ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男   作:路地裏の作者

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ではでは、GGOでのクエストの開幕です!

そして、彼女の心情も……



008 クエストは古典的

 始まりの街、グロッケンから東に500メートル。砂と岩の中に、一軒の朽ち果てた小屋があった。

 

「――本当に、こんなところにダンジョンが?」

 

 そう呟いたのは、軽量なアサルトライフルを携えたシュピーゲル。まあ、彼は『鼠』のアルゴとは初対面だったから、その疑問も当然だが。

 

「恐らくね。彼女の情報は確かだし、たぶん自分で検証もしてるはずだよ?」

 

 SAO時代でも、自分か信頼できる友人に検証をお願いしてから情報を売却していたほどだ。情報の信頼性はピカイチというべきだろう。

 

 そう話しながら、目の前の朽ち果てた小屋に入る。小屋の中にはほとんど何もなかったが、『情報どおり』に絨毯が敷かれていた。ほとんど色も判別できなくなったその敷物を、思い切り剥ぎ取る。

 

「……ほらね?」

 

 そこには、地下へ下りる階段が口を開けていた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「……なにかしら、コレ?」

 

「…ワラジムシじゃないかな?」

 

「いや、この大きさからすると、ダイオウグソクムシだよ」

 

「そういうこと言ってんじゃないわよ! なんでそのワラジムシだかグソクムシだかが、道幅一杯にひしめいてるのか聞いてるのよ!」

 

 正直、足の踏み場も無かった。足元一杯に子犬くらいの大きさの、灰色がかったワラジムシがひしめいていて、虫が苦手な人はここで回れ右をするだろうと思える光景だった。

 

「二人は、虫は大丈夫?」

 

「正直、あまり気分が良くは無いけど……このゲームには大分慣れてるから平気だよ」

 

「私も平気。ここは仮想の世界だし、ここまで大きかったら虫じゃないわよ」

 

 そんな事を話しながら、三人で銃を乱射する。ここまで寄り集まっていたら、外すほうが難しい。……のだが。

 

「……すごいな。それでも半分しか当たってないよ」

 

「本当ね。これだけ集まってるのに、正確に『床』を撃てるなんて一種の才能ね」

 

「…………」

 

 さっきから半分くらい、床やら壁やらに当たっている。それもまるで、ムシ達を避けるように。……チクショウ。

 

「……そんなことより、先を目指そう! この先に古代の『武装ハンガー』があるんだよね!」

 

「「――ごまかした」」

 

 今回のクエストの目的は、このダンジョンの奥深くに存在する『武装ハンガー』に到達すること。GGOは文明崩壊後の世界なので、武装の類は遺跡に眠っている。一人一種類しか持ち帰れないが、それでも自分が欲しい武装を得られるので、嬉しいクエストだ。

 

 そんな事を考え、奥の暗がりを覗いた時、『壁』が蠢いた。

 

「ん……?」

 

 ≪暗視(サイトビジョン)≫のスキルをまだ持っていないので、よくはわからなかったが、『灰色』の丸みを帯びた壁が動いているようなのだ。

 

「…ん? ……んん?? ――――――ッ?!」

 

 『それ』を認識した瞬間、悲鳴を上げなかった自分を褒めてやりたい。

 

「? どうしたのよ、零二?」

 

「あ……あれ……」

 

「え? 奥に何かいる? 一体何が――――」

 

 シュピーゲルの言葉はそこで途切れた。なぜならソレを見てしまったから。

 

 道の奥、『上り坂』になった先に、灰色で十数メートルはありそうな『ワラジムシ』が、天井に身体をこすりながら動いているのが見えてしまったから。

 

「「「………………」」」

 

 正直、余りに予想外すぎた。

 

「アレはアレかしら、王の蟲と書くアレかしら……」

 

「いやただの巨大ワラジムシじゃないかな。と、言うかシノンもあの名作アニメ見てたんだね」

 

「幼稚園のころにね……」

 

