ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男   作:路地裏の作者

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GGO編、終章――

これにて長かったレイジの物語も、本編は完結です。

番外は続きますが、皆さんどうもありがとうございました!



037 求め続けた温もり

(――眠い)

 

 事件から二日後、詩乃は放課後の学校を、校門に向かって歩いていた。先程まで遠藤たちに呼ばれ、校舎裏の人気のない場所へ向かうつもりだったのだが、正直もうあの連中に従う謂れもないので、放置して帰ることにしたのだ。現在彼女を苛んでいるのは、この二日間の事情聴取による眠気。事件の被害者なので、仕方ないといえば仕方ないのだが。

 

「……ん?」

 

 下駄箱を出てすぐ、周りの生徒の様子がいつもと違うことに気が付く。なぜか多くの生徒が興味津々といった風情で、校門のあたりを遠巻きに眺めているのだ。

 

「どうしたの?」

 

 近場の集団に、クラスの中ではほどほどに仲の良い生徒を見つけ話しかける。すると、その娘は、一瞬驚いた表情をした。思えば今までは、自分から話しかけることは無かったような気もする。

 

「あ、朝田さん。いや実はね、校門のところに他校の男子がさっきから待ち合わせしてるみたいなのよ。そんなにイケメンってわけじゃないけど、明らかに誰か女子を待ってるみたいで。だから相手の女子が誰なのか、興味あるじゃない?」

 

 その言葉に、詩乃の顔が朱に染まる。……確かに、今日はこの後キリトのバイトの上役と今回の事件の話し合いがあり、そこまでの道すがら話でもしよう、と言って彼と待ち合わせをした。この時間、校門の前で待ち合わせもした。だが、朝の時点ではこんな展開は予想だにしなかった。思えば事情聴取による眠気で、頭が少しボケていたのかもしれない。

 

 周りのクラスメートと一緒に校門に近づくと、案の定優矢が携帯を見ながら、ガードレールに腰かけていた。……まあ、バイクで乗り付けなかっただけ幸いか。私は、はあっと、一つ深い息をつき、周りのクラスメートに断る。

 

「……アレ、私のツレなの」

 

「ええっ! 朝田さんだったの!」

 

「『ツレ』ってなに!? カレシ!? 恋人!? 詳しく教えてよー!」

 

 ……しまった。GGOでの習慣で、相棒(ツレ)扱いしてしまったことを、詩乃は心の中で後悔した。しどろもどろになりつつ、何とか彼女らの攻勢を振り切り、優矢のところへ走り寄る。

 

「待たせたわね。急ぎましょ」

 

「あ、お帰り、詩乃。そんなに急がなくてもまだ時間ある――――」

 

「いいから! 一刻も早くここから離れるのよ!」

 

 優矢の手を少しばかり乱暴に掴み、急いで帰る。彼と両手が繋がった瞬間、周りから黄色い声が上がったが、考えないことにした。

 

 校門からしばらく急ぎ足で歩き、コンビニの前で一息つくことにした。

 

「明日から、どうしよう……」

 

「? 何が?」

 

 本当に分からないと言った風情の優矢を、少しばかり殴り飛ばしたくなった。とはいえ流石に疲れたので、店に入り、ペットボトルのお茶を買い、休んで飲む。

 

「そういえば……互いに名前で呼ぶの、まだ違和感あるわね」

 

「あー……まあ、そうかもね。けど、名前で呼び合おうって言ったの、詩乃だよ?」

 

「まあ、そうだけど……」

 

 名前で呼ばれるたびに、どこかこそばゆいように感じるのだ。何より自分自身を見てくれているようで、嬉しくもあり、切なくもあり……

 

 

「あーさーだー?」

 

 

 そんな空気を切り裂いたのは、妙に甘ったるく伸びた遠藤の声だった。振り向くと、学校の方の道で、遠藤ほか二人が胸の前で腕を組み、仁王立ちしていた。もっとも死銃を見た後だと、圧倒的にプレッシャーが足りないが。

 

「友達との待ち合わせすっぽかして、男とデートとか、ひどくない? マジムカツクんだけど」

 

「てかさあ、コイツ、アンタの本性知ってんの? アンタがカレシとかマジウケる!」

 

「そーそー。…………『人殺し』の癖にさあ?」

 

 にやにやと嫌な笑いを浮かべながら、遠藤はその言葉を口にした。それを耳にしたとき、詩乃は自分に起きた変化に戸惑っていた。確かに『それ』を耳にした瞬間、身は固くなり、少し冷や汗は出た。それでもいつものような足元が崩れるような衝撃は感じなかった。

 

 ……むしろ勇気が湧いてくるのは、ほんの少し摘まむように結ばれた優矢の指先から伝わる『熱』のせいだろうか?

