ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
――にはいきません!!
ボーナスステージの開始です!!
ジョニーとの戦いのあと、指一本動かす気力もなく、僕は砂漠のど真ん中に倒れこんでいた。視界の端に映る時計は午後十時一分。気づかなかったがジョニーとの戦いの最中に八回目のサテライトスキャンが行われていたようだ。
「――――おつかれ」
そう声がかけられ、視線を向ける。そこにはボロボロではあるものの、しっかりと歩いてくるキリトがいた。
「……そっちは、強かった?」
「……まあな。正直攻略組にいても、確実にトップクラスになったくらいには」
……もしかしたら。彼らに最初に出会ったのが、PoHじゃなかったら。僕や、キリト、アスナさん達に先に出会えていたなら、一緒にアインクラッドの最前線で共に戦う運命もあったのだろうか?もしそうなら、僕たちはこんな敵同士じゃなくて、背中を預けることだって……
――そこまで考えて、僕は思考を止めた。今、それを考えても、もうどうしようもない。彼らに奪われた命も、僕があの掃討戦の日に奪ってしまった命も……、もう決して戻っては来ないんだから。
「それにしても……お互いボロボロだな」
「はは……」
「――まったくね」
新しい声に視線を巡らせると、すぐ近くにシノンが来ていた。いつの間にか空を覆う分厚い雲が晴れ、彼女は満天の星を背負っていた。その一枚の絵画のような光景に、思わず見惚れた。
「……これからどうする?」
シノンが呟いた言葉に、少しばかり頭を巡らせる。さっきまでの落ち着かない気持ちを誤魔化すように、大会のこと、これからのこと。
「まずは大会を終わらせないとな。ギャラリーも怒ってるだろうし」
ほんの少し身体を起こすと、視界のあちこちに中継カメラがふわふわ浮かんでいるのが見えた。どのカメラにも「REC」の文字。さすがに寝たままでいるわけにもいかないので、よたよたと身体を起こす。
「でも、≪死銃≫コンビが倒れてすぐ外に出るのは危険じゃないかしら?」
「そうだね。そうなると、ここにいる三人で、ある程度時間を稼げて、ギャラリーを納得させる勝負でも出来ればいいんだけど」
ギャラリーが納得しなかったら、明日から僕たちはGGOの中を歩けないだろう。
「……今から三人でゲリラ戦でもする? 受けて立つけど」
「あー、シノン? それだと
「どうせなら、近距離で早撃ち勝負とかどうだ?」
「……キリトのは早『撃ち』とは言わない」
基本スタイルも得意距離も違うせいで、勝負方法が決まらない。……それに、正直シノンに銃を向けるのは気が進まない。こうなったら……
「僕とキリトが一騎討ちをして、勝った方がシノンと一騎討ちっていうのは? シノンは銃が壊れてるし、シードで」
「……それは、私を甘く見てるのかしら? 零二」
……地雷を踏んだようだ。頭の横に、ヘカートがゴリゴリと押し付けられている。痛いです、シノンさん。
「組み合わせについては、ジャンケン。勝負方法は、勝負する人間の合意。これでいきましょう、いいわね?」
「「イエス・マム」」
正直、もうシノンの優勝でいい気がしてきた。で、ジャンケンをした結果、一回戦は僕とキリト。シードはシノンになった。
「一騎討ちの二連続か。確かに、時間は稼げるな」
「外に出たときに、向こうの実行犯に出くわすわけにはいかないからね」
「そうなると、外に出たら一応警察にも連絡した方がいいな。レイジ、お前彼女の
「そりゃ知ってるけど……警察はキリトから呼んでくれない? あの菊岡サンから経由すればすぐに来るだろうし。場所は僕の自宅の隣だから」
「そうなのか?!(…あちゃー、これはサチも挽回出来ないかもな、フッてるけど)」
「? 後ろの方、ボソボソって何言ったのか分からなかったんだけど?」
何かサチの名前が聞こえたような?
「……そろそろ、いいかしら?」
そう話すシノンの手には空の薬莢。スタートの合図だ。
「もちろん」
「いつでも」
二人の言葉にシノンが頷き、薬莢を指で空中へと跳ね上げ…………甲高い音とともに、落ちた。
「「ハアアアアアッ!!」」
互いの裂ぱくの気合とともに、まるで矢のように走る。衝突はちょうど中間点。
「セアッ!」
≪体術≫零距離技≪エンブレイサー≫。お互いに身体はボロボロ、その上銃をなくした現状では、勝負は本当に一瞬。ガチンコの近距離戦に、タイムラグがある≪ベルセルク≫は使えない。選択は
こちらのエンブレイサーはキリトのやたら長い髪の毛を何本か消し飛ばす。しかしキリトは攻撃を紙一重で躱しながら、体をその場で回転させた。まず……!
