ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
ついに、彼が出てきます。
そう、アリスを誘う、白兎(ホワイトラビット)が……
6月。東京。
家の近くの区立図書館で、僕は格闘系のグラフ誌を探し回っていた。
「んー、『リバーブロー』……右わき腹への痛烈な打撃で、相手の足を止める技……けど、ペインアブソーバーが効いてるしな」
何を探しているかと言うと、オリジナル・ソードスキル作成のための資料である。戦闘方法が格闘なので、実際の格闘技に参考に出来る資料はないかと思い、探しに来たのだ。
「『前掃腿』……下段への足払い……中国拳法の系列がいいか……」
≪鉄拳術≫は架空の格闘技能ではあるものの、ソードスキルの名称からすると、元になっているのは中国拳法である。どうせなら本場の拳法も取り込んで見たい。
「後は……『
対人で、ペインアブソーバー有りでやるのであれば、大丈夫でも本能的に避けてしまう攻撃がいい。そう思い、その辺りのグラフ誌・入門書と中国拳法のものをそれぞれ数冊手に取り、閲覧スペースへと向かう。
「ん? あれは……」
閲覧スペースの机を見ると、お隣の朝田さんが、大判のグラフ誌を眺めていた。近付いていって声をかける。
「朝田さ……」
呼びかける途中で、彼女の様子がおかしいことに気が付いた。呼吸が浅く、冷や汗と思える汗を額に大量に掻いている。その瞳は目の前のグラフ誌に留められており……『世界の銃器』?
「朝田さん」
「ッ!?」
声をかけた途端、短く鋭く息を呑む気配があった。それは、まるで今にも出そうだった悲鳴を無理矢理押し殺したかのようだった。
「落ち着いて、息を深く、長~く吸うんだ。はい、吸って――……」
「――ッ―――」
「吐いて――」
「―――はあああ~……」
その後数回深呼吸を繰り返し、ようやく人心地ついたのか、彼女が僕へと向き直った。
「あ、あの、すいません。銅島さん。この間から迷惑かけてばかりで……」
「敬語」
「あ、う、うん……ごめん」
……今の症状は明らかに、何らかの心的外傷(トラウマ)への典型的な拒否反応だった。MHCPのマニュアルに、こうした事態への対処方法は典型事例として載っている。今の僕は、MHCPではないけれど。
「何か飲んだほうが良いな……水分補給用の飲料水が置いてあるはずだから、取ってくるよ」
「あ、は、はい……いえ……うん、ありがとう」
幾分固さの取れたお礼の言葉に、振り向かずに手だけで対応し、閲覧スペースから少し離れた場所にあるミネラルウォーターへと向かう。振り向かなかったため、その間に彼女に声をかける存在には気が付かなかった。
「――銃、好きなんですか?」
◇ ◇ ◇
水を持って戻ってみると、朝田さんの隣に先ほどまでいなかった幼い印象の少年が座っていた。中学生くらいかとも思ったが、朝田さんに親しげに話すところを見ると、同級生か何かだろうか?
「はい、これ」
「あ、ありがとう」
「あ、えーと、君は?」
少年の質問を受けつつ、朝田さんの隣にいる少年の向かいへと座る。朝田さんの拒否反応は、『銃』と『男性』に見られるようなので、余り周りを取り囲まないほうが良いだろうという配慮だ。
「銅島優矢。朝田さんのご近所さんといったところかな。君は?」
「あ……ぼ、僕は、新川恭二。朝田さんのクラスメート、です」
互いの自己紹介を終え、その新川なる少年の話に耳を傾ける。……だが。
(さっきから、グラフ誌に載っている『銃』の話ばかりしているな……大丈夫だろうか?)