 

「……何度も言うけど、貴女たちとは友達じゃない。もう私に関わらないで」

 

 その言葉に遠藤たちが、そろって無表情となる。思ったほど私が動揺していないことに、イラついているのが丸分かりだ。

 

「……へえ? 朝田の癖に調子のりすぎじゃない? まあ、いいや。それならこっちも思い切りいけるしねえ?」

 

 そう言って遠藤が、私の後方に向かって手招きする。振り向くとそこには、見た目からしてガラの悪い男が数人集まってきていた。

 

「……優矢」

 

「大丈夫」

 

 私の不安を打ち消すように、手を強く握ってくれる。それだけで大丈夫だと思える。

 

 遠藤たちに促され、向かった先は、コンビニ横の裏路地。人気もなく、まさしく不良のたまり場といった雰囲気。

 

「――そんじゃま、サイフ全部置いていきなよ。その後は、そこらのATMでお金下ろしてきて。十万もあれば多少(・・)手加減するように言ってあげるよ?」

 

 勝ち誇ったように遠藤が告げる。その横にいるのは、赤みがかった茶髪をまとめた化粧の濃い女性。何のつもりか知らないけど、手に槍のような長さの鉄パイプを持っていた。

 

「言っとくけど、抵抗しないほうがいいよ。こっちのお姉さんたちは、あのSAOっていうデスゲームで恐れられた最悪の犯罪ギルドの人達なんだってさ。アンタみたいな生意気な女もカレシも、すぐにボロボロにされるからねぇ」

 

 ……最近、本当によくSAO生還者(サバイバー)に出会う。そんなことを思っていた私の横で、優矢が赤毛の女に疑問に思ったことを尋ねていた。

 

「ギルド名は?」

 

「……は?」

 

「だから、ギルド名。ギルドなんだから名前あるでしょ?」

 

 その質問に、赤毛の女はニヤリと笑い、勝ち誇るように宣言した。

 

「いいだろう、よく聞きな! 私らは、SAO最悪の犯罪者ギルド≪タイタンズ・ハンド≫! SAOプレイヤー全員に恐怖されたギルドだよ!!」

 

 ……聞いたこともないギルド名だった。

 

「……ラフコフじゃないの? 優矢、≪タイタンズ・ハンド≫って聞いたことある?」

 

「あー、確かにあるな。何でもキリトが、友人のプレイヤーを助ける過程で一人でボコボコにして監獄送りにしたとか……」

 

 などと話していると、こちらの会話が聞こえていたのか、赤毛の女とその手下が揃って驚愕を露にする。

 

「なッ! で、デタラメ言うんじゃないよ! アンタたち、あのガキの生意気な口を塞いじまいな!」

 

『おおッ!』

 

 タイタンズ・ハンドの連中が、武器を持って私たちに襲い掛かってくる。それでも私は心配していなかった。それというのも、私はあの事件の日、優矢が「鍵のかかった」扉を一撃で蹴破ってこれた理由を聞いていたからだ。

 

「ははっ! 吹っ飛――――べがあッ!!?」

 

 ――あの世界のアバターに慣れ親しんだ優矢は、現実であの世界の自分に近づくために鍛錬し続けて、今では低レベルのエリアボスくらいなら、現実に打ち倒せることを。遠慮も容赦もない拳が、足が、襲い掛かった奴らに振るわれた。

 

「こっちも名乗らせてもらおうか……元攻略組ギルド≪風林火山≫壁戦士(タンク)・リーダー、レイジ。今からタイタンズ・ハンドを…………殲滅する」

 

 すぐ近くで、大規模なケンカが起こっているというのに、こっちには影響がほとんどない。だから信頼しきってそちらに背を向け、遠藤たちに向き直る。三人は、タイタンズ・ハンドがやられ出したことで真っ青な顔色だった。

 

「……もう一度言う。もう私に関わらないで」

 

「う、煩い! 近寄るんじゃないわよ!」

 

 そう言って鞄の中から一丁の銃を取り出す。1911ガバメント。恐らくはモデルガンであろうが、それでもその銃を見た途端、手足の先が冷えるのを感じた。

 