「らあッ!」
脱力で沈み込ませた身体の上を、二本の剣閃がすり抜ける。≪二刀流≫突撃技≪ダブル・サーキュラー≫。回避行動にスキルの動きを乗せたのか!?相も変わらず、とんでもないセンスだ。
「ははは、やるな、レイジ!」
「こっちは必死だってのに!」
満面の笑みを浮かべながら戦うなよ!やっぱり
「おおおおおおおッ!」
右の剣の薙ぎ、左の振り下ろし、両手での連続突き、袈裟懸け、切り上げ、横薙ぎの連続技、とキリトは幾多のソードスキルを繰り出してくる。それに対してこっちは躱す、躱す、躱す。一発でも当たれば、あの光剣はこっちのHPをすべて持って行きかねない。反則だろ、あんなの!
「っ、のおおおおッ!」
攻撃の間隙を縫って、拳と手刀で打ち掛かる。その攻撃は身体をかすめはするが、次の瞬間キリトはその倍の攻撃を放ってくる。≪
「くそ……ALOでのバトル大会まで取っておきたかったんだけどなあ……」
このままではジリ貧だ。ここで手札を切らないと、こちらの負け。負けるのはともかく、GGOプレイヤーでもないキリトを優勝、もしくは準優勝者にすると、シノンに怒られそうだし。
決意を固め、両腕を柔らかく曲げ、前へと構える。この構えに、意味はない。これはただ単に、SAOでもっとも多用していた左腕の
「……なんだ? 何か切り札でも切るのか?」
「まあね。この世界で学んだ≪
「へえ……」
こっちの発言に空気が変わる。痛いほどの緊張感が漂う中、キリトが先に動いた。
「ハアアアアアッ!!」
右腕の光剣を、ダッシュとともに勢いよく放つ。数多の敵を倒してきた必倒の片手剣単発重攻撃ソードスキル――≪ヴォーパル・ストライク≫。
だけど――――今、その一撃は『己にこそ』牙をむく!
「なッ!?」
キリトに走ったのは、驚愕。それはそうだろう。必倒のはずのスキルが、ほとんど残骸の
正確には、僕は斬撃そのものを止めたわけじゃない。ただキリトの持ち手部分に盾を押し当て、斬撃のベクトルを上へ書き換えただけ。そして、ここからが僕の最高のOSS!
「
「あ……」
呆けたように声を出すキリトの胸板には、自分の光剣が深々と刺さっていた。これが僕のGGOでの成果、≪無刀取り≫。SAO時代に多用していた防御スキル≪シラハドリ≫を攻撃に使えないかと研究に研究を重ね、ついには≪
「――お見事」
HPをゼロにし、倒れこみながらキリトは最後にそう言った。……正直ギリギリだった。勝負が長引けば、このスキルも結局キリトに対応されただろうし、初見殺しにしか今のところ使えない。
「……貴方って、いっつもボロボロね」
後ろから声がかかり、振り返る。そこにはヘカートを抱え込んだシノンがすぐ近くに寄ってきていた。
「別に好きでボロボロになってるわけじゃないよ? ただ、今回は強敵だったし、それに、まあ、ほら……」
「なによ?」
だって、ねえ。
「前に進もうとしたら、多少は泥も被るから、ね」
多少は汚れたり、ボロボロになったりも覚悟しないと。そう言った僕を見て、彼女は虚をつかれたような顔をした。
「……それでも、進むのをやめない、か……強い、ね。ホント……」
「え、なに?」
彼女の小さな呟きは、ほとんど聞こえなかった。俯き、奇妙な空気が流れ始めた空間を打破すべく、思いついたことを口にしてみる。
「あー、あの、それでさ。決勝はどうする? 早撃ち勝負? ゲリラ戦? 体力回復させてくれるなら、勝負方法はシノンに任せるよ」
その言葉に彼女は目を丸くし、溜息を一つ。
「今のボロボロの貴方に勝っても仕方ないのよ。勝負は次の大会まで取っておきましょ」
「え。シノンがそれでいいなら僕もいいけど、なら大会はどうやって終わらせるの? どっちかがHP全損しないと終わらないし」
「方法はあるでしょ。ホラ」
そうシノンが言って手に重いものを載せられる。目を向けると、それはなんと、プラズマ・グレネード。
「え、ちょ――」
「離しちゃ、だめ。――――ねえ、零二」
グレネードを持った手ごと抱き締められて固定される。最後に聞こえたのは、ほんの小さなささやき。
「大好き」
第三回BoB決勝戦……
ボーナスステージ、レイジVSキリト、終了!
これやらないと、最後のシーンに持って行けないからなあ……
さあ、次こそ現実。≪死銃≫事件のクライマックスです!乞うご期待!