ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
突然だがここで、旧アインクラッドでの話をしておこう。
僕を含めた≪風林火山≫という名のギルドは、ベータテスターに比べれば後発だったものの、その後順調に登り詰め、20層を超えるまでには攻略組に至ったギルドだ。正直、ベータテスターは攻略優先とはいえ、一度しか取れないユニーク級アイテムやレアアイテムの類は必ずとって行ってしまうため、後発になればなるほどそうした貴重アイテムの分不利になる。
だというのに、≪風林火山≫はそんなハンデを跳ね返し、その上ゲームクリアまでメンバーを一人も死なせなかったという偉業まで成し遂げた。これは、同じく攻略組のトップである≪血盟騎士団≫ですら成し遂げていないことだ。
で、このハンデと偉業についてだが、実は諸々の逆境を跳ね返し、それらを成し遂げたのは――――今、目の前で囚われの美女を救う、とのたまっているリーダーである。
「オリャぁ……ここでこの人を置いてけねえんだよ! 例えそれが原因でクエストに失敗しちまうとしても、それでもここで助けるのが、オレの生き様――武士道なんだよ!」
事の発端は、前回のすぐ後である。あの後、黒牛と金牛を全員の魔法・ソードスキルで一気呵成に倒し、その次のムカデみたいなボスも勢い任せに倒したのだが、その次の階層で問題が発生した。
道の途中に氷でできた牢獄が存在し、その中に囚われた美女を、罠だ!と断定するメンバーと、助けたい!というメンバーの間で対立が発生してしまったのだ。と、いうか、助けたいと言っているのは、リーダー一人だが。
「……ねえ、レイジ。貴方からも説得してよ。こんな道端にこれ見よがしに置いてある牢獄なんて、十中八九罠だって」
反対派のシノンが、僕に意見を求めてくる。多分SAO時代から同じギルドメンバーの僕に、クラインさんを説得して欲しいんだろう。でもねー……。
「レイジよう……」
「僕は助けてもいいと思いますよ。
「ホントか?!」
「ちょっと、レイジ!?」
「時間もないことですし、助けたいんなら、早めにお願いしますね、リーダー」
「任せときな!」
今助けてやるぜー!と勢いよく離れていくクラインさんを尻目に、シノンが睨みつけ、徐に口を開いた。
「やっぱり、胸?」
「…………………………はい?」
思考が、停止した。
「いいから答えなさい。どうなのどうなのよやっぱり男って大きい胸が好きなんでしょそりゃ私はガリガリだし男から見たら面白味無いカラダかもしれないけど胸を比べることは無いじゃないあんなのただのたるみよ脂肪よどうして男はそれがわからないのよこのままじゃ上の町が大変なことになるって忘れてるでしょ大体――――」
「わああああ?! ストップストップストップ!」
とりあえず、襟首掴んで揺さぶるのはやめてもらった。まだくらくらする視界を何とか元に戻すと。
ぱきーん!と音を立てて、リーダーが氷の牢獄を破壊し終わったところだった。
「あーあ……」
「やっちゃった……」
もう皆、クエスト失敗が決定したような言い方だった。皆少しひどいよね?
「どー思う? キリト」
「……まあ、助けちまったもんは仕方ないだろ。このままこのルートで行ってみよう。もしかしたら、本当に万に一つ、当たりだったかもしれないからな」
そういうわけで、ここでパーティーに加わったのは、一族の宝を取り戻しに来たという西欧風の美女、『フレイヤ』という女性だった。
「……? この名前……」
「あ、さすがにシノンは気づいた? 昔から図書館に入り浸ってたって言ってたからね」
「まあ、そうだけど。それでも、何でレイジは確信持ってたみたいな顔してるのよ。あの時点じゃ名前なんて分からないじゃない」
まあね。多分あの場で質問しても、答えてくれたかどうかも怪しいし。
「リーダーがどうしても助けたいって言ったからかな」
「? それってどういう――」
「ホラ、二人とも! もう時間ないよ!!」
リーファの掛け声に、僕は急いでシノンを横抱きにし、メアにまたがって駆けた。戦闘中に飛行を多用するため、こうしたなんでもない移動にはあまり飛行は使えない。
「――それで、さっきのどういう意味よ」
「んー、僕が確信持ってたわけだっけ? シノンは僕とリーダーがSAOからずっと同じギルドだって知ってるよね」
「ええ。それで?」
「あそこは少数精鋭の攻略組だったけど、それでも攻略組になり、しかも全員帰還っていう偉業まで成し遂げた。それには多くの理由があるんだ」
言いながら、道を駆ける。すると馬上で他の人よりも高い視点に、妙なものが見えた。……なんだ?
