ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男   作:路地裏の作者

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忘れたかった。忘れようとした。しかして、因縁は巡り来る――!



022 因縁

 

 目の前にいるぼろぼろのギリーマントをまとい、赤いゴーグルをつけた、スカルフェイスの男。だがほんの少し前には、そこに人はいなかったはずだ。考えられるのは――≪隠蔽≫スキル。

 

(あのマント……高度な≪隠蔽≫ボーナスでもあるのか?)

 

 通常≪隠蔽≫スキルがどれほど高くても、こんな至近距離で、しかも人ごみの中でプレイヤーを見逃すなど通常あり得ないことなのだ。それでも見逃したとすれば、≪聴音≫ほどではないにしても、自分がそれなりにマスターしている≪索敵≫スキルを、軽く上回るほどにスキル値に差があると言うことだ。

 

「こんな人ごみで、逃げ隠れとは……何か後ろめたいことでもあるのか?」

 

 これは一種の鎌かけと確認だ。現に視界の端では、キリトがボロマントを見て声を失っているし、目の前のプレイヤーがキリトの蒼白の顔色(・・・・・)の原因なのだろう。だとすれば、キリトがGGO内のBoB本戦を目指していた理由に関わっている可能性がある。半ばカンのようなものだが、そう確信していた。

 

 

「……ク、クク、平和ボケのキリト、より、活きのいい獲物、だ」

 

 

 最初に見たその異様なスカルフェイスより、その声を聞いた瞬間、僕の記憶は大きく刺激された。どこだ。一体どこだ。僕はこの声を(・・・・・・)この口調を知っている(・・・・・・・・・・)

 

「――誰だ、アンタ……!」

 

 少しでも動揺を悟られまいと、強い口調で話したが、それでも内心の緊張が漏れてしまったのだろう。目の前のスカルフェイスは笑いを堪えるような雰囲気のもと、告げた。

 

「さて、な。ひょっと、したら、まだ終わっていない(・・・・・・・・・)とある世界(・・・・・)、からの、≪亡霊≫かも、知れんぞ」

 

 ――まだ、終わっていない?それに、目の前のコイツのこの異様な雰囲気は、まるで……

 

 そこまで考えた時、僕の視界の端に信じられないものが写り込んだ。それは、そのスカルフェイスの右腕。ボロボロの包帯の隙間から、ニタニタと嘲笑する棺桶(・・・・・・・・・・・)がのぞいていた。まるで、此方を覗き込むように。

 

 

 ――――殺人(レッド)ギルド・≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫!!

 

 

「――ク、クク。忘れるな。まだ、何も、終わってなどいない。お前達には、終わらせることなど、出来ない。――『イッツ・ショウ・タイム』」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、後先を考えずに引き金を引いていた。ここが≪圏内≫であることも、人の大勢いるここで、銃を放つことがマナー違反であることも、気にも留めずに。

 

「何をっ?!」

 

「零二ッ!?」

 

 後ろからシノンとシュピーゲルの声が聞こえていたが、それすら頭に入らなかった。ただただ、目の前の相手から視線を外すことだけを避けていた。

 

 目の前の相手は、身じろぎすらしていなかった。当然だ。ここは、≪圏内≫で、全ての弾丸は障壁に防がれたのだから。

 

「……そう、慌て、なくとも、お前等が、決勝まで来れば、戦うことになる。そのときに、じっくり教えて、やるさ。――――『恐怖』を、な」

 

 そう言葉を残し、スカルフェイスは直立の姿勢のまま、数メートル後ろへと飛び退り、そこで≪隠蔽≫して姿を消した。

 

「……ぐ」

 

 攻撃が不可能とはいえ、みすみす逃がしてしまったことに、僕は歯噛みしていた。

 

「…………どうしたのよ、零二? さっきのスカルフェイスと、何かあったの?」

 

「……ゴメン、シノン。少し待ってて」

 

 そう言って、シノンとシュピーゲルをその場に残し、キリトへと近付く。手が届く範囲に来た途端、感情のままに胸倉を掴んでいた。

 

「……キリト。知ってることを、全部話してもらうよ……」

 

 そこまでされても、目の前のキリトは何の反応も示さない。ただ蒼白な顔色で、唇を震わせながら、一言だけ。

 

 

「……………………ッ、アイツが、≪死銃≫だ……」

 

 

「――――ッ!!」

 

 その回答に、僕は声を出さずに息を呑んだ。

 ≪死銃≫。GGOで最近ささやかれ始めた、謎のプレイヤー。その銃で撃たれたプレイヤーが、それきりログインしなくなると言うウワサだ。ウワサでは既にそのプレイヤーたちは、全員この世にいないとも――――

 

「……そういう、コトか」

 

