ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
インスタンス・ダンジョンと呼ばれるものがある。これはMMORPGでは古くから存在するシステムで、通常はパーティーやレイドを組んだ集団ごとに独立して作り出されるダンジョンのことを言う。中には変わり種でエリアそのものがインスタンスエリアとなって、他のパーティーからは隔離された空間となるものもある。中の構造は、それぞれで異なっていたり、同一だったりもあるが、完全に隔離されているので、他のパーティーとアイテムやモンスターの奪い合いにならないという利点がある。
かつてのアインクラッドに存在した、下層エリアのキャンペーンクエストなんかは、後者に分類されるだろう。そして――――今回は、前者だ。
「逆に言うと向こうのレイドが、
「そういうこと……」
シノンの疑問に答え、前に向き直る。そこには数えるのも億劫になるくらいの四ツ目多腕巨人の姿。
「これを突破して、エクスキャリバーを先に抜き放てとか……無理難題にも程があるわよ。流石は女神様ね」
「まあ、ギリシア神話や他の神話体系の試練より全然マシじゃない? それに同じ北欧神話でも、どっかのトリックスターだったらもう……」
「ロキか……まあ、確かにとんでもない試練になりそうね? もしくはトンチを利かせたものになるか」
「お前ら、話してないで手伝えよ!?」
シノンと話し込んでいたら、前線で戦っていたキリトに怒鳴られた。んー、でもねー。
「作戦決める前に、単騎で突っ込んだ人に言われてもね……」
「ぐっ」
「おまけに
「がっ」
「マアマア、二人とも。キー坊は最近イチャラブしかしてないリア充だから、脳内ピンク色で一般的なパーティー戦忘れちゃったんダロ」
「最後が一番ひどいぞ?!」
大量の巨人に囲まれながら、キリトが律儀にツッコんでいた。典型的な一人ボケツッコミだな……。
「そろそろいいんじゃないか? 救援に入ろう」
そう言って
「もうちょっとイジリたかったけどな~?」
短剣を構えるダッカー。スプリガンの典型ともいえる盗賊風のコスチュームだ。
「まあまあ、控えなよ。それにこうしている間にも、向こうはどんどん進んでるよ?」
ノーム特有のがっしりとした体格を重装備に包むテツオ。その手に持つのは、身の丈を超えるタワーシールドだ。
「流石に数にものを言わせる奴らには、負けたくないよな?」
背中から抜き放った槍を片手で回転させるササマル。かなり特徴的な和槍で、千鳥十文字槍とかいうらしい。ウンディーネを選択していたが、何故かどこかで海藻を連想させるのは何故だろう。
「支援なら任せてね」
腰のバッグから三日月のような弧を描くハープを取り出すサチ。軽く弾きながら調律する様は、プーカらしいともいえる。
「テツオ、三十秒後に
「了解、リーダー」
「皆、頑張ってね」
「へへ、どんなお宝が出るんだろうな」
「それじゃあいくか?」
隣であっという間に戦術が組みあがっていく。このあたり、さすがは二年で培った阿吽の呼吸か。
「――ねえ、レイジ。私達もキリトの応援に行った方がいいんじゃない?」
「あー、大丈夫大丈夫。よく見てなよ、シノン」
視線の先、戦闘準備を整える黒猫団。戦意がどんどん高まっていく。
「――――彼らは『少数特化型』でその名を轟かせたSAO上位ギルドの一つ、≪月夜の黒猫団≫だよ?」
「「「「「ゴー!!」」」」」
◇ ◇ ◇
「≪
「サンキュー、テツオ!」
黒猫団の
「よし、サチ! 願む」
「――♫~~! ~♪―――!!」
ハープを取り出し、プーカ特有の
「皆、頑張って……」
ハープを握り締め、彼女は祈る。その様子は、ALOで≪
「とりあえず――――釘づけになりなよ!」
一息で多数の巨人の脚をつき、動きを止めるササマル。敵の被弾箇所には赤や紫のライトエフェクトが輝き、状態異常を引き起こしている。貫通性能が高く、状態異常系も多い槍のソードスキルを用い、敵の能力を低下させることに特化している。
「そのまま案山子みたいに突っ立ってなよ……」
その手の中で、槍の穂がギラリと輝く。≪
「へへっ――――――いっただきぃッ!!」
動きの止まった巨人の横を、駆け抜けるダッカー。ダメージもなく、敵のど真ん中に停止したダッカーに向け、向き直る巨人たち。だが……。
