ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男   作:路地裏の作者

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いつもの時間からかなり遅れて完成!

最近、頭の巡りとネタが遅い……



007 シールドクエスト2~北の地

 

 プァァァァン、と特徴的な音を立てて地を走る鉄道。しかしその音は中まで届かず、あくまで一定のリズムで揺れるだけにとどめる車内。そしてその車内に、二人掛けの席で並んで座る二人は、それぞれ物思いに耽っていた。

 

 詩乃の実家へと帰るため、現在二人は東北新幹線に乗り込んでいた。だが、当初こそ楽しげに会話していたものの、現在の二人の間に会話は無い。もっともこれは、二人の関係がおかしくなったとかではなく……

 

((――――どんな顔して、挨拶すればいいんだろう……?))

 

 目下、最大の問題が頭を埋め尽くしていたせいである。

 

 まず、詩乃。

 

(……これって、やっぱり、そう、よね? ドラマとか小説でよくある、いわゆる、『実家への挨拶』よね? ああいうのって、男性側はよく描写されるけど……女は、どうすればいいのよ?!)

 

 情報の引き出しがドラマ等の伝聞情報しかなく、どんな顔で実家に帰ればいいか、非常に悩んでいた。本来、悩むべきは男性の方だということすら、思考の外である。

 

(それに……優矢が、実家へ挨拶に来たいって言ったってことは………………将来、私と『そう』なりたいって希望も抱いてるってことで…………)

 

 そこまで考えが至ったとき――――顔の色が、林檎よりも真っ赤になった。

 

(あぁあああああああああっ!!?)

 

 内心、悶える羽目になった。

 

(や、やっぱり、そういう願望ってあるのよね!? 二人でいても買い物情報を交換したり、荷物持ちをしてくれたり、食事を一緒に作ってくれたり、ニコニコ笑いながら食べてくれたりで、恋人らしいこと、全くできてなかったりで、不安だったけど!)

 

 ……『恋人』という関係性が初めての詩乃は、全くと言っていいほど、自分の現状を理解していなかった。この場にクラインがいたら、読者諸氏に代わって適格な言葉を投げかけてくれただろう。つまり、「爆発しろ」と。

 

(で、でも、将来か。……やっぱり、共働きかな。それで優矢と一緒の職場とか。それとも、お、『夫』の帰りを待つ専業主婦? 帰ってくるまでが寂しいけど、子供がいたらそこまででもないかも。――男の子と女の子、一人ずつがいいなあ…………)

 

 自分の想像に耽ることで、どんどん魂は未来予想図へと飛んでいった。そしてドツボにはまった。

 

(子供……家庭…………妊娠……………………つまり、『夜』の――)

 

 そこまで思い至り、盛大に悶える羽目になっていた。

 

 詩乃の隣で、優矢も同様に思い悩んでいた。

 

(――『挨拶』は、どう言えばいいんだろう)

 

 流石に初めてできた恋人の実家で、無様は晒せない。そう思ったこともあって、彼は非常に真剣に思い悩んでいた。

 

(……まずは、『お義父さん、娘さんを僕に下さい』? 一番オーソドックスだけど、ドラマとかだと断られるよな……『必ず娘さんを幸せにします』? 高校生の身分を考えると適切じゃないな……『二人で幸せになります』? これだと……)

 

 …………彼は、全ての台詞が、結婚を控えた男が恋人の実家に言うべき言葉であると気づいていなかった。ある意味テンパってるせいかもしれないが。

 

(あ、詩乃って母子家庭で、お祖父さんお祖母さんと住んでるんだった。それなら『お義母さん、娘さんを僕に下さい』? それともお祖父さんが父親代わり? もしかしたらお祖母さん?)

 

 段々と、彼の思考は脇道へと逸れていった。

 

(ん~~、『皆を幸せにしてみせます』? いや、いっそご家族のことを一番に据えて、『お義母さん、二人で幸せになりましょう』?)

 

 ……元AIのはずの彼が、どうしてここまでアホな思考に至っているかは、永遠の謎である。恋人をそっちのけに、義母と幸せになってどうしようと言うのか。

 

(……結局、詩乃の家族が認めてくれるか、なんだよな)

 

 思考を一度中断し、優矢は一つ溜息をついた。結局、そこなのだ。

 

(幸い安いホテルは取れたけど……この宿泊期間に、交際許可を貰えるかは、未知数)

 

 もちろん彼は、誠心誠意お願いするつもりではあった。それでもどうなるかは、全く分からない。

 

(それでも……きちんと正面から詩乃と交際したい)

 

 家族に内緒で交際するとか、もっと言えば駆け落ちするなども方法としてはあるが、彼はそんな手段は取りたくなかった。何故なら、一番考えていて優先することがあったから。

 

(家族にも認められて、ゆっくり時間をかけて関係を深めて――――多分そうしないと、詩乃が心から笑ってくれない)

