ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
新年第一回の投稿です!
詩乃の実家を訪れた翌日。詩乃に連絡して改めて訪問の都合を聞き、再び詩乃の実家を訪れることになった。
部屋に通され、僕と詩乃は二人並んで詩乃の祖父母と母親に対面した。
詩乃の母親とは昨日会っていなかったが、何処か焦点の合っていないような印象を受けた。詩乃に対する態度が、小さな子供を相手にしているように見えたこともそうだけど、出合い頭に怯えた目をされ、時折虚空を見つめていた。
……正直、MHCP時代に見たことがある症例だった。詩乃に後で聞いたら、現在通院中で、昔に比べれば回復の兆しがあるそうだ。症状次第では協力したいとも思ったが、僕への遠慮なのか、やんわりと断られた。
詩乃のお母さんの方から視線を外し、僕は詩乃の祖父母の方に改めて向き直った。
「昨日は失礼しました。改めまして僕は、詩乃さんの東京での友人で、銅島優矢といいます。今回は、ぜひご挨拶をと思って、詩乃さんの帰郷に同行いたしました」
挨拶とともに頭を下げる。視界の端で、お祖母さんの方が柔らかい笑みを浮かべるのは見えたが、お祖父さんの方は、難しい表情のままだった。
「あんれ、ご丁寧にどうも。詩乃の祖母だぁ」
「詩乃ちゃの、お母ぁです」
「…………」
挨拶も返してくれたのはお祖母さんとお母さんだけで、お祖父さんの方は腕組みをしたまま。…………これは、相当手ごわいかも知れない。
「うちの、詩乃ちゃのお友達? これからも仲良くねぇ」
「は、はい……」
詩乃のお母さんの言葉に多少詰まる。何と言うか、娘が『小学校』から初めて仲の良い友達を連れてきたような、そんな対応だった。いい年の男女が必要以上に仲良くなると、娘さんのご家族にとって一大事なんですが。
「いやぁ、実は心配してたんだぁ。詩乃ちゃはずっと、仲の良い友達も家に連れてくることって
「う……」
お祖母さんの言葉に、詩乃が恥ずかしそうに俯く。――『理由』は知っていた。けど、過去に彼女に起きた事、そして、彼女の過去の孤独までは僕もどうしようもない。時間をさかのぼることは出来ないから。
だから、『今』を楽しむために、少しおちゃらけることにした。
「あー、詩乃って『友達を作ると、人間強度が下がる』とか言いそうですもんね」
「何でよ! 人をニヒル気取ったアホ毛が特徴な変態吸血鬼と一緒にしないでちょうだい。私にだって優矢に会う前からの友達だっているわよ」
「何人?」
「ぐ……そりゃ両手の指よりは少ないけど……」
「いや、友『達』なのに人数数える時点でおかしいよね?」
「人数聞いたのは自分じゃない!」
この間、詩乃が図書館から借りてきた本の掛け合いを試してみる。内容をお互い把握しているせいか、呼吸もぴったりだ。
……しかし、アレのアニメ版は、何故エロエロな後輩の声と、詩乃の声が似ていたのだろうか?
