ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
これにて、『朝露の少女』終了です。
……そして、アインクラッド最終章が始まります。
ダンジョンから帰って翌日、僕たちは救出されたシンカーさんを交えて、教会でささやかなパーティーを開いていた。
「本当に何とお礼を言っていいか……」
パーティーの一角で、今回救出に出向いた僕とキリト、アスナさんの三人と、シンカーさんとユリエールさんは、今後の≪軍≫の処遇について話していた。
≪軍≫については一度完全に解散。その後に新たな互助組織を作ることでまとまるそうだ。実際犯罪者(オレンジ)プレイヤーの投獄に関しては、多かれ少なかれ≪軍≫のおかげで安心して暮らしていけるとも言える訳なので、良い形で解決しそうで良かった。
「あの…昨日の女の子…ユイちゃんはどうしたんですか……?」
その言葉に、アスナさんは首もとのネックレスに手を添えながら、一言だけ答えた。
「ユイは――お家に帰りました……」
◇ ◇ ◇
「パパ、ママ、≪レイジ≫……全部思い出したよ……」
「ユイ……?」
「ユイちゃん……。思い出したの……? 今までの、こと……」
「……」
そして、ユイの独白が始まった。ユイはSAOを管理するシステム、≪カーディナル≫によって生み出されたプレイヤーのカウンセリングを行うためのAI、≪メンタルヘルス・カウンセリングプログラム≫、MHCP試作一号、コードネーム≪Yui≫なのだと。
アスナさんは、彼女が…目の前の『娘』が、作り物だなどとは認めたくない様子で、必死に言葉を紡いでいた。
「でも……でも。記憶が無かったのは? AIにそんなこと起こるの…?」
「それは…二年前、SAO開始当初にまで話をさかのぼります……。あの日、私
そこで、ユイがチラリとこちらに視線を向けてきた。
…ああ、分かってる。全部、
「状態は――最悪といってよいものでした。恐怖、絶望、怒りと言った負の感情がプレイヤーを満たし、時には狂気に落ちる人もいました。そうした状態のモニタリングによって、私と一緒だった≪二号機≫は、かなり初期の段階で、重度の機能不全に陥り、私の前から姿を消しました……」
(………)
「そして、私はエラーを蓄積させ、ゆるやかに崩壊していきました…。そんなある日のことです、お二人の――本当に暖かい感情に出会えたのは」
負の感情で崩壊しかけていたユイは、最上位命令を無視し、アバターを形作ってモニタリングした二人の近くに実体化することを選んだ。だが、崩壊しかけていた影響で、自身に関する全ての記憶を失っていた…。
「私……本当にお二人に会えて、嬉しかった。嬉しいって思えた……変ですよね、私はただのプログラムなのに…」
「でも……それなら、君は本当のAIなんだね。本物の知性を持っているんだよね…」
アスナさんの言葉は、多分に希望が含まれていた。それは、恐らくユイを――娘を、ただのプログラムの塊だとは認めたくないのだと感じた。
「私には…分かりません。自分がどうなってしまったのか……」
ユイは、悲しそうに顔を伏せた。そこで、キリトがユイに話しかけた。
「ユイは……これから、どうしたい?」
その言葉に、ユイはついに感極まったように、涙を流し訴えた。
「わ、私は……パパと、ママと、ずっと一緒にいたい……」
「うん…、うん!」
「一緒にいよう、ユイ。ずっと三人で一緒に暮らそう…!」
そうして三人は身を寄せ合った。けれど、カーディナルはそんなささやかな願いすら許さない。
「もう…遅いんです……」
「ユ、ユイちゃん、遅いって何が……?」
自分の胸の中で、首を横に振るユイに、アスナさんが問いかける。
「私は……先ほど安全地帯に安置されていたあの黒い石――GM用の緊急アクセスコンソールに触れました…」
視線を向けると、安全地帯に設置された石を中心として、ホロキーボードが展開された。
「さっきのボスモンスターは、ここにプレイヤーを近づけないために設置されたもの…。私はシステムにアクセスし、GMにしか扱えないオブジェクトウェポン≪レーヴァテイン≫を呼び出し、≪オブジェクト・イレイサー≫によってあのボスを消去しました。そのときにエラー訂正機能によって言語機能を取り戻したんですが、同時に私という存在を≪カーディナル≫に発見された……。まもなく、私はバグとして削除されるでしょう」
「そ、そんな…!」
「何とかならないのか!?」
「それは……ッ! ダメ、レイジ!」
「「え?」」
アクセスコンソールに視線を戻すと、今までほとんど会話に加わらなかったレイジが、コンソールのホロキーボードを必死に叩いていた。
「レイジ?!」
「何を!?」
「ユイのコアプログラムだけ、カーディナルから隔離して保存する!」
叫ぶように言われた内容に、全員の目が見開かれる。
「保存先は…キリトのナーヴギアの環境ファイルがいいな。キリト、保存先の指定手伝って!」
「あ、ああ!」
慌てて、キリトもコンソールへと駆け寄る。こんなところで、彼女を死なせるわけにはいかない!
