ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男 作:路地裏の作者
「それでは、第一回、≪キュクロプス・トーナメント≫対策会議を開始するぜ!!」
「「………………え~~?」」
ここは、ALOの内部。ユグドラシルシティの一角。街の喧騒をある程度抑えられる堅牢な建物の二階。そんなところにレイジとシノン、そして≪月夜の黒猫団≫は集まっていた。
「あれ、レイジにシノンも? 二人とも今日がトーナメントに向けてのミーティングだって聞いてない?」
「いや、いきなりダッカーから今日この時間にここに来てくれ、って呼び出されたんだけど……」
「『大事な用件だ』の一点張りで、私たちには詳細も話さなかったわよ?」
ケイタからの質問に事実をそのまま話したが、当の本人はテーブルの真ん前で腕を組んで反り返っている。
「なあササマル、確かダッカーから詳しく話すって言ってたよな……?」
「ああ。だから、俺たちから連絡しなくていいって聞いたぜ」
テツオもササマルも同様。そしてその下手人はというと。
「こういうのはサプライズが重要なんだよ!」
次の瞬間、眉間に向けて渾身の矢と、アゴ先を跳ね上げる渾身の拳が駆け抜けた。
「――さあ! 話を続けるか!」
「そうね。自軍の分析と敵勢力の分析は重要よ」
「……レイジだけじゃなく、シノンもかなりドライなんだね」
サチは苦笑していたものの、視線はアゴ先へのアッパーの衝撃で、天井に突き刺さったダッカーへと向いていた。
「いや、正直トーナメントに向けてのミーティングだったのが意外なんだよ。今日呼び出されたのは、てっきりこの間頼んでいたギルドの調査の件だと思ってたから」
「ああ、例の迷惑行為を繰り返した攻略ギルドのこと?」
ケイタの問いに首肯。当日あの場で参加していなかった黒猫団に、あのギルドの内々の調査を依頼したのだ。
「あのギルドに関しては、巷で噂の通りだよ。ボス部屋前で二人やキリトたちにボコボコにされた後、繰り返していた悪行が公になって解散したって」
新生アインクラッド第二十七層攻略戦。この挑戦権をかけてレイジとシノン、キリトたちはとあるギルドと戦った。そのギルドは、よそのギルドの攻略方法を盗んだりして攻略に挑むだけでなく、ボス部屋への他のギルドの挑戦を妨害することまで行う悪質なギルドだった。
基本的にはMMOと呼ばれるゲームの中では、独自のルールが存在する。『ゲーム内だから』と横柄な態度に出る者もあれば、ゲーム内でも現実のルールを適用しようとする者もいる。そこのバランスを調整するのが『運営』ではあるが、『運営』が介入できないような個々人の問題については、大抵のゲームで重要視されるのはプレイヤーの『総意』なのだ。
今回問題となったギルドが行ったのは、大抵のMMOで嫌悪される『ブロック行為』。それもギルドの権威を笠に着て、相手に要求を通そうとしてくるという悪質なものだった。
「『身から出た錆』か……」
「いや、追い打ちかけたのはレイジだったわよね?」
「散々ボコボコにした後、ケットシー、シルフ、サラマンダーにウンディーネの首脳陣に、『こういう悪質なギルドがいる』ってギルドタグとギルド名晒したよな?」
「それで芋蔓式に彼らの迷惑行為が判明して、ギルド解散に追いやられたんだよな?」
「まあ、どっちにしても狩場の占有に他人の妨害、その上裏ではライバルギルドへの粘着PKまでやってた奴らだろ? 『全領地での取引禁止』まで言い渡されたら、どのみち解散だろ」
「相変わらず、≪阿修羅≫はやることが怖いなあ……」
「あ、あはははは……」
苦笑しているサチ以外、全員での集中砲火。まあやったことがやったことなので仕方ないが。
「まあそれは置いておいて、≪キュクロプス・トーナメント≫のミーティングって何やるの? ウチはともかく、どこか参加が分かってるところはある?」
「あ、それもそうね。相手が分からないんじゃ自分たちの連携の確認くらいしか出来ないわよ?」
そう僕たちが質問すると、司会進行役のケイタから一通のテキストメールが届いた。準備が良いなあ、と苦笑しつつその中身を確認する。
「うわあ…………」
今現在分かっているチーム名の一覧表。それを見ただけで嫌な予感しかしない。
「主だったギルドは数チームずつの参加なのね……それで知り合いはいる?」
えーと……………………あー……
「いるよ……≪風林火山≫に、あと多分、この≪仲良し領主チーム≫ってところも……」
「…………そのネーミングセンス、絶対
まあ、チーム代表者が『謎のネコ領主』って書いてある時点で……
「あはは、それは置いておこっか。それで、このウンディーネの代表チームも知り合いだよね?」
サチが示したチームの代表者は見覚えがある。エクスキャリバー争奪戦の時の、レイドリーダーだった人だ。
「それと、やっぱりキリトたちも参加するみたいだ。大体はエクスキャリバーの時と同じメンバーだけど、そこにエギルとクリスハイトが加わってるな」
「クリスハイトはよく知らないけど、ウンディーネのメイジだったよな? むしろ弱点無くなった感じで厄介なんじゃね?」
「エギルさんも充分厄介だよ。どちらかというと彼は
「楽に勝たせてくれるところは無い、か……」
ケイタ、ダッカー、テツオ、ササマルが総評をまとめたけど同感だ。特にキリトチームは、相変わらず魔法使いが少ないけど、防御も厚くなってるし、油断できない。
「まあ、一番厄介なのは、ここか……」
「そうね。今回一番の優勝候補……」
テキストメールの示された先。そこに表示されていた、一つのギルド名。新生アインクラッド第二十七層をたった七人で攻略した者たち。
ギルド≪スリーピング・ナイツ≫。
◇ ◇ ◇
あれから数回のミーティングを経て、ヨツンヘイム等で連携の確認を行い、いよいよトーナメントの日程が近づいてきた。
(結局、キリトチームと≪スリーピング・ナイツ≫をどう攻略するかに限るんだよな……)
担任に頼まれた教材のプリントを運んで廊下を歩いていた時に、思いがけない人物に出会った。
「あれ、レイジ君?」
声を掛けられた方向に振り向くと、そこには学年が違うため、校内ではめったに会わないアスナさんがいた。
「――ん?」
だが、気になったのはその肩。そこには小型のカメラが乗っかっており、しかも何処かにつながっているのか、ズームを調整する小さな駆動音が鳴っていた。
「……えっと、その肩に乗っているのは?」
「あ、そっか。レイジ君は学年違うから知らないんだね。ホラ、ユウキ」
『それなら自己紹介からだね! 任せてよ!』
マイクから元気がよさそうな少女の声が響いていた。
『現実では初めまして! 紺野
そうして彼女は高らかに自分の名前を宣言した。
「………………≪絶剣≫ユウキ?」
それが、彼女とレイジの現実での初対面だった。
というわけで、ユウキとの現実での初対面でした。本来この学校、板書もディスプレイだし、連絡もプリント受け渡しもメールで行うはずですが、全部VRやARに頼るのはまだ先だろう、と雰囲気重視でプリントの運搬をさせました。こういう細かいこともデジタル化すると楽になるのか、人間が退化するのか微妙なんですがw
前回のギルドは、もう二度と出ずこのままフェードアウトです。ちなみに文章中の『粘着PK』というのは、特定のプレイヤーに付きまとってPK解放区域に入った途端、PKし続けるというとんでもないマナー違反です。分かりやすく言えばログ・ホライズンのススキノで行われてたPKですね。実際いるんだよな、時々……