ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
SIDE:シノン
本来、狙撃手というスタイルは、BoBの遭遇戦には必ずしも向かないスタイルだ。この考えには色々あるけれど、一番の原因は、BoBという大会で、≪索敵≫がしづらいことにある。この大会、大会本部から支給されるデバイス以外での≪索敵≫は、スキルの性能次第で増減し、私のような長々距離狙撃をカバーできるような≪索敵≫スキルは、それ専門に鍛えている≪
だから純粋に狙撃の能力ばかりにスキルもステータスも特化している私では、接近戦には全く対応できないはずだった。……そう、はず
それが――
「「うおおおおおおっ!」」
目の前で戦うチームメイトとその友人の剣士のおかげで、全く不安を感じなかった。
「セアッ!」
牽制に左手の≪クリムゾン・ボルト≫を連射しながら零二が近付き、足払いで相手を転ばせ、口に≪ガリスン≫を突っ込んで消滅させる。
「らあっ!」
自身に迫り来る弾丸を右手の光剣で落とし、左手の≪FN・ファイブセブン≫で牽制し、最後には相手を斬り裂いてしまうキリト。
…………この人たち、
そう思ってしまうのも仕方ないだろう。二人とも、銃を牽制の道具としか思ってないんじゃないかと思える戦いぶりだ。特に、零二。何度口をすっぱくしても、ハンドガンを口に突っ込む戦い方が一向に直らない。……GGO歴が長いくせに。
「――弾丸を節約できていいわね」
自分の標的だったRPG使いを撃ち抜き、私は二人の方に向き直った。
二人が倒した敵の上には、二つの≪DEAD≫タグが浮かび上がっている。無機質に浮かび上がるソレが、逆にそのプレイヤーを操る人たちが生きていることを証明している。
「まあまあ、シノンの銃は弾丸も限られてるんだし、ここは温存しといてよ」
「そうだな。
……厄介ごとが片付いたら、撃ち抜いてあげようかしら。
「ともかく見えてきたね。あそこが≪死銃≫が潜伏したハズの、≪都市廃墟≫だよ」
零二の言葉に顔を上げると、そこには朽ちてはいるものの変わらずにそびえるビル群。BoB決勝の主戦場、≪都市廃墟≫区画だ。
あれから橋のたもとで姿を消した≪死銃≫二人組を追ってきたが、岸に上がるところは確認できなかった。であれば、河の下流に位置するこの都市に入り込んでいるはずだ。
「――しかし、≪死銃≫のプレイヤーネームは、一体どんなのなんだろうな? もう一人のアイツは、≪J.B.Pain≫だと分かったけど……」
既に昨日候補としてあげていた四人のうち、一人は死亡、もう一人は共犯者だったことが判明している。残りの新規プレイヤーは。≪銃士X≫と≪Sterben≫の二人のみ。残りは古参のプレイヤーばかりだし、そのほとんどのプレイスタイルは知っている。その中に、自分と同じくらいの力量の
「もう、新規プレイヤーのどちらかが、≪死銃≫の主犯だと見てよさそうね。ほかのプレイヤーがいきなりプレイスタイルを変えたのでなければ」
「……そうだね。仮に古参の誰かだとしたら、そのスタイルの変更が話題になってもおかしくない。そんな話は聞いたことがないから有力なのはその可能性だよ」
候補は、二人。だけどその二人が二人ともこの都市にいた場合は、どちらに向かうべきか。
「……『ジュウシ・エックス』を逆さにして、『シジュウ』っていうのは、考えすぎかしらね?」
正直ただのもじりでしかないが、可能性はある。もう片方の≪Sterben≫は、≪死銃≫と何もつながらないし。
「――可能性はあると思うけど、ラフコフがそんなわかりやすいことするかな?」
そんな零二の言葉に、二人は首をかしげている。まあ、コレに関しては私がSAOでのラフコフの実際を知らないのだから、何もいえない。
「…二人とも、検証は後にしよう。そろそろ次の≪サテライト・スキャン≫だ」
キリトのその言葉とともに、私達は支給されたデバイスへと目を移す。そしてちょうど見計らったように、データが送られてくる。
「キリトは北からチェックして! 私は南から。零二はこの都市廃墟区画を中心に、全体に広がるようによ!!」
私の指示で全員がデバイス上の光点をチェックしていく。そして、都市区画をチェックした時点でその名前に気づいた。
「「……いた!!」」
私の反対方向からチェックしてきたキリトと同時に声を上げる。≪銃士X≫。今都市廃墟にいるのはソイツだけだ。そしてそのままお互いに調べ終わった場所へと移り、確認する。
「――間違いないわね」
「ああ。≪Sterben≫は、都市の近くにはいない。≪銃士X≫が≪死銃≫だ」
相手が分かれば、話が早い。今から強襲をかけ、もう誰一人犠牲者は出さない。そう思い、ヘカートに手を這わせ、銃身を強く握ったところで、ふと気がついた。
「――――――零二?」
真っ先に都市廃墟を調べていたはずの零二が、何の反応も示さない。それどころか、デバイス上の光点を確認して、どんどん顔色が悪くなっていく。
「…十九……『二十七』…………やっぱり数が合わない……」
「どうしたのよ、零二。一体なにが――」
そう話しかけ、肩に手を置こうとした瞬間……
「シノンッ!」
「きゃっ……?!」
いきなり腕を引っ張られて、力一杯抱きしめられた。一体、何!?大会中よ、今?
