ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
次回以降は……
「う、うおおおおおぉん!」
その両目から滂沱の涙を流しながら戦う男。いっそ哀れを誘う姿だが、誰も声を掛けられなかった。
「こんなイベント、有りかああぁあああっ!!」
女神だと思っていた絶世の美女が、実は雲つく巨体の男性だった。……まあ、泣きたくなる気持ちはわかるが。このメンバーの中で最も
「……やっぱり、北欧神話のあの神話そのままだったんだー。スリュムとフレイヤって聞いたから、もしかしたらって思ったんだけど」
「スグは知ってたのか?」
「うん、一応。ALOの舞台背景って聞いたあたりから、北欧神話やケルト神話も調べてみたし」
「だったら教えてやれば……」
「いや、お兄ちゃん? あの喜びようは教えられないでしょ?」
「…………」
そうこうしているうちに、氷の巨人スリュムは女神フレイヤに化けていた巨大な神に追いつめられていく。北欧でも著名な『雷神トール』。それが彼の正体だった。
ちなみに、女神フレイヤも同じ北欧神話の女神ではあるが……リーファは、かの女神の残した数々の逸話は、クラインに伝えないことにした。彼女の、せめてもの優しさである。
「むぅんっ!!」
その手に持つ雷神トールの代名詞、ミョルニルの一撃。それがスリュムの最期だった。
「やれやれ、助かったぞ。小さき者らよ」
トールは去り際その手のハンマーから宝石を一つ残し、クラインの手に≪雷槌ミョルニル≫を与えた。……ただその間、ずっとクラインの顔と目が死んでいた。
「オレ、ハンマー系スキル、ビタ一上げてねえし……」
「この中でハンマー系の打撃スキル持ちは……リズとテツオか?」
「リズなら、すぐに溶かしてインゴットにしちまうんじゃねーか?」
「ちょっとダッカー! どういう意味よ!」
「でも、リズ。
「え、ホント?」
アスナの一言で、クラインの持つハンマーに向ける視線。もうそれは、完全に溶かす気満々だった。
「リズにだけは、渡しちゃ駄目だな……」
もっとも、呑気にしていられたのはそこまでだった。
不意に、ダンジョン全体が振動を始めたのだ。
「「「「!?」」」」
「お、お兄ちゃん! クエスト、まだ続いてる!」
「な、なに?!」
「パパ! スリュムの玉座の後ろに、階段が出現しています! ≪エクスキャリバー≫を早く抜かないと!!」
そう言えば、女王ウルズの依頼は、『エクスキャリバーを抜き放て』だったか。慌てて全員でその階段に駆け込む。ほとんど落ちるように転がり出た先に、はたしてそれはあった。
「これが……」
「あー、そうかそうか。……嫌な記憶がよみがえるなあ」
台座に突き刺さった黄金の剣。かつて妖精王がレイジの胸に突き立てた剣。それが≪エクスキャリバー≫だった。
「よし……!」
その装飾の際立つ柄を、キリトが握り締める。この中で筋力重視の傾向にあるのは、レイジ、キリト、テツオの三人。一番の筋力はレイジになるが、あるいは片手剣スキルが影響を及ぼすかもしれないため、キリトが代表となった。
「ふんぎぎぎ……!」
当初、ピクリともしなかった剣が、徐々に、徐々に揺らぎ始めた。氷で出来た台座にはより一層のヒビが入る。
「パパ、頑張れー!」
「お兄ちゃん、あとちょっとだよ!」
ユイを中心に、さまざまな声援がかかる。そして、ついに……。
「ああああああ!」
台座から、装飾も美しい剣は抜き放たれ、キリトの手に収まった。そして、台座の崩壊とともに、それは始まる。
「木の根が……!」
台座で留まっていた世界樹の根っこ、それが一面に伸び始め、辺りを埋め尽くすほどに成長していく。
「これ……迷宮が崩壊する?!」
シノンの一言とともに、振動が強まり、ヒビが一層広がった。天井から、大小さまざまな氷塊が落ちてくる。
「やば……」
「皆、僕の周りに……」