朝田さんは、曖昧な笑みこそ浮かべているものの、少し笑顔が引きつっているし、冷や汗も掻いているようだ。少し心配だな。
「朝田さん、具合は大丈夫?」
「あ、だ、大丈夫」
「そう……具合また悪くなったら、遠慮せず言って。付き添うから」
とりあえず一見楽しげに話すクラスメートを、おおっぴらに邪魔するわけにもいかない。そう思い、手元に置いた格闘系のグラフ誌に目を移した。
「あの……銅島さん、格闘技に興味あるの?」
そう言って、朝田さんが僕の手元のグラフ誌を覗き込んできた。まあ、こんなところで格闘技の本を読む人間も珍しいか。
「興味っていうか……研究だね。最近ハマッてるゲームの技の」
「え……もしかして、それってVRMMOですか?」
ここで、話に新川少年が加わってきた。この少年も、VRゲーマーかな?
「うん、そう。今やっているゲームで、自分が格闘技使うから、その研究」
「格闘技……そう言えば、格闘系のVRもあるって聞きますね」
あー、うん。確かにあるとは聞くけどね。
「いや、確かに聞くけど、僕がやっているのは、思い切り≪剣と魔法のファンタジー≫なんだよね」
「え? そんな中で、『格闘』してるの?」
……まあ、珍しいだろうな。当然好みはあるだろうけど、普通は武器持つか、魔法撃つ方が強いし。
「手が届く距離まで近づければ、武器があろうが、魔法があろうがおんなじだよ」
「ある意味凄い達人のセリフだけど……僕がやってるのは、魔法が出てこない、銃撃戦のゲームなんです」
……ん?
「それって……もしかして、≪ガンゲイル・オンライン≫?」
「あ、はい。やっぱり知られてましたか。結構あのゲーム話題になりましたからね」
ガンゲイル・オンライン。文明崩壊後の荒廃した世界を舞台に、銃撃戦を繰り広げる、いわゆるFPSの味付けをされたゲームだ。日本で唯一プロが存在する、『金の稼げる』ゲームでもある。
「確かあのゲームは、実際に存在する『銃』を使って撃ち合うことも可能なんだっけ?」
「はい。だからガンマニアのゲーマー達が、日本中から集まってきてますよ」
まあ、銃器に憧れる男子ってのは、かなり多いからな。『前』の僕も、VRでこそないものの、FPSで遊んだ記憶がある。
「あの……」
そんなところに、今まで話にあまり加わらなかった朝田さんが話に加わってきた。
「そのゲームには…………≪五四式・黒星≫って、言う、銃は、ある?」
言葉を呑み込み、つっかえつっかえではあったが、彼女はようやくそれだけ口にした。
「もちろん」
会話に加わってこなかった彼女がのってきたのが嬉しいのか、新川少年はそれだけ口にし、その後もそのゲームに存在する多種多様な銃器の知識を開陳していた。もっとも彼女は、最初の質問で挙げた銃を意識しているらしく、話の間中、一種の決意と悲壮感を浮かべた瞳をしていた。
銃器に詳しくない自分では、それがどういった銃なのかは分からなかったが、少なくとも彼女に影を投げかけている出来事に、深く関わる銃なのだろう。彼女の決意に満ちた表情を見ればよく分かる。
「あの、新川君……そのゲーム始めるには、どのくらいのお金がかかるの?」
ッ! 『銃』にトラウマがあるのに、『銃』のゲームに行く気か。MHCPの本能か、人の感情かは分からないけど、ここで見捨てるのは、寝覚めが悪い。
「―――円くらいだと思うよ、朝田さん」
「……そう。私も、始めてみようかな」
「んーと、新川君って言ったっけ。質問いいかな?」
「……はい?」
あー、そう警戒しないで。大したことじゃないから。
「そのゲーム……格闘技って、ある?」
「え? ありますけど……?」
「銃と格闘技の融合……面白そうだな」
今、煮詰まってるオリジナル・ソードスキルの開発にも役立つかもしれないし、何よりここで見捨てるわけにもいかない。
「僕も、始めてみようかな。≪ガンゲイル・オンライン≫」
さあ、行こう。銃弾飛び交う、硝煙の世界へ。
はい、新川君登場回でした~。
コイツも兄貴に触発されなければ、まともだっただろうに……もっとも最後のヤンデレ化はマジで怖かったが。
次回はいよいよGGOにログイン!
ですがここでお知らせがあります。来週所用で土日いないため、更新することが出来ません。そのため次回更新は再来週の予定です。
イイところで切ってしまって、申し訳ないです!