ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男   作:路地裏の作者

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強い黒猫は――――好きですか?



002 黒猫乱舞

 インスタンス・ダンジョンと呼ばれるものがある。これはMMORPGでは古くから存在するシステムで、通常はパーティーやレイドを組んだ集団ごとに独立して作り出されるダンジョンのことを言う。中には変わり種でエリアそのものがインスタンスエリアとなって、他のパーティーからは隔離された空間となるものもある。中の構造は、それぞれで異なっていたり、同一だったりもあるが、完全に隔離されているので、他のパーティーとアイテムやモンスターの奪い合いにならないという利点がある。

 かつてのアインクラッドに存在した、下層エリアのキャンペーンクエストなんかは、後者に分類されるだろう。そして――――今回は、前者だ。

 

「逆に言うと向こうのレイドが、湧出(ポップ)した敵の数を減らしてくれない、ってことよね?」

 

「そういうこと……」

 

 シノンの疑問に答え、前に向き直る。そこには数えるのも億劫になるくらいの四ツ目多腕巨人の姿。

 

「これを突破して、エクスキャリバーを先に抜き放てとか……無理難題にも程があるわよ。流石は女神様ね」

 

「まあ、ギリシア神話や他の神話体系の試練より全然マシじゃない? それに同じ北欧神話でも、どっかのトリックスターだったらもう……」

 

「ロキか……まあ、確かにとんでもない試練になりそうね? もしくはトンチを利かせたものになるか」

 

「お前ら、話してないで手伝えよ!?」

 

 シノンと話し込んでいたら、前線で戦っていたキリトに怒鳴られた。んー、でもねー。

 

「作戦決める前に、単騎で突っ込んだ人に言われてもね……」

 

「ぐっ」

 

「おまけに攻撃役(アタッカー)が、真っ先に壁役(タンク)より憎悪値(ヘイト)を稼ぐとか……パーティー戦の基本無視してるし」

 

「がっ」

 

「マアマア、二人とも。キー坊は最近イチャラブしかしてないリア充だから、脳内ピンク色で一般的なパーティー戦忘れちゃったんダロ」

 

「最後が一番ひどいぞ?!」

 

 大量の巨人に囲まれながら、キリトが律儀にツッコんでいた。典型的な一人ボケツッコミだな……。

 

「そろそろいいんじゃないか? 救援に入ろう」

 

 そう言って両手棍(スタッフ)を構えるケイタ。ALOに入った後の彼は、インプを選択しながら白系統のローブを身に纏っており、どちらかといえば魔導士風だ。

 

「もうちょっとイジリたかったけどな~?」

 

 短剣を構えるダッカー。スプリガンの典型ともいえる盗賊風のコスチュームだ。

 

「まあまあ、控えなよ。それにこうしている間にも、向こうはどんどん進んでるよ?」

 

 ノーム特有のがっしりとした体格を重装備に包むテツオ。その手に持つのは、身の丈を超えるタワーシールドだ。

 

「流石に数にものを言わせる奴らには、負けたくないよな?」

 

 背中から抜き放った槍を片手で回転させるササマル。かなり特徴的な和槍で、千鳥十文字槍とかいうらしい。ウンディーネを選択していたが、何故かどこかで海藻を連想させるのは何故だろう。

 

「支援なら任せてね」

 

 腰のバッグから三日月のような弧を描くハープを取り出すサチ。軽く弾きながら調律する様は、プーカらしいともいえる。

 

「テツオ、三十秒後に咆哮(ハウル)。ヘイトを稼いでキリトの援護。サチはHP増強の歌で全員の支援。ダッカー、ササマルはいつも通りに」

 

「了解、リーダー」

 

「皆、頑張ってね」

 

「へへ、どんなお宝が出るんだろうな」

 

「それじゃあいくか?」

 

 隣であっという間に戦術が組みあがっていく。このあたり、さすがは二年で培った阿吽の呼吸か。

 

「――ねえ、レイジ。私達もキリトの応援に行った方がいいんじゃない?」

 

「あー、大丈夫大丈夫。よく見てなよ、シノン」

 

 視線の先、戦闘準備を整える黒猫団。戦意がどんどん高まっていく。

 

「――――彼らは『少数特化型』でその名を轟かせたSAO上位ギルドの一つ、≪月夜の黒猫団≫だよ?」

 

 

「「「「「ゴー!!」」」」」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

「≪咆哮(ハウル)≫――ッ――――!! キリト、援護に入る! 前線は任せて!」

 

