ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
水生生物が棲む『はじまりの街』の地下ダンジョン――――ROで黄金蟲狩りに行った地下水道の記憶が蘇る……
茶色ゴキだの、緑ゴキだのウザかったなあ……(全部ルートMobだし)
「≪黒鉄宮≫の地下に、隠しダンジョンがねえ……」
あの後、詳しい話を聞いてみた所、≪軍≫の本来のギルドリーダー、シンカー氏が閉じ込められているのは、何とこの最下層≪はじまりの街≫の地下に存在する隠しダンジョンだと言う。しかも最近までシンカー氏もユリエールさんもそんなものの存在は知らず、キバオウの一派が隠して探索していたんだそうだ。
「(やっぱり説教が必要だな……ここは、この間考えた『24時間説教・鉄人レース版』を試すか? いやそれとも人間リフティングを……)」
「レイジ……すぐ後ろで、ボソボソ凶悪な計画を立てるのはやめてくれないか」
げんなりとした顔で言ってくるのは、キリト。その横でアスナさんとユリエールさんは若干顔が青い。どうしたんだろうか?
「あはは、いやだなあ。友人の皆にはしないよ?……よほどのことが無ければ」
「よほどのことがあったら、やるってことだよな。いいから止めてくれ。子供の教育に悪い」
そう言ってキリトが視線を向けるのは、その腕の中にいるユイちゃん。……だけど。
「ねえ、キリト。やっぱりユイちゃんは教会に預けてきた方が……」
「ん、大丈夫だろ。中は60層相当の強さって話だし」
確かにここにいる三人は最前線メンバーでもトップクラスの強さだけど……
「大丈夫かなぁ……?」
◇ ◇ ◇
「おりゃああああ!」
「うらあぁあああ!」
「がんばれー、キリト君」
「パパ、がんばれー」
「よっしゃああああ!」
……娘の前で良いとこ見せようとする馬鹿親が一人。壁戦士(タンク)などいらないとばかりに前に出て、さっきから敵を一人で無双しています。…………バカ?
「楽でいいんだけど……何か順調に行き過ぎな気がするな。ユリエールさん、確かキバオウたちの先遣隊は、命からがら逃げ帰ってきたと言ってましたよね?」
「は、はい……確かボスモンスターらしきものも見かけたと……」
ボスモンスター、ね……上層部は水生型モンスター、下層部は死霊型モンスターが溜まる地下水道の迷宮。先遣隊は、滅茶苦茶に結晶を使ったせいで大赤字。そもそも先遣隊なんて危険な役目なら、この前のコーバッツ率いる≪軍≫の最高ランクの手勢が使われたはず。そしてコーバッツ達は、曲がりなりにも74層のフィールドや迷宮区は突破出来ていた……。
(もしかしたら……ここの最奥部は60層クラスを超えている……? だとしたらボスも……)
あくまでも、最悪の事態の想定。だけどこうしたイヤな予感は、得てして当たってしまうものだ。
◇ ◇ ◇
迷宮に入ってからおよそ二時間。ようやく最奥部に到達。道の先に暖かな光が漏れる、≪安全地帯≫が見え始めた。パーティー内で唯一索敵をマスターしているキリトが、早速確認する。
「≪安全地帯≫にプレイヤーが一人。グリーンだ」
「シンカー!」
感極まったユリエールさんが走り出す。続いて帯剣したキリト、ユイちゃんを抱えたアスナ、筋力優先のせいで速度が出ない僕と続く。
走ること数分。ついに道の先で両腕を大きく振る男性の姿が見えた。
「ユリエーーール!!」
「シンカー!!」
「来ちゃダメだ! そこは―――」
その言葉と共に、極限まで極めた≪聞き耳≫の聴力が、安全地帯手前の十字路の一方から、衣擦れの音を聞き取った。何か―――いや、人の数倍は大きなモノがいる!
