ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男   作:路地裏の作者

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久々にして、恐らく最後の幕間回。初めての、全編アルゴ回です♪



幕間4 奔走する鼠、そして幕開け

 

SIDE:アルゴ

 

 三日月が僅かに雲間から照らす薄暗い夜の中、私はさらに暗い路地裏の闇の中で息を潜めていた。

 

(――――あれが、≪死銃≫カ……)

 

 視線の先、更なる暗闇を進んでいく、髑髏を模した仮面の男がいた。

 

(全く、今回の情報収集(ミッション)が歴代ナンバー1の難易度ダナ?)

 

 そう思い、改めて自分の現状を思い浮かべる。

 

 

(マサカ、伝説の『みかん箱』に隠れる日が来るなんてナ~)

 

 

 彼女が隠れている路地裏の一角、そこに置かれている茶色い箱。周囲の砂で汚れた建物と、違和感がないソレ。背景か置物(オブジェクト)かと見間違えてしまう外観(フォルム)。そして、何より外に書かれた『UNSHUU ORANGE』の文字!

 

 潜入(スニーキング)任務(ミッション)の最大の相棒にして、伝説のアイテム!そして、オイラがGGOで手に入れ、今まで一度も使ってこなかった切り札!≪ザ・カードボードボックス・オブ・スネーク≫!!≪スネークの段ボール箱≫ダ!

 

(フフフ……コイツに隠れている限り、街中や施設内での≪隠蔽(ハイディング)≫は大量のボーナスを得られる! しかモ、完全に本人の姿を視認しない限り、カーソルを合わせることも出来ない! まさに情報屋のために在るヨウナ、アイテムダヨ!)

 

 まあ、その性質上、砂漠や密林(ジャングル)なんかのフィールドに出られると、一気に≪隠蔽(ハイディング)≫にマイナス補正がついちゃうんダケドネ。

 

(今回は、万に一つも見つかるわけにはいかないカラナ……)

 

 そう考えて、少し先を歩く≪死銃≫――――いや、≪Sterben≫を見る。

 

(医療用語で『死』カ……あんまりにもそのまんま過ぎナイカイ?)

 

 あのレイジやキリトとの打ち合わせの後、すぐさま自分は≪死銃≫の足跡を追った。どんな人間であれ、どんな世界であれ、そこで生きていく上で、情報を完全に封鎖するのは不可能だ。彼の外観は余りにも特徴的で、それらの入手先を一つ一つ調べ、最終的にあの装備一揃いを全て購入したことがあるプレイヤーは、彼一人だけだった。

 

(に、しても……情報を隠そうとした跡が、あまり見受けられなかっタナ…………。もしかすると、最初からあのキャラは捨てキャラなのカ?)

 

 最初からある程度騒ぎを引き起こしたら、アカウントごと削除するつもりだったとしたら、一応の辻褄は合う。もっとも一キャラ固定のSAOでは、絶対に取れない手段だが。

 

(そうだとすると、余計に妙ダ……こんなにセンセーショナルな殺人を成し遂げた≪死銃≫というキャラを、自ら手放すナンテ…………)

 

 今回のBoB決勝戦で、もしも≪死銃≫が『殺人』を成し遂げたなら、≪死銃≫の名はGGO内に轟くだろう。もしかしたら、今存在するネット世界全てに波及するかもしれない。

 

 SAO内で、ショッキングでセンセーショナルな『殺人』ばかりを嗜好していた≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫のメンバーが、そんな極上のキャラを手放すだろうか?

 

(イヤ、もしかシタラ――――)

 

 そこまで行き着いた思考は、≪死銃≫の次の行動で遮られた。≪死銃≫は街から出て、荒野へと歩き出したのだ。

 

(……チェッ)

 

 口内でほんの僅かに舌打ちし、段ボールを解除し、インベントリに仕舞いこむ。荒野では、段ボール箱が追いかけてくるなど、何処にいるか教えているようなものだし、第一シュール過ぎる。

 

 ≪隠蔽(ハイディング)≫を最大に効かせ、後を追いかける。行き着いたのは、グロッケンから少し離れた、廃棄されて壁と床の一部しか残らない小さな建物。床下に小さな貯蔵庫がある以外、特に隠しアイテムもなく、今では誰一人近付かない場所だ。

 

(こんな所に、何の用ダ?)

