ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
SIDE:シノン
12月。東京。第三回BoB予選当日。
私は、予選開始よりも若干早い時間に、ログインし、ある目的地に向け街の路地を歩いていた。その目的地というのは、
(何で、最近零二は私のことを避けてるのかしら)
先月、私の自宅への招待を断った辺りから、どうも彼の様子がおかしいのだ。話しかけても上の空だし、時折何かに悩んでいるような素振りがあるし、かと思えば思い切り私から視線をそらしたりもしている。時折顔が真っ赤になっている気もするし、体調でも悪いのかと聞いても答えない。その上、Mob狩りパーティーに誘っても、何かいつも理由をつけて来ようとはしない。先日私がへたり込んでいた時の訪問は、本当に例外だったのだ。
私は、あまり周りの人間と踏み込んだ話はしないが、それでもあんな妙な態度で接されるのは初めてだ。だからどうしても前の彼に戻って欲しくて、彼が出していると聞く
そんな風に若干急ぎながら、路地を歩いていると。
「あのー、すいません。ちょっと道を……」
どこかハスキーな声で、後ろから道を尋ねられた。
いつものナンパかと、少しばかり警戒しながら振り返ってみると、そこには予想に反して、サラサラとした黒髪を背中まで伸ばした、『美人』のアバターがいた。
いかにも心細そうにした『彼女』の装備に、すばやく目を走らせると、何処からどう見ても新規アバターの初期装備で、初心者であることが見て取れた。
「……このゲーム、初めて? どこに行くの?」
「あー、えーと……」
幸い時間もあるし、迷子の新規プレイヤーで、珍しい『同性』とあらば、少しばかりの道案内もいいかと思い、『彼女』に目的地を聞いてみた。しかし、戸惑ったような声を出す『彼女』の『目的地』と『目的』は、当初予想したものとは全く異なっていた。
「どこか安い武器屋さんと、あと≪総督府≫って言うところは何処ですか? 今回のバトルロイヤルイベントにエントリーしたいんですけど」
SIDE OUT
その頃、とある路地裏。
「いやあ、すまねえな、零二!
「大丈夫だよ。この後のBoBに出るって聞いたら、急がないわけには行かないからね」
僕はいつもの出店を出し、お得意さん……≪北斗の軍≫の
「オウ、そんじゃこれが代金だ。サンキューな」
「毎度。でも、本戦で当たっても、手加減はしませんから」
「そりゃこっちのセリフだ。あんがとよー」
そう言って今日までの急ぎのお客さんは帰っていった。他の仕事は入っていないし、まだ時間はかなりあるが、少し早めに会場に向かおうと、店じまいを始めたときだった。
「……ん? シノンからのメール?」
彼女はいつも、パーティー狩りの時でもなければゲーム内のメールは使わない。まあ、現実で隣に住んでいるのだから、そこで一言言えば用事が済んでしまうのだ。今日はこの後BoBだし、本当に何の用事なのか見当も付かなかった。
「んー? これは…?」
メールを開くと、何でもシノンが街中で道に迷っていた『女性』のコンバート・プレイヤーに、この後のBoBに出るための装備をそろえる手伝いをお願いされたのだそうだ。そこで、安い
「場所は、大通りの総合ショップか」
それなりに離れていたので、急いで店じまいをし、人ゴミの中を縫うように走り出す。出店用にそれなりの服をそろえていたので、これだけあれば十分だろう。
「行く前に、シュピーゲルにメールしておくか」
走りながら出したメールソフトにすばやく打ち込み、送信ボタンを押す。こういう操作はSAOで慣れているため、打ち終わる頃には既に目的地についていた。
「さて、シノンは……いたいた」
中に入り見回すと、奥まった武器のショーウィンドウの前に、特徴あるペールブルーの短髪と、マフラーが目に入った。そして、その背中に近付いていくと……このゲームでは予想もしなかった光景に巡り合った。
ビュビュン! と音を立てて、シノンの奥にいた『少女』の剣が、空中で正方形の軌跡を描き出したのだ。見間違えようもなく、それは片手用直剣の四連撃ソードスキル≪バーチカル・スクエア≫。
(≪SAO生還者≫……!)
