ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男   作:路地裏の作者

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長い休眠を越え――ハーメルンよ、私は帰ってきた――!!

皆さん、骨折には気を付けましょう。後、飲酒にも。



001 聖剣挑戦

 

「「――――付き合ってる男女って、何をすればいいんでしょうか?」」

 

 異なる場所、異なる組み合わせで、全く同じ単語が響き渡った。

 

「「………………はい?」」

 

 その問いを投げかけられた二人も、意図せず全く同じ回答。いや、これは単に呆気にとられているだけだろうか。

 

 片や、無骨な武器店の一角、片や、それなりに洒落っ気のある、隠れ家的な喫茶店。場所の雰囲気も全く異なるが、この二つには、一つの共通点がある。それは、どちらも現実ではない、いわゆるゲームの中だというところだ。

 

 妖精の世界、≪アルヴヘイム・オンライン≫。幻想的な雰囲気に彩られるこの世界は今では街のあちこちを飾る色とりどりのツリーや、雪を模したモールにすっかり趣を変えていた。その飾りつけと街に広がるクリスマス・ソングが、数日のうちに起こるクリスマスイベントを想起させる。

 

 ……もっとも、真剣な表情で問いを投げかける、眼下の二人には、それどころでもないだろうが。

 

「――いや、だからね。つい一週間前、僕はシノンに告白して、付き合い始めたわけだけど……」

 

 問いかける一人は、純白の髪にライオン型の丸い猫耳と筆のような尻尾を揺らす少年、≪レイジ≫。≪金剛の阿修羅≫、≪幽霊拳士(ドッペルゲンガー)≫など数多くの二つ名を持つALO有数の格闘家。一応本編の主人公だ。

 

「あー、そうだな。めでたいから、皆でパーティーもしたし」

 

「僕のおごりでね……」

 

 問いに答えるのは、黒髪に黒一色の装備を纏った少年、≪キリト≫。悪魔のデスゲーム≪SAO≫から、多くの人間を救い出した≪黒の剣士≫だ。

 

「この一週間……学校の外で待ち合わせて、一緒に話をしながら、帰って……だけど、何か違う気がするのよ。これじゃ」

 

 そして同じ問いを投げかけているのは、空色の髪に同じく猫耳を生やした少女、≪シノン≫。第三回BoBの優勝者で、≪氷の狙撃手≫とも呼ばれる生粋のスナイパーだ。

 

「んー、でもいいんじゃないかな? 私だってキリト君とはそんなもんだよ?」

 

 その対面でオレンジ色のジュースを飲んでいるのは、水色の甲冑に身を包んだ少女、≪アスナ≫。最近では≪バーサクヒーラー≫と呼ばれ、恐れられる少女だ。

 

「いや、でもさ……毎日、どこかで待ち合わせして、外で会って……」

 

「その日の安売り情報だとか、最近の時事を話し合って……」

 

「そして、二人で協力して、安売り商品をゲットして……」

 

「最後に家の前で別れる…………」

 

 ここで、奇しくもどちらの当事者も沈黙。そして、次の瞬間、それを解き放った。

 

 

「「これじゃ、付き合う前と何も変わらない!!」」

 

 

 全く違う場所で、全く同じ悩みを打ち明けているのだから、ある意味相性抜群の二人だった。

 

((――行動だけ見てると、新婚夫婦みたいだけど……))

 

 二人の感想はある意味妥当だった。恋人のさらに上の行動パターンなのだから、そりゃあ変化もないだろう。

 

「――でもまあ、もう少し打ち解けてみるのも、いいんじゃないか?」

 

「……打ち解ける?」

 

 喫茶店でも同じ解決策が提示されていた。

 

「そうね。二人でどんな些細なことでもいいから、一緒になって遊んで……そういうのが、二人の大切な共有できる思い出になるものなのよ」

 

「……流石、万年新婚夫婦は違うわね」

 

 でもまあ、今回はその提案に乗ってみようか、という気分にもなっていた。何だかんだで、二人とも現状に変化を求めていたのだ。

 

 

「「――――――さしあたっては、今回の≪エクスキャリバー獲得≫、かな」」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

