ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男   作:路地裏の作者

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ようやく書けたぜ、この展開……



025 説明、絆、そして暗雲

 

「――――さあ、説明してもらいましょうか?」

 

 ここは、グロッケンの下町の片隅にある小さなモーテル。そこの個室を一つ借りて、今回の関係者全員を集めていた。シノンはモーテルに備え付けられていたベッドの上に腰掛け、窓側の小さなテーブルでは、キリトとシュピーゲルがドリンクを傾けていた。

 

 そして、僕は………………何故か、板の間に強制的に座らされていた。正座で。

 

「……あの、この扱いは、一体?」

 

 流石に意味も分からずこんなポジショニングになり、理由を聞いてみた。ソレに対する答えは、彼女の聖母のような満面の笑みと、底冷えのする視線。

 

「別に他意はないわよ? 『正々堂々』とか宣言しときながら、その宣言が引っ掛けだったこととか、最後のクルマ吹っ飛ばした『切り札』が何なのか一向に説明しなかったこととか、全く、何一つ、気にしてなんていないわ」

 

「「「………………」」」

 

 ……ああ、つまり色々やりすぎた、と。

 

「にゃハハハハ、レイ坊も大変ダナー」

 

 僕が観念していると、シャワールームから装備を夜間用に変えたアルゴさんが出てきた。……いや、助けてくださいよ。

 

「……それで、なんでアルゴまで呼んだの? 正直、貴方への追求とか折檻とかには、直接関係ないじゃない?」

 

「……その二つ、確定ですか? まあ、彼女も今回の事件の関係者ですし、それに……」

 

 そう言って顔を向けると、意味深に視線を交わすアルゴさんとキリト。

 

「――――久しぶりダナ、キー坊」

 

「……あ、ああ、久しぶり…………」

 

 それで、会話は終了。うーむ、これは……

 

「修羅場?」

 

「いや、元カノと浮気性の彼氏でしょ」

 

「なるほど、確かにそんな雰囲気だね」

 

「「違う!!」」

 

 ◇ ◇ ◇

 

「――――なるほどナ。≪死銃≫は、ラフコフの残党だったノカ……」

 

 あの後、とりあえず話を収めて、今日のBoB予選で出会ったスカルフェイスの男、その右腕に刻まれた≪笑う棺桶≫のタトゥー、そしてキリトが≪死銃≫の真偽を確かめるためにGGOに来たことなどを話した。それにしても、キリトはまたあの役人さんがらみか。あの人はどうにも、胡散臭いんだけど?

 

「キー坊が、ココにいるってことは、それなりに差し迫ってるんダロウ? 一体、何人犠牲者が出てるんダ?」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれないかな、アルゴ。それに、キリトさん」

 

 話に割り込んできたのは、シュピーゲル。

 

「ふ、二人とも、まるで本当にゲーム内から人を殺したみたいに言ってるけど、そんなこと出来る訳ないじゃないか? あのゲーム(・・・・・)じゃあるまいし」

 

 その言葉が出た瞬間に、キリトとアルゴさんの顔が強張った。確かに、『あのゲーム』には、嫌な思い出も多いからね。

 

「――イヤ、本当に≪死銃≫が元ラフコフだっていうんなら、ソイツは確実に方法を見つけて『殺し』に来るヨ。昔からアイツラ、『殺し』の手段を考えることだけは勤勉だったカラナ……」

 

「…………俺も、同感だ。少なくとも、≪死銃≫がアピールした二つの『殺人』――≪ゼクシード≫と≪薄塩たらこ≫は、本人の死体が発見されてる」

 

「「…………ッ!」」

 

 その事実に、息を呑んだのは、シュピーゲルとシノン。奥歯をかみ締め、顔をしかめるに留めたのは、僕とアルゴさん。

 

「やっぱりか……」

 

「そうなると、何か『抜け道』でも見つけたんダロウナ。全く、これだから――――」

 

 

「――ちょっと、待ちなさいよ」

 

 

 僕らの会話に口を挟んだのは、シノン。その顔は蒼白で、何かを確認するかのように、僕やアルゴさん、そしてキリトの間をさまよっていた。

 

