ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
そして、彼女が登場します……
SIDE:詩乃
11月。東京。
最近私は、次回のBoBに向けて、有力選手の所属するスコードロンを渡り歩いている。そのため、GGO開始当初から組んで行動していた恭二や優矢と組むことが本当に少なくなった。
今日は、そんな互いの近況報告を兼ねて、恭二が知っていたとある喫茶店で一通り話しをし、家路に着いた。
……のだが。
時間が遅かったこともあって、私は二人を夕飯に誘った。しかし、優矢だけは、この後向こうのVRで用事があるとか言って、さっさと自分の家に入ってしまったのだ。おかげで、今は恭二と二人きり。
――正直、余りに、気まずい。
二人同時なら、何も起きないだろうと思って誘ったが、一人は帰ってしまい、今更発言を翻すことも出来ず、中に招き入れたのだ。
そうして、夕飯を食べ終わった後、彼の視線が若干熱を帯びてきているような気がして、冷や汗が止まらない。
別に、彼のことは嫌いではない。この東京と言う見知らぬ土地では、たった二人しかいない、自分に友好的な相手であり、掛け替えの無い友人だとは思っている。
しかし今の自分は、自分のことで精一杯であり、クラスの他の子達のように、恋愛事で騒いだりと言った心境ではないのだ。
………何より。
(銅島さんの、バカ……)
目の前にいる彼よりも、ここに越してきた当初から、心地よい距離感を保ちつつあれこれと力になってくれた、自分より一つ上の男の子への文句が、頭を埋め尽くしているのだ。とてもそんな気分にはなれない。
「えっと……もう遅いから、私そろそろ明日の学校の予習しないと……」
「え…あ、ああ、そうだよね。それじゃ、僕はそろそろお暇するよ」
どうやら、妙な雰囲気を吹き飛ばすことに成功したようだ。玄関先まで出て行き、見送る。
「それじゃ…銅島さんにも付き合ってもらってるって言ってたけど、私もスコードロンとぶつからないときなら協力するよ? シュピーゲル用のレア銃探し」
「だ、大丈夫! 銅島さんも材料の確保は終わったから、時間ある時は全面的に協力してくれるって言ってたし、ソロの時より全然効率良いから、その内見つかるよ。資金も溜まってきたから、オークションの方も探してるしね」
「そう、なら良いけど……GGOに誘ってくれたの、新川君だったし、協力はするからね」
「う、うん。ありがとう……」
不意に言葉が途切れる。どうにもこのままでは、また妙な雰囲気になりそうだ。
「それじゃ、お休み」
「あ、うん。…お休み」
最後に挨拶を言い、ドアを閉める。幸いそこで彼が戻ってくることは無かった。
「ふう……」
ほんの少しため息をつき、玄関から家の中へと戻る。今日はログインしようか迷ったが、なぜか入る気にならない。意味も無く部屋の中を見渡し、視線が最後に止まったのは、なぜか隣の家と隔てる壁。
「……バーカ」
なぜか、そんな言葉が漏れた。
SIDE OUT
SIDE:クライン
……オイ。オイオイ。今日はどうしたってんだ、レイジのヤロウ。
「フッ! ハアッ!!」
極めて短い呼気と共に、目の前の敵集団に素手の拳が突き刺さる。それによって吹き飛ぶのは………ヨツンヘイムの、邪神ども。
「ラアアアアッ!」
裂ぱくの気合と共に、人型邪神の懐に入り込んだアイツが、関節を極めてぶん投げる。その身体全体にまとうライトエフェクト。
(関節技と投げの複合オリジナル・ソードスキルか……)
亜人・獣人含めて人型モンスターって結構いるから、滅茶苦茶有効だな。それでも作れる奴はめったにいないだろうが。
(しかし、何をあんなにムシャクシャしてんだ?)
今日は来れないみたいなことを言ってたのに、来たと思ったら邪神狩りに誘って、蓋を開けてみたら≪鉄拳術≫とOSSのオンパレード。正直俺は今日、ほとんどまともに戦闘してねえぞ?
「フゥッ!」
レイジの身体が下に沈みこみ、周りを囲んでいた三体ほどの邪神がいっせいに転ぶ。≪鉄拳術≫下段妨害ソードスキル≪センプウタイ≫。ダメージと共に、相手を転倒させるから、
「ラララララララアッ!!!」
立ち上がったレイジが、回転しながら周り中デタラメに拳を繰り出し、三体の邪神の身体が粉々に爆散した。≪鉄拳術≫乱撃ソードスキル≪テンラチモウ≫。
……マジで、スキルのフルコースだな。
今日のこの短時間で、ギルドメンバー全員での邪神狩り並みに稼いでるし。……だが、その分。
「ちょっ、レイジ君!? 回復追いつかないわよ!!」
「あー、アスナ。ほっとけって」
「でも、どうしたんだろうね。本当に」
回復役のアスナやサチに、負担がかかってるんだが。音楽魔法使って、能力の底上げしてるサチは、かなりMPが不味いんじゃねえか?