 

 壁から顔を半分だけ覗かせると、≪死銃≫は何をするでもなく、床に積みあがったガレキの小山に腰掛ける。まるで誰かを待つように。

 

(……やっぱり、協力者がいるノカ? ≪Sterben≫の装備を保管し、これからズット、≪死銃≫を存在させ続けるタメニ)

 

 そう考えれば、さっきの『捨てキャラ』という考えも辻褄が合う。協力者があの≪死銃≫装備一揃いを保管し続け、新キャラに渡し続ければ≪死銃≫は消えない。行き着く先は、このゲームの運営中止だろう。

 

(どんな奴かも分からないケド、SAOから引き継いだオイラの≪索敵≫からは、逃れることナンテ――――――)

 

 そう考え、視線を再び≪Sterben≫に戻した瞬間――

 

 

 トスン、と首筋に、余りにも軽い衝撃が奔った。

 

 

「な……?」

 

 口から出たのは、それだけ。身体はすぐに横倒しとなり、指一本動かなくなった。視線に入っているHPゲージに、点滅する緑色の枠が発生している。

 

(この世界で……≪麻痺毒(・・・)≫だっテ?!)

 

 銃のゲームであるこのゲームで、毒を使うプレイヤーはほとんどいない。しかも元SAOキャラである『鼠のアルゴ』の耐毒スキルを超えるとなると、相当にハイレベルな毒を使用しなければ不可能だろう。

 そんな思考は、次に聞こえてきた声の衝撃で、停止してしまった。

 

 

ワーン(・・・)ダウーン(・・・・)

 

 

 その声のもたらした効果は、絶大だった。血の気が引き、動かぬ身体は必死になってその声の主を探した。そこへ次の声が響く。

 

 

久しい(・・・)、な。鼠、の、アルゴ」

 

 

 しゅうしゅう、という呼吸音とともに、言葉をぶつ切りにする独特の口調だった。……思い出した。コイツは、いや、コイツラ(・・・・)は――――!!

 

「本来、なら、貴様はこの場、で殺しておきたい、ところだが…。先約は、BoBだ。……貴様は、そこの地下で大人しく、していろ」

 

 そう言うと同時に、顔面に麻袋が被せられ、上からロープでグルグル巻きにされた。そのままガレキだらけの床を引きずり、床下の貯蔵庫に放り込まれる。さらに、袋から出ていた右足の内腿に、不快な衝撃が走る。……≪麻痺毒≫付きの凶器で、弄んでやがるナ、クソッ!

 

「……じゃあ、な。お前は、『知り合い』の、『死』に、散々、絶望するがいい」

 

 そう言って、地下貯蔵庫の扉が閉められる。袋越しに伝わる光もなくなった中、私は人知れず涙を流した。

 

 

(駄目ダ………………BoBに、出場しちゃ駄目ダ! 逃げてクレ、シーちゃん、キー坊、それに――――レイ坊)

 

 

 その声は、誰にも届かない。内腿には相変わらずの不快な感覚。どうやらご丁寧に、≪麻痺毒≫付きの凶器を一本、突き刺していったようだ。

 

(……オイラはもう、昔の皆には、関わらないつもりダッタ)

 

 身体を巡る不快な毒が、感情まで苛立たせた。

 

(けど……けど! そんなこと、もう言ってる場合じゃないダロウ!)

 

 怒りに任せ、感情も心臓の鼓動も高めていく。この状況から脱出するために。

 

 

(『私』は、友達を、助けたい!)

