ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
目の前にいるぼろぼろのギリーマントをまとい、赤いゴーグルをつけた、スカルフェイスの男。だがほんの少し前には、そこに人はいなかったはずだ。考えられるのは――≪隠蔽≫スキル。
(あのマント……高度な≪隠蔽≫ボーナスでもあるのか?)
通常≪隠蔽≫スキルがどれほど高くても、こんな至近距離で、しかも人ごみの中でプレイヤーを見逃すなど通常あり得ないことなのだ。それでも見逃したとすれば、≪聴音≫ほどではないにしても、自分がそれなりにマスターしている≪索敵≫スキルを、軽く上回るほどにスキル値に差があると言うことだ。
「こんな人ごみで、逃げ隠れとは……何か後ろめたいことでもあるのか?」
これは一種の鎌かけと確認だ。現に視界の端では、キリトがボロマントを見て声を失っているし、目の前のプレイヤーがキリトの
「……ク、クク、平和ボケのキリト、より、活きのいい獲物、だ」
最初に見たその異様なスカルフェイスより、その声を聞いた瞬間、僕の記憶は大きく刺激された。どこだ。一体どこだ。
「――誰だ、アンタ……!」
少しでも動揺を悟られまいと、強い口調で話したが、それでも内心の緊張が漏れてしまったのだろう。目の前のスカルフェイスは笑いを堪えるような雰囲気のもと、告げた。
「さて、な。ひょっと、したら、
――まだ、終わっていない?それに、目の前のコイツのこの異様な雰囲気は、まるで……
そこまで考えた時、僕の視界の端に信じられないものが写り込んだ。それは、そのスカルフェイスの右腕。ボロボロの包帯の隙間から、
――――
「――ク、クク。忘れるな。まだ、何も、終わってなどいない。お前達には、終わらせることなど、出来ない。――『イッツ・ショウ・タイム』」
その言葉を聞いた瞬間、後先を考えずに引き金を引いていた。ここが≪圏内≫であることも、人の大勢いるここで、銃を放つことがマナー違反であることも、気にも留めずに。
「何をっ?!」
「零二ッ!?」
後ろからシノンとシュピーゲルの声が聞こえていたが、それすら頭に入らなかった。ただただ、目の前の相手から視線を外すことだけを避けていた。
目の前の相手は、身じろぎすらしていなかった。当然だ。ここは、≪圏内≫で、全ての弾丸は障壁に防がれたのだから。
「……そう、慌て、なくとも、お前等が、決勝まで来れば、戦うことになる。そのときに、じっくり教えて、やるさ。――――『恐怖』を、な」
そう言葉を残し、スカルフェイスは直立の姿勢のまま、数メートル後ろへと飛び退り、そこで≪隠蔽≫して姿を消した。
「……ぐ」
攻撃が不可能とはいえ、みすみす逃がしてしまったことに、僕は歯噛みしていた。
「…………どうしたのよ、零二? さっきのスカルフェイスと、何かあったの?」
「……ゴメン、シノン。少し待ってて」
そう言って、シノンとシュピーゲルをその場に残し、キリトへと近付く。手が届く範囲に来た途端、感情のままに胸倉を掴んでいた。
「……キリト。知ってることを、全部話してもらうよ……」
そこまでされても、目の前のキリトは何の反応も示さない。ただ蒼白な顔色で、唇を震わせながら、一言だけ。
「……………………ッ、アイツが、≪死銃≫だ……」
「――――ッ!!」
その回答に、僕は声を出さずに息を呑んだ。
≪死銃≫。GGOで最近ささやかれ始めた、謎のプレイヤー。その銃で撃たれたプレイヤーが、それきりログインしなくなると言うウワサだ。ウワサでは既にそのプレイヤーたちは、全員この世にいないとも――――
「……そういう、コトか」
……つまり、≪死銃≫の噂は本当であり、奴は何らかの手段で殺人行為を行っている。その調査と真偽を確かめるために、キリトはここに来たのか。
僕が、そこまで考えたところで、心の中では『あの日』の光景が蘇ってきていた。あの日、≪笑う棺桶≫のアジトを奇襲し、奴らを壊滅へと追い込んだ、あの日。
……後ろで、倒れ伏す仲間と。
……目の前で、怨嗟の声を上げながら、消えていくプレイヤーと。
「……くそッ!!」
僕は手近な椅子へと、左拳を叩き付けた。もう、あんなことは、起こさせないって、決めていたのに……。
「零二……?」
僕のただならぬ様子に、離れて様子を窺っていたシノンが近付いてきた。……この大会は、危険すぎる。
「シノン……予選が終わったら、話がある」
そう呟いた時、僕もシノンも、足元から広がる次の試合を告げる光に包まれていた。
SIDE:シノン
……なんなのよ、一体。
私は、先ほどの零二の様子を思い出していた。
零二は、何時だって私やシュピーゲルを初めとする他人のフォローを買って出てくれて、人に迷惑をかける行動をしない人だ。それなのに、さっきの零二は明らかにおかしかった。あんな街中で銃を撃つなんて、普段の彼からは考えられない。
(それに、私に何の話があるのかしら……)
あんな真剣な表情で話しかけられたのは初めてで、少しばかり――
(――私は、何を考えてるのよ!!)