「ちぃっ!」
舌打ちと共に、ステップからクイックムーヴ。≪鉄拳術≫・≪疾走≫複合移動用スキル≪ザンエイ≫。ここから相手を後ろへと吹っ飛ばして距離を取ろうと、得意の≪シールド・チャージ≫へとつなげた。
―――が。
「なっ?!」
目の前の相手は、≪シールド・チャージ≫で出足こそ殺せたものの、ほとんど反応せず、その手に持った血の滴る大鎌を振り上げた。ここでようやくそのモンスター名に意識を移せた。≪The Fatalscythe≫、運命の鎌。
「くっ」
ギリギリで硬直が解け、攻撃の間に円形盾を滑り込ませる。『攻略組』でも屈指の防御力を誇るその盾なら、どんな攻撃だろうと問題なく防げる。―――ハズだった。
「ぐっ、あああああああ!!」
盾を襲った規格外の威力に、構えていた盾ごと壁まで飛ばされた。頭を振るい、意識をはっきりさせながら視界の端でHPを確認すると、盾ごしだと言うのに、3割ほどが今の一撃で吹き飛んでいた。
(冗談、じゃない……!)
他のメンバーならともかく、自分は壁戦士(タンク)。ボスの攻撃を最前線で防ぐのが役割なのだ。当然防具は、見た目こそ軽装でも極めて優秀な防御力を誇っているし、HPの値をブーストするアイテムもふんだんに用いている。
その自分が、HPをたった一撃で3割も吹き飛ばされるなど、考えられる最悪の状況と言えた。
出来る限り視線をそらさず、一瞬だけ後ろを確認すると、既にユイちゃんはユリエールさんに預け、安全地帯まで避難していた。そしてキリトとアスナさんは、完全武装の上、僕に加勢するため、横に控えている。
「参ったな……俺の≪識別≫スキルでもデータが見えない。コイツ90層クラスの奴だ……!」
「……絶望的なニュースをありがとう。となると、考えるべきは……」
「どうやって、安全地帯まで逃げるかって事ね……!」
こんな奴相手に、まともに戦うのは不可能だ。幸いすぐ近くに安全地帯がある以上、そこまでタッチダウンできれば、後は転移結晶で帰るだけ。問題は……
今、明らかに先ほど以上の一撃を放とうとしているこの鎌をどうにかすることだけ……!
長考する時間も無かった僕たちは、それぞれの武器と盾で最大級の衝撃に耐えるべく構えた。
轟音。衝撃。
先ほどをはるかに超える衝撃に、僕たちは一緒くたに地面に投げ出された。今の一撃で、僕のHPはついにレッドゾーンに突入し、他の二人も一気にイエローの危険域に入っている。つまり、もう一度今の攻撃を食らったら、全員ここで死ぬということだ。
「くそっ……!」
迫る絶望に悪態をつき、それでも一人でも多く生き残らせようと、耐久値が限界に近い盾を前に構えた。
―――そこへ。
トコトコと、ユイちゃんが、何の恐れも抱いていないかのように、進み出た。
「ダメよ! ユイちゃん!!」
「ユイ! さがれ!!」
アスナさんとキリトが、自分の横で悲鳴のような声を上げるが、僕はそれよりもほかの事に意識を取られていた。
ズキン
(何だ、この感じ……)
ズキンッ
(ああ、そうだこの感じ……)
ズキンッ!
(…≪Yui≫……!)
死神がその手の鎌を振り下ろす。それは余りにも圧倒的な存在で、目の前の幼い少女の身体は一瞬も保たずにポリゴンへと砕けるだろう。
……本来ならば。
【Immortal Object】。彼女の手前に発生したその障壁の前に、死神の鎌はあっけなくはじき返された。不死存在。それは決してプレイヤーが持ち得ない属性。
次の瞬間、ユイの身体から炎が噴きあがった。それは空中で形を成し、やがて一本の大剣へと変わっていく。そのすさまじい炎に、アスナさんが悲鳴混じりに声を上げた。
「な、何あれ?!」
……ああ、知っている。あれは。
「炎剣、≪レーヴァテイン≫。
「……え?」
アスナさんが、答えた僕に疑問を抱いたようだけど構わない。……ああ、
やがてユイはその剣を死神へと振り下ろし、後には灰すら残らなかった。あのボスは、
「パパ、ママ、―――≪レイジ≫……全部思い出したよ……」
早めの予約投稿・第二弾終了です!
今回ユイが振るってる武器の名前は、作者の勝手な創作です。炎の剣といったらこれしか浮かばなかった……
もっともアニメ見たら、『ニエトノノシャナ』とか、『終の秘剣・カグヅチ』とかでも良かった気がしたなあ……多重クロスになっちゃうけど(笑)