 

 

 ≪鼠≫のアルゴ――『有田沙耶』は、鳴り響く鼓動の音と共に、現実へと帰還した。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「ぷはアッ!」

 

 ぜいぜいと、まるでフルマラソンを走ったかのような荒い呼吸とともに、ベッドから飛び起きた。ここは、SAO解放後、復学した大学に通うために借りた自宅のマンション。東京都杉並区の一角にある、それなりにセキュリティのしっかりしたマンションだ。

 

「上手くいったわね……まったく、≪アミュスフィア≫様々よ」

 

 SAOで使用されたナーヴギアと違い、アミュスフィアには、強化されたセキュリティ機能群が存在する。そのうちの一つが、『本人に肉体的な異常が発生した場合、即座に現実に戻る』という機能だ。これは特に、本人の心拍数に反応しやすく、意図的(・・・)に鼓動を思い切り早めれば、こうして現実に帰還することも可能なのだ。

 

(こうなってしまった以上、ゲーム内で皆に情報を渡すことは出来ないわね……)

 

 歯噛みする。これでは何のために、あいつ等を調べ上げたのか分からない。

 

(……いや、絶望するのは早いわね)

 

 そう考え、机の上に置かれたPCの電源を入れる。ネットブラウザを立ち上げ、しばらくあちこちを検索。遂には、その情報に行き着いた。

 

「――――あった! ≪ダイシー・カフェ≫!」

 

 画面に映っていたのは、こじんまりしたバー兼カフェの小さな店。その画面の端には、顔写真つきの店主のオススメ商品と、店舗の連絡先が書いてあった。

 

「以前にレイジから聞いていた、エギルの店……行く気はなかったけど、話だけでも聞いておいて良かったわ」

 

 そう呟き、携帯で店舗に電話をかける。スピーカーから聞こえてきたのは、懐かしい声にも似た、バリトンの渋い声。

 

『はい、≪ダイシー・カフェ≫です。申し訳ありませんが、当店の営業時間は午前11時から――――』

 

「そんなテンプレ、どうでもいいわよ、エギル!!」

 

 思わずマイクの向こうに叫んでいた。今は本当に時間が無い。

 

『……あ? 誰だ? 俺をそう呼ぶってことは、SAOのプレイヤーっぽいが……どうにもお前さんは、記憶にないんだが』

 

「ああ、モウ! それどころじゃないノニ! こっちで話せばいいんダロウ!! オイラだ、アルゴダヨ!!」

 

 その言葉に、スピーカーの向こうから驚くような声が聞こえた。

 

『あ、アルゴか? お前、一体どうしたんだ。現実(こっち)では全然連絡なかったのに……』

 

「今、それどころじゃないって言ってるダロウ?! 急いで、レイジの現実での連絡先教えてクレ!!」

 

 スピーカーの向こうからは、若干だがいぶかしむような声。こちらの意図が図れないからだろう。

 

『……何か、あったのか?』

 

「いいから、早く! レイジが……ラフコフに狙われてるンダ!!」

 

『ッ!?』

 

 驚愕に息を呑んだ後、エギルはレイジの連絡先を教えてくれた。急いでその番号に、コールする。

 

(あいつ等は、私が『鼠のアルゴ』だって知ってた……)

 

 GGOでのアルゴは、SAOとは似ても似つかない。フェイスペイントにしても、あの世界では普通に存在する

 

(私の『知り合い』が、BoBに出場することまで知ってた……!)

 

 明らかに、GGOでのこちらの交友関係を把握した上での発言。だからこそ、気がついた。

 

 

(レイジやシノンのすぐ近くに、ラフコフの『共犯者』がいる!!)

 

 

 知らせなければ。『共犯者』は………………多分、『彼』なのだと。

 

 そんな思いを裏切るように、コール音は、無情に鳴り響き続けた……。

 

SIDE OUT

 




サスペンス要素に入る前に、ネタで軽いジャブ。スネエェェク!

そして、満を持して、『彼』がGGOにログイン!ここまで、一言も『ザザと戦う』と言わなかった甲斐がありました……。GGO編は、『ダブルボス』でいきますよ!……トリプル?はて、あと誰かいたかな……。

『彼』もザザも、当然決勝に参加。ですが、この時点で殺害方法の謎は一切解けてません。つまり二人を拘束することも、逮捕することも出来ません。アルゴが焦ってレイジの方に連絡しようとしたのは、レイジやシノンの安全のためだったりします。

アルゴのリアル、有田沙耶。アルゴの現実での本名は、作中一度も語られていなかったこともあって、しっくり来るのを探していました。そんな時、目に飛び込んできたのが、この名前。まあ、つまり――――≪鼠≫は、数年後、≪銀翼の鴉≫を産んだ、と。
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