「にしても、よくこれだけ集まったわね……」

 

 シノンが眺める先にいるのは、今回≪エクスキャリバー獲得≫に向け動くメンバー。僕、シノン、キリト、アスナさん、ユイ姉、リーダー、リズさん、リーファにシリカ。さらに、ここにもう一パーティー加わるのだ。

 

「でも、本来のフロアボス攻略やエリアボス攻略は7パーティーのフルレイドで動くからね。これでも少ないかもしれないよ」

 

「今の新生アインクラッド攻略はこれだけじゃ難しいもんね……」

 

 僕の呟きに答えたのはサチ。そしてその後ろで装備の点検をしているのは、≪月夜の黒猫団≫のメンバーだ。

 

「でも、この人数じゃ、トンキーの背中には乗れないぜ? どうすんだよ、レイジ」

 

「あー、大丈夫。黒猫団は黒猫団で、専用の飛行手段があるから」

 

 今回、僕とシノンは遊撃の3チーム目として動く。黒猫団の方には、実は全く予想していなかった人物が加わった。

 

「り、リーファちゃ~ん。お願いだから、僕もそっちのパーティーに入れてよー……」

 

 今現在、シルフ領で軍部の中核を担っているレコン。忙しいだろうと、メールも出していなかったのだが、とある人物からの情報で駆けつけてくれた。

 

「マアマア、レッ君。こっちは飛び入り何だし、仕方ないダロ?」

 

 その情報を流した、旧名アルゴこと、アルフさん。こちらもシノンと同じく新規にALOに作ったキャラだが、情報収集の成果なのか、身体のあちこちに特殊効果持ちの防具や武器を仕込んであり、行動阻害をうまく使うキャラだ。

 

「……に、しても長い階段ねえ。大丈夫? メアは踏み外さないかしら?」

 

 シノンが肩越しに、僕が手綱を引く黒い天馬、メアの心配をしてきた。まあたぶん大丈夫だと思うけど。

 

「心配いらないよ。この子は賢いし、全然疲れないから、この後僕ら二人を載せて飛べるさ」

 

「う…………それってつまり、私がしがみつくか、レイジに抱えてもらわなきゃいけないってことよね」

 

 うーん、やっぱり付き合って一週間でそうされるのは嫌なんだろうか。

 

「あー……別に嫌だったら、無理にとは……」

 

「――――…………別に、嫌じゃない」

 

 そう言った彼女の顔は暗い階段の中でもわかるくらい、赤かった。

 

「え――」

 

「――だから、レイジ! 私は、そうされるのが嫌じゃないって言ったの!」

 

 そう言って前に向き直ったシノンが愛しくて。今すぐにでも抱き着きたくて。

 

 

 ふと。目の前で左右に揺れるシノンの水色がかった尻尾が目に入った。

 

 

「…………」

 

 むぎゅっとな。

 

「フギャア!! なにすんのよっ!!」

 

 システム上の夫婦であるシノンには、時としてペインアブソーバーを飛び越えるほどの引っ掻き攻撃も可能だと、僕はこのとき初めて知った。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「――――着いた!」

 

 歓声を上げたのは、一番乗りを果たしたリーファ。痛む顔を摩りながら、殿の僕が出て最初に見たのは一面氷の世界。天井も氷で覆われた、この場所の名前は≪ヨツンヘイム≫だ。

 

「トンキ――――!」

 

 リーファが呼び出すのは、かつてこのフィールドを訪れたときに友達になった、象水母型邪神のトンキー。その長い鼻で、すぐさま躊躇していたリーダーやリズさん達を背中に乗せた。

 

「それで、どうやって黒猫団は飛ぶ気なんだ? やっぱりこれからトンキーの仲間でも呼ぶのか?」

 

 そう言って首を傾げるキリト。その目の前を横切り、サチがその懐からオカリナを取り出した。

 

「……おいで、クロ。――♫~~♪」

 

 そうして奏でられるどこか懐かしい旋律。それに呼応するように、どこかでバリトンのような深い音の鳴き声が返ってきた。

 

『フガ~~オオーーーー!!』

 

「うひゃっ?!」

 

