ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男   作:路地裏の作者

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マザーズ・ロザリオ、最終章!

そして――!



022 シールドクエスト17~明日への翼

 

「――――はあ」

 

 ≪キュクロプス・トーナメント≫から数週間後。詩乃は自室で、春休みの課題をこなしていた。あのトーナメントの後から、優矢は人に会ったり、バイトに出たりで見るからに忙しくなり、中々会う機会を持てなかった。そのため、どうしてそこまで忙しいのかは概要しか聞けていないが、同時にあまり心配もしていなかった。

 

(≪絶剣≫の問題を解決するためなんでしょうけど……少し妬けるわね)

 

 あのトーナメントの後、アスナやキリトに彼女の病状については聞いたし、その上で動いているんだろうが、やはり自分の恋人が他の女性(おんな)のために動くのは少しばかり、本当に少しばかり気分を沈ませた。

 

 ふと思いついて、机の引き出しを開く。そこには、封筒に入った飛行機の予約券が入っていた。

 

()っちゃが予約してくれた日付までに、間に合うんでしょうね? 全く……)

 

 引き出しに入っているチケットは、詩乃の祖父が用意してくれたもの。あの最悪男との見合い紛いの時に、祖父はちゃんと精一杯謝ってくれたし、自分もそれについては既に許した。それでも気が済まなかったのか、祖父は、優矢が正月に置いていったバイクを『二人揃って』一度取りに来いと言ってくれた。その上、往復チケットまで寄越して、滞在の間はウチに泊まれとも言ってくれた。もっとも、

 

『オラは、酒も飲めねぇ(モン)が詩乃と『初夜』迎えるのは、認めね!!』

 

 と、そこだけは終始譲らなかったが。おかげで初対面の時のあの不機嫌さは、()っちゃの冗談を真に受けたせいだったのか、と合点もいった。

 まあ、これからちょくちょく二人で遊びに来いと言っていたし、少しは認めてくれたんだろう。

 

「……さっさと解決して、戻ってきなさいよ?」

 

 ――――≪絶剣≫ユウキの容体が急変したと知ったのは、その数日後のことだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ――妖精の、葬列だった。

 

 新生アインクラッド第24層に存在する大樹を抱いた名もなき小島。そこに今、ALOに存在するありとあらゆる妖精たちが集っていた。サラマンダーが、シルフが、ウンディーネが、ケットシーが。全ては、彼らの視線の先。今まさにその人生を終えようとする一人の妖精剣士を見送るために。

 

「っ、ユウキ…………!」

 

 アスナの腕の中、今ゆっくりと≪絶剣≫ユウキはその瞼を閉じようとしていた。

 

「ありがとう……アスナ……ボク、今すごく、嬉しいんだ……こんなに、たくさんの人に……見守られて……旅を、終えられるんだから…………」

 

 そうして、彼女の魂が、旅立とうとしたその時だった。

 

 

「――――悪いが、そういうわけにはいかんな」

 

 

 そんな言葉とともに、空中に真紅のローブが生じ、長身の人影が降り立った。

 

「え……?」

 

 呆けたような声をアスナが出す中、目の前の真紅の男が、被っていた頭巾(フード)を取り去った。

 

「団長ッ!?」

 

 そこにあったのは、かつての血盟騎士団団長、そしてSAO事件で1万人を閉じ込めた大罪人、ヒースクリフ、茅場晶彦の姿(アバター)だった。

 

「どうして、貴方が此処に?」

 

「レイジ君に頼まれ、彼女を見極めるためだよ。…………さて、≪絶剣≫ユウキ君?」

 

「…………?」

 

 既に意識に靄がかかっているのか、アスナの腕の中のユウキは、その瞼をやや重たげに開き、ヒースクリフへと視線を向けた。

 

「君は……もし『再び』生きられるのならば、アスナ君やギルドの皆と再会することを望むかね?」

 

「…………」

 

 問いの内容は、無意味。およそ有り得ない仮定の話。それでも、彼女に一片の迷いは無かった。

 

「当たり、前です…………」

 

