ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男   作:路地裏の作者

103 / 106
今回の展開……また非難が来そう……



021 シールドクエスト16~ただ、その願いを

 ≪キュクロプス・トーナメント≫決勝戦。三局へと別れた戦場。その中にあって、四対五の不均衡な戦場となっていた≪月夜の黒猫団≫メンバー。集団戦で、有利なのは多勢。それは当たり前のはずだった。

 

 しかし、その戦場にあって、SAOを生き抜いた黒猫たちは、≪眠れる騎士たち(スリーピング・ナイツ)≫を――――蹂躙していた。

 

「ま、マズイですよ?!」

 

「くそッ、このおっ!!」

 

「みんなまず防御を固めてください! 私の魔法でなんとか――!」

 

 メンバー全員に動揺が広がる中、シウネーはなんとか戦線を維持し、危険域に迫ろうとするメンバー全員のHPを維持しようとした。完全後衛型の水妖精(ウンディーネ)らしい指揮と言える。

 

「――~~♪ ――、――♫」

 

 そんな中響き渡るのは、一人の少女の奏でるハープの音色。その音色とともに、スリーピング・ナイツの視界全体に、紫色のアイコンが瞬いた。

 

「また阻害効果(デバフ)が!?」

 

 さっきからこの繰り返し。どんなに耳を塞ごうとも、どんなに逃れようとも、その音色からは逃れられない。響き渡る音色は美しく、実に魔的だった。

 

「ふッ!!」

 

 阻害効果(デバフ)を外そうとやっきになるスリーピング・ナイツに横合いから槍が突き刺さる。全体に突き立ち、微かな紫電を奔らせるそのスキルもまた阻害効果(デバフ)つき。黒猫団は先程から、徹底して特殊効果つきのスキルで攻め立てていた。

 

「――これが、貴方たちの弱点だよ」

 

 戦場に、静かにサチの声が響く。1パーティーでフロアボスすら攻略した最強ギルド≪スリーピング・ナイツ≫の『弱点』。それは、彼ら自身の経歴、『数々のゲームを渡り歩いてきた』という強み(・・)そのものが弱点だった。彼らはいくつものゲームを渡り歩き、そのたびに全く環境もシステムも違うゲームへと順応してきた。それゆえに、彼らのVR世界への親和性は限りなく高く、どんなゲームでも高い実力を誇ってきた。

 

 だけど。だからこそ、彼らはALOやSAOにしか存在しない、『状態異常』には対応できない。様々なゲームに対応できるアバターだからこそ、そのゲームにしかない状態異常と、それに対抗できる耐性スキルが著しく低いのだ。

 

「そーいう――――こったな!」

 

 ササマルの攻撃で発生した阻害効果(デバフ)で、完全に動きを止めたスリーピング・ナイツの脇を、ダッカーがすり抜け、武器を弾き飛ばす。SAO時代から存在する『武器落とし(ディスアーム)』。これもまたSAOとそのシステムを引き継いだALOにしか存在しない特殊攻撃だ。

 

(こっちは、今のところ大丈夫。――――後は、向こうか)

 

 戦場を俯瞰したテツオは、戦場の趨勢を決める、残り二局の戦場へと視線を移した。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「セアアアアッ!!」

 

 戦場に響き渡るのは、一人の咆哮。それに従って拳が、蹴りが空中で瞬いた。

 

「…………!」

 

 それを剣で受け止め、肌で感じていたユウキは内心臍を噛んだ。

 

(強い……!)

 

 以前の果し合いとは、比べ物にならないほどの猛烈な攻め。それでも何とか耐えられるのは、現在攻めているレイジの速度が、自分よりも遅いこと。最初はそのため、途中でカウンターを入れようとしたのだが。

 

(とんでもなく……上手い(・・・)!)

 

 拳打(パンチ)の合間に突きを入れても、蹴りを躱して斬り込んでも、『必ず返される』。カウンターにカウンターを取られるという、とんでもない状態が発生していた。そして既にそのタネも分かっていた。

 

(こっちの返し(カウンター)を完全に読み切って、それすら自分の攻撃に組み込んでいるんだ!)

 

 恐らく、その読みは正しい。そうでなければおかしい。目の前の相手は、明らかにこっちのカウンターが『視えていない』時があった。それでも対応できるのは、きっと彼にとって予定調和だからだろう。

 

「――ぐっ! とんでもない強さだね! 前の時は調子が悪かったの?!」

 

「……いや。あれはあれで本気だったさ。今日こんな風に、柄にもない攻撃(コト)をしてるのは――――」

 

 不意に、ラッシュの中でレイジが脱力させた腕をふるった。それまでの重く速い攻撃の中、ユウキに迫った腕は、まるで蛇のように軌道を変え、防御のために構えた片手剣の柄を捉えると――――

 

 ユウキの天地を逆転(・・)させた。

 

「少し、怒ってるんだ!」

 

「え、わあああああ!?」

 

 ≪軍隊格闘術(アーミー・コンバティブ)≫。GGOで学んだソレは、直接的なダメージこそなくとも相手に対する制圧力が非常に高い。投げられたのが空中ゆえに、ユウキは直ぐ様翅を羽ばたかせ、姿勢を立て直し距離を置いた。

 

「……ふー、危ない、危ない。やっぱ強いねー、キミ!」

 

「…………」

 

 仕切り直しに振った話題にも乗ってこない。どうやら本当に不機嫌なようだ。

 

「えーと、怒ってるん、だっけ? ボク、キミを怒らせるようなことしたかな?」

 

「………………してない、よ。――――ただ」

 

