ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男   作:路地裏の作者

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GGO第二話、投稿です!

なんとこの位置に、『あのイベント』があります。



002 降臨せしは黒鉄の城

 

 5月。東京。

 

 あの引越しから約二ヶ月。ようやく新生活にも慣れ、学校にもそれなりに友人が出来始めた。しかし―――

 

 学校では、基本的に、僕がレイジというプレイヤーだったことは秘密である。なぜなら、どうも『攻略組』の一部の情報がネット上に上がっているらしく、その中で僕は、『命を懸けて魔王を道連れにした悲劇の英雄』になっているらしい。

 

 ……確かに、あのとき茅場ことヒースクリフの剣を、身体に受けた。死も覚悟し、最後の力でアイツの剣を抑え込みもした。でもだからって、英雄扱いしなくても良いだろう! おまけに死んだことになってるし!

 

 そのため学校内では、わざとらしいくらいビン底の眼鏡をかけ、誰だか分からないような風貌で過ごすしかなかった。死んだはずなのに普通に歩いてるなんて、何のコントか分かりゃしない。

 

 元々この身体は目が悪かったらしいが、原因は『液晶画面の見過ぎによる視力低下』だったため、二年以上寝てたら自然と治っていた。そのため本来は眼鏡なんてかける必要は無いんだ……! それなのに、それなのに、状況がそれを許さない……!

 

「はあ、そこんとこどう思う? サチ」

 

「あ、あはははは……」

 

「自業自得よ」

 

 非常に不機嫌な口調で突っ込みを入れてくれたのは、僕やサチと席を同じくするSAOの武器屋だったリズさん。この人には≪風林火山≫時代にメンバーの武器でお世話になったが、僕が全く店を利用しないので、どうにも拗ねたような発言をされる。もっとも今回不機嫌なのは、それだけではないらしく――

 

「もー、リズ……いえ、里香さん。趣味悪いですよ、覗きなんて」

 

 そんな声を出したのはキリトの友人で、ビーストテイマーのシリカこと珪子さん。ちなみに場所は学校のカフェテラス。窓際の日当たりの良い席で、眼下には……

 

「あー、あー。あんなにくっついて……」

 

 木陰で一緒に食事を楽しんでいる、キリトとアスナさんが見えると言うわけだ。どうやらシリカもリズさんも、キリトに気があるようだが、アスナさんがALO事件でも被害者だったと言うことを聞くに及んで、五月一杯はあの二人を静かに見守ろうという≪一ヶ月休戦協定≫なるものを結んだそうだ。

 

 ……それ自体はいいんだけど、後でリカバリー出来ない差を作られるとは考えなかったのだろうか?

 

「もー、二人のことは一時置いとこうよ。それより、皆は今日のオフ会行くの?」

 

 サチの言葉で、話題は本日のオフ会、≪SAO攻略記念パーティー≫へと移っていった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 学校が終わり、着替えるために一時家へと帰宅する。アパートのコンクリート製の階段を上がっていくと、隣の部屋からなんともにぎやかな女性の話し声が聞こえてきた。

 

(ハア、またあの子達か……)

 

 隣の部屋には、なんとも見た目大人しそうな『朝田さん』という少女が住んでいるが、最近になって彼女の友人と思しき女子高生が、何人か出入りするようになった。一見して、なんともケバケバしい化粧をした少女達だったのを覚えている。

 

(でも、あの子達と、朝田さんが友人という感じがしないんだよなあ……)

 

 そう。どうにもあの子達は友人とか仲間という印象を受けない。SAO時代の勘でしかないが……

 

(むしろあの子達からは、犯罪者(オレンジ)プレイヤーと同じ印象しか受けない)

 

 まあ、交友関係は人それぞれか。

 

 僕はそこで思考を中断し、鞄を置きに家へと入った。

 

 鞄を置き、制服をハンガーへとかけ、着替える。変装用の眼鏡を外し、身に着けるのは運動用のトレーニングウェア。

 

「今日は……5kgで行ってみるか」

 

 トレーニグウェアに包まれた手足に、重りを取り付ける。これは、リハビリ中から医者や看護師に隠れて行っていたトレーニングで、松葉杖が無くなった一月ほど前から鍛え上げ、今では自分の身体は一般人レベルの体力は取り戻しているとは断言できる。

 

 だけど、足りない。自分の取り戻したいのは、『SAO時代と同レベルの身体能力』であって、こんなものでは全然足りない。

 