「ダメ、レイジ、そこから離れて!」
ユイのその叫びと共に、コンソールから紫電が走り、キーボードを叩く僕の腕を打ち据える。
「ぐっ……!」
「レイジ君!」
「何だ? 何でレイジ
キリトのその言葉のとおり、電流はそばにいてコンソールを一緒に操作しているキリトを完全に無視して、僕だけを焼いていく。そんなことは、
「ダメ! このままじゃ、アナタまで
彼女の悲痛な叫びが、耳に入る。…だけどね、君をここで死なせたくないんだよ。
「ぐっ、ぐぅっ、ぁっ……!」
「キリト君、まだなの!?」
「もう少し…終わった!」
キリトのその言葉と共に、アスナさんの腕の中の、ユイの周りに光が舞う。
「ユイちゃん……!」
「パパ、ママ、……≪レイジ≫。お願いです、これからも…私の代わりに、みんなをたすけて……。喜びを分けてあげてください……」
その言葉を最後に、ユイの身体は消え失せ、代わりにアスナさんの手の中に、小さな涙形のクリスタルをつけた一つのネックレスが現れた。クリスタルの中で、小さな光がとくんとくん、と脈打っている。
「ユイのプログラムを切り離して、オブジェクト化したものだよ。≪ユイの心≫だよ……」
「ユイちゃん…そこにいるんだね。私のユイちゃん……」
涙をとめどなく流すアスナさんの横に、キリトが駆け寄る。僕はその光景を、床に大の字になりながら見ていた。
◇ ◇ ◇
教会でのパーティーを終え、僕もキリトとアスナさんの二人もそれぞれ帰ることになった。
「じゃあ、やっぱり記憶は戻ってないのか…?」
「ああ、悪いね、キリト」
今問われているのは、ユイが話していたことや≪レーヴァテイン≫について。どう考えても何らかの関係があると疑われる内容だったからね。
「どう聞いても、ユイちゃんは、貴方のことを知っていたみたいだったけど…」
「……」
こればっかりは話せない。例え
「ゴメン……」
「あー、いや、いいよ。ユイを助けられたのは、お前のおかげだもんな…」
「そうね…きっと現実に帰れば全てわかるわよ……」
そう最後に言葉をかけて、二人は現在のプレイヤーホームへと帰っていった。
「それじゃ…僕も行くね」
「あっ、レイジ…ちょっと待って」
二人に続いて出ようとしたところ、サチに呼び止められた。そのまま教会からは見えない裏路地へと連れて行かれる。
「何か話?」
「う、うん……あ、あのね、レイジ……」
夕焼けの中、サチは顔を真っ赤にしながら、言った。
「私、あなたのこと、好き」
…
……
………
「……え?」
「だ、だからね、私と付き合って欲しいの、SAOの中でも…
……正直、予想外だった。それはサチのことは嫌いではないし、あの教会でもこの一年半、子供達の世話などで助け合ったりもしていた。
だから。
ああ、だから。
「……ありがとう」
まずお礼を言う。こんな自分を好きになってくれてありがとう、と。そして。
「でも……ゴメン」
僕の言葉に、サチの瞳に涙が浮かぶ。……こんな顔をさせたいわけじゃないのに。
「サチが…気持ちをまっすぐ伝えてくれたから、僕も、事実を正直に言うよ。僕は――――」
風が、吹いた。
「…………え?」
サチの顔は、蒼白だった。信じられないと言うように、唇を震わせながら僕の言葉を必死に否定する。
「嘘……嘘だよね……そんな……そんなの………」
唇をわななかせながら、言えたのはそれだけだった。けれど、事実は変わらない。
「嘘じゃないよ……」
……ゴメン。知る前だったら、間違いなく好きでした。
「僕は……現実には、戻れない」
早めの投稿第三弾終~了~。
…さて、今回告白したサチですが、実を言うと当初は黒猫団自体全員死亡する予定でした。ところがGGOとの関係上メインヒロインが幕間くらいしか出しようが無く、代理ヒロイン必要じゃね? ということで、白羽の矢が立ったのが彼女です。おかげであれよあれよと、黒猫団全員生存ルートへ……彼らの再登場は、GGO編に入る頃になります。まあ彼らは、あくまでALOのプレイヤーですが……
サチとのその後の関係も、その頃に語ろうかな?
追記:この連休の投稿予定!
アインクラッド編は12月末までに終える予定でしたが、連休中に時間が取れそうなので、土曜と日曜に二話ずつ投稿して、終了としたいと思います!
…正直、ちょうどアニメでやってるALOに早く入りたいんですよ……独自ルートのカタマリですけど(笑)