ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
エクスキャリバーを巡る、最後の戦い、それはあまりにも予想外な形で始まった。
「ぬぅん! 羽虫どもめが、しょせ――――ガボッ?!」
『……え?』
氷の巨人の長い口上を遮ったのは、近くにオブジェクト化して落ちていた、ウンディーネレイドのリーダーの
「――――いい加減、煩いんだよね」
投げ込んだのは、言うまでもなくこの物語の主人公、レイジ。彼は、怒っていた。かつてないほどに怒っていた。理由は、余りにも馬鹿馬鹿しいものではあったが。
(大丈夫、僕は正常。大丈夫。大丈夫。別に、寝台の上に猫化したシノンがいるところなんかで興奮しない。正常。正常!)
……つまりは、さっきの氷巨人の発言が原因だった。最初は自分の彼女を飼い猫扱いする巨人に怒っていたのだが、一瞬その光景を想像してしまったのだ。そして、萌えた。敵への怒りで燃えなければいけないところで、萌えた。しかも何故か想像の中では、同じ寝台に、現実の詩乃が猫耳カチューシャと尻尾を生やして、シノンと抱き合っている映像だった。ある意味、思春期真っ盛りの妄想である。
それに嫌悪を感じる暇もなく、想像という名の妄想力は、猫シノンと詩乃に襲い掛かる氷巨人まで想像してしまい……でも、猫シノンと詩乃に萌え、氷巨人への怒りで燃え、後は無限ループである。
まあ、つまりは、思考の無限ループで、「レイジはこんらんしている!」というわけだ。
「シィィィィィッィィィィィィィッ!!」
もはや何の生物なのかも分からない奇声を上げ、レイジがあっという間に巨人へと距離を詰めた。鉄拳術複合移動スキル――≪ザンエイ≫。
「ムゥンッ!!」
それに対抗するように、氷巨人はその拳を渾身の力で振り下ろした。衝撃で迷宮全体を振動させたかのような錯覚に、事態の急転についていけなかったパーティーメンバー全員がたたらを踏む。当然喰らったら、レイジといえどただでは済まないだろう。
あくまで、喰らえば、だが。
「ジャアアアッ!」
振り下ろされ、地面にめり込んだ拳の周りを、まるで螺旋階段のように、駆け上がっていく。最終的に重い硬直時間を喰らう代わりに、連続使用が可能な≪ザンエイ≫らしい超高速移動である。もっとも、普段は完全な
「――――
項に突き込まれる、渾身の拳。≪鉄拳術≫単発重攻撃ソードスキル≪モウリュウケン≫。そのギロチンのような衝撃に、たまらず巨人が膝をついた。
「……あれ、おかしいな。俺、アインクラッドで助けてくれた友人のドッペルゲンガーが見えるんだけど」
「奇遇だな、俺もだ。てか、アイツそんな二つ名も持ってなかったか?」
「……あはははは。あんなになったのは≪軍≫に怒ってたとき以来かな?」
「……あ、あれ? あはは、何でだろう。迫ってくる鉄球が見えるよ、ケイタ」
「テツオ、しっかりしろ! マズイな、恐怖映像で特訓の
黒猫団は、サチ以外結構壊れていた。それは、他の面々も同様で――。
「くきゅるぅっ!? ピィィィッ!」
「ピ、ピナ! 大丈夫大丈夫。ほら、怖くない怖くない。大丈夫大丈夫。…………多分」
「説得力ないあやし方よ、ソレ。しっかし、アイツも攻略組だけあって、実はぶっ飛んでたのねえ……キリトやアスナみたいに」
「リズ、それヒドイ!!」
「そうだぞ、俺達はレイジほどぶっ飛んでないぞ!」
「お兄ちゃんの方がヒドイよ……」
「ホントだね、リーファちゃん……」
「アー、前にもこんな風になったりしたのカイ?」
「あー、割と頻繁にな。アインクラッドで最後にああなったのは、確かアイツがとったA級食材を、メンバーが調理もせずに目の前で食っちまったときだったか……まさに阿修羅のような追跡劇だったぜ」
「レイジ、きょうだいとして恥ずかしいです……」
まあ、普段大人しい人間ほど怒ると怖い、という実践のような映像に、割と全員が混乱していたのである。……ただ一人を除いて。
「ぬ、ぬうっ――グオッ!」
『え?』
立ち上がろうとした氷巨人の瞳に、いきなり巨大な氷柱が突き立った。それはただの氷柱ではなく、瞳の中心に突き刺さった一本の『矢』による付加効果。それを為したのは――――レイジの相棒たる
「ホラ、何ボサッとしてるの。早く動かないと、私達二人だけで――――倒しちゃうわよ?」
