ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男   作:路地裏の作者

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おお、戻ってきた……黄泉の国から戦士たちが帰ってきた……!(オッ○トヌシ)

何とか帰還しました!復帰第一弾は、クライマックスだぜ!



034 冥府の女神と阿修羅の男

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

 夜の砂漠。冷え冷えと、寒々とする砂一色の景色の中、ソレ以外の色が混じる。

 

「はあ、は……」

 

 加わるのは、赤。身体のあちこちから、まるで血のように滴るダメージエフェクト。

 

「ひ、ヒャハ、ハハハ! ――オイオイ、もうグロッキーかあ? あの女の相手ばっかりで、疲労が残ってんじゃねえの? 腰のあたりによぉ」

 

「――本当に、下品な口だな。少しは黙ったらどうだ?」

 

 満身創痍。今の僕の状態は、その一言に尽きる。身体のあちこちについていた防御性能向上の装備類はことごとく破壊され、新調したコートも、まるで虫食いのような穴があちこちにある。

 

 ≪アシッド・クリス・ダガー≫、装備すら溶かす酸性の毒が最悪の相性だった。

 

「にしてもよぉ……こんだけ簡単だと、なーんか張り合いがねえよなあ?」

 

「……あの時の部下の仇には、もっと無様に逃げ回って欲しかったとか?」

 

 だとしたら期待には添えない。こっちは死ぬつもりはないんだから。

 

 しかし、僕のその質問への返答は、一瞬の沈黙、そして狂ったような哄笑だった。

 

「部下?! あー、あーあーあー! そういやいたなあ、『役立たず』どもがよお!!」

 

「――――なに?」

 

 今、コイツは何を言った?

 

「だって、そうじゃね? 俺様が≪風林火山≫の頭を気持ーちよく殺すために、足止めさせたっつうのに、あっという間に殺されて足止めも出来ねぇ。どうせなら俺に殺されてストレス解消になって欲しかったよなぁ!」

 

「…………」

 

 ――ああ、だめだ。コイツは……

 

「けどまあ、カタキ討ちだけは『喜んで』やってやんぜ? あの取り澄ました青髪の女の、泣き叫ぶ顔とか見てみてえしよぉっ!!」

 

 コイツだけは、絶対に許しちゃいけない……!!

 

「ここで必ず倒す――!」

 

「ヒヒヒ! 出来るもんならやってみなあ!!」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 暗闇の中、何度も赤い光が瞬く。その光は零二の身体から舞い落ちるダメージエフェクト。同時にソレは、彼がまだ生きている証でもあった。

 

(零二……!)

 

 シノンはその光景を岩山の頂上で見続けていた。すでにヘカートの照準器(スコープ)は壊れ、肉眼で見るしかない状況だったが、狙撃に特化した彼女のアバターは、何とかその戦場を視認出来ていた。

 

(私も……戦わなきゃ…………!)

 

 自分の決意は変わらない。あの≪黒星≫が相手だとしても、戦わなきゃいけない。なぜならあの戦場には、これから先も、ずっとずっと一緒にいたいヒトがいるのだから。

 

 けれど、どうすればいい?

 照準器(スコープ)を失った以上、不用意な狙撃や不意打ちは出来ない。そんなことをすれば、確実に零二の方に弾丸が当たってしまう。動こうにも動けないまま、焦燥だけが募る。

 

 視界の中で、また赤い光が瞬く。それは、零二の身体から新しく舞い落ちる命の残量。そしてそれを為しているのは、虚空から不意に浮かび上がった黒い男と、真紅のナイフ。透明化が攻撃のために解けている。

 

(………………!)

 

 その瞬間、私は自分のするべき戦いを見つけ出した。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「くそっ……!」

 

 視界の端のHPバーが、ついに赤く染まった。さらなる攻撃で両手に持っていたハンドガンも壊れ、武器もなくなった。完全に嬲り者だ。

 

「ヒヒ、ヒハハハハハハッ!」

 

 声は幾重にも響いて、正確な位置を覆い隠す。特殊なアイテムの効果なのか、それとも≪隠蔽(ハイディング)≫スキルが高いからか。

 

(場所さえつかめれば……!)