 見れば遠藤は、銃をひたすら見せびらかすように何かしゃべっている。恐らく本人も慣れていないのは丸分かりだったが、それでも一歩を踏み込めずにいた。

 

 一瞬、ほんの一瞬、肩越しに、優矢を振り返る。確かに、強い。明らかに相手を歯牙にもかけない彼は、腕力でも強いのだろう。だけど、違う。自分が感じたのは、もっと内面の部分。彼の根底にある強さだ。視線を戻し、一度大きく深呼吸をする。

 

 

 ――私も、負けないよ

 

 

 心の中で呟き、遠藤の手にあったモデルガンを奪い取る。外されていなかったセーフティをすべて外し、構える。狙いは遠藤たちの斜め後ろにあった空き缶。

 

 タン!という小気味いいリコイルショックとともに、プラスチック製の弾丸が飛び出し、空き缶を宙へと弾き飛ばす。そのまま銃を持った手を、遠藤たちに向ける。

 

「や、やめ……」

 

 蒼白になった三人を見て、一気に冷めた。何でこんな三人をあれほど恐ろしく思っていたのか。

 

「――――確かに人には向けないほうがいいわ、コレ」

 

 再びセーフティをかけ、遠藤に差し出す。受け取ろうとしなかったので、開いていた鞄の中に押し込んだ。

 

「さて、それじゃ――」

 

「帰ろうか?」

 

「……早いわね。もう終わったの?」

 

 優矢の後ろを見やると、そこにはボロボロになったタイタンズ・ハンドの皆さん。少しかわいそうね。

 

 そのまま振り返らずに、裏路地を出る。遠藤たち三人は無言のままで、追ってくることは無かった。

 

「……勇気、出た?」

 

 横を歩く優矢がそんなことを聞いてくる。その顔色には、本当に心配している色が浮かんでいた。

 

「――――大丈夫。いきましょ、優矢」

 

 そう短く告げて、優矢の手を握って、走り始めた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ――――その後の話をしよう。待ち合わせ場所でキリトの上役から今回の事件の背景と、ジョニー・ブラックこと金本敦が未だ逃亡中であることも聞いた。ジョニーが捕まっていないのは不安だったけれど、繋がれたままのぬくもりが、私の僅かな不安を打ち消してくれた。

 

 そして、その後優矢とキリトの昔馴染みが経営する≪ダイシー・カフェ≫という店で、私は自身が起こした事件のもう一つの帰結を知った。

 

 

「しのおねえさん、ママとみずえをたすけてくれて、ありがとう」

 

 

 あの事件に巻き込まれた職員の娘さん、あの事件の後に産まれた生命を前に、私の瞳からはとめどなく涙が溢れた。その瞬間も、その娘が私の手を握ってくれた瞬間も、優矢の右手は、もう片方の手を握り締めてくれていた。

 

 

 生きることは苦しく、伸びる道は険しい。

 

 

 それでも私は、私が生きるこの世界を、ずっと好きでいられる。もう一生、この手を握る小さな手の温もりも、瞳から流れた涙の暖かさも、忘れたりしない。そう確信できた。

 

 

 だって、いつか私が忘れてしまっても、もう片方の手を握り締める、大事な人の手の温もりが、きっと思い出させてくれるから…………

 




これにて、本編終了!最後はシノン視点でした!終わったーーーーッ!

遠藤たちはラスボス(笑)でしたwそして、その手下扱いで出てきたタイタンズ・ハンド……レイジに無双させるためだけに出したからなあ

最後がやたら駆け足になりましたが、理由としては、原作のファントム・バレットの完成度の高さです。下手に改変すると、原作のあの読後感が崩れるしwプラスアルファで、きっとこの世界のシノンは『もう片方の手』を離しはしない、と思える文だけ加えました。幸せになってくれ、二人とも……

この後の投稿予定ですが、『キャリバー』と『マザーズ・ロザリオ』はやります!ただし完成したら一気に投稿しようかなと思うので、かなり不定期です。あとはリクエストがあったイチャラブも……フフフ。トゥルーエンドエピソードとあとがきはその後かな?

お待ちの皆様は、良ければ作者の他の作品たち、『魔法先生ネギま!~闇の剣と星の剣』、『とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)』をお楽しみください。

それでは!今まで読んで下さった読者の皆様!本当に、本当に、付き合ってくれてどうもありがとうございました!!
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