ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
とうとう始まる、アインクラッド最後の戦い!
「……つくづく、君は興味深い存在だ」
目の前のヒースクリフ――茅場晶彦がそう口にした途端、場の空気が確かに変わった。全員がその空気に身構えていると…
「まずは……私の正体を見破った褒美をあげよう」
そう言ってヤツがシステムウィンドウを操作した瞬間――――僕とキリトを除く、攻略組全員が地面へと突っ伏した。
「リーダー!?」
「アスナッ!?」
慌てて皆に視線を合わせると、HPバーが緑色の点滅を繰り返していた。間違いなく、『麻痺毒』だ。
「悪いが私の正体を見破った二人以外は、麻痺状態にすることで強制的に拘束させてもらった。正体を見破られた以上、少々予定より早いが、私は最上層の≪紅玉宮≫で最終ボスとして待たせてもらう。…が、その前に」
そうして、視線を僕たち二人に合わせてきた。
「キリト君、レイジ君。私の正体を見破った褒美に、今この場で私とのデュエルに勝てたら、その時点で『ゲームクリア』だと認めよう。全員の解放を約束する」
「「――――ッ!!」」
最後の局面も、剣に物を言わせるか。
「……俺たちは、二人だぜ? 順番に一人ずつ相手する気か? それにアンタには、あの超反応の切り札があるんじゃ……」
「もちろん、君たちはチームで動くことを認めよう。さらに≪オーバーアシスト≫は、決して使わないと約束する」
「「……ッ」」
ナメられてる。こっちは二人がかりで、さらには≪オーバーアシスト≫も使わないというハンデあり。それでも自分には決して勝てないという、絶対の自信か。…それでも。
「……なら、受けさせてもらうよ」
「そうだな、ここで解放されるって言うんなら、願ったり叶ったりだ」
ここで『受けない』という選択肢は、存在しない。
「よせぇ、レイジ! オメエじゃ……オメエじゃそいつには勝てねえ!!」
「リーダー……」
「あのコロシアムでも…オメエはそいつに勝てなかったじゃねえか! 死にに行くようなもんだ! 一度退いて、態勢を立て直すんだ!」
「そうよ、キリト君! 今じゃなくても、皆でかかればきっと……!」
「アスナ……」
「そうだ、キリト! 最上階で待ってるんなら、攻略組全体のレベルをあげりゃあ、勝てる! 今は退け!」
「エギル……」
このアインクラッドで、もっとも親しかった人たちが止めてくれている。確かにここで退いて態勢を立て直すのも、一つの選択肢ではあるだろう。
……だけど。
「…ゴメン、リーダー。だけど、僕はどうしても、彼が許せない」
そう告げて、顔を上げる。
「僕はMHCPとしての自分を取り戻してから、前よりずっとプレイヤーの強い感情を感じ取れるようになってるんだ。だから……さっきのボス戦で、亡くなったプレイヤーの気持ちも、
「な……」
「終わってしまうことへの嘆き、何で自分がという悲しみ、そして何より心に渦巻いている絶望も聞こえてしまう。だから…だからどうしても、あの人たちをこんな『檻』に閉じ込めた彼が許せない」
拳を、握る。
「……貴方は、ここで、倒す」
それに対してのヒースクリフの返答は―――笑みだった。
「レイジ君は心を決めたようだが……キリト君、君はどうするかね? 退くというのなら、止めはしないが」
「……条件が、ある」
「何かね?」
「俺が……俺がもし死んだら、しばらくの間だけでもアスナが自殺しないように取り計らってくれないか」
その言葉に、アスナさんが泣き崩れた。…まったく、キリトは。
「よかろう。アスナ君はしばらくの間、セルムブルグから出られないように計らおう」
「助か―――ッ、テェッ?!」
言葉の途中で、キリトの後頭部をぶん殴る。途端にHPが犯罪者を示すオレンジに染まるが、知ったことじゃない。
「な、何すんだよ、レイジ!?」
「何、要らん事頼んで女の子を泣かせてるのさ、キリト」
「い、要らない事って、あのなあ、俺は……」
「そんな事を敵に頼むくらいなら、彼女との『現実での再会』でも約束してなさい。モチベーションが『絶対の生還』でなく、『決死』で挑もうとされると、フォローが大変なんだから」
その言葉に、キリトはぽかんと口を開けた。まったく、世話の焼ける。
「……は、はは。分かった。ゴメン、アスナ。俺は…俺は死なないから」
「キリト君……!」
「絶対に……絶対に『現実』で、また会おう」
「うん、うん…!!」
言われてようやく、とか。本当に、まったく。
「…サンキュー、レイジ」
「セリフ自体は、やっぱり『死亡フラグ』っぽいけどね」
「一言多いよ! しかも縁起悪いこと言うな!」
「はいはい」
コントじみたやり取りは、次の瞬間一気に引き締められた。