 ユウキの問いを否定する言葉。しかしその次の言葉は。

 

 

「――――誰にも、『弱音』を吐かない君が、すごく気に食わないだけだ」

 

 

 ――――とても、哀しそうだった。

 

「――――」

 

 その言葉を聞いたユウキの時は、確かに凝固した。

 

「………………えっと、何のコトかな? ボク別に弱音なんて――」

 

「わかるさ、それぐらい」

 

 沈黙。痛いほどの沈黙が戦場に横たわった。

 

「君は……多分、ずっと弱音を吐いていない」

 

 

「……」

 

「弱音を吐かず、泣きもせず、仲間にも常に笑顔を向け続ける」

 

「…………やめて」

 

「だから、君の笑顔は――――――――ひどく歪だ」

 

「………………やめろォッ!!」

 

 瞬間的に距離が狭まり、衝撃音が会場全体に響き渡った。そこからは、攻守が完全に逆転した。

 

「なんで! なにがいけないって言うのさ! 弱音を吐かないことが!」

 

「気に、食わない、って言っただけだ!」

 

「同じ、じゃないか!」

 

 一瞬距離を離し、ダッキングの動きから斜めに斬り上げ。それを凌いだ瞬間には、既に懐に黒曜の剣が突き立っていた。

 

「ぐッ……!」

 

「皆と一緒にいたいから! 皆を悲しませたくないから! 弱音を吐かないことの、何が悪いって言うのさ!」

 

「ぶつかってみないと分からないって言ったのは、君だろ!?」

 

「言ったよ! 言ったけど! それでも、どうしようもないことだってあるじゃん!? ぶつかったってどうにもならないことだってあるでしょ?! 何でそんなこと言うの!!」

 

「『聞こえてる』からだ!!」

 

 その言葉に、思わずユウキの攻撃が、止まった。

 

「……? 聞こえてる…………?」

 

「――ずっと、聞こえてるんだよ。君の押し殺してきた『声』が」

 

 ひゅっ、とユウキは息を詰まらせた。自分が何を押し殺してきたか、思い当たって。

 

「だから、ちゃんと言うんだ。僕にじゃなくても、仲間や――――アスナさんに」

 

「………………」

 

 その言葉に、ふと動きを止め、視線だけを移動させる。黒猫団と今もなお戦う仲間へ。そして、ようやく拘束から抜け出し、なりふり構わずにユウキの元に向かおうとして、何度も魔法使い(メイジ)狙撃手(スナイパー)に阻まれるかけがえのない友人(アスナ)に。

 

「――――言っても、無理なんだよ……?」

 

「……」

 

「どうしようも、ないんだよ?」

 

「…………かもしれない」

 

「方法なんて、無い、って分かりきって――――」

 

「………………だとしても」

 

 視線を、射抜かれる。心の奥底まで見透かすように。底の底に、固まっていたほんの僅かな澱を汲み上げるように。

 

 そんな様子を――――――真紅のローブを纏った、誰か(・・)が、観客席から見ていた。

 

 

「想いは――――押し殺しちゃ、駄目なんだ」

 

「――――――」

 

 

 その言葉に、全てが決壊した。

 

 ずっと、思っていた。ずっと、泣いていた。お母さんが死んだ時も、お父さんが死んだ時も。……姉ちゃんが死んだ時も。すごく、悲しかった。いつだって泣いていた。誰もモニター出来ないVR空間の過疎地で、思い切り叫んだりもした。痛かった。苦しかった。……ただ、堪えていた。それでも皆の前では笑っていた。目の前にいるのは、自分と同じ『仲間』だったから。自分と同じ、痛みを、苦しみを、辛さを――病を、背負った皆だったから。だから辛そうにして欲しくなくて。笑っていて欲しくて。皆の前では、いつもより明るく振る舞った。いつか必ず来る、『終わり』までそうするつもりだった。

 

 そんな時に、アスナに出会った。

 

 アスナは、姉ちゃんみたいだった。ボクのわがままに付き合ってくれて、ボクを助けてくれて。遂にはボクの居場所まで見つけてくれた。アスナは、僕のことを大切に想ってくれる。皆は仲間だって思ってくれてる。ボクは皆を困らせたくない。悲しませたくない。笑っていてほしい……!

 

 ――――――だけど。

 

 もし。もしも。ほんの、ほんの少しだけ、弱音を吐いていいなら。今だけはちょっとだけ、想いを告げて良いのなら。

 

 ――――ああ、神様。

 

 お母さんが言っていた、試練を与えてくださった神様。今は、今だけは、少しだけ――――――弱くなっても、いいですか。

 

 

「――――――――たす、けて」

 

 

 ボクは、もう少しだけ、あと少しだけ、皆と、一緒にいたい、です。

 

 

 戦場で相対していたレイジと、それを眺めていた真紅のローブに、その小さな呟きは、確かに届いた。

 

 

「「――――わかった!!」」

 

 

 少女の慟哭、それを必ず受け止めるという二人の決意が、世界に響いた。

 

 ≪キュクロプス・トーナメント≫決勝戦。決着の五分前の出来事だった。

 




決勝戦、『終了』!次回は、終了後になります。決着は次回に丸投げです!

漸くユウキに『願い』を言わせました!とは言え、重病人にムチを打ったに等しいため、今回の批判は謹んで受け取ります。それでも本人が生きたいって願わないと、何も始まらないと言うのが作者の考えのため、今回の展開は結構気に入ってたりw

次回以降は、『ユウキ救済』へ!絶対ハッピーエンドを描きます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。