 

 そう歯噛みしながら、腰のポーチから切り札を出す。それは、黒鉄の金属で出来た、グローブ型の右手用手甲(ガントレット)。手の甲に青く丸いクリスタルが二つ並び、手首部分に最大容量の光学銃用エネルギーパックがついている。

 

 手甲(ガントレット)型光学銃、≪ベルセルク≫。レア度はユニーク級だが、格闘主体の≪北斗の軍≫メンバーが誰一人使いこなせなかった代物。非常にアクの強い性能で、その分威力は折り紙つき。この世界でソードスキルを放つための武器。

 

 だけど、放つためにはどうしても相手の位置を特定する必要がある。≪聴音≫スキルは相手の≪忍び足(スニーキング)≫スキルに妨害され、MHCPの特性だった精神(メンタル)のモニタリングも、ジョニーの薄汚い殺気に溢れた戦場では役に立たない。

 

「ヒヒヒヒヒ……お前をここで仕留めたら、次はあの女だ。――ああ、そういや」

 

 こちらが位置を掴めないと分かっていて、あえて声をかけてくる。本当に嫌なタイプ――

 

「あの女、現実では女子高生なんだよな?」

 

 ――――あ?

 

「身体は貧相みてえだが、現実の顔も結構オレ好みだし……」

 

 ……何、言ってんだ、コイツ?

 

「命乞いするんなら、助けてやんのもアリかもな? 勿論オレの女としてよぉ! ヒャハハハハ!!」

 

 ブチィ!!と、盛大に何かがキレた音がした。

 

「ふっ――――ざけんなあっ!!」

 

「ヒヒヒヒヒ――――――あ?」

 

 その時、目の前を、赤い光が横切った。弾道予測線(バレット・ライン)。プレイヤーが視認した相手の銃の弾道を大まかに指し示すGGOの特殊エフェクト。それは僕の左斜め後ろからまっすぐに伸び、僕の右前の砂丘を示して…………

 

 

 いや、違う。光は、砂丘の手前、『何もない空中』で、途切れている?

 

 

 僕は肩越しに予測線の元を振り返る。その光の元は――――シノンが潜んでいる岩山だった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「――――どうやら透明化は、現実の現象とは違うみたいね?」

 

 狙撃に特化した彼女の両目には、はっきり見えた。あまりの遠距離によって、薄ぼんやりと霞んだ先に、一部分だけ(・・・・・)はっきり『風景が見えている場所(・・・・・・・・・・)』が。

 

 そもそもこのGGOだけでなく、仮想世界の中での風景は現実の光学現象には縛られない。遠距離で視界が霞むのも、所詮は距離を計算したソフト側が、光学補正として視界を曇らせているにすぎないのだ。

 

 

 ――――だからこそ、鏡や透明な『何か』を通した風景は、距離に関係なく『はっきり見える』という現象も引き起こされる。

 

 

 居場所さえわかれば、後はカンタンだ。奴のアイテムと同じく、現実の物理法則に縛られないGGOの特殊効果、弾道予測線(バレット・ライン)で位置を指し示してやればいい。

 

「位置は私が示す……頼むわよ、零二」

 

 ◇ ◇ ◇

 

「ちいっ、くそが!」

 

 予測線が示す先、確かにジョニーの声が聞こえた。僕はそこに向かって猛然と駆け出す。途中で、自分の視線が一瞬砂丘から外された(・・・・)

 

「へっ、だが無駄だ。こうやって場所を変えちまえば……、っ?!」

 

 今度はさっきの場所から左、サボテンの横に向かって光が奔る。やはりそこでも光は空中で途切れている。そこでまた視線が途切れる。

 

「あのアマ……!」

 

