ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
SIDE:シノン
――失敗は、許されない。
先刻まで身を潜めていた洞窟の真上、岩山の頂上にて、私はそう思っていた。眼下には切り立った崖、そしてスコープで限界まで引き延ばされた視界には、黒髪と白髪、相反する髪色を持つ戦士がいた。
私たちが立てた作戦は、単純。キリトと零二を
だけど、やらなければならない。
それが、私が抱いた決意。いくらあの二人でも、間合いの外から来る狙撃や、高機動によってばら撒かれる飽和攻撃にはなす術などない。ある程度なら対応も可能だろうが、そこに感知できないナイフまで加われば、最後には、二人は倒される。
そしてその後には確実に、私か
だから、私の危険度も、彼の危険度もほとんど変わらないはず。それなのに、彼は自ら進んであそこにいる。
(……貴方は、いつもそうね)
思えば彼は、何時でもそうだったかもしれない。あの遠藤たちの警察の騒動のときも、その後のGGOでの戦いのときも、彼は何時でも他の誰かのために貧乏くじを引きたがる。身を削るというほどでもないだろうが、彼はいつも面倒事に自ら首を突っ込んできた。
(……
誰かのために戦える。誰かのために涙を流せる。それはきっと、尊いことだと思うから。そして、それをさて置いても。
――――なにより、惚れた男だもの。
その死を許容など、出来るワケがなかった。全く、クールな氷の狙撃手はどこへ行ってしまったのだろう?
(……でも、これも私なのよね…………)
GGOでの氷の狙撃手『シノン』も、現実の安アパートで『銃』に怯える詩乃も、結局両方わたしなんだ。だから、シノンの強さも、詩乃の弱さも、本当は私の中にあったもの。
――そして、この手の中の温もりも。
ヘカートⅡ。この世界で出会えた、自分の分身。手の届かない遠くへ、必殺の一撃を届けてくれる相棒。『貴女』は何時でもそこにいた。
――――お願い。『貴女』の力を貸して。絶対に喪いたくないヒトを、助けるために。
私は、まるで祈るように相棒を抱え、そのときを待った。
SIDE OUT
砂漠の真ん中、キリトと背中合わせになりながら、その時を待つ。北側は、ここで乗り捨てたバギーに覆われている。南はシノンが身を潜める岩山がある。そして、西には≪闇風≫。必然的に、≪死銃≫の一人、髑髏マスクがあの≪アキュラシー・インターナショナル・L115A3≫――別名≪
それでも僕は、キリトと背中合わせになって西側を向いている。その理由は、狙撃と同時に、
神経を尖らせる。意識を広げる。ただひたすらに『声』を聴く。かつてMHCPだったときには機械的に行っていた、精神状態のモニター。
(……絶対に、もう誰も殺させない)
その思いのためだけに。ただひたすらに『耳』を傾ける。
そうして、ついにその時はきた。
最初に感じたのは、東から吹き荒れた膨大な『殺意』。それを感じた瞬間、足から力を抜き、最速の脱力で地面へと伏せる。次に感じたのは、身をかわしたキリトのすぐ横をかすめていったライフル弾の軌跡。それは文字通り一瞬で、西から急速に接近していた『戦意』の源へと到達する。
だが、その銃弾の行方を感知することはしない。なぜなら、脅威は迫っていたから。立ったまま銃弾をかわし、次の瞬間にはダッシュのために、一瞬の溜めを作っていたキリトの頭上。バギーを足場にして、真紅の刀身のみがわずかに見える、最悪の『殺意』が降ってきていた。
「キリトッ!」
『決意』とともに、その刀身とキリトの間に盾を滑り込ませたのと、西側の『戦意』の源――≪闇風≫が一瞬の停滞で、南からの『決意』を孕んだ銃弾に射抜かれたのは、ほぼ同時。