そこで思考を押し留め、
◇ ◇ ◇
「――あ。シノン、お帰り」
準々決勝から戻った私を出迎えたのは、シュピーゲル一人だけだった。
「…零二は?」
「もう、準決勝を始めてる。今日の零二は、何だか張り切ってるみたいで、どんどん試合を消化してるよ」
……あれは、張り切ってるのとは、違うと思う。どちらかと言えば、何かに備え、張り詰めているかのような――
「アンタも、勝ったんだな」
そこまで考えたところで、後ろから話しかけられた。そこにいたのは、男のクセに、私よりよほど『美人』のプレイヤー、キリト。
「それはこっちのセリフよ……よくあんな戦い方で勝ち進められるわね?」
少なくとも、銃弾斬り落とそうなんて考えるのは、目の前のコイツだけだろう。
「ああ、まあな……」
だが、こちらの軽口への反応は鈍かった。そこには出会った当初の快活さは見る影も無い。
「――そういえば、アンタもあのスカルフェイスの知り合いみたいだったわね? 結局アイツは、アンタや零二とどういう関係なのよ?」
様子が変わったのはコイツもだし、少しは零二の態度の急変に、手がかりが欲しかった。
「……あとで、話す。俺も、零二に詳しい事情を説明しなきゃならないからな……」
顔色は蒼白だが、そこには確かに意志が感じられた。
「……まあ、アンタは次の準決勝の心配でもしたらどう? ソレに勝たないと、決勝にはいけないんだから」
あのスカルフェイスも決勝に出てくるつもりのようだし、そこで負けたら、本末転倒だろう。
「ああ、大丈夫。どんな『銃』相手でも、負けやしないさ」
……コイツ、次の対戦相手を知らないのね。強豪プレイヤーを調べないとか、舐めてるのかしら?
「――次の相手は、『銃』なんか使わないわよ?」
「え? そりゃ、どういう――――」
会話の途中で、キリトの姿が光に包まれた。準決勝のフィールドへ転移したのね。
「……まあ、頑張ってきなさい」
視線の先には、各試合を映し出す立体ディスプレイ。そこには、次に行われる、Eブロックの準決勝の対戦者が記されていた。
『Eブロック 準決勝第一試合
SIDE OUT
死銃との邂逅、終了!キリトからの情報で、死銃とラフコフが繋がりました。シノン……ラブコメの時間は終了ですぜ?
そして!次回はなんと、キリトVS羅皇!!
実のところ、羅皇はこの準決勝でキリトの前に立ちはだかる、中ボス的キャラとしてスタートしてます。その頃は名前も全然違ってたし。それがネタ回をやるにあたり、半ばフライングとして出すことになり、見事世紀末なマッチョへと進化しましたwwおかげで大分、試合内容も変わってしまった……
決勝以降の死銃に関わらずにオリキャラ出せるのは、ここまでが限界なんですよね……