 自分は、この身体の記憶こそ残っているものの、自分自身として動いていた感覚が残っているのは、あくまでSAOの中でのことだ。そのため、現実の身体にはひ弱で壊れそうな印象しか受けず、リハビリの目を盗んでは、オーバーワークともいえるトレーニングを行ってきた。実際引越しの時の松葉杖は、キリトたちは真相を知らないが、オーバーワークによる肉離れが原因だったりする。

 

 今日周るコースを考えながら、玄関を出ると、ちょうど帰ってきたのか、お隣の朝田さんと目が合った。

 

「あ、こんにちは」

 

「こんにちは……ジョギングですか?」

 

「ああ、まだ体調が思わしくないからね。慣らしだよ」

 

 嘘である。むしろ慣らしではなく、『修行』が一番しっくり来るかもしれない。しかしそんなにペラペラと喋ることでもないので、そのまま言葉少なく出発することにする。

 

 ちなみに、彼女にはしょっちゅうジョギングのたびに顔を合わせるので、健康的な人という印象を与えていたりする。……実際には、そのうち≪コボルド≫クラスを素手で倒せるくらいには『回復』したいとは考えているのだが。

 

「そう言えば、駅裏の商店街、今日は卵が安いらしいよ?」

 

「ほ、ホントですか? …しまったなあ、スーパーで買ってきちゃった……」

 

 お互い一人暮らしらしいということは、隣に住んでいればイヤでも察するので、こうして時折有益な情報を交換したりする。……まあ近所の安売り情報が主だが。

 

「それじゃ僕はこれで。また何か安い食料品の情報とか仕入れたら教えるよ」

 

「あ、私も探してみますね。それじゃどうも」

 

 僕は彼女の横を通り過ぎ、いつもより長めのランニングコースへと向かった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 あの後ランニングから帰って、シャワーを浴び、オフ会に出向いた。……ただ何と言うか、参加してる女性陣のほとんどがキリト・ハーレムのメンバーかと思うと、暗鬱な気持ちにもなったが。

 

 二次会はALO内部でやる予定なので、一度家に帰ってログインすることになったのだが。

 

(まだ騒いでるな……)

 

 隣の話し声が消えていない。最近になって、あの女子高生達は、朝田さんの家を私物化している印象を受ける。実際彼女は最近では勉強道具を持って図書館に出かけている姿をよく見かける。酷い時になると、あの子達は酔ってこの家に泊まる時まであるようだ。

 

「ん?」

 

「あ、どうも」

 

 ちょうど家から出ようとしていた朝田さんと、遭遇した。手にがま口を持っているところを見ると……

 

「コンビニ?」

 

「あ、はい。ちょっと飲み物を買いに……」

 

 そういうと彼女は少し顔を伏せた。この様子だと、中のヤツラに要求されたか。

 

「夜道は物騒だし……なんなら付き合うけど?」

 

「あ、いえ、大丈夫です。すぐ近くですから」

 

 やんわりと拒絶された。まあ隣に住んでるだけの男に、警戒するのは当たり前か。

 

「なら良いけど……その内何か困ったことでもあったら言って。出来る限り相談には乗るから」

 

 どうにも気にかかる。中のヤツラは、ここまで来ると、オレンジ予備軍と言えそうだ。

 

「大丈夫です……お気持ちだけ頂いておきます」

 

 そう言って彼女は、階段を駆け足で降りていった。

 

(ハア、これ以上強く言えないし、しょうがないか)

 

 実際ただの隣人であるため、彼女の交友関係にクチを出す権利はない。それでも気になってしまうのは、SAO時代からのクセと言える。

 

「ハア、切り替えよ……≪リンク・スタート≫!」

 

 寝台に横になり、別世界へと続く、魔法の言葉を口にした。

 

 システムが起動し、≪アルヴヘイム・オンライン≫の世界へと繋がる。新たに新生したこの世界では、≪SAO生還者≫は以前のデータを引き継いでプレイすることが可能だ。僕も多分に漏れず、ギルド≪風林火山≫のタンク・リーダーのスキル値はそのまま引き継ぐことが出来た。

 

 ただこの世界に純粋な人間種族は存在せず、九つの妖精から選ばねばならないため、僕はその中から相棒のメアの能力を最大限引き出せる≪猫妖精(ケットシー)≫を選んでいる。元になった動物はどうやらライオンらしく、頭の上部に若干丸っこい猫耳が生えており、尻尾には筆のような房飾りが付いている。それ以外はSAOと同じで、純白の髪もそのままだ。

 

 もっとも、今日まで(・・・・)はソードスキルが存在しないために、≪鉄拳術≫も使用できず、本当にただのタンクとしてしか役に立てなかった。ナックル系の威力が上がる≪拳術≫スキルなどとっていないため、今現在パーティー内では最弱キャラである。

