ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
≪キュクロプス・トーナメント≫決勝戦。三局へと別れた戦場。その中にあって、四対五の不均衡な戦場となっていた≪月夜の黒猫団≫メンバー。集団戦で、有利なのは多勢。それは当たり前のはずだった。
しかし、その戦場にあって、SAOを生き抜いた黒猫たちは、≪
「ま、マズイですよ?!」
「くそッ、このおっ!!」
「みんなまず防御を固めてください! 私の魔法でなんとか――!」
メンバー全員に動揺が広がる中、シウネーはなんとか戦線を維持し、危険域に迫ろうとするメンバー全員のHPを維持しようとした。完全後衛型の
「――~~♪ ――、――♫」
そんな中響き渡るのは、一人の少女の奏でるハープの音色。その音色とともに、スリーピング・ナイツの視界全体に、紫色のアイコンが瞬いた。
「また
さっきからこの繰り返し。どんなに耳を塞ごうとも、どんなに逃れようとも、その音色からは逃れられない。響き渡る音色は美しく、実に魔的だった。
「ふッ!!」
「――これが、貴方たちの弱点だよ」
戦場に、静かにサチの声が響く。1パーティーでフロアボスすら攻略した最強ギルド≪スリーピング・ナイツ≫の『弱点』。それは、彼ら自身の経歴、『数々のゲームを渡り歩いてきた』という
だけど。だからこそ、彼らはALOやSAOにしか存在しない、『状態異常』には対応できない。様々なゲームに対応できるアバターだからこそ、そのゲームにしかない状態異常と、それに対抗できる耐性スキルが著しく低いのだ。
「そーいう――――こったな!」
ササマルの攻撃で発生した
(こっちは、今のところ大丈夫。――――後は、向こうか)
戦場を俯瞰したテツオは、戦場の趨勢を決める、残り二局の戦場へと視線を移した。
◇ ◇ ◇
「セアアアアッ!!」
戦場に響き渡るのは、一人の咆哮。それに従って拳が、蹴りが空中で瞬いた。
「…………!」
それを剣で受け止め、肌で感じていたユウキは内心臍を噛んだ。
(強い……!)
以前の果し合いとは、比べ物にならないほどの猛烈な攻め。それでも何とか耐えられるのは、現在攻めているレイジの速度が、自分よりも遅いこと。最初はそのため、途中でカウンターを入れようとしたのだが。
(とんでもなく……
(こっちの
恐らく、その読みは正しい。そうでなければおかしい。目の前の相手は、明らかにこっちのカウンターが『視えていない』時があった。それでも対応できるのは、きっと彼にとって予定調和だからだろう。
「――ぐっ! とんでもない強さだね! 前の時は調子が悪かったの?!」
「……いや。あれはあれで本気だったさ。今日こんな風に、柄にもない
不意に、ラッシュの中でレイジが脱力させた腕をふるった。それまでの重く速い攻撃の中、ユウキに迫った腕は、まるで蛇のように軌道を変え、防御のために構えた片手剣の柄を捉えると――――
ユウキの天地を
「少し、怒ってるんだ!」
「え、わあああああ!?」
≪
「……ふー、危ない、危ない。やっぱ強いねー、キミ!」
「…………」
仕切り直しに振った話題にも乗ってこない。どうやら本当に不機嫌なようだ。
「えーと、怒ってるん、だっけ? ボク、キミを怒らせるようなことしたかな?」
「………………してない、よ。――――ただ」
ユウキの問いを否定する言葉。しかしその次の言葉は。
「――――誰にも、『弱音』を吐かない君が、すごく気に食わないだけだ」
――――とても、哀しそうだった。
「――――」
その言葉を聞いたユウキの時は、確かに凝固した。
「………………えっと、何のコトかな? ボク別に弱音なんて――」
「わかるさ、それぐらい」
沈黙。痛いほどの沈黙が戦場に横たわった。
「君は……多分、ずっと弱音を吐いていない」
「……」
「弱音を吐かず、泣きもせず、仲間にも常に笑顔を向け続ける」
「…………やめて」
「だから、君の笑顔は――――――――ひどく歪だ」
「………………やめろォッ!!」