一瞬変な方向に思考がいったが、次の瞬間私を抱きしめる左腕に、ナイフの柄が生えたところで、そんな気分も吹き飛んだ。
「う…く……ッ!」
「零二ッ!?」
零二の動きが明らかに鈍い。恐らく先ほど喰らったのと同じ『麻痺毒』だろう。しかし、どうやって?≪銃士X≫を含め、都市廃墟近くのプレイヤーの位置は全て確認した。ペイルライダーのような遠距離からの電磁スタン弾ならともかく、ナイフで斬り付けられるほどの距離には、誰もいなかったはずだ。そこまで考え、デバイスに目を向けた時、私はソレに驚愕した。
「なッ!?」
何もいなかったはずの場所に、点滅しながら光点が現れたのだ。数は二つ。そして頭の横に響く、ジジッ、という火花が走るような音。そちらに目を向けると、顔に黒い頭陀袋を被った、≪J.B.Pain≫と呼ばれるプレイヤーが現れていた。
――――メタマテリアル
一部の超高レベル
「零二ッ!!」
ここでようやく事態に気づいたキリトが走り寄ってくるが、その足元に一発の弾丸。やったのは、私達から離れた位置に現れた髑髏マスクのほうだ。
「邪魔、は、させん……」
「そう、かよッ!」
キリトが進路を、≪死銃≫の方へと向ける。確かにここでソイツを倒せれば、もう犠牲者は出ないかもしれない。そう思い、≪死銃≫に向かうキリトから視線を再び零二に戻した時、頭の近くで声が響いた。
「な~、≪冥府の女神≫サマー?」
どこか子供っぽい猫なで声だが、そのわざとらしさが癪に障った。……コイツは、罪の意識なんて毛ほども感じていない。本当に、人殺しを楽しんでいる。それがその声音からよく分かった。
「『まだ』オマエも、オマエのオトコも殺さねえけど……人を本当に殺せる≪死銃≫がどんなモンか、見てみたくねえ?」
そう言って、そいつは懐を探り出す。コイツも持っているのか、≪死銃≫を。だったら動けるようになり次第、零二と共闘して、コイツを――――
そこまで考えた時、全身を冷たい戦慄が奔りぬけた。
「え……?」
視界が暗くなる。
鼓動が五月蝿い。
呼吸が出来ない。
明らかに、私を苛む発作の前兆。それらは全て、その男が、懐の『黒い拳銃』のグリップが顔を出したところから始まった。
どう……して…………
どうして………………『あの銃』がここに……
ソイツの手に握られていた拳銃の名は、≪五四式・
それを確認し……黒い頭陀袋の上に、殺したあの男の顔と瞳が重なった瞬間……私は、喉の奥から、声にならない絶叫を上げた。
SIDE OUT
はい、黒星登場です。シノンでなくレイジが麻痺ってるあたりに違いが出てきてます。
レイジがプレイヤー数を確認したおかげで、奇襲に気づけました。だがそのおかげで、キリトは≪銃士X≫のドロップ武器なしで戦うことに……
ここでお知らせです。来週土曜に所用があるのと、年明け用に話を詰めようと考えているので、来週の更新はお休みさせていただきます。プロット起こしている段階で、自分はラブシーンが苦手だと分かった……シノンの洞窟のシーンはなんとかいいものにしたいので!