 その言葉に満足そうな笑みを浮かべ、ヒースクリフは天空を仰いだ。

 

「聞いた通りだ! やりたまえ、ユイ君、レイジ君!!」

 

「「了解!!」」

 

 その号令に妖精の葬列の中からレイジが飛び出し、アスナの胸ポケットからユイが飛び出した。

 

「ユイちゃん!? 一体何を――」

 

「今から、ユウキさんの魂を、≪ザ・シード≫ネットワークに格納します!!」

 

 その言葉とともに、子供と同じ大きさになったユイとレイジの周囲に、いくつものキーコンソールが浮かび上がる。その光景にアスナは気付いた。これはかつての世界樹で見た光景。GM権限の行使によるものだと。

 

 一人の人間の魂を、ネット空間へ格納する。それは、かつて茅場晶彦が一度は成し遂げたことでもあった。

 

「正直、成功の確率は決して高くはありません。彼女の使用しているメディキュボイドは、茅場氏が使用した改造ナーヴギアとは違いますから……」

 

 ユイの説明の通り、かつて茅場晶彦は、出力を爆発的に高めたナーヴギアでそれを成し遂げた。それでも現実世界の彼の身体は、脳が完全に焼き切られた状態となったのだ。ユウキが使用する医療器具(メディキュボイド)に、そこまでの高出力は望めない。

 

「確率は確かに高くない。だけど、生きてもらうよ、≪絶剣≫ユウキ」

 

「なんで……?」

 

 ユウキとレイジの仲は、そこまで親しくない。学校で話をしたり、トーナメントの決勝で戦ったりしただけで、アスナや≪スリーピング・ナイツ≫の皆ほど親密ではないのだ。だから彼女には、どうして目の前の彼がここまでしてくれるのかが分からなかった。

 

「一つは、トーナメントの時の決着がまだだから。相手を動揺させて得た勝利(かち)なんかじゃ納得いかないからね。……もう一つは」

 

 空を彩る天球を全面に描かれた左手の盾、≪アトラスの円形盾(バックラー)≫を撫でながら一言。

 

 

「――――君が、『たすけて』って言ったから、だよ」

 

 

 余りにもシンプルな答え。ただそれだけのために、彼は動いた。彼女を助けるためだけに、彼は動く決意をした。

 

「最初に言っておく。この格納操作は、成功したとしても多くの問題を孕んでいる。やっていることは、ALOサーバーからの巨大データの抜出に等しいからね」

 

 ヒースクリフの説明はこうだ。この措置は本来有り得ない程高位のGM権限で行うため、今現在ALOを運営する会社にも見つかりやすく、十中八九目をつけられる。そのため、ユウキの魂は一時ネットワーク上に保管される形となる。そしてしばらくはほとぼりを冷まさなければならないとも。

 

「――――つまり、魂の格納が上手くいったとしても、ユウキ君はしばらくの間、ALOには入ることが出来なくなる。これだけは、覚悟してもらおう」

 

 失敗したらもちろんのこと、例え成功しても、ユウキには会えない。しばらくと言っていても、いつほとぼりが冷めるかは、不透明のままだった。アスナはその事実に悲しそうに俯いた。

 

「……あの」

 

 声を上げたのはユウキ。その眼は先程より重たげだったが、ヒースクリフへと向けられていた。

 

「それ、でも……会える、可能性…………あるん、ですよね…………」

 

「……ある」

 

「そっか……やったあ…………」

 

 そうして目を瞑り、一言。

 

 

「お願い、します…………」

 

 

 その言葉とともに、周囲のコンソールが一斉に明滅する。そこに映るのは、MHCPや茅場でしか理解できない高度なプログラム。今このときに限り、彼らは世界すら敵に回した。

 

「ユウキ君……一つのことに集中するんだ」

 

「ひと、つの……こと……?」

 

「そう……『生きたい』というただ一つの願いを、心の中で全力で願うんだ。そうすれば――――」

 

 ヒースクリフは、語る。かつて仮想(この)世界を生み落した者として。新たに旅立とうとする少女を見守って。

 

 

