ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
「はああ…………」
シノンの実家から帰って、しばらく。レイジはキリト・アスナ夫妻のプレイヤーホームで突っ伏していた。
「はああ~~……」
もうなんて言うか、完全に生ける屍。しかもストッパーのシノンがいないせいで、非常に暗鬱な空気を醸し出している。
「――あー、もー! いい加減鬱陶しいわよ!」
そんな空気を霧散させたのは、同じ室内で冬休みの課題をしていたリズ。具体的には、部屋の隅で頭を抱えていたレイジ相手に、愛用の
「ぐお?!」
当然ゲーム内なので痛みは感じないし、何より≪圏内≫なので直前で障壁に弾かれる。しかし…………さすがに衝撃と反動で、仮想の首から上がシェイクされれば、誰でも不快だ。
「ちょっと、リズ?!」
その行動に抗議したのは、家主の一人であるアスナ。先程まで一緒に課題を行っていたシリカとリーファは苦笑していた。
「流石にひどいわよねぇ……」
「あはは……」
「壁にあたったら、キズがつくじゃない!!」
「「………………」」
全く殴られた人間の心配を、していなかった。
「アスナさん、ヒドイです……」
「反論できないなあ……」
ちなみにもう一人の家主であるキリトは、揺り椅子で熟睡中。しかし彼が起きていたら、こう言っていたことだろう。「アスナは、
「で、どうしたのよ? シノンに婚約者でも現れたの?」
「………………ごめん。今はその鋭すぎる冗談には、返せない」
リズは、昔からこういうところがあった。ギルド≪風林火山≫でプレイヤーショップを訪れたときも、何度かメンバーで女性プレイヤーに振られた人間を言い当てていた。本人曰く、ある程度第一印象でキャラ
「え? 何? じゃあ
「そこまで切羽詰まってるわけじゃないけどね……」
そうして話したのは、シノンの実家での顛末。割とフランクに迎えてくれたお祖母さんと、頑固一徹だったお祖父さん。
「…………まあ、シノンのお祖父さんからすれば、純粋に孫娘が心配なんだろうけどね」
「そうね……」
「はい……」
「あー。私に剣道教えたお祖父ちゃんも、そんな感じだったなー」
「へ?」
「リーファも、お見合いとか勧められたことあるの?」
「いや、そうじゃなくて、「あんまりお転婆が過ぎると、嫁の貰い手がなくなるぞ」って何回も言われて……」
「「「あ~~」」」
一同、納得。
「みんな、ヒドイ!」
とりあえずリーファは自業自得な気もするので、放置。部屋の隅で未だに悩んでいるレイジに向き直った。
「結局、何に悩んでるのよ?」
「え? どうやったらお祖父さんを説得できるかなあ、と」
先程から頭を埋め尽くしているのは、ソレである。
「とりあえず、第一案。今度は、前よりは豪華なお土産でも持ってあいさつに行く」
「学生の身分で買えるものじゃねえ……」
「それにそれだと、お土産のカタに孫娘を貰っていくような……」
「第二案。お祖母さんを中心に説得して、お祖父さんは間接的に説得する」
「ソレ、下手したら余計こじれるわよ?」
「お祖父さん、話だけでも頑固そうですもんね……」
「キュクー」
「第三案。……………………『曾孫』と一緒に帰郷」
「「「「ブッ!!」」」」
およそ年頃の乙女らしからぬ反応だった。いや、正しいのか?
「アンタ、何言ってんの!?」
「出合い頭に、お祖父さんに殺されるわよ!!」
「はわわわわ……」
「ウチのお祖父ちゃんなら、日本刀で追っかけるなあ……」
……まあ、この反応も当然だろう。実のところレイジも、第三案にはBADENDとDEADENDしか見えてこない。
「まあ、第三案は高校生の身分じゃ無理だよね。シノンの生活に、負担になるだろうし」
「分かってるなら言うんじゃないわよ……」
「びっくりしたあ……」
実際、シノンには少しばかり男性恐怖症の気もある。それを考えれば、将来的にはともかく、今のところレイジは無理に彼女に手を出すつもりはなかった。
「となると……第四案。時間をかけて、少しずつ説得」
「一番妥当よね……」
「それ以前に、それしか選択肢無いじゃない」
「そうですね……」
「答え、半ば出てたんだ……」
……問題は、そこではなかった。
「でも、それだと時間がどのくらいかかるか不透明なんだよね……」
「確かにね。でも仕方ないんじゃない?」
「けどそっか。確実に説得できる保証もないんだね」
「それはキツイですね……」
「でも、シノンなら待ってくれるんじゃない?」
「それ、精神的に一番キツイ……」
仮に駆け落ちしても幸福にはなれそうにないし、出来れば説得する方法を取りたい。けどそれだとシノンに負担がかかってしまうのだ。そのあたりのジレンマがレイジの悩みだった。
「あー、もう、ヤメヤメ! それよりさっき話してた『≪絶剣≫VSアスナ』の話しましょう!」
「ああ、次の挑戦者はアスナさんなんだ?」
悩みに頭を占領されて話を聞いていなかったレイジは、ここで初めて話題を認識した。
「そういえば、レイジ君もキリト君の後で対戦したのよね? その時どんなだったの?」
「……あー」
思い出すのは、紫と黒に彩られた天真爛漫な女性剣士。
「なんて言うか……この世界で生まれた
◇ ◇ ◇
新生アインクラッド、湖の中に位置する小島の中央。そこで二人の戦士が対峙していた。
「ギルド≪風林火山≫所属、
片方の戦士の印象は、紅。赤系統に染め上げた革鎧の各所に鋲や輝石が打たれ、背中にはファイアパターンのマントをたなびかせていた。
「ふーん。ボクはユウキ! よろしくね!」
もう片方の印象は、紫。スカートのように広がる腰
ALOでは、12月から一つの噂が流れていた。曰く、「どの勢力にも属さない、最強無敵の剣士がいる」。曰く、「その剣士は、魔法だろうと、ソードスキルだろうと叩き伏せる」。曰く、「その剣士の動きと速さは圧倒的。まるで本物の妖精のようだ」。
曰く、「絶対無敵の剣士」。その名は――――
――――――≪絶剣≫。
「それじゃ、いこうか?」
「そうだな。ウチはリーダーが武士道重んじるヒトだから、掛け声もそれっぽく。『いざ、尋常に――――』」
カウント、ゼロ。
「「『勝負』!!」」
仮想世界の申し子たちの、戦いが始まった。
≪絶剣≫ユウキ、推☆参!だけどバトルは次回です!キリト以上の仮想世界の申し子と、仮想世界生まれのレイジ。勝負の行方は次回。
今回初めて書いたレイジのALO装備。モチーフはROのチャンピオンです。もはやレイジはROのモンク系列とは、完全に別キャラ化してますが……