そして、≪闇風≫が銃弾に貫かれるのと、ナイフを防いだはずの≪クリスタル・バックラー≫が、
「なッ…………!! ≪クリスタル・タランチュラ≫の外皮で出来た盾が?!」
「ヒヒヒヒヒ! イイ盾持ってんなあ、オイ。今ので、三割ほどしか溶けねえなんてよぉ!」
そう嘯きながら手の中で、真紅のナイフを弄ぶ。ソレを見たのは二度目だが、改めて見ると、かなり特徴的なナイフだった。刀身全体が湾曲し、まるで波打つかのような形状をしている。真紅の刀身も考えると、まるで炎が揺らめいているかのようだ。そしてその刀身全体に、墨のような黒ずんだ液体が――――そこまで考えて、ある一体のモンスターを思い出した。
「……待った。確か、この世界には、ありとあらゆる装備を溶解させる最悪のボスモンスターが――」
「ピンポォォン! 正解、正解、大正解! コイツは≪アシッド・スコーピオン≫の毒針から作った最強の毒ナイフ! その名も≪アシッド・クリス・ダガー≫だ! 装備もカラダもぜ~んぶ、ドロッドロに溶かしてやんぜ!! ヒャ、ヒャハハハハ!」
そこまで聞いて、ジョニーに正面から対峙する。コイツは、危険だ。無音の暗殺術に加え、本来ゲームにあってはならない、防御不可能・一撃必殺の武器。キリトでは絶対に対応できない相手だ。それが、分かったから。
「行って、キリト!」
背中全体で、キリトを無理やりに東の方へと押しやった。
「レイジ、何を――」
「行って! コイツは必ず僕が倒す! もう、誰も死なせるな!!」
「――――ッ!」
その言葉に、キリトは背を向けて走り出す。そして、キリトが向かう先に、再び南の岩山から『決意』の銃弾が飛来した。
(シノンだって、戦ってる。だったら、僕だって……!)
銃弾の行先など考えず、すべての神経を、目の前のジョニーに集中させる。いかなる『声』も、いかなる動きも逃さない!
……その決意は、目の前にいたはずのジョニーが『
「……ッ!?」
防げたのは、偶然。山勘で出した右腕のプロテクターが、ナイフに偶然当たっただけ。そしてその装備は一瞬で溶解する。
「そんなッ……!
「わっかんねェッ? わかんねえよなあ? 教えてやんぜ~?」
台詞が途切れ、すでに目の前にいない。確かに目の前で姿を消しているのに、消える瞬間が全く認識できない。あまりにも異常な状況だった。
そして――――次の声は、
「コイツは、俺様が
笑い声は、余韻を残しながら宙に消える。足音も聞こえず、無明の闇と戦っているかのようだ。
「――ひひひひひ、そんじゃまー、好きなセリフで決めさせてもらっかなぁ……『歯ぁ磨いたか? お祈りは済ませたか? 部屋の隅でガタガタ震える覚悟はOK?』」
「――そりゃこっちの台詞だよ」
SAOから数えても、恐らくは最悪の状況。それでも僕は、誰かを死なせないために、その『闇』に立ち向かった。
最悪のアサシン、ジョニー・ブラック降臨。彼のシステム外スキルは、某バスケ漫画で有名な≪ミス・ディレクション≫でした~。実際持たせてみると、あまりに凶悪になりすぎた……。やってることは、手品と変わらないのに……。
ジョニーに言わせてみたのは、某吸血鬼漫画のあまりに有名な台詞。最初期のザコキャラの台詞なのに、何故か有名。銃剣やどっかのナチの台詞は言わせる機会ないしねえ……。
ここでお知らせ。今月から4月にかけて、年度終わりと年度初めという仕事の繁忙期に入り、定期更新が思うようにできません……。そのためしばらく更新が不定期になるかと……。なにせ、しばらく休日返上、出勤アリアリでと宣言されましたので。
話もいいところに入ってきましたが、来週はストーリーの進行はしません。その代り、もしかしたら更新を『14日』に早めるかもしれません。――そう!『あの』イベントを書くために!