ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男   作:路地裏の作者

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今回、初のキリト視点に挑戦。原作での細かいゲーム設定の語り口が、上手く出せてるといいけど…

そして今回、鉄拳術の『リスク』の一つが判明。しかもまだ一つ目でしかないという…



002 鉄の拳と二刀流

SIDE:キリト

 

 ……何が起こったのか、分からなかった。

 

 目の前には、猛ダッシュからの体当たりを喰らわせ、両足を大きく開いて佇む、レイジの姿があった。そしてそこからはるか向こう、壁際にめり込んでいるのは、間違いなくこの階層のボスだ。

 

(壁戦士(タンク)職が、ボスを吹き飛ばした?!)

 

 本来壁戦士(タンク)は防御が主体であり、その性質上、金属製の重装備を着けるため、筋力は上げるが攻撃は重量武器に頼らざるを得ない。それにしたところで、今度はその鎧がジャマで、威力などダメージディーラーには劣るものなのだ。

 

 その上レイジは・・・SAO唯一の、素手(・・)の壁戦士(タンク)なのだ。

 

 かなり前の階層(エリア)ボス攻略パーティーのとき、俺はレイジがアスナに注意を受けているのを見かけた。

 

「壁戦士(タンク)なのに、武器も持たないなんて何を考えているんですか!」

 

 こんな感じで怒られていて、そのときのアイツの答えは、

 

「スキの少ない素手の攻撃で手数を増やして、敵の憎悪値(ヘイト)を稼ぐためです」

 

 この答えには、流石の彼女もぐうの音も出なかった。MMORPGでは、壁戦士(タンク)の役割は後ろの味方を守ることであり、攻撃することではない。そのため、攻撃には威力よりも、相手の気を引くことがより多く求められる。

 

 このデスゲームはかなり優秀なMob用のAIを搭載しているため、ダメージもそうだが、急所への正確な攻撃、手数も重要なのだ。これらが多い攻撃が、より多くの憎悪値(ヘイト)を稼ぎ、敵の攻撃をひきつけることが出来る。

 

 そうした意味からすれば、ある意味彼は壁戦士(タンク)として忠実に働いているとも言える。実際彼はアスナの所の団長、≪神聖剣≫ヒースクリフと同等といっても過言ではない壁戦士(タンク)であり、多くの仲間の命をその盾で守ってきた。そのため、それ以降アスナを含め、誰一人彼に文句を言う人間はいなかった。

 

 

 だが、彼は壁戦士(タンク)としては認められているが、決してダメージディーラーではない、というのも『攻略組』全体の認識だった。

 

 

 今、その常識は、目の前で大きく覆されることとなった。なぜなら……

 

(ボスのHPが、2割強は減ってる……!)

 

 先ほどまで、≪軍≫のヤツラの攻撃で、半分ほどしか減っていなかったHPが、一気に減って5本目のバー、つまりレッドゾーンにまで突入していた。つまりは、レイジの今の一撃の威力は、それほどまでに段違いに強いということだ。俺の切り札であるアレ(・・)と比べても、一瞬の爆発力ならあっちに軍配が上がるだろう。

 

 ・・・と、まあ、こんなことをつらつらと考えていたため、駆けつけようとしていた俺やアスナの足が、思わず止まってしまうのも無理はない話だ。

 

 

「オメエラ、止まんじゃねえ!!」

 

 

 そんな叫びを出しながら、後ろから必死に俺達を追い越していったのは、レイジが所属するギルド≪風林火山≫のリーダー、クラインだ。

 

「ボケッとすんな! ウチのギルドは、≪軍≫のヤツラの避難! キリトとアスナは、俺と一緒にレイジの奴の救出(・・)だ!!」

 

 ……救出?

 

「オイ、クライン。レイジの救出って何だよ? むしろアイツ、一人でボス倒しちまいそうじゃないか?」

 

 足を急がせ、クラインに並びながら尋ねる。さっきの威力なら、むしろ近くにいたらジャマでは?

 

 

「バカヤロウ! アレはな、レイジの『切り札』はな………………出した後、しばらく動けなくなんだよ!!」

 

 

 

……

 

………

 

「「はあっ!?」」

 

 その言葉に慌てて視線を前に戻すと、吹き飛ばされた山羊頭のボスが、自分に大ダメージを与えたレイジを最大の脅威と認識したのか、他には目もくれず猛突進してきていた。その間、レイジは全く動いていない。

 

「大変!」

 

 この光景に慌てたアスナが、その敏捷値と出の早い≪細剣≫の特徴を活かし、突進してくるボスとレイジの間に割り込んだ。

 

「ハアッ!」

 

 一呼吸の間に巻き起こる、純白のライトエフェクトを纏った流星。≪細剣≫上位ソードスキル、≪スター・スプラッシュ≫。アスナの得意技が見事に決まった。その連撃に、山羊頭は出鼻を挫かれ、体勢を崩した。

 

「「スイッチ!!」」

 

 短い掛け声と共に、アスナと位置を入れ替え、攻撃に移る。選ぶのは片手用直剣の重攻撃ソードスキル≪ヴォーパル・ストライク≫。

 

「ッラアッ!」

 

 俺とアスナに続けとばかりに、クラインの奴もカタナの斬撃系ソードスキルで攻撃する。……だが。

 

『ゴアアアアッ!』

 

 このボスは、やはりかなりの強敵だ。大剣を振り上げ、なぎ払いのソードスキルを繰り出してきた。俺たち全員が、その攻撃を自身の武器で受けようとしたところ―――

 

