待つ、彼の家族や知人以外にいないだろう。

 

「……その、キリト君。そのレイジ君そっくりだった、プレイヤーの名前は、何て……」

 

「あ、ああ、確か―――」

 

 あの日、俺にMPKを仕掛けてきたけれど、自分もまたそのモンスターに囲まれ、命を落としてしまったプレイヤー。俺にデスゲームの開始を知らせたプレイヤー。そして―――俺は、あの日、あそこで、生きていく覚悟を決めたんだ。

 

 

「≪コペル≫――――――そんな名前だった」

 

 

SIDE OUT

 

 

 ――――レイジに秘められた記憶の謎。それを紐解くにあたり、彼らは苦い記憶の中の少女『サチ』に再び出会うことになる。そこで彼らは、このお話の主人公、レイジの過酷な謎の一端を知ることになる。

 

 …歯車は終末へと向け、廻り始める。実に―――アインクラッドからの解放まで、二週間前のことだった。

 

 




 第七話、終~了~。実は74層の時点で、少しおかしかったレイジの行動。ようやくフラグを回収することが出来ました。

 今回出したスキルは、ROのクルセイダーが持つ盾スキル、≪シールド・ブーメラン≫。当然戻ってくるまで、防御力激減スキルとしてデザインしました。分類的には、≪盾≫と≪投剣≫の複合スキルとして考えてました。説明を文章内に入れられなかったけど…

 …さて、段々物語は核心へと近付いていますが、次回の前に、メインヒロインの幕間を挟むかも知れません。しかし、本当に出番の無いヒロインだ…
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