「―――では、始めようか」
その言葉に、前を向く。目の前にいるのは、この世界最強の≪聖騎士≫にして、最悪のラスボス。
「……キリト、出来る限りソードスキルは使わないようにね」
「…ああ、コイツが茅場だって言うんなら、俺たちが使うソードスキルは全部知られてると考えていいだろう」
「うん。だから、
「…? ………! 分かった」
そうしてお互いに身構える。そんな僕たちに対して、目の前の相手は、ただ泰然自若に佇むだけだ。
「…来たまえ、受けて立とう」
それが、開始の合図だった。
僕とキリトは同時に飛び出し、まず僕が右ストレートを振りかぶり――
――――左の盾で、≪シールド・チャージ≫を操り出した。
「何ッ!?」
これには流石のヒースクリフも意表を突かれたらしく、自分の顔の前に迫った円形盾(バックラー)を十字盾で防ぐのが精一杯だった。
……自分の視界を塞ぐ形で。
「おおおおおっ!」
そこに滑り込むのは、この世界トップクラスの≪黒の剣士≫。放つのは、≪二刀流≫突撃技≪ダブル・サーキュラー≫。
だが必勝の二刀は、そこに滑り込んだヒースクリフの片手剣に防がれた。
「ちぃっ! 決まらなかったか」
「そうだね、でも良く分かったね、あの作戦」
「≪はじまりの街≫で一緒に過ごして、実は結構腹黒だと分かったからな」
…悪かったね。
「まあ、いいか。行くよ!」
「ああ!」
◇ ◇ ◇
そこからの戦いは、一進一退の攻防を見せた。
僕の≪鉄拳術≫は、全て手の内を知られており、おいそれとは出せない。≪体術≫も同様で、僕は上位格闘系の≪拳術≫用のナックル系武器は持っていない。必然的に、僕の攻撃力はほぼゼロとなっており、防御と相手の妨害に努めることになった。
相手の武器を円形盾(バックラー)で受け、相手の盾を素手でつかみに行き、はたまた体当たりで態勢を崩しに行き、または≪シラハドリ≫で敵の剣の確保に行った。
だが、決まらない。
すでにキリトは、トップスピードでの二刀流を繰り出し続けていた。その速さは、隣にいる僕にとっては、本当にシステムアシスト無しなのか疑いたくなるレベルだった。
それでも、ヒースクリフは淡々と、その剣の全てを、その≪神聖剣≫の代名詞である十字盾と剣で打ち落としていた。
(凄い集中力だな。……でも)
人間は、機械じゃない。ヒースクリフの反応速度は、キリトのそれより大きく劣る。それでも防げるのは、こちらがシステムアシスト有りのソードスキルを封じているのと、単純な集中力だ。
だが、機械でないからこそ、いつかは集中力が切れる。その時を待って、渾身の一撃を決めるつもりだった。
だけど、集中力が切れるのは、
「くっそおおおっ! これなら、どうだぁっ!!」
「……ッ! キリト、まだ早い!!」
一向にクリティカルが決まらない状態に、キリトがついにソードスキルを発動した。その技は、太陽のコロナのように繰り出される、脅威の二十七連撃。≪二刀流≫最上位ソードスキル≪ジ・イクリプス≫。
(しまった……!)
攻撃をずっと繰り出していたキリトのメンタルを、考えていなかった。集中力を十分に残した今の状態では、まず当たらない。
こうなったら、キリトの最後の攻撃にあわせて、自分も特攻を仕掛けるかと考えていた時――――声が、聞こえた。
「ユイちゃん、お願い……!」
『……分かりました、ママ!』
「………ッ!」
その声は明らかにアスナさんの方から聞こえ、システムに規定された麻痺が、GM権限によってほどけてきているのを感じた。
(マズイッ!)
今現在キリトはソードスキルの発動中であり、終わった瞬間に硬直状態に入るだろうが、それより少し早く麻痺が解けるであろうアスナさんがどんな行動に出るか分からない。キリトの方のフォローにまわったら、当然アスナさんのフォローが出来ないし、その逆も然りだ。
めまぐるしく動く状況に、次の行動を決めかねていると、キリトの方からガラスの砕けるような音が響いた。見ると、キリトの持っていた左手の白色の片手剣が、耐久の限界を迎えポリゴンの欠片へと変わっていく。それと同時に、ヒースクリフが右手の長剣を振りかぶり――――
立ち尽くしていた僕の横を通り過ぎ、キリトの前へと立ちふさがろうとする、白い華奢な影が一瞬目に入った。僕は瞬間的に行動を決め、≪鉄拳術≫移動用ソードスキル≪ザンエイ≫を発動させた。
まるでスローモーションのようにゆっくりと動く景色の中で、キリトの前へと立ちふさがったアスナさんを追い越し、後ろ手に二人を突き飛ばして――――――
――――――自分の心臓に迫る、一振りの刃を受け入れた。
二日続きの連続投稿第三弾終了です!
原作でも疑問に思った、アスナの麻痺解除。本作品ではこんな風にしてみました。
他に理由思いつかないしねぇ…
次の投稿は、正午予定です。