 

「―――ゴメン、遅れた」

 

 

 そんな声と共に、スキルの硬直から解放されたレイジが、大剣を左手の円形盾(バックラー)で受け止めていた。

 

『ゴ、ゴアアアアアアアッ!』

 

 山羊頭は咆哮を上げ、何度もその手の武器を振り下ろした。だが、当たらない。俺、アスナ、クラインには、一発も届いていない(・・・・・・・・・)

 

 目の前のレイジは、微妙に短いステップで位置を変えながら、全ての攻撃をその盾で受け止めていた。これこそが、俺たち『攻略組』が壁戦士(タンク)として、レイジを信頼する所以だ。

 

 レイジの奴は確かに壁戦士(タンク)ではあるが、その装備は同じ壁戦士(タンク)の最高峰、≪神聖剣≫のヒースクリフに比べれば軽装だ。胴は革鎧、両手に革製グローブ、革製コートにズボンにブーツと、これだけ見ればとても壁戦士(タンク)とは思えない。それでも壁戦士(タンク)として成り立つのは、グローブや鎧、ブーツの要所要所には、金属や硬質の輝石を『装飾品』扱いで付加する事でその部分の防御力を稼いでいるからだ。

 

 そしてヤツの最大の特徴は、その手に持つ円形盾、≪アダマス・バックラー≫だ。この盾は、本来只の金属盾だが、その中心にはまった輝石がとんでもない。装飾用輝石≪アダマス≫。大粒のダイヤのようなあの石は、防具につけた場合、要求筋力値が跳ね上がるが、その分防御力も規格外へと変わる代物だ。採取のためには、50層の洞窟奥地に眠る、水晶をくっつけた巨大亀を単独撃破する必要があるが、この亀、防御力と戦闘時回復(バトルヒーリング)がとんでもなく、俺も狙ったが切り札を切っても相手の回復の方が早く断念した経験がある。ちなみにこの輝石は、はめるにもマスター級の細工師が必要で、レイジはかなり苦労して見つけ出したとは聞いている。

 

 今現在、アイツ以外にはあの輝石をはめた盾を持つ者もいないことから、アイツの二つ名はその石にちなんで≪金剛≫となった。そしてアイツは、その盾以外の装備重量を極力抑え、素早くステップを切りながら、相手の攻撃に対処する独特の防御をする。

 

 そんなことをしてもダメージディーラーの邪魔にならないのは、アイツが上げているもう一つのスキル≪聞き耳≫のせいだ。異常なほどこだわってあげた≪聞き耳≫で、アイツは周りの『音』を全て把握し、攻撃のジャマにならない位置を常に選んで防御する。攻撃役の人間を常に考えて動く壁戦士(タンク)であるため、アイツは≪風林火山≫以外の人間からも好かれている存在だ。

 

 防御を、完全にレイジに任せ、俺、アスナ、クラインはそれぞれの武器で攻撃を加え続けた。だが、倒れない。やはり圧倒的に、攻撃役も防御役も足りていない!

 

「今のうちだ! ≪軍≫のヤツラは、早く転移結晶を!」

 

「だ、だめだ……結晶が、使えない」

 

「な………」

 

 ということは、ここは『結晶無効化空間』!? しかも悪いことに、≪軍≫のヤツラは混乱して逃げ惑ったせいか、部屋の中央、入り口よりにいる俺たちと違い、部屋の奥側の角にいた。これじゃあの人数を逃がすことが出来ない!

 

「レイジ、あのスキルもう一回出来ないか!?」

 

「あのスキル群は、どれもこれも硬直時間が長いから……ここで壁戦士(タンク)が抜けるほうがヤバイと思う」

 

 ……仕方ない。

 

「アスナ、レイジ、クライン十秒持ちこたえてくれ!!」

 

 そう言って、重攻撃を放った反動で、離れる。ここでコイツを倒すには、俺の切り札(・・・)が必要だ。

 

 右手を振って、メニューから装備ウィンドウとアイテムウィンドウを出し、アイテム群から一つのアイテムを出し、装備フィギュアに重ねた。

 

「いいぞ!」

 

 その声と共に繰り出されるアスナの≪スター・スプラッシュ≫。その横をすり抜け、先ほど装備した二本目(・・・)の剣と共に前へ出る。

 

 エクストラスキル≪二刀流≫。攻撃力特化(ダメージディーラー)ビルドの、俺の『切り札』。

 

 

「ハアアアアアアッ!!!」

 

 

 裂帛の気合と共に、その両手の黒白の直剣が振るわれる。右の切り上げ、左の横薙ぎ、両手の袈裟切り……一度では終わらず、何度も何度も。

 

 ≪二刀流≫上位ソードスキル、≪スターバースト・ストリーム≫。合計で十六回にも及ぶ連撃が、山羊頭の残りのHPを、綺麗に消し飛ばした。

 

 

『ゴアアアアア・・・・・・』

 

 

 そんな断末魔を上げ、山羊頭のボス≪The Gleameyes≫は、その身体をポリゴン片へと変えていった。

 

「終わった……」

 

 たった半日ほどの間に巻き起こった、嵐のような展開を思い、俺は地面の上に大の字となった。

 

SIDE OUT

 




というわけで、リスク一つ目は『硬直の異常な長さ』でした。どのくらい続くかは次回詳しく説明します。

これくらいしないと、エクストラのくせにユニークより強くなっちゃうからねえ…

そしてもう一つの『リスク』は、このデスゲームでは致命的です。詳しくは次回♪
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