ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
≪キュクロプス・トーナメント≫選手控室。≪風林火山≫との激戦を終えた≪月夜の黒猫団≫とレイジ・シノンは、現在一時の休息とともに、次に当たる相手の戦術を図るため、控室に設置された大型モニターにかじりついていた。
「――とはいえ、次の相手がキリトチームだったら、そこまで確認も必要ないけどね」
「そうね。キリトのパーティーはSAO
例外としては古参ALOプレイヤーであるリーファと新規参入のクリスハイトがいるが、リーファの方は完全に剣術の補助にしており、そこまでメイジとしての脅威度が高くない。クリスハイトにしたところで、完全に回復重視の水メイジ。後はシリカも魔法スキルを取ってはいるが、それにしたところでピナの強化に使う程度。主要な攻撃手段は、やはり彼らの慣れ親しんだ武器による物理攻撃だ。
「でも、≪スリーピング・ナイツ≫が勝ち進んで来たら、かなり脅威なんじゃないかな?」
「まあなー。あそこは≪絶剣≫が一番有名だけど、他のメンバーにしたって、相当なVR熟練者なんだろ?」
「向こうは≪絶剣≫と大剣使いが
「でもアスナさんは
「ウチは、ほとんどオンリーワンの役柄が多いしなあ……。完全な
サチをはじめとする≪月夜の黒猫団≫の考察通り、≪スリーピング・ナイツ≫はオーソドックスなパーティー構成となっているが、ウチは全員が全員、ある意味尖ったメンバーだ。
「まあ、今はキリトたちのお手並み拝見といきましょ。少しでも彼らのプレイスタイルを明かしてくれるように」
「シノンの中では、完全に次の決勝戦の相手が決まってるね……」
そこで言葉を切り、全員がモニターへと視線を集中させた。
◇ ◇ ◇
「準決勝の相手は、アスナのカレシかー! デュエルの時も思ったけど、あの人かなり強いよね!」
「ユ、ユウキ? そんな大声で……」
元気いっぱいのユウキの言動に、振り回されるアスナ。傍から見ると仲の良い姉妹にしか見えない。
「アスナもそうだが、≪絶剣≫のお嬢ちゃんもかなりの腕なんだろ? どう戦うんだリーダー」
「そうだね、僕もぜひキリト君の見解が聞きたいかな」
「エギル、それにクリスハイト……聞いてもらって悪いけど、作戦なんて何もないぞ。ボス攻略と違ってパーティー同士のPvPなんだから、互いにフォローしつつ、向こうのエースを何とか落とすことを目標にする。そんなところだ」
「へー、それでその役目はアンタがやるってわけ?」
「頑張ってください、パパ!」
「けど、油断しちゃ駄目だよ? お兄ちゃんは何だかんだで詰めが甘いんだから」
「と、とにかく! こっちもキリトさんの負担を減らせるよう頑張りましょう!」
エクスキャリバー獲得の時にいたアスナとクラインの穴は、エギルとクリスハイトが参入でとりあえず埋まったが、店や仕事で最近時間帯が合わなかった二人とは連携が取り辛い。そう言った意味からすれば大まかにしか方針を決めず、臨機応変に対処するのは、ある意味最善の策ともいえた。
『さあ! 選手の入場も終わりました! いよいよ準決勝第二試合――――』
審判の掛け声とともに、全員が配置に着く。筆頭はキリト。その後ろにほぼ横並びに他のメンバーが並ぶ形。対する≪スリーピング・ナイツ≫は全員がほぼ横並び。一斉にスタートして、配置は空中で整える形だ。
『レディィィィ・ゴ―――――――ッ!!』
号令とともに飛び出したのはキリト。その目標は、同じく元気いっぱいに飛び出した≪絶剣≫ユウキ。
「お兄さんがボクの相手か! 負っけないよー!」
「生憎、今日は勝たせてもらう!」
ユウキの細身の黒の剣と、キリトの肉厚の黒の剣。両者が空中でぶつかり、激しい鍔迫り合いとなった。
「やるね! ハア!」
「くっ! セアア!」
互いに相手を力一杯押しのけ、空中で斬撃の応酬となった。横薙ぎ、袈裟斬り、斬り上げ、突き。あっという間に両者の間は、他者の干渉を許さない斬撃の嵐となった。
「く~~っ。やっぱりアスナのカレシだけあるよね。お兄さんも凄い腕だ!」
「まだまだ、こんなもんで満足してもらっちゃ困る!」
互いに会話しながらの、ぶつけるような剣戟。内容的には全くの互角。観客もめったに見れぬ
「でも、まだボクの方が強い!」
「…………ッ!」