 

「遅かったね、どうしたの?」

 

 そう声をかけてくるのは、音楽妖精(プーカ)となったサチ。彼女はあまりフィールドに出ず、主にエギルの店で店員兼コック兼歌手となっている。彼女がそこで働くようになってから、このALO内に開いたエギルの店の売り上げは倍増した。

 

「いや、ちょっとお隣さんと話し込んでてね」

 

 そうしてログアウト場所に選んでいた宿屋を出る。ここは、≪央都アルン≫。あの日世界樹に挑んだ、想い出深い街だ。

 

 そのまま二人連れ立って、集合場所の広場、かつてのグランドクエスト挑戦の門へと向かう。すると、なぜか―――

 

「久しいな、レイジ君」

 

「サ、サクヤ様。余りくっつかないで下さい。こんなところリーファちゃんに見られたら…」

 

「遅いヨー、幽霊君」

 

「ふ…こうして会ったからには、再び剣と拳を交えたいところではあるがな」

 

「まったくだな、ユージーン。わざわざサラマンダーではなく、ケットシーを選んだ奴には制裁が必要だろう」

 

 シルフ領の領主、サクヤさん。リーファのフレンドのレコン。ケットシー領の領主、アリシャ・ルーさん。サラマンダーの将軍、ユージーンさん。サラマンダー領の領主、モーティマーさん…何故ここまでそうそうたるメンバーが?

 

「何、我々も今回のアップデートの話を聞いてな」

 

「そんな楽しそうなこと、ミンナだけで独り占めなンて、ズルイヨー?」

 

「何せ伝説の城だ。腕が鳴るというものだ」

 

「あー、なるほど」

 

「同じプレイヤーで、しかも他の種族を選んだ以上、キミとはいずれ戦場で会うこともあろう。所詮『戦術では戦略には叶わない』ということを、今日の戦場で教えてあげよう」

 

「随分アツイ、宣戦布告(ラブコール)ダネ? 負けてられないヨー、幽霊君?」

 

「はは……それでは、仰せのままに、我が領主様」

 

「モー、固いナー」

 

 そんなことを話し込んでいると、突如として鐘の音が鳴り響いた。アップデート開始の合図だ。

 

「……来るぞ」

 

 上空の月にかかる影。それはその存在を誇示するかのように、徐々に大きくなっていく。

 

「黒鉄の城、浮遊城≪アインクラッド≫……」

 

 僕たちSAO生還者達が二年のときを過ごした呪いの地、虜囚の地でもあり、また掛け替えのない時間を過ごしたもうひとつの『現実』。

 

 僕はスキルウィンドウを出し、あるひとつのことを確認する。それは、ソードスキルが無いために、ただ存在するだけとなっていた、自分のもっとも信頼するスキル。

 

 

 格闘系最上位スキル≪鉄拳術≫。

 

 

 アインクラッドの実装に伴い、ユニークスキルを除く全て(・・)のソードスキルが解禁されたことにより、最上位のエクストラスキルである≪鉄拳術≫もまた、封印を解かれた。

 

(もう一度あの城に挑む……今度は、最後までよろしくな、相棒(・・)

 

 心の中で呼びかけ、ふとかつてガーディアンが守る門が存在した場所を見上げる。そこにはかつての門は無く、代わりに白亜の石版が鎮座していた。

 

 

『生きとし生ける全ての妖精を、重力の鎖より解き放ちし勇者達に捧ぐ――』

 

 

 そう書かれた石版には、あの日グランドクエストに参加した全てのプレイヤーの名が刻まれていた。まるで黒鉄宮の≪魂の碑≫とペアになるような色合いに、我が事ながら少し呆れた。

 

 口元でほんの少しだけ微笑み、相棒の背中に跨ると、サチ、エギルさん、リズさん、シリカなど、多くの仲間と共に、上空で待つキリトのところへと駆け上がっていった。

 




と言うわけで、原作でのALO編終了でした。
時系列順にやると、どうしてもこの位置になるんですよね……

最後の方に描かれた石碑は、三種族との交渉のときに語られたものです。滅茶苦茶目立ちます。

ちなみにメアは、アリシャから返還してもらいました。ダンジョン内での飛行手段は重宝します。

途中で少し触れましたが、この世界ではネットで話題のSAOクリアの英雄は勇者、姫、阿修羅の三人です。しかも一人は死んだことになってます。誰が誰かはもう言うまでもありませんね☆
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