「…何で……何で、あなた達そんなに冷静なのよ!? 今の話が全部本当なら、≪死銃≫はPKでも何でもない、ただの殺人鬼じゃない!! そんなのを追ってくる奴もそうだけど、ソレを冷静に聞けるあなた達も、絶対おかしいわ!」

 

 シノンのその反応を見て……僕らが思った以上に、一般の倫理感とか常識からかけ離れてしまっているのだと、気付かされた。

 

「仕方なかったんダヨ、シーちゃん…………」

 

「昨日まで親しかった奴が、今日いない――ソレを悲しむ気持ちと、『生きる』ことを切り離さないと、とてもやっていけなかったからな……」

 

 キリトの意見に、僕も同感だった。≪風林火山≫に犠牲者は出ていないが、親しかったギルドや友人には、やっぱり犠牲者もいた。……だからこそ、ラフコフは許せない。

 

「――――一体、何の話をしてるのよ……」

 

 ……やっぱり、話さないと、駄目だろうな。いや、ここにアルゴさんを呼んで、話を聞かせた時点で、覚悟はしていたけど。

 

「シノン、シュピーゲル…………出来れば、僕の話を聞いて欲しい」

 

「………………何?」

 

 それに反応を示したのは、シノンのみ。シュピーゲルは顔を俯けている。

 

 

「――――あの『デスゲーム』の、中にいた(・・・・)人間の話を」

 

 

 それから、二人には全て話した。僕とキリト、それにアルゴさんが≪SAO生還者(サバイバー)≫であること、恐らく≪死銃≫もその一人と目されること。そして――――

 

殺人(レッド)ギルド、≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫…………」

 

「そんなのが、あったなんて……」

 

 SAOで猛威を振るった、ラフコフについても。

 

「まあ、そういうわけで、出来ればシノンには、明日の決勝の出場を辞退してもらいたいんだけど……」

 

「……ふざけてるの?」

 

 彼女の持つ≪ヘカートⅡ≫もかくや、と言わんばかりの冷たい眼光で射抜かれた。……やっぱ、アスナさんと気があいそうだなあ。

 

「私は、≪死銃≫なんかに負けたくない。GGOにだってPK主体でプレイする人はいるけど、話のとおりならその≪死銃≫は、生中継中の人を狙ったり、スコードロンとの会合中を狙ったり――まるでPKを目的としてるんじゃなくて、こんなに『力』がある、って周りに誇示したいがために、殺人を犯してるみたいだもの」

 

「それは……まあ、あるだろうな。ラフコフの奴らなら」

 

「元々、他のプレイヤーへのアピールのためだけで、結成式代わりにギルドを一つ全滅させた奴らだからね」

 

 僕ら二人の話に、シノンの顔に浮かぶ嫌悪がより一層強まった。

 

「だったら、そいつらは、もうPKでもなんでもないわ。ただの『人殺し』よ」

 

 そう言った彼女の手は、ギュッと余りにも強く握り締められていた。……彼女の抱えてる、『傷』にも関係してるのか?だとしたら、どれだけ危険性を指摘しても止まらない、か。

 

「――――わかった。それなら、シノンは明日、僕と一緒に行動してほしい。出来れば犠牲者が出る前に、≪死銃≫を大会から排除したいからね」

 

「……別に、守ってもらわなくても結構よ。大体手分けした方が、効率的じゃ――」

 

「駄目だ」

 

 これだけは、譲れない。

 

 

「シノンは、僕が守る」

 

 

 彼女の目を見据え、ただそれだけを口にする。対して、彼女はその頬を少し赤く染め――――

 

「「ゴホンッ!!」」

 

 横合いからアルゴさんと、シュピーゲルの咳払いが割り込んだ。

 

「――マア、大体話は分かったヨ。私に頼みたいことっていうノハ、その≪死銃≫の調査ダナ?」

 

「あ、ああ、そうなります。GGO内でのプレイヤー名、プレイスタイル、そして、かつてのSAO内でのプレイヤー名やプレイスタイルなどなど。出来れば現実(リアル)での素性が分かるのが一番だけど……」

