ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男   作:路地裏の作者

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Fateシリーズに言いたいことは、一つ……アサシン、舐めんな。


032 死闘のはじまり

 

SIDE:シノン

 

 ――失敗は、許されない。

 

 先刻まで身を潜めていた洞窟の真上、岩山の頂上にて、私はそう思っていた。眼下には切り立った崖、そしてスコープで限界まで引き延ばされた視界には、黒髪と白髪、相反する髪色を持つ戦士がいた。

 

 私たちが立てた作戦は、単純。キリトと零二を観測手(スポッター)に据え、≪死銃≫のコンビと≪闇風≫を倒すという単純なもの。だけどそれは、実現するのが困難な作戦でもあった。なにせ≪死銃≫の二人は『透明化』で視界にすら映らないのだ。とても狙撃どころではない。そして≪闇風≫もまた、AGI型の最高峰で、『ランガンの鬼』とまで言われるほどの超高機動型。こちらも狙撃は簡単ではない。

 

 だけど、やらなければならない。

 

 それが、私が抱いた決意。いくらあの二人でも、間合いの外から来る狙撃や、高機動によってばら撒かれる飽和攻撃にはなす術などない。ある程度なら対応も可能だろうが、そこに感知できないナイフまで加われば、最後には、二人は倒される。

 

 そしてその後には確実に、私か零二(かれ)か、あるいはその両方に、現実で≪死銃≫が撃ち込まれることになるだろう。零二は、自分は安全だと言って囮役を買って出ていたが、もし現実での実行犯が、強硬に自宅に押し入ってきたら、それで終わりだ。

 

 だから、私の危険度も、彼の危険度もほとんど変わらないはず。それなのに、彼は自ら進んであそこにいる。

 

(……貴方は、いつもそうね)

 

 思えば彼は、何時でもそうだったかもしれない。あの遠藤たちの警察の騒動のときも、その後のGGOでの戦いのときも、彼は何時でも他の誰かのために貧乏くじを引きたがる。身を削るというほどでもないだろうが、彼はいつも面倒事に自ら首を突っ込んできた。

 

(……だからこそ(・・・・・)、貴方を死なせたくない)

 

 誰かのために戦える。誰かのために涙を流せる。それはきっと、尊いことだと思うから。そして、それをさて置いても。

 

 

 ――――なにより、惚れた男だもの。

 

 

 その死を許容など、出来るワケがなかった。全く、クールな氷の狙撃手はどこへ行ってしまったのだろう?

 

(……でも、これも私なのよね…………)

 

 GGOでの氷の狙撃手『シノン』も、現実の安アパートで『銃』に怯える詩乃も、結局両方わたしなんだ。だから、シノンの強さも、詩乃の弱さも、本当は私の中にあったもの。

 

 ――そして、この手の中の温もりも。

 

 ヘカートⅡ。この世界で出会えた、自分の分身。手の届かない遠くへ、必殺の一撃を届けてくれる相棒。『貴女』は何時でもそこにいた。

 

 

 ――――お願い。『貴女』の力を貸して。絶対に喪いたくないヒトを、助けるために。

 

 

 私は、まるで祈るように相棒を抱え、そのときを待った。

 

SIDE OUT

 

 砂漠の真ん中、キリトと背中合わせになりながら、その時を待つ。北側は、ここで乗り捨てたバギーに覆われている。南はシノンが身を潜める岩山がある。そして、西には≪闇風≫。必然的に、≪死銃≫の一人、髑髏マスクがあの≪アキュラシー・インターナショナル・L115A3≫――別名≪沈黙の暗殺者(サイレント・アサシン)≫で狙撃を行うならば、確実に東側からになるはず。

 

 それでも僕は、キリトと背中合わせになって西側を向いている。その理由は、狙撃と同時に、J.B.(ジョニー・ブラック)Painもまた、襲撃してくる可能性が高いこと。死角を少しでも減らさないと、無音の暗殺には対処しきれないからだ。こんなことをすれば、キリトはともかく、僕は狙撃に反応しきれないかもしれない。だから僕は生き残るために、GGOやALOで今ではほとんど使わなくなった禁じ手に手をかけた。

 

 神経を尖らせる。意識を広げる。ただひたすらに『声』を聴く。かつてMHCPだったときには機械的に行っていた、精神状態のモニター。人間(ヒト)となってからは、ほとんど聴こえなくなっていたその感覚。それを今僕は、はじめて意識的に使っている。

 

(……絶対に、もう誰も殺させない)

 

 その思いのためだけに。ただひたすらに『耳』を傾ける。

 

 

 そうして、ついにその時はきた。

 

 

 最初に感じたのは、東から吹き荒れた膨大な『殺意』。それを感じた瞬間、足から力を抜き、最速の脱力で地面へと伏せる。次に感じたのは、身をかわしたキリトのすぐ横をかすめていったライフル弾の軌跡。それは文字通り一瞬で、西から急速に接近していた『戦意』の源へと到達する。

 

 だが、その銃弾の行方を感知することはしない。なぜなら、脅威は迫っていたから。立ったまま銃弾をかわし、次の瞬間にはダッシュのために、一瞬の溜めを作っていたキリトの頭上。バギーを足場にして、真紅の刀身のみがわずかに見える、最悪の『殺意』が降ってきていた。