瞬間的に距離が狭まり、衝撃音が会場全体に響き渡った。そこからは、攻守が完全に逆転した。
「なんで! なにがいけないって言うのさ! 弱音を吐かないことが!」
「気に、食わない、って言っただけだ!」
「同じ、じゃないか!」
一瞬距離を離し、ダッキングの動きから斜めに斬り上げ。それを凌いだ瞬間には、既に懐に黒曜の剣が突き立っていた。
「ぐッ……!」
「皆と一緒にいたいから! 皆を悲しませたくないから! 弱音を吐かないことの、何が悪いって言うのさ!」
「ぶつかってみないと分からないって言ったのは、君だろ!?」
「言ったよ! 言ったけど! それでも、どうしようもないことだってあるじゃん!? ぶつかったってどうにもならないことだってあるでしょ?! 何でそんなこと言うの!!」
「『聞こえてる』からだ!!」
その言葉に、思わずユウキの攻撃が、止まった。
「……? 聞こえてる…………?」
「――ずっと、聞こえてるんだよ。君の押し殺してきた『声』が」
ひゅっ、とユウキは息を詰まらせた。自分が何を押し殺してきたか、思い当たって。
「だから、ちゃんと言うんだ。僕にじゃなくても、仲間や――――アスナさんに」
「………………」
その言葉に、ふと動きを止め、視線だけを移動させる。黒猫団と今もなお戦う仲間へ。そして、ようやく拘束から抜け出し、なりふり構わずにユウキの元に向かおうとして、何度も
「――――言っても、無理なんだよ……?」
「……」
「どうしようも、ないんだよ?」
「…………かもしれない」
「方法なんて、無い、って分かりきって――――」
「………………だとしても」
視線を、射抜かれる。心の奥底まで見透かすように。底の底に、固まっていたほんの僅かな澱を汲み上げるように。
そんな様子を――――――真紅のローブを纏った、
「想いは――――押し殺しちゃ、駄目なんだ」
「――――――」
その言葉に、全てが決壊した。
ずっと、思っていた。ずっと、泣いていた。お母さんが死んだ時も、お父さんが死んだ時も。……姉ちゃんが死んだ時も。すごく、悲しかった。いつだって泣いていた。誰もモニター出来ないVR空間の過疎地で、思い切り叫んだりもした。痛かった。苦しかった。……ただ、堪えていた。それでも皆の前では笑っていた。目の前にいるのは、自分と同じ『仲間』だったから。自分と同じ、痛みを、苦しみを、辛さを――病を、背負った皆だったから。だから辛そうにして欲しくなくて。笑っていて欲しくて。皆の前では、いつもより明るく振る舞った。いつか必ず来る、『終わり』までそうするつもりだった。
そんな時に、アスナに出会った。
アスナは、姉ちゃんみたいだった。ボクのわがままに付き合ってくれて、ボクを助けてくれて。遂にはボクの居場所まで見つけてくれた。アスナは、僕のことを大切に想ってくれる。皆は仲間だって思ってくれてる。ボクは皆を困らせたくない。悲しませたくない。笑っていてほしい……!
――――――だけど。
もし。もしも。ほんの、ほんの少しだけ、弱音を吐いていいなら。今だけはちょっとだけ、想いを告げて良いのなら。
――――ああ、神様。
お母さんが言っていた、試練を与えてくださった神様。今は、今だけは、少しだけ――――――弱くなっても、いいですか。
「――――――――たす、けて」
ボクは、もう少しだけ、あと少しだけ、皆と、一緒にいたい、です。
戦場で相対していたレイジと、それを眺めていた真紅のローブに、その小さな呟きは、確かに届いた。
「「――――わかった!!」」
少女の慟哭、それを必ず受け止めるという二人の決意が、世界に響いた。
≪キュクロプス・トーナメント≫決勝戦。決着の五分前の出来事だった。
決勝戦、『終了』!次回は、終了後になります。決着は次回に丸投げです!
漸くユウキに『願い』を言わせました!とは言え、重病人にムチを打ったに等しいため、今回の批判は謹んで受け取ります。それでも本人が生きたいって願わないと、何も始まらないと言うのが作者の考えのため、今回の展開は結構気に入ってたりw
次回以降は、『ユウキ救済』へ!絶対ハッピーエンドを描きます!