 

「難しいダロウナ。ヤツラは多分、私達以上に現実(リアル)情報の公開に気をつけてるハズダ。他の情報にシテモ、一日で調べきれることには限界がアル」

 

「ちょっと待ってくれ、アルゴ。現実(リアル)情報への当てなら、俺にある」

 

「――ナニ?」

 

 その言葉に、アルゴさんが怪訝な顔をする。

 

「今回の頼みごとの依頼人で、菊岡って役人。アイツの勤める『仮想課』には、全てのSAOプレイヤーの住所氏名を初めとする、個人情報が保管されている。SAO(むこう)でのプレイヤー名さえ分かれば、それで判明するんだ」

 

「本当カ!?」

 

 これには、僕も驚いた。まあ全員の身体を病院に収容する手続きを取ったそうだし、そのくらいの情報はあるか。

 

「ヨシ、なら任セロ! 明日までに≪死銃≫のSAO時代の名前を、抑えてヤルヨ!! ――でも、それなら、キリトは思い出せないノカ? ≪死銃≫に、直接会ったんダロ?」

 

「…………すまない。確かにSAO時代に、顔を遭わせた記憶はあるんだが……」

 

 こればかりは、仕方ない。あの『ラフコフ掃討戦』に挑んだ者は皆、出来る限りあいつ等のことを忘れようとしてきた。今更その頃の記憶を辿ろうとするのは、かなりの苦痛だ。……僕にとっても。

 

「――まあ、安心シロ。SAO時代のことは、オイラが暴いてヤルヨ。ところで、シュー吉にも話したのは、もしかしてオイラの手伝いカ?」

 

「アルゴ、そのあだ名はやめてくれないかな……アルゴがSAO時代なら、僕はGGOの方かな?」

 

 そう言って、シュピーゲルがこちらに視線を向けてくる。…………だけど、なんだ?どうしてシュピーゲルから、どこか落ち着かないような印象を受けるんだ?

 

「…………まあ、そうだね。流石にアルゴさん一人だと調べる量にも限界があるし、今回は時間がないから、今回のBoB決勝戦に出場する人を調べてもらおうと思ったんだよ」

 

「うん、わかった。それで誰から調べればいいかな?」

 

 そう言って手元に、今回の決勝進出者のリストを呼び出す。何で、こんなに不安になるんだ?

 

「……まずは、今回初出場の人から。次にスコードロンに所属していない、もしくは大規模スコードロンに名前だけ置いている人を中心に。あのスカルフェイス自体、偽装の可能性があるからね」

 

「……そう。そうなると、一日じゃ調べきれないかもしれないね。あ、これが今回の初出場選手だよ」

 

 そこに写っていたのは、4人の名前。≪ペイルライダー≫、≪Sterben≫、≪J.B.Pain≫、≪銃士X≫。

 

「この中の誰かが≪死銃≫なのか……それとも、以前からの出場選手の誰かなのか……」

 

「その可能性は、どちらもあるよね。いくら髑髏みたいで不気味なマスクっていっても、ちょっとスキルを取れば作れそうな物だったし」

 

「むう……」

 

 ≪防具作製≫はそれなりに苦労もあるのだが、今回関係ないので置いておく。今一番重要なのは、≪防具作製≫を取っているキャラクターは、今ではそれなりに数がいて、特定につながらないことだ。

 

「とにかくお願いできるかな、二人とも。出来れば無理だったとしても、明日には連絡が欲しいんだけど……」

 

「りょーかい、お姉さんにお任せダ!」

 

「僕も、出来る限り調べてみるよ」

 

 出来ればそれで、菊岡さんに頼んで当人を拘束するのがベストだ。大会中拘束すれば、流石に何も出来ないだろう。

 

「私達は、明日の決勝中、≪死銃≫の殺人を阻止するのが仕事ね」

 

「ああ、俺は決勝中は出来る限りさっき言っていた初出場選手に接触してみる。もしかしたら、SAO内の名前を思い出せるかも知れないからな」

 