「サンキュー、テツオ!」

 

 黒猫団の壁戦士(タンク)、テツオ。さしたる特徴もないが、その重装備と堅実な防護性能で黒猫団を二年間守り続けた男だ。その防御力はALOでノームになってから、更に磨きがかかっている。≪黒鉄(クロガネ)≫の二つ名は、決して伊達じゃない。

 

「よし、サチ! 願む」

 

「――♫~~! ~♪―――!!」

 

 ハープを取り出し、プーカ特有の呪歌(ソング)スキルで全員のHPを増強するサチ。膨大な数の音楽を奏で、ALO移行前から音楽スキルと料理スキルを完全習得(コンプリート)していた彼女。魔法音楽ともいえる呪歌(ソング)スキルは、彼女がALO一の使い手だ。

 

「皆、頑張って……」

 

 ハープを握り締め、彼女は祈る。その様子は、ALOで≪謳う乙女(サイレーン)≫の名を持つ彼女に、ある意味ふさわしいものでもあった。

 

「とりあえず――――釘づけになりなよ!」

 

 一息で多数の巨人の脚をつき、動きを止めるササマル。敵の被弾箇所には赤や紫のライトエフェクトが輝き、状態異常を引き起こしている。貫通性能が高く、状態異常系も多い槍のソードスキルを用い、敵の能力を低下させることに特化している。

 

「そのまま案山子みたいに突っ立ってなよ……」

 

 その手の中で、槍の穂がギラリと輝く。≪啄木鳥(キツツキ)≫の二つ名の代名詞となった槍は、獲物を狙う猛禽(とり)(くちばし)のようだった。

 

「へへっ――――――いっただきぃッ!!」

 

 動きの止まった巨人の横を、駆け抜けるダッカー。ダメージもなく、敵のど真ん中に停止したダッカーに向け、向き直る巨人たち。だが……。

 

「探し物は――――コレかい?」

 

 満場の観客に応えるように、ダッカーが両手を広げる。その両側に、ガランガランと重い音を立てて、巨人の持っていた大剣が落下した。

 

 ≪強奪(ロビング)≫スキル。当初はモンスター専用スキルと考えられていて、カタナと同じエクストラスキルだった。

 だが、攻略が進むにつれて条件が解明され、≪罠解除≫や≪開錠≫など、いわゆる十種の盗賊系スキルを5つ以上も覚えて、なおかつ常に移動する『盗賊村』を見つけ出し、高難易度のクエストをクリアしないと解放されないスキルだと判明した。

 このスキルは敵からアイテムの所有権を奪う効果があり、恐ろしいのはそのスキルModの中に、かつてSAOで大量の犠牲者を出した≪武器落とし(ディスアーム)≫や≪武器奪い(スナッチアーム)≫属性の攻撃が存在することだ。

 

 つまりこのスキル持ちは、ビルド上の分類でなく、文字通り完全なる≪盗賊(シーフ)≫となる。ダッカーは、SAOの最後期、このスキルを完全習得(コンプリート)した男だ。

 

「レア武器満載♡ 選り取り見取りだな、こりゃ♪」

 

 ≪盗賊王(マスターシーフ)≫は、今日も満面の笑みで、自分の財宝(おたから)を愛でている。

 

「――どうやら、大ボスの登場みたいだよ」

 

 ケイタの言葉に視線を上げると、道の先に開けた場所があり、そこに色違いの巨人を二体連れた黒と金のミノタウロスの姿があった。

 

「まずは足止めだね。≪オース・ラース――――」

 

 闇魔法特有の物悲しい韻律が響き、両手棍(スタッフ)を暗い紫の光が包み込む。

 

「≪チェイン・グリーフ≫」

 

 詠唱が完成した瞬間、足元から伸びた紫の鎖が、ミノタウロス二体をその場に縛り上げた。

 

「ボスのヘイトは稼いでおく! 皆はそのまま一般の巨人と、取り巻き二体を!」

 

『了解!』

 

 ケイタへの応答とともに、僕は取り巻き二体を殴りつけ、引きつける。他のザコ敵よりも危険度は高いが、黒猫団には負けていられない。

 

 乱戦の様相を呈した戦場で、ケイタは悠々と歩き、やがて黒金のミノタウロスの眼前へと立った。

 

「少し付き合ってもらうよ……!」

 