 

「キリトッ!」

 

 『決意』とともに、その刀身とキリトの間に盾を滑り込ませたのと、西側の『戦意』の源――≪闇風≫が一瞬の停滞で、南からの『決意』を孕んだ銃弾に射抜かれたのは、ほぼ同時。

 

 そして、≪闇風≫が銃弾に貫かれるのと、ナイフを防いだはずの≪クリスタル・バックラー≫が、ドロリ(・・・)溶けた(・・・)のも、同時だった。

 

「なッ…………!! ≪クリスタル・タランチュラ≫の外皮で出来た盾が?!」

 

「ヒヒヒヒヒ! イイ盾持ってんなあ、オイ。今ので、三割ほどしか溶けねえなんてよぉ!」

 

 そう嘯きながら手の中で、真紅のナイフを弄ぶ。ソレを見たのは二度目だが、改めて見ると、かなり特徴的なナイフだった。刀身全体が湾曲し、まるで波打つかのような形状をしている。真紅の刀身も考えると、まるで炎が揺らめいているかのようだ。そしてその刀身全体に、墨のような黒ずんだ液体が――――そこまで考えて、ある一体のモンスターを思い出した。

 

「……待った。確か、この世界には、ありとあらゆる装備を溶解させる最悪のボスモンスターが――」

 

「ピンポォォン! 正解、正解、大正解! コイツは≪アシッド・スコーピオン≫の毒針から作った最強の毒ナイフ! その名も≪アシッド・クリス・ダガー≫だ! 装備もカラダもぜ~んぶ、ドロッドロに溶かしてやんぜ!! ヒャ、ヒャハハハハ!」

 

 そこまで聞いて、ジョニーに正面から対峙する。コイツは、危険だ。無音の暗殺術に加え、本来ゲームにあってはならない、防御不可能・一撃必殺の武器。キリトでは絶対に対応できない相手だ。それが、分かったから。

 

 

「行って、キリト!」

 

 

 背中全体で、キリトを無理やりに東の方へと押しやった。

 

「レイジ、何を――」

 

「行って! コイツは必ず僕が倒す! もう、誰も死なせるな!!」

 

「――――ッ!」

 

 その言葉に、キリトは背を向けて走り出す。そして、キリトが向かう先に、再び南の岩山から『決意』の銃弾が飛来した。

 

(シノンだって、戦ってる。だったら、僕だって……!)

 

 銃弾の行先など考えず、すべての神経を、目の前のジョニーに集中させる。いかなる『声』も、いかなる動きも逃さない!

 

 

 ……その決意は、目の前にいたはずのジョニーが『消失(・・)』した瞬間に、脆くも崩れ去った。

 

 

「……ッ!?」

 

 防げたのは、偶然。山勘で出した右腕のプロテクターが、ナイフに偶然当たっただけ。そしてその装備は一瞬で溶解する。

 

「そんなッ……! いつから消えていた(・・・・・・・・・)………………ッ!!」

 

「わっかんねェッ? わかんねえよなあ? 教えてやんぜ~?」

 

 台詞が途切れ、すでに目の前にいない。確かに目の前で姿を消しているのに、消える瞬間が全く認識できない。あまりにも異常な状況だった。

 

 

 そして――――次の声は、背後(・・)から。

 

 

「コイツは、俺様が頭目(ヘッド)から直接手ほどきを受けた最悪のシステム外スキル――――――≪視覚誘導(ミス・ディレクション)≫だ。そんでテメエは、ヒーコラ言いながら、俺に(バラ)されるっつう運命だ。精々無様に逃げ回って、お茶の間に絶望ってやつを届けてくれよ……ひひ、ヒヒャハハハハ!」

 

 笑い声は、余韻を残しながら宙に消える。足音も聞こえず、無明の闇と戦っているかのようだ。

 

「――ひひひひひ、そんじゃまー、好きなセリフで決めさせてもらっかなぁ……『歯ぁ磨いたか? お祈りは済ませたか? 部屋の隅でガタガタ震える覚悟はOK?』」

 

「――そりゃこっちの台詞だよ」

 

 SAOから数えても、恐らくは最悪の状況。それでも僕は、誰かを死なせないために、その『闇』に立ち向かった。

 




最悪のアサシン、ジョニー・ブラック降臨。彼のシステム外スキルは、某バスケ漫画で有名な≪ミス・ディレクション≫でした~。実際持たせてみると、あまりに凶悪になりすぎた……。やってることは、手品と変わらないのに……。

ジョニーに言わせてみたのは、某吸血鬼漫画のあまりに有名な台詞。最初期のザコキャラの台詞なのに、何故か有名。銃剣やどっかのナチの台詞は言わせる機会ないしねえ……。

ここでお知らせ。今月から4月にかけて、年度終わりと年度初めという仕事の繁忙期に入り、定期更新が思うようにできません……。そのためしばらく更新が不定期になるかと……。なにせ、しばらく休日返上、出勤アリアリでと宣言されましたので。

話もいいところに入ってきましたが、来週はストーリーの進行はしません。その代り、もしかしたら更新を『14日』に早めるかもしれません。――そう!『あの』イベントを書くために!
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