ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男   作:路地裏の作者

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 今回は、SAO最大の公式チーターさんとのバトルです。

 …さて、果たして勝てるのか?



004 鉄拳術と神聖剣

 

「はあ……」

 

 ここは第75層コリニアの、コロシアム控え室。

 

 現在、血盟騎士団主催のイベントで、今回明らかになった≪二刀流≫と≪鉄拳術≫の使い手と、これまで唯一の≪ユニークスキル≫所持者として扱われてきた、≪神聖剣≫ヒースクリフとのデュエルが組まれている。ちなみに僕は第二試合。第一試合としてキリトVSヒースクリフが行われている最中だ。

 

「なんで、こんな大人数の前で見世物に……」

 

「いやあ、えろうすんまへん。けど毎月一回くらいやってくれると、こっちも大助かりなんやけど」

 

「お断りします」

 

 こんなイベント、一回で十分だ。というか、アスナさんに聞きましたけど、会計役のアナタが計画したって聞いてますよ? えーと、名前はなんだったかな?

 

「ああ、すんまへん。けどほんま―――」

 

「へ?」

 

 そんな声と共に、目の前の人物は動きを止めた。見回すと景色は赤く染まり、注がれようとしていた飲み物が空中で止まり、開け放たれようとしていた緞帳がその途中で動きを止めていた。

 

「……何だ?」

 

 ここがVR空間であることを考えれば、システムがラグでも起こしたのだろうか? それでも自分が普通に動けているのはおかしいが。

 

「ん?」

 

 ……いや。もう一つおかしなところがあった。全てが静止したような空間、そんな中にあって緞帳の向こう、試合中の選手のうち、片方だけが、非常にぎこちないが確実に動いていた。

 

「………ヒースクリフ?」

 

 赤く染まった視界の中、視線があった気がした。

 

 ◇ ◇ ◇

 

『第一試合、ヒースクリフ選手の勝利です! 30分の休憩の後、第二試合に移ります!』

 

「あ~~~、チクショウ! キリトの奴、負けちまったか。大損こいちまったぜ」

 

「ハハッ、惜しかったなクライン。後でヤケ酒くらいなら付き合うぜ?」

 

 コロシアム最前列。キリト行き着けの故買屋のエギルと、レイジ所属のギルドリーダー、クラインが並んでいた。

 

「いーや、まだ大丈夫だ。何せレイジには、キリトの奴の倍の額をつぎ込んであるからな」

 

「オイオイ、大丈夫なのか? 次の試合だって、本命はヒースクリフって扱いだったぞ?」

 

「大丈夫! ……のハズだ」

 

「自信ねえのかよ……」

 

 そんなことを言い合っているところへと……

 

「エギル、クライン」

 

「オウ! キリト、テメエ、人に損させやがって、後で一杯おごりやがれ!」

 

「あー、悪かったな……」

 

 試合を終えたキリトと、何故か当然のような顔で血盟騎士団副団長のアスナがやって来た。ちなみにキリトには、今やっかみの視線が集中している。

 

「少しつめてくれよ、クライン。アンタは次の試合どう見てるんだ?」

 

「そうね。私も≪金剛≫レイジ君の実力は気になるわ。……まあ団長の勝ちだろうけど」

 

「ん? あー、そうか。アイツ普段デュエルやらねえから、実力知ってんのはウチのギルドの奴だけか」

 

「オレも興味あるな。アイツも何だかんだで、ウチのお得意さんだしよ」

 

 このメンバー内ではクライン以外、誰一人としてレイジのデュエルも戦闘も見たことが無かった。彼は基本的にボス戦のときは、壁戦士(タンク)とフォローに徹し、積極的に戦いを挑むところが想像すら出来ないからだ。

 

「んー、実は随分前に、ギルド内でその日の飲み代賭けて、デュエル大会やったことがあんだけどよ」

 

「へえ……結果はどうだったんだ?」

 

「……全員、アイツに完敗した」

 

「「「へ…………?」」」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 所変わって、コロシアム試合会場。戦いに挑むのは、アインクラッド最強と目される≪聖騎士≫ヒースクリフと、≪金剛≫レイジ。

 

「フム、キミの謎めいたエクストラスキル、存分に見せてもらおうか」

 

「ハア……」

 

 互いに少し離れた位置で万全の準備をし、対戦に臨む。もっとも片方は余りの観客の多さに、気が重そうだが。

 

『それでは、第二試合……』

 

「随分やる気がなさそうだが、実力を隠したまま、負けるつもりかな?」

 

「あー、ご心配なく、気が重いのは事実ですけど……」

 

『始め!!』

 

 

「……負けるつもり、ありませんから」

 

 

「!!!」

 

 その声は、ヒースクリフのすぐ左から聞こえてきた。最速で盾がそこに滑り込んだ瞬間……

 