 両手棍(スタッフ)を握り締め平行に構える左手に、右手を添える。ケイタの独特の構えが、開戦の合図となった。

 

 ――かつて、≪月夜の黒猫団≫は半壊した。メンバーの紅一点だったサチは戦場を離脱し、新参でも確かにメンバーの一員だったキリトは、苛烈な攻略へと戻っていった。

 

 八つ当たりじみた怒りでキリトを追い出してしまった彼らだったが、時間をおいて、自分たちの間違いにも気づいた。

 

 そして、後悔した。

 サチを、もう戦えなくしてしまったのは、自分たちだと。あんなに前線に出たがらなかった彼女を、無理に壁戦士(タンク)にしようとしたのは、自分たちだと。

 

 気づいたとき、彼らは強くなろうとした。毎日ダンジョンに挑み、一から鍛えなおした。キリトの縁で知り合った≪風林火山≫に集団戦を教えてもらいもした。ダンジョンの様々な情報も手に入れ、活用方法をひたすら話し合った。

 

 その中で、最も重要視したのが、長時間にわたる継戦能力と、生存能力だった。もう二度と、あんなことを起こさないために。必ず生きて帰るために。彼らは努力し、どんな戦場からも必ず生きて帰った。

 

 そして、SAO最後期。特に攻略には関係なかったが、余りの危険度に攻略組が最高度危険地域と指定した、かつての≪アリ塚≫の上位ダンジョン、≪ハガネサムライアリの巣穴≫を踏破し、≪月夜の黒猫団≫は準攻略組の中では有名なギルドとなった。

 

 そのリーダーが――――目の前のケイタだ。

 

「――ッ、―――!」

 

 衝撃は二度。黒と金のミノタウロスの斧がケイタに迫るが、彼はその手の両手棍(スタッフ)でその軌道を逸らした。両手棍(スタッフ)は、特筆すべき攻撃能力が無い武器でもある。正直同じ打撃武器なら、盾が持てる片手棍(メイス)か、威力が大きい両手槌(ハンマー)を選ぶ人間の方が圧倒的に多い。ましてやかつてのSAOに≪魔法≫など無かったのだから、魔力が上がるというわけでもない両手棍(スタッフ)に意義を見出すプレイヤーはほとんどいなかった。

 

 その中で、ケイタが両手棍(スタッフ)を使い続ける理由。両手棍(スタッフ)の唯一の特徴。それは、武器として単純であるがゆえの――――極めて高い≪耐久性≫。

 

「ふっ……!」

 

 剛腕をもって振るわれる大斧。その暴風を、ケイタはその手の両手棍(スタッフ)でしのぎ続ける。圧倒的な≪耐久性≫を押し出し、敵の攻撃を≪武器防御≫で捌き続ける。≪堅牢≫の二つ名を持つケイタの継戦能力は――全SAOプレイヤーの中でも、一二を争うのだ。

 

 そして、ALOへたどり着いた彼は、さらなる力を手に入れた。

 

 

「――≪ソーン・グラビティー≫」

 

 

 防御の合間を縫って、一定のリズムで謳われた詠唱が完成する。二体のミノタウロスの頭上に巨大な茨の球体が生じ、落下と同時に弾け、二体に絡みついた。

 

『『ブオ、オオオ?!』』

 

 たまらず二体が苦悶の声を上げる。敵の攻撃を捌き、戦闘中にインプの上位闇魔法で敵を仕留める。これがケイタの新たなプレイスタイルだ。

 

「――よし、こっちは終わったよ」

 

「皆、攻撃力と素早さを上げるね? 近くに寄って」

 

「おったっから♪ おったっから♪」

 

「早いとこ仕留めるか……」

 

 真っ先に一般の巨人を狩り終えたのは、黒猫団の面々。初めて出会った時とは、見違えるように頼もしい背中がそこにはあった。

 

 

「――――よし。回復・強化が終わり次第、ボス戦! ≪月夜の黒猫団≫、突撃!!」

 

 

「「「「おおッ!!」」」」

 

 

 ケイタの号令とともに、逞しく成長した黒猫は、怪物へと挑んでいった。

 




これぞ、『魔改造黒猫団』!彼らの特徴を一芸特化に改造したら、こうなりました。おかげで今回、レイシノも、キリアスも影が薄い薄い……

黒猫団魔改造が面白すぎ、予定より早く投稿できました。彼らには感謝です!

次回は早く上がれば来週ですが……どうなるかな?
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