ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
人ごみを縦横無尽に走りぬけ、三輪バギーがたくさん駐車しているスペースに駆け寄る。運転席によじ登り、エンジンをかけ、急いできた道を戻る。歩道の上に特徴ある青の髪と、やたら長い黒髪が目に入る。
「二人とも、乗って!」
叫びながら、彼女達のすぐ横でジャックナイフ・ターン。正直、三輪バギーでやると、吹っ飛ばされそうになる。
「ナイス、零二!」
「おい、俺はどこに乗ればいいんだよ!?」
後部座席によじ登ったシノンはともかくとして、キリトの乗るところを忘れていた。……よし。
「キリト、STR優先型だったよね? 大丈夫、君ならサイドにしがみついた状態で、1時間はもつ」
「マジかあああっ?!」
絶叫しながら、それでもキリトはサイドにしがみついた。…まあ、大丈夫だろ。
「飛ばすからね! しっかり捕まって!」
「うおおおおっ!」
エンジンスタートと共に、アクセル全開での急発進。サイドにしがみついたキリトは、流石のバランス感覚と筋力で、落ちなかった。……くそ。
「あははは! きもちいい! もっと飛ばして!」
そんな光景を尻目に、不意に後ろからそんな楽しげな声が響いた。いつでも張り詰めた雰囲気の彼女からは、想像もしなかったくらい楽しそうな声だった。だから僕は、そのリクエストに全力で応えることにした。
「オッケー!!」
僕は思いっきり、スロットルを開けた。
◇ ◇ ◇
結論として、僕ら三人はBoBの予選エントリーにギリギリで間に合った。エントリーの際に現実の賞品が欲しい場合は、現実の住所などを入れる必要もあるが、特に欲しいものもないので、全部空欄にした。
「ギリギリ間に合ったね…」
「そうね…」
「スマン、二人とも、俺のせいで…」
「「ホントにね」」
「ぐっ……」
キリトが唸っているけど、原因は間違いなくキミだからね。
「そ、そういや、お前らは予選何ブロックなんだ? 俺はEの二十六番」
「僕は、Fの三十七番だね」
「ふーん、私はFの十二番。零二と当たるとしたら決勝か……」
「ってことは、あれか? 俺が決勝で勝っても、零二やシノンのどっちかとしか戦えないのか?」
…キリト、だから下調べしようよ。
「……アンタ、本当に何も調べてないのね」
「こういうヤツなんだよ……」
BoBの決勝は、各予選ブロックの一位と二位が出場可能で、決勝自体は明日。予選は勝ち抜き戦で、勝ったものだけが控え室に戻される、等々…。BoBの方式を教え込んだ後、お互いのネームカードを交換しておく。そうしてたどり着いたのは、選手控え室に設えられたロッカールーム。
「それじゃ、私ここ使うから」
「ああ、うん――――……ッ!」
シノンに返事をした瞬間、そのシノンの後に続こうとしていた不届き者を発見。即座に首根っこを捕まえる。
「ぐえっ…零二、何すんだよ?!」
「それはこっちのセリフだよ。何、女性の着替えについて行こうとしているの?」
面と向かって言って、ようやくここがロッカールームだと察したようだ。
「はあ…シノン、キリトは隣のロッカールームに連れて行くから、安心してソコ使って」
「うん、ありがとう」
そのままキリトの襟を捕まえた状態で、ロッカールームに引っ張り込んだ。使い方も一通りレクチャーした。
――だけど。
「周りから、ロッカールームに『女性』連れ込んだ、不届き者みたいに見られてるんだけど……」
「ははは、零二、ドンマイ!」
「そもそも、アンタがそんなアバターなのが原因よ」
ちなみにキリトの服装はナイトカモの
「零二、シノン! 良かった、遅刻するんじゃないかと思って心配したよ」
僕が肩を落としていると、人ごみの中からシュピーゲルが顔を出した。彼は出場しないと聞いていたけれど…?
「こんにちは、シュピーゲル。ちょっと予想外の用事で遅れちゃって」
「無計画・無鉄砲な友人のせいでね」
「第一印象から、ヒドイ扱いだな!?」
キミの場合、親しくなればなるほどそんな印象だよ? SAO時代の、初対面の女性にいちいちフラグを立てる、気障で皮肉屋の最強剣士は、どこに行ったの?