「フッ!!」

 

 短い呼気と共に盾に走った衝撃で、重装備のはずの彼は、5m以上吹き飛ばされていた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「「「………………」」」

 

「あー、クソ、惜しい! 今ので決まってりゃあ、大もうけだったのによ」

 

「「「イヤイヤイヤ……」」」

 

 一人を除いて、観客席最前列は驚愕の嵐だった。10m近く離れていたはずのレイジが、まるでテレビのコマ落ちのように、いきなり離れたところに現れたのだ。驚かないほうがおかしい。

 

「ちょっと、今の何?! 彼、瞬間移動か何かできるの!?」

 

「俺にも、間の動作がほとんど見えなかったぞ」

 

「……ってことは、少しは見えてたのかよ。キリト…………」

 

 約一名、人外も混ざっているようだ。

 

「あ? あー、いつものステップの動作からのショートダッシュに見えたけど……」

 

「それで正解だ……。俺ら全員、アイツからスキルの説明受けるまで、分からなかったってのによ………」

 

 ここに一同に会した面々は思った。「コイツも人間やめている」と。

 

「まあ、種明かしすると……最初の移動は≪ザンエイ≫っつう≪鉄拳術≫の移動用(・・・)ソードスキルだ。攻撃力に回すはずの合計防御力を全部速度にまわすことが出来る」

 

「マジか。でもレイジの奴、スキル終了とほぼ同時に攻撃に移ってたけど、アレは硬直がそんなに短いのか?」

 

「あー、そういうわけじゃねえ。≪ザンエイ≫は『移動中にモーションを起こした単発スキルは、移動終了後即座に発動できる』って性質があってな。単発ノックバック技の≪モウココウハザン≫につなげたんだ」

 

 それはつまり、相手を見失った瞬間に、『初撃決着』ルールなら十分決着がつく可能性があるわけで。

 

「……すごい技ね。私も速度重視の戦いだけど、あんな移動術があったら、正面からは勝ち目ないかも……」

 

「……そうでもねえよ」

 

「? 何だよ、一体」

 

「あの移動技も≪鉄拳術≫だから、当然制約があんだ……『移動と直後のスキルの両方が終了した場合、両方合わせた硬直時間を喰らう』っつうな…………」

 

「「「……ん?」」」

 

 それは、つまり、今まるで動けないということでは?

 

 ◇ ◇ ◇

 

 コロシアム試合会場。

 

「すさまじい早さだな……」

 

 そんな軽口と共に、ヒースクリフは姿勢を正した。決着メッセージも出ていないし、今の不意打ちを完璧に防ぎきったということか。

 

「だが、撃ち終わった姿勢から微動だにしないのは、いささか不自然だな。どうやらアスナ君の言っていた硬直時間中ということかね?」

 

 ……アスナさんの、おしゃべり。この≪ザンエイ≫は、正確には≪鉄拳術≫と≪疾走≫の両方を500以上に上げることで使用可能になるスキルで、実際には≪鉄拳術≫ほどの硬直時間はないが、それでも≪疾走≫の短い移動系スキルに比べれば全然長い。その上純粋な≪鉄拳術≫の≪モウココウハザン≫につなげたせいで、しばらくは身体が動かない。でもそれを悟られたら、即座に負けだ。

 

「次は、此方から行こう」

 

 そう言ってヒースクリフは全力でダッシュを……って、ちょっと?! もう少し罠か疑うとか、時間を無駄にしてくれませんか!?

 

「フッ!」

 

 ヒースクリフの気合とともに、こちらの胸の中心めがけて、赤のライトエフェクトを纏った彼の片手剣が迫る。まだか、まだなのか? ……2、1、今!

 

「むっ!?」

 

 そんなヒースクリフの驚愕と共に、彼の携えた剣が、レイジの右手に吸い込まれた。

 

 ≪鉄拳術≫と≪武器防御≫の複合スキル、≪シラハドリ≫。≪ザンエイ≫と同じく≪武器防御≫も500必要だが、相手のソードスキルさえも、タイミングが合えば(・・・・・・・・・)問答無用で止めることが出来るスキル。そして、≪ザンエイ≫と同じく、つなげること(・・・・・・)が出来るスキル。

 

「! ハァッ!!」

 

 ヒースクリフの鳩尾へと向け、左手が緑のライトエフェクトを纏って迫る。≪鉄拳術≫中段重攻撃ソードスキル≪ハッケイ≫。右腕の武器をつかんだ状態で、自由の利かない胴体への攻撃なら!