あそこまでの錬度でソードスキルを出せるなど、そうとしか考えられなかった。その技を出した『少女』は、光で出来た剣を左右に切り払うと、背中にしまおうとした途中で気づき、慌ててスイッチを切っていた。
(あの剣をしまう時のクセ、それにさっきのソードスキルの錬度。まさか……)
「あ、零二。こっちこっち」
さっきの光景に、物思いにふけっていると、こっちを見つけたシノンに声をかけられた。慌てて止めていた足を動かし、駆け寄る。
「シノン、その人が、メールの……?」
「そう、他所のゲームからコンバートしてきて、その日のうちにBoBに参加しようって言う人。銃のゲームなのに、光剣使いたいんだって」
銃のゲームなのに、光の『剣』。アレは威力があるから、当てられればいいと考える人は確かにいるが、本当にやろうとする人は、知り合いの中でも一人だけだ。
「とりあえず、色々言いたいことはあるけど……何やってるの、キリト?」
「へ……?」
ALOでの少年の姿より、大分ハスキーな声を上げ、呆けている『彼』にネームカードを渡す。ついでに読み方も。
「零と二で、レイジ……って、レイジ?! 何でGGOに!?」
「それは、こっちのセリフだよ……」
そこで詳しく話を聞くと、何でも菊岡氏からBoBのリサーチのバイトが入ったとのこと。そのために参加条件を満たすALOのキャラをコンバートしてきたとの事だった。もちろん話の中で、キリトが『男』だというのは、シノンにバレた。
「リサーチの仕事なのに、大して下調べもせずにログインして、道に迷ったところに、通りかかったシノンをナンパして、ここまでたどり着いたということか……」
「いや、別にナンパしたわけじゃ……」
そう彼が口にした途端、横で聞いていたシノンがものすごい目で睨んだ。まあ、一言も聞かれなかったにしても、性別への勘違いを利用したことは変わらない。
「まあ、とりあえず……事の詳細を、アスナさんに」
「スンマセンデシター!」
ものすごい勢いで、謝られた。やっぱり副団長のバーサクぶりは相変わらずか。
「まあいいか。それよりシノン、お金はどうしたの? もし貸したんだったら、僕のほうから返すけど」
「え…ああ、そっちの、えーと『彼』のお金ね。心配ないわよ、そこのダッシュするゲームで自分で稼いでいたから」
顔を向けると、自分では半分ほどしか行けなかったガンマンへとタッチダウンするゲームが目に入った。アレ、クリアしたのか。
「……相変わらず、常識知らずの反射神経だね、キリト」
「うっさい」
実際人間の限界に近いんじゃないかな?
「それで武器選び、どこまで進んでたの?」
「あ、そうだ。アンタ、いくら残ってるのよ」
キリトの所持金を確認すると、十五万ほどで、今はサブウェポンにハンドガンを選んでいたところだそうだ。そこでシノンが推薦したのが≪FN・ファイブセブン≫。正確性と貫通力に定評のあるハンドガンだ。
「じゃあ、
「残金全部?!」
「店で買うともっとかかるよ? キリト」
そう言うと、キリトは渋々トレード受諾を操作した。実際これでもかなり格安だ。
「あー、それとキリト、これは大会中貸してあげる」
そう言ってアイテムウィンドウから実体化したのは、白銀の持ち手を持つ、≪シラユキE2≫という名の光剣だった。アイテム欄のお守りだったが、実際使ってないし。
「え……でも、サブウェポンも埋まってるから、持てないぜ? 俺」
「こういったカラビナやピンがついたアイテムは、身体のどこかに付属品扱いで取り付けられます。手榴弾を持つ必要があるから、そういう仕様なんだよ。装備もホルスターに入れとけば、即座に付け替えられるし」
「え、ホントか?!」
「だから下調べしようよ……」
ALOのときも、マニュアルすら読まずにログインしたと聞いて、頭痛がしたんだから。このゲーム、装備は手に持つ物がメインとサブになるが、それとは別に身体に仕舞ってもいいのだ。そうでなければ両手にマシンガン持って、ナイフをあちこちに隠し持ったコンバットスタイルの人などあっという間にエラー装備だ。一応手には一つの武器までとはなっているが、重量制限の中なら持ち歩くのは自由なのだ。
「じゃあ、借りとくな。サンキュー、レイジ」
「別にいいよ。それより……そろそろ、時間なんだけど」
予選申し込みの締め切りが十五時で、今の時間は十四時五十一分。手続きの時間も考えると、普通に走ってたら間に合わない。
「ヤバッ! ああ、もう! コイツのせいで、間に合わないかも!」
「とりあえず二人は総督府までダッシュで。レンタルバギーを、回して来る」
「零二、ありがとっ!」
シノンのそんな言葉を背に、僕は人ごみの中を、レンタルバギーの駐車スペースまで走り抜けた。
キリト君が、コンバートしてきました。
いよいよGGOの本編に入ってきたわけですが……スイマセン!来週、仕事で休日返上のため、投稿することが出来ません!!
盛り上がってきたところで、ほんっとうに申し訳ないです!
次回、投稿予定は10月になります……ちくせう