ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
ところで、あのMob女子高生って名前なんだっけ……
5月末。東京。
とある土曜日、レイジこと優矢は、旧SAOのギルド≪風林火山≫のメンバーと共に、ヨツンヘイムの邪神級モンスターと一戦交えていた。……が。
(威力が足りない……!)
ソードスキル実装に伴い、解禁された≪鉄拳術≫ではあったが、レベル・スキル制併用だったSAOから、完全スキル制のALOに移行する際に変更を施されていた。
――要するに、弱体化である。
まあ、考えてみれば当たり前のことで、ALOは対モンスターだけではなく、対プレイヤーをも主眼に置いたゲームであり、余りにも威力の大きなスキルが存在すれば、それだけでバランスを欠いてしまう。
属性の付与によって、相手の魔法への対抗手段となり得る可能性もあるものの、威力的には両手用大型武器となんら変わらないところまで落ちてしまった。その分異常に長かった硬直も短くなったので、スキルの使い勝手自体は上がっているが。
一応一撃必殺スキルであった≪アシュラハオウケン≫は、邪神にも対抗しうる攻撃力を保持しているものの、必然的にHPが長時間1になってしまうため、おいそれと使えない。今のキャラの位置づけは、攻撃もそれなりの壁戦士(タンク)と言ったところか。
『ぼぼるううううう!』
「ブレスくるぞー!」
「みんな、僕の後ろに!」
まあ、今確実に役に立てることといえば。
「フッ!!」
ライトエフェクトを纏い、左手の盾で相手のブレスをなぎ払う。盾用単発重攻撃ソードスキル≪シールド・チャージ≫。≪地≫の属性を持ち、魔法への相殺効果が高い。
こうして、魔法攻撃からパーティーを守ることだろうか。
◇ ◇ ◇
「ふう……」
ALOからログアウトし、ベッドの上でアミュスフィアを外す。あの後、何体か邪神を狩ったものの、ポーションも少なくなったため、地上の最寄の街へと戻り、そこでログアウトとなった。
(しかし、相変わらず威力が足りないな~)
弱体化による、威力不足は深刻である。前までなら危なくて、人に向かってはほとんど撃たなかったコンボを全部つなげでもしなければ、対応できそうに無い。
(後の対抗策は……
オリジナル・ソードスキル。たいてい自分の武器での連撃となっているが、僕の場合は、自分の身体そのものが武器である。
(威力の低い技から高い技への、つなぎ技……後は、転倒や
技の性質そのものに、そうした相手の行動を阻害する攻撃を混ぜるのもかなり有効である。もっとも、格闘ゲームによくある上空への『浮かせ技』は、翅があるため無意味だが。
「いろいろ考えないとな……ん?」
そんなことを考えていると、隣の部屋から、複数の男性の話し声が聞こえてきた。
(確か、ALOに入る前……昼過ぎには、朝田さんが出かけるような音が聞こえたんだが?)