「本当に色々理由はあるんだけど……一番は、リーダーだよ」
「……どういうこと?」
「リーダーさ、一生懸命なんだよ。どんな時でも必死に仲間を守ろうとして、自分に出来るギリギリで助けて……目の前で困ってる誰かがいたら、その人まで助けて。あんなデスゲームの中にいたのに、リーダーは、一番『人間』だった」
「……」
「そして、リーダーは、必死に頑張って、頑張って――――最後には必ずハッピーエンドを引き当てる強運の持ち主だからね♪」
目の前に佇むのは、巨大な氷の巨人。そしてその足元に転がるのは、こちらよりリードしていた筈のウンディーネのフルレイドパーティーだった。
「まさか、
「そんな! 49人いるフルレイドですよ?!」
「いや、その前に、どうしてインスタンスダンジョンのはずのこのダンジョンに向こうのパーティーがいるんだ? どっちが先に着いたかは外に出ないと分からない筈だろ」
「……多分、対戦者が全滅したときの演出なんじゃないかしら。目の前のボスが、微妙に勝ち誇った顔をしてるもの」
アスナさんの予想は多分正しい。ただ、争奪レースにしておきながら、相手が壊滅したらボスに勝ち誇らせるって、やっぱりデザイナーのどっかの妖精王は性格歪んでたんじゃなかろうか?
「……ぬふぅん。またも小賢しい羽虫どもかと思えば、そこにおるのはフレイヤ殿ではないか。儂の花嫁になる決心はついたのかな。んん?」
そこから語られるのは、まあ、要するにこの巨人は女神を嫁にしようとして袖にされたと言うただそれだけの内容なんだけど……全年齢対象のギリギリをつくような内容だった。正直巨人が誰を嫁にしようと、あまり興味はないんだけど――。
「さっきから人を羽虫、羽虫って、少ししつこくないかしら?」
「――むぅん? 羽虫は、羽虫であろう。ああ、それとも何だ娘。泣いて乞うのであれば、儂の寝台で飼い猫にしてやらんでもないぞ。さすれば虫から少しは進歩できるであろう」
……ほぉう。ほうほう。
「シノンに色目を使うような眼球はいらないよね?」
「よし、落ち着けレイジ。いきなり開幕ハオウケンで眼球ピンポイント狙いとかやめてくれ。壁役がいなくなる」
大丈夫大丈夫。落ち着いてる落ち着いてる。落ち着いてるから、早く戦闘させてくれ。ハリーハリーハリー!
「ぐはははは! ヨツンヘイム全土が儂の物となる前祝いに、貴様らから平らげてくれようぞ……!」
「くるぞ!!」
『オオッ!!』
エクスキャリバーを巡る、最後の戦いが始まった。
と、いうわけでクライン回。やっぱりクラインの魅力は、その人間味だと思っています。デスゲームという過酷な状況なのに、友人を見捨てないためにベータテスターの恩恵投げ出したり、原作では背教者に挑むキリトを止めようとしてくれたり。美女に弱かったり、コミカルになったりと、本当にアインクラッドでは貴重な存在だったと思います。
レイジは『強運』と言っていますが……努力して努力して、最後には少しでもいい未来を引き寄せる、というのはある意味『人間』らしいと言えます。原作クラインならそれくらい出来ておかしくない♪
今回のレイシノ。少しヤンデレったような……?