心意(オモイ)は――――世界の常識すらも、突き破る」

 

 

 この日、紺野木綿季は、現実世界から永遠に旅立った――――。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 それからしばらく後。GGO世界、第四回BoB決勝戦。今回の顛末、最終章の舞台である。

 

「…………あの照準器(スコープ)内の絶望的な状況は、どうするのかしらねえ? レイジ?」

 

「あ、はは、はははは……」

 

 隣で渇いた笑いを上げる相棒(レイジ)を、殴り飛ばしたい衝動に駆られながら、シノンが盛大に悪態をついていた。

 

 いや、分かっている。レイジは、精一杯やったのだ。彼自身ALOでほとぼりが冷めるまでログインしないようにしているし、あれしか方法が無かったのは分かる。

 

 だけど、たった今第一回BoB優勝者のサトライザーを、十数センチ四方のブロック肉に変えた、紫の防護服(ファティーグ)を纏う光剣使いを、どう倒すというのか。

 

「いえーい!!」

 

 今も元気いっぱいに映像中継カメラにVサインをしている、心底楽しそうな剣士をどう倒せばいいのか。

 

 ……しかも。

 

「西側の砂漠では、予選で鎮圧盾(ライオット・シールド)と≪ベネリM3(ショットガン)≫持って突破したヒースクリフが無双してるみたいだし……どうすんのよ、コレ?」

 

 少なくとも決勝戦で設定された賭博(オッズ)は大荒れだろう。最近コンバートしてきた者たちで、ここまで圧倒すると予想できる人間がどこの世界に――――いや、前回もそうだったか。

 

「う~~ん! そろそろ勝負しよーよ! レイジ、シノン!!」

 

 こっちの隠れている丘を指し示してのご指名だ。先刻、サトライザーを倒した隙を狙って、ブチ込んだからバレているとは思ったが。もちろん、弾丸は斬られた。

 

「ホラ、ご指名よ。≪キュクロプス・トーナメント≫の時のリターンマッチ。受けて上げなさい、レイジ」

 

「ええ?! サトライザーを接敵後10秒で秒殺した剣士とか、勝ち目無いんですけど!?」

 

 もっともそんな言い争いを、相手が待つ理由は無かったようだ。5秒後、彼らの隠れていた台地は、彼女の撃ち込んだプラズマグレネードで更地へと変貌した。

 

「くっそぉぉぉぉ!!」

 

「よーし! 勝負!!」

 

 再び役者は集い、剣と拳の衝撃音(おんがく)は奏でられる。

 

 世界は、今日も続いていく――――。

 

 そして、20年の時が流れた――――――。

 




これにて、阿修羅版マザーズ・ロザリオ、『シールドクエスト』終了です!
終わり方に納得いかない人もいるかもですが、彼女を曲がりなりにも生かすには、茅場と同じ方法しか思いつきませんでした。彼女の病気を根治させるには、それこそ特効薬を作れるチートでもなければ難しかったので……。

前半部に出てきた詩乃の祖父。ものすごく非難も多かったキャラですが、実のところ彼の性格設定は、『朝田詩乃の一部を分けた性格』がスタートだったりします。つまり、祖母の方は、詩乃の悪戯な猫っぽいところを抽出したキャラで、祖父の方は、なんと『ツンデレ』のところを出したキャラなんです!(お爺ちゃんのツンデレとか誰得)そこに詩乃の物静かな性格を加えたら、アラ不思議。寡黙で偏屈な、昔気質の厳格な祖父が出来上がりました。(途中、キャラが勝手に動きもしましたが)泊まりに来いと言っている辺りが、若干のデレですww

そして、後半部で細切れになっていたサトライザー氏。本当は、このアフターストーリーの最終ボスの予定でした!最後まで迷ったユウキの救済を決めて、元気いっぱいのユウキにボスの座を譲り、あえなく100グラム1円以下のブロック肉に……合唱(-人-)

さて、最後の一文で察した方も多いと思いますが、長く書いてきた『ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男』…………次回『最終回』です!
今まで本当にお世話になりました!更新は来週予定ですのでお楽しみに!!
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