学校の友達でも連れてきたのだろうか? それにしては、隣から聞こえてくるのは、いつものうるさい女子高生の笑い声だけの気がする。
(でも、笑い声だし……争う音や、悲鳴は聞こえてないな)
現段階で勘ではあるが、あの女子高生は、
だが、今のところそうした様子も見られないため、まずは安心といったところか。
(っと、まずい。通りの向こうのスーパーの、タイムサービスが始まる)
考え事で時間を食ってしまった。急いでベッドから降り、外出着に着替え、エコバッグを持って外に出る。
「あ、こんにちは。……いや、お帰りなさいか」
「あ、どうも」
ちょうど、隣の朝田さんが帰ってくるところだった。どうやら図書館にでも行っていた様子で、手には重そうなハードカバーの小説が握られている。
「今日は家で、何かパーティーでもやるの? 随分にぎやかだね」
「…………え?」
予想外の言葉と、部屋から聞こえる複数の男性の声に、朝田さんの顔が蒼白になった。
◇ ◇ ◇
そこからが大変だった。朝田さんはマンションを駆け降り、携帯端末で警察を呼んだ。だが、中にいた朝田さんの知り合いの女子高生達は、『知人である』と主張し、その一方で朝田さんは顔色を蒼白にしており、明らかに部屋から出てきた男性陣に恐怖を抱いているようだった。
このまま双方の意見が平行線を辿ると、あの女子高生達も大した説教も受けずに帰され、最悪朝田さんに危害を加える可能性もあると考え、僕は助け舟を出すことにした。
「あー、おまわりさん。すいません。家主の朝田さんに、警察に連絡するよう言ったのは、僕です」
その言葉に、朝田さんが吃驚したような表情を浮かべたが、何とか目配せを送り、余計なことを言わせないようにした。
そこから、女性の一人暮らしの部屋に、複数の男性の話し声が聞こえたこと、また家主の女性が外出中で、男性が訪ねてくるような予定もないと確認できたことから、強盗や空き巣の可能性もあると言うことで、警察を呼ぶように言った事にした。
実際男性達は、家主とは顔見知りではないようだし、詳しい事情は警察なり交番なりで聞くことにしてはどうかと提案し、移動することとなった。ちなみにアルコールの検査も行ったほうがいいこと、朝田さん本人は図書館から帰ったところなので、貸出カードの入館記録でどのくらい図書館にいたかもわかるだろうとは進言しておいた。アルコール検査のくだりで慌てる人間がいたが、オレンジ予備軍には容赦しない。可能なら、かつてのSAOのように、OSEKKYOUをしたいところだ。
で、もろもろの事情聴取が終わり、あの女子高生軍団は飲酒も判明して、警官からありがたいお説教をいただくこととなった。ちなみに家主の朝田さんは合鍵を半ば強制的に要求されて、家を飲み会の場所にされていたことになったので、何とかその日のうちに帰れることになった。合鍵も戻り、家を占拠していた彼女らの荷物も、既に本人達が持って行っている。
「ふ~、すっかり遅くなっちゃったね」
「……はい」
隣を歩く、朝田さんの声が暗い。これは、もしや責任を感じて、自己嫌悪に入ってる? どっかの副団長さんと同じタイプか。
「あの、すいません。巻き込んじゃって……」
「ん? ああ、いいよ。これであのウルサイ子達も来なくなるだろうし」
むしろ心配なのは、朝田さん本人である。一応通報するよう進言したのは僕ということにしておいたが、どこまで効果があるか。家主の朝田さんを復讐の標的とすることも十分考えられるのである。
「あの子達が、また突っかかってくるようなら、声かけて。僕にも責任あるから、力を貸すよ」
「……いえ。これは、私がはっきりしなかったのが悪いんですから」
……やっぱり、アスナさんと同じタイプだ。自分で責任増やして、負のスパイラルに入るタイプだ。こういう人は、家族や友人が適度に重荷を減らしてやるくらいがいいんだけど、友人がアレだったからなぁ。
「あの、今日は本当に申し訳ありませんでした。私のせいでこんな遅くまで、警察にいることになっちゃって……」
「んー……」
正直このまま謝られ続けるのもアレなので、ここで一つ譲歩案を出すことにした。
「敬語」
「え?」
「もし朝田さんが、今回のこと、心苦しく思ってるのなら、これから敬語で話してくるのを止める。それでチャラ」
実際、どうにも堅苦しいし。
「え、あの、でも……」
「何だかんだでお隣さんなんだし、気兼ねなく話してくれたほうが、こっちも気が楽なんだよ。お願いできるかな?」
しばらく悩んだ様子だったが、やがて。
「あ、あの、わかり……いえ。わかった……」
そんなことを話しながら、僕たちは家路を急いでいた。
第三話、終・了・です!
鉄拳術に弱体化が入りました。まああんな高威力のスキル、普通に考えたらバランスブレイカーですから。
それに伴い、≪アシュラハオウケン≫も弱体化しています。もっともリスクに見合った性能は保持していますので、単に『百倍返し』のバグが修正されただけとも言います。
そして現実ではMob女子高生に、お巡りさんからOSEKKYOU・・・
普通、一人暮らしの女性の家に見知らぬ男性の声が響いたら、真っ先に犯罪沙汰を疑います。原作でも、通報されたから逆恨みって、最悪ですねこのMob。