ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
今回、『アリシゼーション』につながるネタバレが存在します。WEB版の断片的な情報と、作者の推測を加えて書き記しました。
ネタバレがイヤなヒトは今回飛ばしていただいたほうが良いかもしれません。それでも話は繋がりますので(一応)。
SIDE:キリト
「――それじゃ、お兄ちゃん。気をつけてね」
「ああ、行ってくる。スグも戸締りはしっかりな」
そう言って俺は、スグが身支度の間に呼んでくれたタクシーに乗り込む。正直タクシー代は16歳の俺には痛い出費だが、今は一刻も早くアスナの元に辿り着きたかった。
◇ ◇ ◇
「くそっ、くそーーーーっ!」
崩れかけた部屋の中、レイジの消え去った床に、拳を叩きつける。自分でもどうしようもないほど、自分に腹が立っていた。
……レイジが消える原因を作ったのは、俺だ。
俺が最初に須郷を倒したときに、きちんと止めを刺していれば、こんなことにはならなかった。俺は自分のしたことのツケを他人に払わせて、自分をフォローしてくれていた親友を、失う羽目になった。
俺は自己嫌悪で気が狂いそうだった。それこそ、今必死に涙を堪えながら、自分に抱きついて拳を止めようとしてくれているアスナがいなければ、自分で命を絶ちかねないほど。
「……ね、ねえ、お兄ちゃん」
そんなところに声をかけたのは、妹の
「そ、そんなに取り乱さなくても、これでSAOの皆は解放されるんだし、レイジ君とは
…そうか。そう言えばその辺りのことは話さなかった。
「――――リーファ。レイジは、全プレイヤーの中で、唯一現実の身体を持たないプレイヤーなんだ」
「え……?」
「レイジ君の現実の身体は、もう死んでしまっているの……」
これには一同、絶句した。
「バカな! ならばアイツは、一体なんだったというんだ!?」
「ま、まさか、本物の幽霊とか言わないヨネ…?」
ALOプレイヤーもこの事実に、驚愕を顕にしていた。まあ、イベントを進めていた人物が現実には存在しないと言われれば流石に驚くか。
「レイジは……死亡したプレイヤーと一体となったプログラム――――つまりはAIだ」
「なっ……」
シルフ領主のサクヤも、リーファもこれには声も出なかった。流石にそんなSFじみたことが現実に起こるとは思っていなかったのだろう。
「レイジにとって……実際に動かせるのはこの仮想世界の、あのアバターだけだ…。こちら側でアバターが消滅してしまっては、プログラム本体がどうなってしまうか分からない。もしかしたら……」
その先は、言えない。言えば、ソレが本当になってしまうかも知れないから。
「――――心配は無用だ、キリト君」
そこに、そんな声が響いた。
「彼の状態は、私に任せたまえ。かなり変質してしまっているとはいえ、元々私が生み出したAIだ。プログラム本体を、必ず修復してみせよう」
「本当か!?」
「今回のSAOプレイヤー救出で、最大の功労者は彼だ。みすみす死なせはしないさ」
ヒースクリフはそこで言葉を切り、手元に発生させたウインドウを操作する。
「それより、君は現実のアスナ君の安全を確保したまえ。出来る限り、急いでな」
「……え?」
「須郷君は、いささか粘着質なところがある男だ。あそこまで完璧に叩き潰されて、君たちに何も危害を加えないということはあり得ない」
「――現実のアスナに、危険が迫るって言いたいのか?」
確かにその可能性はある。あの異常な男が、このままおとなしく警察に捕まるとも思えない。
「ALOプレイヤーの中立村への転移と、SAOプレイヤーのログアウトまで、後3分少々といったところか。キリト君、最後にコレを受け取りたまえ」
ヒースクリフがそう告げると、中空からキラキラと瞬く卵形の結晶が、ゆっくりと降りてきた。慌てて両手を前に差し出し、受け止める。
「コレは?」
「それは、『世界の種子』だ」
その言葉に、訝しい視線を向ける。…『世界』?