 

 優先するのは、詩乃の笑顔。そのためだけに、どんな困難な道でも歩んで行く。それだけが彼の今の行動理念だった。

 

 ふと、物思いから現実へと回帰した二人が、互いへと目を向けた。たちまち詩乃の顔に朱が差すが、俯く前に優矢が声をかける。

 

「――――大丈夫、だよ」

 

「え……?」

 

「例え土下座してでも、詩乃のご家族には交際を許してもらうから」

 

「!」

 

 驚いたように顔を上げる詩乃に、更に言葉を紡ぐ。

 

「今回、もしも許してもらえなかったとしても……来年も春休みや夏休みはあるから、その度にここに通い詰めて、時間をかけて許してもらうよ。誠意を見せるって、多分そういうことだと思うから」

 

「優矢……」

 

「けど、差し当たっては、ほんの少し勇気が足りないかな? ――――だから」

 

 そこまで言って、彼は彼女の片手を握り締める。指を絡め、しっかりと。

 

「少し、勇気、分けてくれる?」

 

「…………ええ」

 

 ガタガタと揺れる車内、二人の手はそのまま目的の駅に着くまで離れることはなかった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「ここか……」

 

 あれから新幹線を降り、近郊の街をつなぐバスに乗り換え、着いた東北の田舎町の一角。少しばかり古びた感じのする一軒家が、詩乃の実家だった。裏には雪に覆われているが、一面の畑。何でも詩乃のお祖父さんは、半農半商と言った感じで、ある小さな会社の役員とともに、お祖母さんと一緒に畑仕事もしているらしい。この時間なら、いつもは家にいるとか。

 

「それじゃ……行くわよ」

 

「うん……」

 

 意を決して、二人で玄関をくぐった。

 

「ただいまー!」

 

 まず詩乃が声を大にして、帰郷を知らせた。台所からわずかに聞こえていた水音が止まり、奥から姿を現したのは、銀色の髪を結い上げた恰幅のいい女性。どことなく、目元が詩乃に似ている。

 

「あんれ、詩乃ちゃ。(けぇ)って来たなら、連絡よこせばいいべ――――あん?」

 

 詩乃のお祖母さんの言葉が、僕に視線を向けたところで止まる。う……やっぱり緊張する。

 

「――初めまして。僕は、詩乃さんの東京での友人で、銅島優矢といいます。本日は、ぜひご挨拶をと思って、詩乃さんの帰郷に同行いたしました」

 

「ん~? あんら、あら、あら?」

 

 僕の方を見ていた視線が、交互に僕と詩乃の間を行き来し――――最後に、チェシャ猫のような笑みを浮かべた。血筋か。

 

「詩乃ちゃ。もう()い人連れてきたんでねが。今夜は、赤飯だぁ」

 

()っちゃ!!」

 

 いきなりの、詩乃の大声に驚いた。その上、もう一つ驚く要素があった。

 

「詩乃って……実家では東北なまりあるんだね」

 

「う! うう……頑張って、矯正したのに…………」

 

 詩乃が顔を真っ赤にして俯いた。そんな様子も凄く可愛かったが。

 

 と、玄関先で談笑していると、更に奥から一人の男性が出てきた。シルバーフレームの眼鏡をかけ、どことなく貫禄がある。グレーのスーツを着込んでいるのは、会社から帰ってすぐだからか?

 

「初めまして。僕は――」

 

 早速挨拶をしようとしたが、その前に詩乃のお祖父さんの言葉に遮られた。

 

 

(わり)ぃが、(けぇ)ってくれ」

 

 

 その言葉に、頭を下げかけた姿勢で硬直した。

 

「詩乃と、どんな関係かは知んね。けど、大事(でぇじ)な孫が帰った日ぐれぇ、水入らずで過ごしてんだ。弁えてくんねか?」

 

()っちゃ! それは――」

 

「待って、詩乃」

 

 たまらず、食って掛かろうとした詩乃を止める。

 

「今言われたことは、正論だよ。確かに、焦りすぎてた」

 

「でも――」

 

「明日、改めてご挨拶に参ります。本日については、これで失礼します」

 

 そう言って、一度詩乃を安心させるために笑いかけ、僕はそのまま詩乃の実家を後にした。

 




前哨戦、終了。まずはレイジの開幕ワンツーに、カウンターが入ったというところでしょうか?

シノンの出身地は、原作に一切記載がありませんが、東京から祖父母の家に行く段階で、東北の山中を通っているため東北六県でも北の方か?と考えました。その上で車で行こうとする距離を考え、岩手ということにしてあります。作中の岩手弁はかなり怪しいですがww北海道なまりという、東京弁に微妙に近い方言しか持たない作者に、方言の描写はこれが限界……

岩手設定は、方言を隠そうとして赤面する詩乃が書きたかっただけですしね!!

次は、何とか来週には更新したいな……
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