 ……つまり、≪死銃≫の噂は本当であり、奴は何らかの手段で殺人行為を行っている。その調査と真偽を確かめるために、キリトはここに来たのか。

 

 僕が、そこまで考えたところで、心の中では『あの日』の光景が蘇ってきていた。あの日、≪笑う棺桶≫のアジトを奇襲し、奴らを壊滅へと追い込んだ、あの日。

 

 

 ……後ろで、倒れ伏す仲間と。

 

 ……目の前で、怨嗟の声を上げながら、消えていくプレイヤーと。

 

 

「……くそッ!!」

 

 僕は手近な椅子へと、左拳を叩き付けた。もう、あんなことは、起こさせないって、決めていたのに……。

 

「零二……?」

 

 僕のただならぬ様子に、離れて様子を窺っていたシノンが近付いてきた。……この大会は、危険すぎる。

 

「シノン……予選が終わったら、話がある」

 

 そう呟いた時、僕もシノンも、足元から広がる次の試合を告げる光に包まれていた。

 

SIDE:シノン

 

 ……なんなのよ、一体。

 

 私は、先ほどの零二の様子を思い出していた。

 

 零二は、何時だって私やシュピーゲルを初めとする他人のフォローを買って出てくれて、人に迷惑をかける行動をしない人だ。それなのに、さっきの零二は明らかにおかしかった。あんな街中で銃を撃つなんて、普段の彼からは考えられない。

 

(それに、私に何の話があるのかしら……)

 

 あんな真剣な表情で話しかけられたのは初めてで、少しばかり――

 

(――私は、何を考えてるのよ!!)

 

 そこで思考を押し留め、照準器(スコープ)の中心へと集中する。視界には既に、敵プレイヤーの心臓部が映し出されていた――!

 

 ◇ ◇ ◇

 

「――あ。シノン、お帰り」

 

 準々決勝から戻った私を出迎えたのは、シュピーゲル一人だけだった。

 

「…零二は?」

 

「もう、準決勝を始めてる。今日の零二は、何だか張り切ってるみたいで、どんどん試合を消化してるよ」

 

 ……あれは、張り切ってるのとは、違うと思う。どちらかと言えば、何かに備え、張り詰めているかのような――

 

「アンタも、勝ったんだな」

 

 そこまで考えたところで、後ろから話しかけられた。そこにいたのは、男のクセに、私よりよほど『美人』のプレイヤー、キリト。

 

「それはこっちのセリフよ……よくあんな戦い方で勝ち進められるわね?」

 

 少なくとも、銃弾斬り落とそうなんて考えるのは、目の前のコイツだけだろう。

 

「ああ、まあな……」

 

 だが、こちらの軽口への反応は鈍かった。そこには出会った当初の快活さは見る影も無い。

 

「――そういえば、アンタもあのスカルフェイスの知り合いみたいだったわね? 結局アイツは、アンタや零二とどういう関係なのよ?」

 

 様子が変わったのはコイツもだし、少しは零二の態度の急変に、手がかりが欲しかった。

 

「……あとで、話す。俺も、零二に詳しい事情を説明しなきゃならないからな……」

 

 顔色は蒼白だが、そこには確かに意志が感じられた。

 

「……まあ、アンタは次の準決勝の心配でもしたらどう? ソレに勝たないと、決勝にはいけないんだから」

 

 あのスカルフェイスも決勝に出てくるつもりのようだし、そこで負けたら、本末転倒だろう。

 

「ああ、大丈夫。どんな『銃』相手でも、負けやしないさ」

 

 ……コイツ、次の対戦相手を知らないのね。強豪プレイヤーを調べないとか、舐めてるのかしら?

 

「――次の相手は、『銃』なんか使わないわよ?」

 

「え? そりゃ、どういう――――」

 

 会話の途中で、キリトの姿が光に包まれた。準決勝のフィールドへ転移したのね。

 

「……まあ、頑張ってきなさい」

 

 視線の先には、各試合を映し出す立体ディスプレイ。そこには、次に行われる、Eブロックの準決勝の対戦者が記されていた。

 

 

『Eブロック 準決勝第一試合 Kirito(キリト) VS 羅皇(ラオウ)

 

 

SIDE OUT

 




死銃との邂逅、終了!キリトからの情報で、死銃とラフコフが繋がりました。シノン……ラブコメの時間は終了ですぜ?

そして!次回はなんと、キリトVS羅皇!!
実のところ、羅皇はこの準決勝でキリトの前に立ちはだかる、中ボス的キャラとしてスタートしてます。その頃は名前も全然違ってたし。それがネタ回をやるにあたり、半ばフライングとして出すことになり、見事世紀末なマッチョへと進化しましたwwおかげで大分、試合内容も変わってしまった……

決勝以降の死銃に関わらずにオリキャラ出せるのは、ここまでが限界なんですよね……
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