 アスナさんが短く悲鳴を上げたすぐ後、どこからか重い足音が聞こえてきた。

 

「お、オイ、キリト! アレ……」

 

「え……?」

 

 キリトが振り向いた先、ヨツンヘイムの天井近くを、何か巨大な生物が走り寄ってくる。

 

「クロ、久しぶり!」

 

『フガ~オ、ゴルル……』

 

 現れたのは、巨大な黒猫。但し普通の猫ではなく、妙に胴長で、足が12本もある。

 

「「「「――ね○バス?」」」」

 

「違うよ? 胴に座席ついてないからね」

 

 そういう問題でもないだろうが……。実はこの猫、ヨツンヘイムに黒猫団が遠征に出たときに見つけた大型邪神である。なんでも、ヒト型邪神と戦い虫の息の猫型邪神を見つけ、何を思ったかサチが苦しみを和らげるプーカ特有の音楽スキルを奏でたところ、懐から一匹の子猫が出てきた。その子を抱え、脱出のために十体のヒト型を何とか倒したところ、猫が巨大に成長したらしい。恐らくプーカの音楽でないと、フラグは立たなかっただろうことを考えると、このクエストを最初にデザインした誰かさんの性格の悪さがうかがえる。

 

「よし、それじゃ行こうか」

 

「………………」

 

 ちなみに。シノンはメアの背中にまたがった僕の前方に、抱きかかえられるような形で収まった。後ろからでも彼女が赤面して、うつむいているのが分かる。

 

「よーし! それじゃあ――」

 

 

「待て!!」

 

 

 聞こえてきたのは、その場のだれでもない声。声の方に顔を上げると、そこには信じられない光景が飛び込んで来た。

 

「なっ?!」

 

 その数、七体。トンキーと同じ象水母邪神が、悠然とその身を羽ばたかせ、たちまちこちらを取り囲んだ。皆その背に青い髪のプレイヤーを乗せており、ウンディーネのフルレイドであると察する。

 

「ほお、そこのスプリガンとシルフは見た顔だな」

 

 そう言って正面の象水母から現れたのは、弓を持ったスカウト風のウンディーネ。どこかで見た顔だ。

 

「あー! あなた、トンキーを狩ろうとした奴じゃない! 何よ、今更になってトンキーを狩ろうっての!?」

 

 あ。思い出した。あの時のウンディーネのレイド隊長か。確かあの時トンキーと同じ象水母邪神のクエストフラグは教えたが、それでこの邪神レイドを作ったのか。

 

「フフ……そんなことはしないさ。お前たちにはこの軍勢を組むきっかけを与えてもらったからな。これでも感謝している」

 

 その割に取り囲んだりと、戦意に溢れているんですが?

 

「なに、感謝と『勝負』は別物というやつだ。お前たちが入ってきたことで、こちらもクエストに変更がかかってな」

 

 そう言って彼が向いた左側。そこに、ポリゴンが集まり、巨大な何かを形成しようとしていた。

 

 

「――――私は、≪湖の女王≫ウルズ」

 

 

 そう言って現れたのは、そこかしこに鱗や触手を残した巨大な半人半魔の美女。それを見たウンディーネ隊長がニヤリという笑みを浮かべる。

 

 

「妖精たちよ、かの氷に閉ざされた要塞、スリュムヘイムより≪エクスキャリバー≫を引き抜いて下さい。最初にたどり着いた者に、かの剣を与えましょう――――――!!」

 

 

 ――≪エクスキャリバー≫『争奪レース』、開始。

 




リハビリも終わり、長く温めていたネタを投稿……するはずが、書き方忘れ、四苦八苦しながら書きました。そのせいか、未だに『闇の剣と星の剣』はしばらく更新はありません……

ALO編の時の些細な違いから、キャリバーはウンディーネフルレイドとの『争奪レース』にまで変わってしまいました。対してこちらの原作組の助っ人は、黒猫団とレコン、そしてアルゴことアルフさんだけです。次回は黒猫団大活躍、かな?

次回投稿は少しずつペース上げてく予定なので、来週か再来週か不明です。どうにもまだ本調子じゃない……
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