「え……えっと、零二のお友達ですか……? まさか、彼女さんとか…」
……このシュピーゲルの、丁寧な対応。僕はまた新たな勘違いが生まれたことを察する。
「「騙されないで、ソイツ男だ(よ)(から)」」
「えっ……。お、男? そのアバターで……?」
まあ確かにあのアバターは相当なレアだとは聞いた。但し、ログイン時間で決まるとも聞いた。なら必然ともいえる。
「あー、キリトです。どうぞよろしく」
「…キリト? どこかで聞いたような……あっ!」
キリトの名前を聞いて、考え込んでいたシュピーゲルが声を上げた。
「零二から聞いた、現実でもゲームでも女の子に囲まれてる、ハーレム男!?」
「おいいいいいっ?! 零二、何話したんだよ!?」
……そう言えば話したなあ、『事実』を。
「それ、聞いたことあるわね……確か、ゲーム内で『結婚』までした彼女がいるのに、出会った女の子全てに気障なセリフを吐いて落とした、とか」
「そうそう! あまつさえ、義理の妹にまで手を出した、とか!」
「零二…テメエ……」
キリトが恨みがましい視線を向けてくるけど、僕は事実しか言っていないよ? 事実しか。
「……ん? 違うVRゲーム、友人の男女……ああ、そうか、お前が気にかけてたの、ってええええええ?!」
キリトが余計なことを言い出したので、≪鉄拳術≫の≪シュラシンダン≫で壁まで吹き飛ばした。ハハハ、ナニイッテル、キサマ?
「キリト……それ以上何か口にしたら、アスナさんに事実五割、誇張五割で今日の内容を―――」
「スイマセンデシタ! マコトニモウシワケアリマセン!」
途端に低姿勢になり、上体を90°に近い形まで傾ける。…そんなに怖いのか。
「……なに? 何の話なの?」
「なんでもない、なんでもない。それより、シュピーゲルはやっぱり出ることにしたの?」
「あー、いや。やっぱり武装の差が大きいからね。ここから二人の応援しようと思って、来たんだよ」
それは、ありがたい。……ただ。
「――僕らもFブロックの決勝で、当たることになったんだ。そのときは、シノンの応援してあげてよ」
「え……そうなの?」
事実を知ったシュピーゲルがシノンに顔を向ける。まあ、公式戦では初対戦だからね。
「そうだけど……別に、零二の応援してくれてかまわないわよ? それくらいのことで負けたりしないから」
「いや、僕はシノンの応援するよ」
「そ、そう?」
「まあどっちにしても、僕も手は抜かない。前回のこともあるし、本気でぶつかるからね」
そう彼女に言葉をかけると、シノンは実に不敵な笑みを見せた。
「いいわ。私も全力で。但し気づいたら、頭が吹っ飛んでるかも知れないけどね」
そう言って、お互いに前に差し出した拳を軽く合わせる。決勝まで行ければ明日の本戦出場は可能とは言っても、それと勝負は別だ。
「キリトも。たとえ決勝までいっても、そこで手を抜いちゃダメだからね」
「う……」
……この反応。少し思っていたな。
「何言ってるのよ、零二? 今日コンバートしてきて、その上光剣なんか使おうとしてる奴が、決勝まで来れる訳ないでしょ?」
まあ、それが普通の認識だよね。
「シノン、キリトを甘く見ないほうがいい。彼が普段どれだけナンパ男でも、僕らがやってるALOでは、一・二を争う剣士だから」
「ヲイ、今サラッと毒吐いたな」
「いや、そもそも剣じゃ銃には勝てないでしょう?」
「……それは、どうかな?」
シノンのセリフに皮肉気に笑うキリト。そんな態度にシノンが反感を抱いていたけど、そんな態度だから気障だの皮肉屋だの言われるのに……。
「彼のゲームセンスは常軌を逸しているからね……僕らじゃ考えもしない方法で勝ち上がってくると思うよ」
「へえ…それは楽しみね」
「おい、それより零二。俺は未だに予選の方式すら教えてもらっていないんだが」
あ~、そういえばそうか。まあ、言うことなんて一つだけだ。
「ステージのどこかに敵がいる。近付いて斬れ。以上」
そんなことを話していたところで、アナウンスが流れ始める。いよいよBoB予選、開始だ。
と、いうわけで、シノンと当たるのはレイジです。思いっきり『格闘型』の彼が、いったいどうやって『狙撃型』のシノンに挑むのか。それを予選のテーマにしたいと思います。作者が考えたのは、余りにも常軌を逸した『回答』です♪