 その次は手前、また左、右奥、とどこに逃げてもシノンの弾道予測線(バレット・ライン)はジョニーの位置を指し示してくれる。……彼女も一緒に戦ってくれている。

 

 そして、ようやく分かった。

 アイツの≪視覚誘導(ミス・ディレクション)≫の種。それは、さっきから暗闇の中を横に走る、僅かにキラキラと輝くプリズム状のガラス玉だ。恐らく奴はそのガラス玉に黒塗りのワイヤーを括り付け、自分とは明後日の方向に飛ばしていた。暗闇の中だから、相手は思わず光るものを視線で追ってしまうというわけだ。

 

「くそ、くそが! 結局、無駄なんだよ! 狙いをつけるだけで狙撃も出来ない女と、殴るための間合いも分からない男が組んだところでよぉっ!!」

 

 その言葉を聞きながら、僕は一瞬シノンの予測線の前に身体を滑り込ませる。そして、ジョニーがいると思われる空間に、全力で皮肉をぶつけてやった。

 

「狙撃も出来ない、ね……彼女がそんなに、大人しいわけないだろう?」

 

 そして、確かに僕は彼女の声を聞いた。

 

 

 ――いくわよ、零二

 

 ――オーケイ、シノン

 

 

 身体を沈み込ませるのと、頭の上を雷撃にも似た銃弾が奔り抜けるのは、ほとんど同時だった。彼女なら、あの彼女なら今この瞬間に撃つと思ったからこそ出来た、絶妙のタイミング。突然銃弾が目の前に現れたジョニーに避け切れるものじゃなかった。

 

「な――――――うおおおおおおッ!?」

 

 シノンの持つヘカートは、対物狙撃銃(アンチ・マテリアル・ライフル)。銃弾そのものは、偶然にもジョニーの脇の下を潜り抜けていったが、強烈なインパクトダメージが周囲に漂うメタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)のギリーマントを引き裂いた。

 

 今、この瞬間しかない!

 

 そう確信し、片膝をついたまま、≪ベルセルク≫の引き金を引く。手の甲についていたクリスタルが拳前面へとせり出し、その宝玉の中に光を溜める。

 ≪ベルセルク≫は、世にも珍しい接触型(・・・)光学銃。この銃は引き金を引くとエネルギーパック内の力を一気に吸い上げ、一定時間蓄積・増幅して撃ち出すという非常に使い辛い性質を持つ。威力はとんでもないが、拳前面のクリスタルを発射の瞬間相手に接触させなければならない。しかも一回放つごとにエネルギーパックは完全に空になるため、一々交換する必要があり、また蓄積(チャージ)の時間は一定であり、短くも長くも出来ない。確実にチャージ終了の瞬間に、拳を当てなければならないのだ。

 

 

 その蓄積(チャージ)の時間とは………………5カウント。

 

 

 5!

 

 片膝の姿勢から、一気に立ち上がる。目標は、ポリゴン片へと変わる透明マントを破り捨てたジョニー。

 

 4!

 

 右の拳と右のナイフ。互いの必殺の武器を振り上げる。

 

 3!

 

 渾身の力で振り下ろされる毒ナイフを、円形盾(バックラー)の最後の欠片が捉える。

 

 2!

 

 ジュウ!という音を無視し、身体をもう一歩進ませる。

 

 1!

 

 たどり着いたわずかな隙間、そこを拳がすり抜ける!

 

 0!!!