「ところで、どうした君」
「人の名前を疑問形みたいにしないでください。僕の名前は、銅島です」
「失礼。噛みました」
「違う、わざとだ」
「かみまみた」
「わざとじゃない!?」
「噛み、マミッた」
「アニメ見てないよね?!」
アドリブだというのに、一切の淀みもない完璧な返し。ちなみに元ネタとなった人物は、某有名アニメの『銃』使いで詩乃は内容を見ていない。何故知っているのか疑問だ。
「いやぁ……見違えたでねが、詩乃ちゃ」
ニヤニヤ笑顔を浮かべながら話しかけてきたのは、詩乃のお祖母さん。この人の笑顔も猫系。すごく血筋を感じさせる。
「実はな、心配してたんだぁ」
「
「詩乃ちゃは、果たして二十歳になるまでに彼氏と『初夜』を迎えられるべぇか、と」
「してない! まだ私たち、そんな関係じゃない!」
お祖母さんの言葉に、詩乃が真っ赤になって否定する。かく言う僕も、顔が熱い。外の景色は豪雪で白一色のはずだけど。
「『まだ』、かぁ……
ますますニヤニヤ笑いを深めるお祖母さんに、僕は「ああ、この人には一生勝てない」と白旗を上げることにした。なんて言うか、完全に詩乃の上位互換という印象だし。
「あんの詩乃ちゃも
そう言ってお祖母さんは、隣に座るお祖父さんに向き直る。――ここからが本番だ。
「…………」
詩乃のお祖父さんは、組んでいた腕を解くと、おもむろに口を開いた。
「すまねぇが、詩乃と別れてけれ」
…………何を言われたのか、一瞬理解できなかった。
「……
「詩乃は、オラの知己に頼んで嫁の貰い手を探す。東京にも、お
「何言ってるの、
「だったら、尚更だ。後腐れ
「…………」
……正直、ここまで門前払いとは。予想をはるかに上回る事態だけど、ここで退くわけにいかない。
「――理由を、教えてもらえますか?」
どう考えても、ここまで強硬に断る理由が思いつかない。孫娘である詩乃の心情を無視してもいる。
「…………付き合いが
「……はい」
「オラ達にとって詩乃は、目に入れても痛くね孫だ。事件にしても、娘を守るために抵抗した結果だ。オラ達は、詩乃の味方だ」
「…………」
「けど、人の口に戸は立てられねぇ。詩乃の婿には、オラ達が死んだ後も防波堤になってくれる、それなりの力と立場を持った男を見つけてぇ。それが、理由だ」
……心情は、理解できる。実際、詩乃は東京の高校でも事件のことがバレて、孤立していた。だからこそ、彼女には心身ともに守ってくれる存在が必要なんだろう。理屈はその通りだ。全くの正論だ。
――――けど、そんなんで退けるか。
「――おっしゃることは理解できます。彼女のこれからの人生に最善の選択をしたいという気持ちも」
「そか。なら――」
「だけど。それでも僕は――彼女とこれからの人生を歩んでいきたい」
お祖父さんの眼を見据える。絶対に退かないという意思を込めて。
「
頭を下げ、今自分に出来る最大限で説得を試みる。実際今の自分は、現実じゃ何の力も持たない高校生。だからこそ頼むことしか出来なかった。
「…………」
詩乃のお祖父さんは、頭を下げたままの僕をじっと見据えた後、しばらくして席を立った。
◇ ◇ ◇
その後、滞在期間の間何度か詩乃の実家を訪れたけど、お祖父さんの方は、会社で仕事があるとのことで再度会うことは出来ず、代わりにお祖母さんとお母さんとは何度か話をする機会があった。
「ごめんなぁ、優矢君。
滞在の最終日、駅まで詩乃とお祖母さん、お母さんが見送りに来てくれていた。
「いえ……キチンと説得できなかった自分が悪いですから」
「んだか。まあ、こっちでも
「はい……」
――結局説得は出来なかった。何か方法を考えないとな。
「優矢……三が日が明けたら、東京に戻るから」
「……そんな心配そうな顔しないで、詩乃。必ずお祖父さんを説得できるように、こっちも作戦を練るから」
「……アリガト」
……詩乃と別れる、なんて選択肢は存在しない。必ず、突破口を見つけてみせる。
「んー、もう二人の雰囲気作っちまって。……最悪、
「「ええ!?」」
……滞在期間中、散々からかわれまくった。やはりこの人は天敵か。
「そ、それじゃ失礼します」
こうして、詩乃の実家訪問は幕を閉じた。
実家訪問編、終了。今までにないくらい、シリアスを書きました。シノンのお祖父さんの理屈は、かなりの正論なんですよね……レイジも現実では高校生の若僧ですし。
次回は、いよいよ彼女が……!