「探し物は――――コレかい?」
満場の観客に応えるように、ダッカーが両手を広げる。その両側に、ガランガランと重い音を立てて、巨人の持っていた大剣が落下した。
≪
だが、攻略が進むにつれて条件が解明され、≪罠解除≫や≪開錠≫など、いわゆる十種の盗賊系スキルを5つ以上も覚えて、なおかつ常に移動する『盗賊村』を見つけ出し、高難易度のクエストをクリアしないと解放されないスキルだと判明した。
このスキルは敵からアイテムの所有権を奪う効果があり、恐ろしいのはそのスキルModの中に、かつてSAOで大量の犠牲者を出した≪
つまりこのスキル持ちは、ビルド上の分類でなく、文字通り完全なる≪
「レア武器満載♡ 選り取り見取りだな、こりゃ♪」
≪
「――どうやら、大ボスの登場みたいだよ」
ケイタの言葉に視線を上げると、道の先に開けた場所があり、そこに色違いの巨人を二体連れた黒と金のミノタウロスの姿があった。
「まずは足止めだね。≪オース・ラース――――」
闇魔法特有の物悲しい韻律が響き、
「≪チェイン・グリーフ≫」
詠唱が完成した瞬間、足元から伸びた紫の鎖が、ミノタウロス二体をその場に縛り上げた。
「ボスのヘイトは稼いでおく! 皆はそのまま一般の巨人と、取り巻き二体を!」
『了解!』
ケイタへの応答とともに、僕は取り巻き二体を殴りつけ、引きつける。他のザコ敵よりも危険度は高いが、黒猫団には負けていられない。
乱戦の様相を呈した戦場で、ケイタは悠々と歩き、やがて黒金のミノタウロスの眼前へと立った。
「少し付き合ってもらうよ……!」
――かつて、≪月夜の黒猫団≫は半壊した。メンバーの紅一点だったサチは戦場を離脱し、新参でも確かにメンバーの一員だったキリトは、苛烈な攻略へと戻っていった。
八つ当たりじみた怒りでキリトを追い出してしまった彼らだったが、時間をおいて、自分たちの間違いにも気づいた。
そして、後悔した。
サチを、もう戦えなくしてしまったのは、自分たちだと。あんなに前線に出たがらなかった彼女を、無理に
気づいたとき、彼らは強くなろうとした。毎日ダンジョンに挑み、一から鍛えなおした。キリトの縁で知り合った≪風林火山≫に集団戦を教えてもらいもした。ダンジョンの様々な情報も手に入れ、活用方法をひたすら話し合った。
その中で、最も重要視したのが、長時間にわたる継戦能力と、生存能力だった。もう二度と、あんなことを起こさないために。必ず生きて帰るために。彼らは努力し、どんな戦場からも必ず生きて帰った。
そして、SAO最後期。特に攻略には関係なかったが、余りの危険度に攻略組が最高度危険地域と指定した、かつての≪アリ塚≫の上位ダンジョン、≪ハガネサムライアリの巣穴≫を踏破し、≪月夜の黒猫団≫は準攻略組の中では有名なギルドとなった。
そのリーダーが――――目の前のケイタだ。
「――ッ、―――!」
衝撃は二度。黒と金のミノタウロスの斧がケイタに迫るが、彼はその手の
その中で、ケイタが
「ふっ……!」
剛腕をもって振るわれる大斧。その暴風を、ケイタはその手の
そして、ALOへたどり着いた彼は、さらなる力を手に入れた。
「――≪ソーン・グラビティー≫」
防御の合間を縫って、一定のリズムで謳われた詠唱が完成する。二体のミノタウロスの頭上に巨大な茨の球体が生じ、落下と同時に弾け、二体に絡みついた。
『『ブオ、オオオ?!』』
たまらず二体が苦悶の声を上げる。敵の攻撃を捌き、戦闘中にインプの上位闇魔法で敵を仕留める。これがケイタの新たなプレイスタイルだ。
「――よし、こっちは終わったよ」
「皆、攻撃力と素早さを上げるね? 近くに寄って」
「おったっから♪ おったっから♪」
「早いとこ仕留めるか……」
真っ先に一般の巨人を狩り終えたのは、黒猫団の面々。初めて出会った時とは、見違えるように頼もしい背中がそこにはあった。
「――――よし。回復・強化が終わり次第、ボス戦! ≪月夜の黒猫団≫、突撃!!」
「「「「おおッ!!」」」」
ケイタの号令とともに、逞しく成長した黒猫は、怪物へと挑んでいった。
これぞ、『魔改造黒猫団』!彼らの特徴を一芸特化に改造したら、こうなりました。おかげで今回、レイシノも、キリアスも影が薄い薄い……
黒猫団魔改造が面白すぎ、予定より早く投稿できました。彼らには感謝です!
次回は早く上がれば来週ですが……どうなるかな?