言うが早いか、次の瞬間には巨人の体中にいくつもの矢が突き立つ。それも全て、心臓や眼球といった急所をピンポイントに刺さっているのだから、彼女の腕がよくわかる。しかもそれだけではない。
「ヒヒィンッ!」
彼女が跨るメアの嘶きとともに、空中に闇色の稲妻が奔り、巨人の身体へと迸った。手の届かぬ空中から矢と魔法を降らせる彼女は、阿修羅に並ぶとも劣らない
「行くぞ、皆!」
『オウ!』
キリトの掛け声で始まった戦いは、しかし熾烈を極めた。実際フルレイドで戦うことを想定しているボス相手に、少人数で挑むなど単純に自殺行為である。それでも彼らはほとんどが『SAO
(マズイわね……)
戦場を俯瞰していたシノンは、この戦闘の形勢がどちらにあるのか冷静に判断していた。ここから先は、敵の攻撃がより苛烈になる。下でキリトが、『自称』フレイヤから話しかけられていたから、キーアイテムとイベント次第では逆転も可能だろうが、要は間に合うかだ。
そんなことを考えていたから、反応が遅れた。
「羽虫の分際で、先程からやかましいぞ!!」
「!?」
いつの間にか、巨人の
(HPバー移行による
迫る巨大な拳に、思わず目を瞑る。…………、? 来るはずの、衝撃が来ない。
「っ、羽虫がああああッ!!」
「うううああああああああっ!!!」
咆哮に目を開けると、そこにはつい一週間前に恋人になったばかりの愛しい人の背中があった。そして、彼の拳に宿っていた黄色のライトエフェクトがまるで雪のように宙に漂い、消える。
≪鉄拳術≫連撃系ソードスキル≪レンダショウ≫。空中にいた自分を助けるために、彼は≪ザンエイ≫で駆け上がり、単発ソードスキルとのスキルコンボで巨大な拳を迎撃したのだ。そのまま硬直が発生し、無防備なレイジの身体は下へと落ちる。
「レイジ!」
地面すれすれで何とかメアが間に合い、そのまま硬直する彼の身体をキャッチする。……全くこういうのは、自分の方の特権だと思っていたのに。
「まったく、無茶しないでよ」
「あー……、ゴメン。これからも、無茶は結構するかも。やっぱり男の『特権』だからね。こればっかりは」
「『特権』? 何がよ」
私の疑問に、レイジは鼻の頭をかきながら、一言。
「自分の大好きな女の子を、身体を張って守る特権」
その言葉に思わず顔が熱くなる。こんな時だけは、感情表現がオーバーな仮想世界が憎らしい。
「おのれ、おのれおのれ! 羽虫どもがあああッ!!」
「!! シノン、下がって!!」
振り向くと氷巨人がその手に巨大な斧を持ち、私たちに振り下ろすところだった。私を後ろへ下がらせたレイジの
「――――! や、ば――――――!!」
レイジの慌てた声に目を向けると、レイジの盾には微細なヒビがいくつも走っていた。砕ければ、レイジはあの巨人に真っ二つにされるだろう。
「はあ……レイジ、私も女の『特権』を使わせてもらうわよ」
「っ、え、何? 『特権』って、どんな!?」
防御中で余裕のない返答ではあったけど、関係ない。これは、私自身への宣言だ。
「惚れた男の隣を、どこまでも歩いて行く特権」
宣言とともに、素早く弓を二度放つ。狙う先は、眼球。さあ、一瞬のスキは作ったわよ?
「――ありがとう」
バックラーを砕きながら、巨大な斧を跳ね除け、レイジは片膝をつく。その行為は神に祈るようにも、あるいは弾丸を込めるようにも見える。
「ハアアアアアッ!!」
≪鉄拳術≫最上位・単発超重ソードスキル≪アシュラハオウケン≫。その有り得ない威力とダメージに、巨人の身体が迷宮の壁へと激突した。
「……後は、皆に任せようか」
激戦で気付かなかったが、さっきから響く野太い男の声と、その姿に絶叫するクラインさんの声。
「「ああ、やっぱり……」」
二人して、八割方気付いていて黙っていたのだから
「――それじゃあ、どうする? イチャイチャする?」
「――バカ」
こうして、エクスキャリバーをめぐる最後の激戦は終息へと向かっていった。
さあ、想像しましょう!
目の前には中世で使われる天蓋付寝台(ベッド)。そのカーテンを開けると、そこには首輪と手枷・足枷を付けたALOシノン!その彼女が大事そうに抱きかかえているのは、同じく首輪を装着した猫耳カチューシャ・尻尾付き詩乃!
――上手い美少女絵が一切描けない自分が悔やまれる……誰か、描ける人いませんかー?