その声とともにユウキの突きが、キリトの頬を掠める。そのダメージで、遂にキリトのHPバーが黄色く染まった。ここまで内容的には互角だったが、その中でユウキは少しずつキリトの攻撃を完全に躱すようになり、その逆に彼女の攻撃はキリトに当たり始めていた。
キリトは、アスナと比べても、純粋なスピードアタッカーというわけではない。どちらかと言えば、その常識外れの反応速度で相手の出方に対応するカウンターヒッターだ。同じカウンタータイプでしかも自分以上の反応速度を持つ相手には、どうしても不利になってしまう、というわけだ。
「へっへー。どうやら他のメンバーは互角みたいだし、こっちでのボクらの決着が、そのまま決着に繋がりそうだね」
「…………」
下に目を向けると、重装甲のエギルとテッチを中心に、戦局そのものは半ば膠着状態に陥っていた。その状態でリーダー同士の戦いがどちらかに傾けば、確かに決着はつくだろう。
「……まだ、負けられないな」
「おー! やる気十分だね! 何か隠し玉でもあるのかな?」
「ああ。出来れば使いたくなかった『取って置き』が、な」
その言葉とともに、キリトは空中に浮かぶウインドウを操作する。呼び出したのは、スキルMod≪クイック・チェンジ≫のウインドウ。
「今から切るのは、俺の
「光栄だけど……何でボクに?」
その言葉に、ほんの一瞬、眼下で戦いを繰り広げる青髪の最愛の女性に目を向け、言い放った。
「ただの――――『男の意地』だ!」
宙に浮かぶウインドウをクリック。背中にポリゴンが殺到し、やがて光り輝く黄金の剣を形作った。
「う――――おおおおおおッ!!」
背中の剣へと左手を奔らせ、突撃とともに、その剣を抜き放った。剣先を僅かに下げていたユウキは、慌てて切っ先を前へと向けた。そして――――剣戟が為す、双頭の竜巻に飲み込まれた。
「わ、わわっ、わわっ!?」
「ハアアアアッ!!」
形勢逆転。その単語が似合うほどの圧倒的な斬撃の嵐。その中で決して
「や、ば…………!」
「オオオオオオオオオオ――――!!」
とうとう決定的に体勢が崩れたユウキに向かって、キリトが絶対的な切り札を切った。二十七の連撃が、まるで流星雨のように降り注ぐ。≪二刀流≫最上位ソードスキル≪ジ・イクリプス≫。ヒースクリフのようにスキルの軌道全てを知らなければ防御不可能の無敵のスキル。その絶対の切り札が――――……
――――ユウキの手前、僅か数センチで止まった。
「な…………?」
ソードスキルキャンセルの硬直の中、キリトは必死になって原因を探った。その視線が、自分の脇に突き刺さった
「――――これは、『チーム戦』よ? キリト君」
それを為したのは、彼のことも≪二刀流≫のことも、知り尽くしている最愛の人、アスナ。
「いくわよ、ユウキ!」
「分かった、姉ちゃん!」
二人の剣が、赤と青紫に染まっていく。赤い光は、アスナが編み出した
その流星を呆然と見つめながら、最後にぽつりと一言。
「そりゃないぜ、アスナ……」
流星が通り抜けた後、そこには黒鉄色のリメインライトだけが残された。
≪キュクロプス・トーナメント≫準決勝第二試合、勝者≪スリーピング・ナイツ≫。
◇ ◇ ◇
決着の後、勝利に沸く≪スリーピング・ナイツ≫メンバーの中、歓声を上げ、ユウキがアスナに抱き着いた。それに恥ずかしがりながらも、喜び合うアスナ。それらを≪スリーピング・ナイツ≫のメンバーは、苦笑を浮かべながら見守った。
と、ここで、控室でモニター観戦していた面々が、次に当たる強敵をつぶさに観察する中、一人だけ怪訝な顔を浮かべていた。その隣にいたシノンが、何時もとは違うその様子に、ふと声を掛けた。
「どうしたの? レイジ」
「ん? いや、この間学校で少し話した時から気になってたんだけどさ」
「何?」
「ん――――」
少し言葉に詰まり、視線を再びモニターへと向ける。その先にはアスナに抱き着き、満面の笑みを浮かべる≪絶剣≫と呼ばれる最強無敵の少女の姿。
「なんで
疑問を抱えたまま、レイジは決勝戦へと向かっていく……。
キリトチームVSスリーピング・ナイツ、終了!
勝利のカギは、バーサク・ヒーラーさんでした~♪キリトの意地は、他ならぬ嫁にやられたでござるww
最後にあからさまなフラグ立て。ここまで出来る限り、違和感無いようにしてきましたが、実はユウキは内面的な部分に、少し改変を加えてます。この後の…………『彼女の』ハッピーエンドのために!
結構鋭い方がいくつか感想で突っ込んできたので、実は少しバレてたかも……読者の皆さん、セリフへの違和感とか、洞察力高すぎッスw