「零二、シノン、二人ともそんなこと言ってる場合じゃないよ……」

 

 まあ確かにあんなでかくて体力もありそうなボスと戦えるほど、全員のレベルは高くない。…もし戦うなら、だが。

 

「……ねえ、あの蟲、丸まってきてない?」

 

「本当だね。どうやらワラジムシじゃなくて、ダンゴムシだったみたいだね」

 

「いやシュピーゲル、今そんな場合じゃないから」

 

 そう、本当にそんな場合じゃない。何故なら巨大ダンゴムシがいるのは『上り坂』の先で、その身体は道を埋め尽くすほど大きく、完全な『球体』を形作る。つまり、これが意味することは。

 

 

「「「う……わああああああああっ!!!」」」

 

 

 80年代冒険映画のオチ、『巨大岩との追いかけっこ』だった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「にゃハハハハ、にゃーハハハハハハハ!」

 

 とりあえずクエストクリアの報告と、お礼を言いに先ほどの酒場に戻ってきたが、待っていたのは爆笑だった。

 

「……ねえ、ちょっとヘッドショットを試してみていい?」

 

「シノン、だめだ。ここだと衝撃が当たるだけだから。ヤルなら、≪圏外≫出てからだ」

 

「零二も止めないんだね……」

 

 GGO(ここ)だと死なないからね。流石に詳細言わないで大爆笑のネタにした人には、躊躇しませんよ?

 

「にゃハハ……アー、ゴメンゴメン。でも取れたんダロ?」

 

「まあね……」

 

 そう言って自分の腰を見遣る。そこには黒光りする新たな銃が収まっていた。

 

 光学式ハンドガン≪シックスシューター≫。エネルギーパック一つで六発しか撃てないが、威力が極めて高く、ボス戦にも対応できる銃なのだそうだ。

 

「にしても、レイ坊はなんで光学式にしたんダ? 実弾式の方が人気も威力も高いゾ?」

 

「それは『遠距離から、フィールド越しに撃ったら』ですよね? 正直『零距離』でぶっ放すので関係ないです」

 

 実弾銃の人気が高いのは、偏に防護フィールドあっての話だ。防護フィールドを使わないモンスター相手なら光学銃のほうが経済的だし威力も高い。

 

「レイ坊は、本当にブレないな……」

 

「だからソレ、銃の戦いじゃないから……」

 

「スラッシュ&ハックってレベルじゃない……」

 

 全員に呆れられた。何故?!

 

「でもあのクエスト報酬は本当にいいわね」

 

「僕はシノンの銃が、この世界に現存してたことに驚いたよ……」

 

 あの巨大ダンゴムシから逃げ回った先に、武装ハンガーは確かにあった。シュピーゲルは数ある銃の中から短機関銃の≪H&K・MP5≫、シノンは≪Mauser・Kar98k≫という名のライフルを選んでいた。シノンのライフルが、第一次世界大戦頃に作られ始めたとか聞いたときは驚愕したが。

 

「……とにかく、今回はどうもありがとうございました。また何か情報があったら、今度はちゃんと情報料払いますので」

 

「ナーニ、これからもご贔屓にしてくれヨ。それじゃな」

 

 そう嘯いて、彼女は歩き始めたのだが。

 

 

「――――そーいえば、『お釣り』を渡し忘れてたヨ」

 

 

 そういって彼女は僕の方へと歩み寄ると、頬に柔らかな感触を感じた。ほんの一瞬だったが。

 

「にしし、そいじゃナ!」

 

 そう言って彼女は路地の方へと駆け出す。≪隠蔽(ハイディング)≫を発動させたのか、すぐに見えなくなった。

 

 彼女が去っていったほうを見ながら、先ほどの感触を思い返し、右頬を押さえた瞬間。

 

 

「……随分と、モテるのね?」

 

 

 とてつもなく底冷えのする声を聞き、僕は背中を伝う冷たい汗を抑えることが出来なかった。

 

SIDE:アルゴ

 