「うん……だけど、無理は出来ない。これはアルゴさんやシュピーゲルもだけど、絶対に無理はしないで。まず自分の命を優先して欲しい」

 

「わかってるヨ、レイ坊」

 

「わかった、零二も気をつけて」

 

 そこで話を終え、≪死銃≫事件の対策と方針は決定となった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ――翌日、自宅のアパート近くの公園。

 

「……そっか。初出場の選手達は、調べきれなかった、か…………」

 

「うん、ごめんね。全員が全員スコードロンに所属しない、ソロプレイヤーだったことは、分かったんだけど……」

 

「そうなると、交友関係も狭くなるし、余計に調べづらいわね。まあ、大丈夫よ。この初出場選手達と、リストアップしてくれた古参のソロプレイヤーに注意すればいいんだから」

 

「そうだね。ラフコフの奴等は、獲物を仕留めるために集団に入り込むこともあるけど、あまり長期に一箇所にいることは少ない。それにどこかのスコードロンのタグがついていたら、流石に誰かがそのプレイヤーの正体に気がつくだろうしね」

 

 キリトは音声ファイルまで持っていたし、どこかに所属していたら声で気付かれる可能性だってある。

 

「あ、それとアルゴから伝言。『どうにも時間がなくて調べ切れなかっタ。二人に、幸運を祈るって伝えてクレ』ってさ」

 

「――――アルゴさんが? 変だな……」

 

 信用第一の情報屋を営んでいた彼女が、結果報告を直接伝えず、他人に頼むことなんて、あり得るだろうか?……昨日から時々感じる、この『違和感』は、一体なんだ?

 

「SAO時代も、GGO時代も情報はナシ、か……何だか、『亡霊』でも相手にしている気分だわ」

 

 その言葉と共に、彼女は自分の身体を抱きしめるように、腕を組む。……やっぱり、怖いのが普通だよね。

 

「……そろそろ、行きましょう。アルゴさんなら、ゲーム内で追加情報の一つや二つ、持ってくるかもしれないわ」

 

「……そうだね。追加の情報を待とうか」

 

「――わかった、二人とも頑張って!」

 

 そう叫ぶ新川恭二の激励を背に、アパートへと戻る。一緒に階段を上り、互いに隣り合わせのドアの前で、彼女に声をかけた。

 

「――――朝田さん」

 

「え? なに、銅島さ――!?」

 

 振り返った彼女の右手を、両手で包む。まるでそこを暖めるように。

 

「君は、怖がってもいい。≪死銃≫は、マトモなプレイヤーなんかじゃない。『死』を恐れるのは、『人間』なら、当たり前なんだから」

 

「………………」

 

 ここで、嫌われてもいい。余計なことを言わないで、と罵倒されてもいい。

 

 

「――君が怖くても、泣き出したくても、全部受け止めて、僕が君を守る」

 

 

 彼女が死んでしまうよりも、何百倍もマシだから。

 

「…………ありがとう」

 

 それだけ口にして、彼女は自分の部屋の扉を閉めた。

 

「……行くか」

 

 自分の部屋の扉を開け、鍵とチェーンをかける。上着を脱ぎ、楽な格好になってアミュスフィアを装着する。今の決意が冷めぬまま、行くことを決める。

 

「――≪リンク・スタート≫」

 

 言葉と共に、旅立つ。戦いの舞台へ、彼女を守るという決意を秘めて。

 

 だからこそ、僕は気付かなかった。充電のため、自宅に置いていた携帯に、着信が来ていたことなど。

 




レイジ、最大のポカ。
『シュピーゲルの前で』、アルゴに≪死銃≫の調査を依頼してしまいました。まああれだけ親しくしてた人間が、実は犯人だとは誰も考えない……。
そしてそして!コレによって発生するイベントのため、来週『アルゴ編』の幕間を挟みます!!フフフ……アルゴの運命はいかに!?今回最後に入った『着信』も、実はフラグだったりします!

GGO決勝戦は、再来週の予定。今回と次回で、ヤバイフラグが立ちます。この最後のフラグ立てと、アルゴ編のためだけに、アルゴに出演してもらったからなあ……。
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