「あー、レイジ。いったん下がれ。回復役の二人の、壁頼む。二人のMPが回復するまで」
「……わかった」
ごねるかとも思ったが、案外素直に引き下がったな?
「でも、どうしたの、レイジ? やけに機嫌が悪いみたいだけど」
「……機嫌、悪い、のかな」
「もー、どう見たって悪いわよ? 一体何があったのよ」
確かに気になるな。普段全員のフォローに回りながら、それでも楽しそうにしてる奴が。
「………………分からない」
「「「「はあっ?」」」」
詳しく話を聞いてみると、最近ALOのほかにもVRMMOを始めたそうなんだが、そっちの知り合いに男女二人がいて、男の方から女の方にアプローチをかける協力を求められている。で、今日も気を利かせて、二人っきりにしてきた、だけど何かイライラする、と……。
「お前、それ……」
ここまで聞けば、大体分かる。ただ、俺の口からそれを具体的に言うわけにはいかねえ。何故ならここには……
(サチがいんだよなぁ……)
SAOの頃から、サチとレイジは親しかった。よくあの教会で、レイジが冒険の舞台の絵を見せて、サチがそれにあった歌を歌ったりと、心温まる光景を何度も目にした。下手なことを言えば、なんとなくそれが壊れかねない。
周りに目を向けると、アスナもキリトも気持ちは同じようで、何を言っていいのか分からないような顔をしていた。
そんな中、件のサチが、口を開いた。
「レイジ……それは、レイジが、その子のことを、好きだからだよ」
と、今のレイジの心境をこの上なく具体的にした言葉を……って、オイ?!
「(オイ、サチ! 何言ってんだ!?)」
「(え。だって、今の話を聞いたら、そういう結論じゃない?)」
「(そうだよ! だけど、サチの気持ちは良いの!?)」
「(俺らは皆、サチがレイジのこと、好きなんだと思ってたんだぞ?!)」
「(…あ、あー。うーん……)」
慌てた俺らの反応に、サチは何とも言えない顔で、言葉を探していた。何だ、一体。
「(私、もう随分前に、レイジにフラれてるんだよね)」
…
……
………
「「「……は?」」」
思わず声を潜めることも忘れ、俺ら三人呆然とした。フラれた? そんなこと聞いてねえぞ、ヲイ!!?
「(いつ?!)」
「(SAOクリアの直前に。私から告白したけど、自分は現実に帰れないから、って)」
「(いや、その時点ではそうだったかも知れないけど! 実際、今はこうして戻ってきてるんだし!)」
「(あー、それはそうなんだけど。現実に戻ってからのお付き合いに関しては、私の方から断ったの)」
「「「はあああああっ?!!」」」
もう、何がなんだかわからねえ。
「(あのね、私、レイジが戻ってくるまでに、SAOやALOでレイジのしてきたことを聞いたじゃない?)」
「(……ああ、そうだな。俺ら全員アイツに世話になったから、全部話したな)」
「(それで思ったの。私はキリトのときも、レイジのときも、助けられてばっかりで、何もしてあげられてないなって)」
「(……いや。サチ、それは)」
「(私は、それを聞いて。自分に腹が立って。だから、もう少しだけ強くなろう。誰かに頼るだけの恋はやめようって思ったの)」
「(……)」
「(だから、レイジが改めてSAOでの告白の返事をしようとした時、私の方から断ったのよ。恋をするのは、私が独りで歩けるようになってから、って思ったから)」
……女は、つええな。
「(つうことは…アイツは今フリーってことか?)」
「(うん、完全フリー。……でも、気になるなあ。レイジが好きになった人。いったいどんな娘なんだろう)」
まあ、確かに気になるが。それより俺らは、サチの強さに圧倒されて声も出ないんだが。現にアスナやキリトはサチを見て呆然としてるし。
……で、問題のレイジは。
「ありゃ、完全に放心状態だな……」
サチに気持ちを言い当てられた態勢のまま、1mmも動いてねえ。本当に、生きてるか?
「まぁ、若いうちは、苦労したまえ、若人よ」
こんなイイ女をフったんだ。自分の気持ちに悩むのも、苦労するのも、そいつは自分が選んだ道なんだからよ。
……さてさて、これから、どうなるかねえ、っと。
SIDE OUT
と、言うわけで、『サチとの別れ』でした。
シノンをメインヒロインにする以上、彼女との別れは物語上どうしても必要だったんですが……サチも好きだし、どうにかならんかなあ、と考えた結果が、『サチにレイジがフラれる』でした。結果、彼女が前向きな女性に進化しました……。SAOと別人になってきてるような?
今回の話は、元ネタとしては、GGOに書いてあった『一度だけ新川恭二を夕飯に招待した』という部分から心情描写を入れて膨らませてみたんですが……やっぱ心情描写って難しいな……