(……まったく、レイ坊は相変わらずだナ)

 

 そんな事を考えながら、≪隠蔽(ハイディング)≫で身を隠して街を走る。心はこの世界に来て、初めてだと断言できるほど踊っていた。

 そもそも、彼女がこのGGOを訪れたのは、本当のところただの『惰性』だった。SAOの舞台、『浮遊城アインクラッド』が再生しつつあるALOでは彼女は後発のプレイヤーであり、またデスゲームでも何でもないあのゲームでは、『情報屋』のアルゴを行うことが出来ないため、この世界へと再コンバートしたのだ。

 ――『情報屋アルゴ』が生きることの出来る、この世界に。

 

(オイラ達の借りは――――あんなクエストの一つや二つで、返せる程度じゃないって解ってるダロウニ)

 

 あの時代……SAOというデスゲームの中で、彼とは≪風林火山≫に渡す情報の交渉で顔を合わせることが多かった。もう一人の親しい友人であるキリトには検証が出来ない、パーティー専用クエストの検証を頼んだこともある。

 

 

(何ヨリ…………私達全員を、あのデスゲームから解き放ってくれたんダゾ?)

 

 

 そう、自分はその事実を知っている。ヒースクリフが茅場だったことにも驚いたが、それ以上に驚いたのは彼の『真実』だった。

 

(自分は出られないクセに……いっつも貧乏クジを引きたがる)

 

 ゲームの中にしかいられない存在。だというのに、彼はそのゲームの終焉を自ら望んだ。

 

(マ、この後の折檻は、女の子を泣かせた罰と思って甘んじて受けるんダナ)

 

 攻略組だった友人から情報を得、彼の最期を知った時、涙に濡れた。キリトやアスナといった他の友人の無事は嬉しかったが、彼を犠牲にして現実に戻ってしまったことが、何より悲しかった。

 

(ALOで見かけたとき…………本当に嬉しかったんだゾ?)

 

 このGGOに再コンバートする前、ALO内に流れていた妖精を重力から解き放った『勇者』黒の剣士と、その彼らを導いた≪幽霊拳士≫の噂を知り、その姿を追いかけた。

 

 そうして、彼らの姿を≪央都アルン≫で見つけたとき、すぐにでも駆け寄りたかった。レイジの話している内容が、明日学校でやる授業だの宿題だのといった『現実』の事柄であることに驚いたが、言葉の端々から現実に出られるようになったのだと解った。

 

(……ダケド、私の居場所はなかったんだヨナ)

 

 自分は、『情報屋アルゴ』。あの輪の中に行こうにも、ALOでは情報屋を営むことは出来ないし、SAO時代に自分が受けた恨みが、彼らにまで降りかかる可能性だってある。

 

 そう考え、唯一『通貨還元システム』を実装したこの世界へとやって来た。『情報屋アルゴ』であるために。

 

(彼に会えただけで、こんなに浮かれるなんて。にしし、オイラも現金なもんだよ)

 

 実のところ、寂しかったのだ。一人の知り合いもいない、この荒れ果てた荒野の世界が。SAO時代の恨みを恐れて、現実でもかつての友人達に会いにいけない自分が。

 

「にしししし☆ これから、忙しくなりそーダヨ♪」

 

 まずは、もっともっと情報を集めよう。彼と、その友人で新しく出会えた二人に話しに行こう。もちろんいつもどおり、守銭奴のアルゴの仮面を被りながら。

 

 そんな事を考えながら、彼女はグロッケンの街の中を駆け抜けた。

 

SIDE OUT

 




というわけでクエスト終了!

零二の銃ですが、この世界の光学式銃は全てオリジナル……つまりROの武器名が全て使えます!
SAOでもそうだったんですが、レイジのスキルの都合で持たせる機会なかったんですよね……

アルゴの心情は、完全に作者の解釈です。生きてるんだったら何で会いに来ないんだ?という疑問から始まってます。彼女も結構好きなだけに……
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