 

「……フッ」

 

 そんな短い呼気と共に、ヒースクリフの左手の盾が滑り込む。完全に意表をついたにも関わらず、完璧なタイミングで防がれた。そして盾が纏うライトエフェクト。

 

「ちっ…」

 

 その場で完全に脱力して倒れこむ。≪シラハドリ≫した右手の剣も完全に離して、重力に任せる。硬直中にすばやく離脱するにはこれしかない。

 

「む…」

 

 ヒースクリフの攻撃も空振り。互いに硬直が解け次第、距離を取る。

 

「……なるほど。インファイトでは、そちらに分がありそうだな」

 

「全部完璧に、切り返した人がそれ言いますか」

 

 やはりこの相手は厄介だ。ユニークスキルの防御力もそうだが、回避も攻撃もとんでもない。何よりそれを扱う上で、半端じゃないプレイヤースキルを身につけている。

 

 ……一つ、本当に一つだけ、この相手にも確実に通じるソードスキルがあるにはあるが、それを放てば、確実にこの相手を殺してしまう(・・・・・・)。このデスゲーム内では、絶対に使えない手段だ。たとえあの十字盾に防がれても、ボスでもないプレイヤーのHPなら、確実に消し飛ばせてしまう(・・・・・・・・・)のだから。

 

 そこからの戦いは、正直ジリ貧だった。先ほどまでのスキルラッシュで此方の硬直が見切られてる可能性があったため、そこからは通常攻撃中心だった。右ストレート、フック、意表をついてローキック、顔面へのストレートをフェイクにボディ、とフェイントも混ぜて攻撃してみたが、全てその盾と剣に払い落とされるか、避けられてしまった。

 

「ぐっ!」

 

 此方の攻撃はほとんど捌かれてるが、向こうの攻撃は正直避けるのが精一杯だった。あんな重装備なのに、≪閃光≫並みのスピード、≪黒の剣士≫並みの威力と反射神経っておかしいだろう?! まともにクリティカルが当たれば、HPが全損することも考えられる。

 

「くぅっ……」

 

 気づけばあちこち傷だらけで、HPもかなり減らされていた。それも当たり前で、あちらは盾や剣で攻撃をはじいてもそんなに削られることは無いが、こちらは片手が素手(・・)なのだ。武器防御で捌いても、十分に削りダメージが発生しうる。

 

(後が無い、か……乾坤一擲といきますか)

 

 このままHPが危険域に突入して敗北を迎えるくらいなら、一か八かの賭けに出る。それが、僕の結論だった。座して待つのは似合わない。

 

「ハアッ!」

 

「むっ…!」

 

 ここまで一度も出さなかった、盾で最も得意とするソードスキル、≪シールド・チャージ≫で相手を押しのける。出が早く硬直も短いことから、鉄拳術につなげる事は十分可能。

 

……なのだが。

 

「ムンッ!」

 

 短い掛け声と共に、目の前にヒースクリフの十字盾が迫っていた。慌てて身をかがめ、盾の下をかいくぐる。それと同時に右腕をヒースクリフの左腕に巻きつけた。

 

 

「こ……っのぉっ!!」

 

 

 左腕でヒースクリフの十字剣の柄を押さえつけ、力任せに上に持ち上げた。スキルでもなんでもない、完全な力技。筋力特化型でありながら、自身の装備重量を抑え込んだ、自分だからこそ出来る芸当。

 

 …それと同時に、空中に投げ上げられれば、どんな達人でも普段と同じ身動きは不可能!

 

「セアアアアッ!」

 

 最速で空中のヒースクリフへと迫る、イエローのライトエフェクトを纏った、三発の掌打。≪鉄拳術≫三連撃ソードスキル≪サンダンショウ≫。鉄拳術の連撃系としては、最速のスキル。空中ではどうやっても避けようがない……

 

 

―――はず(・・)だった。

 

 

「………………フム、危なかったよ」

 

 

 絶対に避けようが無いはずの攻撃も、≪神聖剣≫には通じなかった。全てを盾で防ぎ、捌き、凌ぎきったのだ。その防御力にはもはや驚嘆するしかない。

 

 そうしてヒースクリフは鎧に付いたホコリをはらいつつ、硬直で動けない僕の前までやってくると、

 

「ムンッ!」

 

 純白のライトエフェクトを纏った盾のなぎ払いで、僕を吹っ飛ばした。僕の意識も記憶も、そこで途切れてしまっていた。

 




 と、言うわけで結果は、ヒースクリフの勝利でした。

 ……いや、もうね、どうやっても勝てる未来が浮かばなかった。本物のチーターに勝てるかあああっ!!

 途中で出てきた≪ザンエイ≫と≪シラハドリ≫は、モンクにホントにあるスキルです。片方は、本来短距離テレポートだけど。

 ……そして、徐々に明らかになってきた、主人公の異常性。何で『あのとき』認識できたのかにも、ちゃんと理由があります。

 詳しくは次回以降のお話にて……
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