 

「う――――――おおおおおおおおおッ!!」

 

 拳が相手を捉えた瞬間、閃光が迸った。

 

「グ――――――エッ!!」

 

 まるで爆発のように広がる光と衝撃に、ジョニーが苦悶の声を上げる。≪ベルセルク≫の威力は、伊達じゃない。その気になれば、装甲車両さえ破壊できる一撃に、これ以上ない手ごたえを感じた。

 

 ……だけど。

 

「――――へ、へへへへ……準備しといて正解だったみてえだな?」

 

 倒したはずのジョニーから、そんな台詞が漏れた。見ると、ジョニーのHPはほとんど消失していたが、僅かに1ドットほど残っている。原因は、ジョニーがその左手に握り締めるクリスタル状の装置。

 

「レア物の『高出力対光学銃防護フィールド発生装置』……!」

 

 こちらが光学銃主体と知って、あらかじめ用意してあったのか。そのわずかな準備が、この結果を生んだ。

 

「ひひ……!」

 

 引きつったような笑みを浮かべながら、ジョニーがダガーを振り上げる。≪ベルセルク≫は、単発式。マズイ、反撃が……!

 

「これでお前ら二人とも(・・・・)終わりだあッ!!」

 

 自分に迫る真紅のダガーは、非常にゆっくりと見えた。そして、そんな目の前の『死』よりも、冷たく静かになった頭は一つのことを考えていた。

 

(二人とも……僕と、シノンか……)

 

 今ここで死ねば、ジョニーは確実に彼女を殺すだろう。ラフコフは、そういうやつらだ。

 

(それは――――)

 

 冷たくなった思考に、ほんのわずか種火が灯る。

 

 

(イヤだな……!)

 

 

 彼女が、死ぬ。その事実が頭を沸騰させる。炎が、上がっていく。

 

 そこに、声は届いた。

 

 

 ――勝って、零二!!

 

 

「――――――――!!」

 

 

 声なき叫びとともに、身体を包んでいた赤いダメージエフェクトが、姿を変える。赤は、オレンジへ。炎の色へと、変わっていく。

 

「なッ?!!」

 

 ジョニーのその声は、驚愕。それはそうだろう。必殺の毒ナイフは、ボロボロの円形盾(バックラー)を破壊できず、刀身を逆に熱で溶かされたのだから。

 

 そして、声が響く。

 

 

「『心意(シンイ)』――」

 

 

 遠目には何が起こっているか分からないだろう。もしかしたら観客(ギャラリー)にも。だが、至近距離にいたジョニーは気づく。目の前の現象が、通常では有り得ないことも。

 

 

「≪阿修羅(アシュラ)ぁ――――――」

 

 

 炎が渦巻く。すべての炎は右の拳へ。すべての『ちから』は――――――その絶対の拳へ。

 

 

「――――――覇凰拳(ハオウケン)≫!!!」

 

 

 再びジョニーを捉えた拳は、今度は何物にも遮れなかった。左手の防護フィールドを一瞬で破壊し、その胸板に突き刺さった。衝撃はそこでは収まらず、胴体を上下に引き裂きながら上半身だけを砂丘の中腹に吹き飛ばし――砂丘がまるで爆撃のように炸裂した。

 

「ハアッ、ハ…………!」

 

 詰めていた息を吐き出し、膝をつく。今の一撃、まるで自分の気力も命も削り取られるような感覚だった。それほどまでしなければ、勝てなかった。

 

 と、そこで、ヒュンヒュンと音を立てて、目の前に一丁の銃が落ちてきた。それは、銃身に黒い星が描かれた銃。≪死銃≫。その銃身は根元から溶けており、間もなくポリゴンへと変わって、空気に溶けた。

 

「……これで、全部終わりだ」

 

 右腕を高々と挙げ、勝利を謳い、そのまま僕は後ろの砂地へと倒れこんだ。

 




というわけで、いきなりジョニーさん終了。

シノンが見破れたくだりは完全にオリジナル。ALO読みかえして、これなら透明マントも同じなんじゃ?と思ったのが始まり。そして、エフェクトは『光』ではないからね……

レイジの心意技は、あえて言うなら攻撃威力特化型。防御は炎部分にはあるけれど、それ以外は裸同然。しかも消耗が激しいのは、文字通り『命削る』技でもある、というのが裏設定。そのうちキャラステータスに載せますw

これにてゲーム内はほとんど終了。さあ、次は……!
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