「芽吹けば、どういうものか解る。どうするかは君に任せるよ。忘れるのも一つの選択肢だ……だが、もし君があの世界に憎しみ以外の感情を抱いているのならば……」
そこでヒースクリフは瞑目し、言葉を切る。
「…最後に、一つ言い忘れた。君たちに施した、ソードスキルとSAO時代の武器の解放は、このALOというゲームのバランスを崩しかねない行為だ。君たちはSAOプレイヤーと同様ログアウト処理を受け、そこでソードスキルと武器の消滅処理を受けることになる。心の準備は、いいかね?」
「そうか…やはりな……」
今回俺たちがしたのはゲームプログラムの改造、いわゆるチート行為だ。他に方法がなかったとはいえ、決して褒められたことではないし、今後もその恩恵を受けるのは許されることじゃない。
半ば無意識に、両手が肩口の鞘に収められていた愛剣に伸びる。右手には黒一色の剣――エリュシデータ。第50層フロアボスのLAボーナス品で、あれからずっと俺と一緒に戦ってくれた相棒。左手には透明度のある青みがかった白の剣――ダークリパルサー。リズが心を込めて鍛えた、想い出の剣。
「――――ありがとう、な」
知らず、言葉が出た。それは長い間自分とともに歩いてくれた掛け替えの無い『相棒』への、ねぎらいの言葉。
「…そうだね。私もありがとう、だね……」
視線を横に向けると、アスナもまた
「……そう言えば、キリト君。ユイちゃんは、どうなるの……?」
顔を上げ、アスナがそんなことを聞いてきた。だけど、心配は要らない。
「ユイの基幹プログラムは、俺のナーヴギアの中だ。どれだけ時間がかかっても……いつかきっと
「――はい。待ってます、パパ」
「……そうだね。私もユイちゃんに、向こうでもう一度会いたいよ…」
そう言って、肩に腰かける小妖精姿のユイの頭を指でなでる。――――そう、いつか、きっと。
「そろそろだ……また会おう、キリト君、アスナ君」
ヒースクリフのそんな言葉とともに、俺たちの意識は現実へと帰っていった。
◇ ◇ ◇
現実に戻った俺は、急いで身支度を整え、直葉に頼んで呼んでもらったタクシーへと乗り込んだと言うわけだ。須郷よりも早く着くためには、どうしても車という交通機関が必要だった。
(待っててくれ、アスナ……!)
心の中の焦りを必死に押し殺し、俺は雪が降り始めた外の景色を睨みつけていた。
SIDE OUT
◇ ◇ ◇
……暗い……眠い……
身体は、まどろみに包まれている。腕も、脚も、身体は倦怠感に囚われて、少しも動かすことが出来ない。
(これ……やっぱり死んじゃったのかな……)
以前に経験した時は、無我夢中で、ただただ恐怖を抱いただけだった。今はなぜなのか、凪のような穏やかな気分だった。
「――――あきらめるのかね?」
そんなときにどこか腹の立つ声が響いた。――誰だっけ、これ。
「もう自分はここで終わりだと、死んでしまったと、何もかも投げ出すのかね?」
……そんなこと言われたって、もう指一本動かないんだ。これ以上どうしろって――――
「――――今、現実のキリト君とアスナ君に、危機が迫っている」
――――ピクリ、と凍った心のどこかが僅かに反応する。
「須郷君は、あえて言うならば蛇のようなところのある男だ。あれだけで諦めることはないだろう」
心に、ほんの僅かな、炎が、灯る。
「――――さあ! 立ちたまえ、『我が息子』よ!」
その言葉に、声に、
SIDE:ヒースクリフ
――今、私の目の前には、僅かに光を宿した砂状のポリゴン片が降り積もっている。これは彼であったものであり、これから全く違うものになるであろうものだ。
私は先ほどから、彼に声をかけ、キリト君とアスナ君の危機も伝えた。
(後は君次第だが……君ならば大丈夫だろう)
私は、確実に彼が蘇ると確信していた。なぜなら、その証拠を既に見せてもらったから。
(なぜなら――――君は死亡後も、≪アシュラハオウケン≫を放つことが出来たのだから)
本来SAOであろうが、ALOであろうが、死亡したプレイヤーはその位置情報を固定化され、
(それはつまり、君が『あのシステム』を発動させたということ……そして、あのシステムを発動させる前提条件を満たしたからに他ならない)
そう頭の中で結論を出した時、まるで呼応するかのように、ドクンドクンという光を放つ粒子は、少しずつ、本当に少しずつ寄り集まっていく。
「システムの前提条件――――すなわち、『魂』と『意志』持つ、『人間』になったということだ」
視線の先で寄り集まった粒子は、一つの形を為した。ソレは、脈動するように揺れる、光を内包した小さな結晶。そしてその結晶から、一人のアバターが形成される。
「――気分は、どうかね?」
「――目の前に絶世の美女がいない辺り、『最悪』かな? 『クソ親父』」
SIDE OUT
と、言うわけで、レイジ復活!しかも『魂形成』!!
当初プロットを起こした時、ALOは『現実に出るためのイベント回』としてました。そのためAIである彼が外に出る理屈をつけるため、最新のアリシゼーションから『揺れ動く光』を持ってきたり、その前のバトルでHP0なのに動かしてみせたりと結構大変でした。作者はWEB版見たことないので、全部聞いた知識と、20年後に当たりそうな『アノ世界』の知識で作りましたがいかがでしょうか?
『揺れ動く光』が結晶に包まれてたのは、アリシのシノンのイメージ映像からですね。
ちなみに前回の『太陽の炎』みたいな輝きは、≪過剰光≫だったりします。
ここで一つお知らせ。最近仕事が忙しく、その上正式版のストックが切れているため、来週は一度休むかも知れません。もし投稿がなければ、間に合わなかったんだな、とお察し下さい。よろしくです。