「大丈夫だよ、テツオ。――皆、そこを動かないで」
シノンが手綱を握ったメアの上に直立し、全員の直上に浮遊したのはレイジ。その左手には、トレードマークでもある
「予備の盾は無いけど……このくらいは……!」
そう言うと同時、一際大きな氷塊にライトエフェクトを伴った拳が衝突する。≪体術≫単発ソードスキル≪閃打≫。衝撃とともに、氷の軌道は逸れていく。
「オオオオオオッ!!」
拳が、脚が、肘が、膝が、次々に奔り、氷の軌道をすべて逸らしていく。盾がなく、防御もまともに出来ないとはとても思えない。そこにあるのは、不退転の姿。決して、後ろに脅威を通さないという鋼の意思と、大きすぎる背中があった。
(……これで、ドキドキする辺り、私も相当参ってるなあ)
そう考えているのは、すぐ後ろで手綱を握るシノン。すぐそこで皆を守る姿が、すごく格好良く、抱き締めたい衝動に襲われていた。
もっともそうやって氷は捌けても、崩壊は止まらない。一際大きな衝撃音とともに氷の床は丸ごと落ちていった。
「クラインさんの、ばかーーーーっ!!」
「……シリカの罵倒、初めて聞いた」
「何したのよ、あの人……」
二人だけ空中に浮かんでいたので、慌てて落ちていった仲間たちの回収に向かう。すると、やってきたクロとトンキーに全員が飛び移る所だった。
「まったく、カーディナルって奴は!!」
キリトがそう叫び、エクスキャリバーを横に放り出して、全力でトンキーに飛び移った。……多分荷重制限か、飛距離の減少が原因だな。
「シノン、『狙える』?」
「――勿論よ。手綱ヨロシク」
シノンの後ろから手綱を受け取り、もう片方の手で彼女の腰のあたりを支える。彼女が番えた矢にかける
「ふっ――――」
ひょう、と放たれた矢は200m近く離れていた聖剣に向かい、飛んで、飛んで……………………刺さった。
「よっと。ちゃんと支えてなさいよ? ……変なトコ触ったら、コロスから」
「イエス・マム」
そんなつもりはなかったが、その一言に背筋が凍るのは、男の性なのか。そんなことをレイジが思ううち、矢の刺さった剣は飛んで飛んで、シノンの手の中に納まった。
「よし。これで≪光弓シェキナー≫を要求できるわね」
「アレ、本気だったんだ……でも、僕も新しい盾探しに人手が必要だったからね」
二人は一度顔を合わせ、ニヤリとほほ笑んだ後、皆の待つところへと戻っていった。
◇ ◇ ◇
「「「「メリークリスマス!!」」」」
エクスキャリバー獲得イベント終了後、なし崩し的に、エギルの店である≪ダイシー・カフェ≫での打ち上げ兼クリスマス会となった。わいわいと騒ぐ喧噪の中、ふと二人並んでそれを眺めていたシノンが呟いた。
「……こういうのも、二人の思い出、か」
「え?」
「何でもないわ。――けど」
もう一度、店内を見渡す。相変わらず店内の一部をピンク色に染め上げる和人と明日菜。口を尖らせてそこに割り込もうとする直葉。同じくぶーたれている里香と珪子。酒を飲みながら管を巻き、黒猫団に慰められている遼太郎。アンドリューはグラスを拭きつつ、ニヤリと苦笑する。
「今、最高に楽しい……!」
「……そっか。そうだね!」
聖剣を巡る騒動は、こうして幕を閉じた。そして、その日は二人にとって、最初の楽しい思い出となっていった。
キャリバー終わりました!新生黒猫団と、初々しい二人のイチャイチャがうまく書けてればうれしいです!
さて、次は原作の通りならマザーズロザリオなのですが……裏話的オリジナルに入ります!正直マザロザは完成度高すぎて、どうかかわっても原作ぶち壊しにしてしまいそうだったので……ですが、同時進行としての裏話なので、時折向こうにも関わらせます!差し障りが出ない程度に……
マザロザであってマザロザでない、オリジナル話の題名は、『シールドクエスト』。そのためだけに、前回バックラー破壊しました!
次回投稿予定は再来週の予定。仕事が入らなければ、ですが……