ソードアート・オンライン 心優しき阿修羅の男   作:路地裏の作者

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第一回戦の始まりです!



017 シールドクエスト12~策士、ふたり

 

 ≪キュクロプス・トーナメント≫第一回戦。幕開けを告げたのは、会場上空を埋め尽くす火球だった。

 

『出ました! 開幕と同時に有無を言わさぬ空間爆撃! 先手はサラマンダー最強を謳われるメイジ、モーティマー選手得意の爆炎魔法だァーッ!!』

 

「――この程度で終わるなよ?」

 

 ニヤリと浮かべた笑みとともに、闘技場(コロッセオ)全体が『起爆』した。たちまち黒煙がいっぱいに広がるが、その中を真っ先に斬り裂いて迫る影があった。

 

 壁戦士(タンク)は前に出てこそ、と言わんばかりの猛スピードを出すのは、言うまでもなく、レイジだった。

 

『さあ、爆炎の中から飛び出したのはアルヴヘイムの≪幽霊拳士(ドッペルゲンガー)≫、レイジ選手! そのままお返しとばかりに、モーティマー選手に突進します! モーティマー選手、どう出るか――!』

 

「ふん……近づけさせるわけがないだろう」

 

 そう言い、空中で打ち鳴らすフィンガースナップ。

 

「な――――!?」

 

 不意に背中に衝撃が走り、突進のスピードがガクンと落ちた。肩越しに振り返り、その原因に驚愕する。

 

「設置型の爆炎で、翅だけを!?」

 

 しかも今、目の前の男は詠唱すらしていない。ということは、あらかじめ空間爆撃と前後する形で発動しておいた、遅延タイプの魔法だろう。その上、ALOには詠唱だけ済ませて、好きなタイミングで発動可能な魔法など存在しない。必ず規定時間で発動してしまうのだ。つまり、完全に相手がどう出てくるかを読んでいたことになる。それを理解した選手や腕利きの観戦者に、戦慄が駆け巡る。

 

『な、なんという慧眼か――ッ! まるで神の如く相手の攻撃を見透かす『軍師』! これが≪神眼の軍師≫の実力なのか!?』

 

 確かに、恐ろしい。その上――この『味方へのサービス』も、策の内だろう。

 

「さあ、試させてもらうぞ、≪幽霊拳士(ドッペルゲンガー)≫!!」

 

 空中でスピードの落ちたレイジに迫るのは、サラマンダー最強の剣士ユージーン将軍と、その部下カゲムネ。口では試しと言ってはいるが、二対一で確実に落としに来ている。

 

「サクヤ、アリシャ! 陣形は『鶴翼』! 残りのメンバーには風魔法とブレスを目一杯浴びせてやれ!」

 

 その言葉とともに、黒煙を取り囲むかのようにワイバーンに乗ったアリシャ・ルーとアルフ、サクヤとレコンが両翼へと別れ、五人分の攻撃を解き放った。

 

「これでお前の仲間も終わりだ。後はキサマをこの私が討ち果たすのみ!」

 

「……ひとつ、聞いていいか」

 

「ん?」

 

「この作戦、僕一人に二名の戦力を裂き、さらにモーティマーも空間爆撃で援護を行っている。つまりあの時点で、半分近い戦力を僕に集中させた。それは一体……?」

 

 要するに、レイジの突進を止めるためだけに、あの一瞬サラマンダー全員が当たったのだ。他のメンバーを考えれば、明らかに戦力の不均衡を生じさせる作戦だった。

 

「グランドクエスト時のキサマの実力を把握してのことだ。他のメンバーは、元SAOプレイヤーとはいっても中堅ギルドに過ぎなかった者たちと、新規参入の弓兵のみ。充分に対処できると考えてのことだ」

 

「……過分な評価ありがとう。でも、だからこそ――」

 

 傍から見れば追いつめられているというのに、レイジの顔に浮かぶのは『笑み』。そのことにユージーンもカゲムネも怪訝な顔をするが、同様に訝しんでいるのは作戦を立てたモーティマー。その視線が、レイジから、未だに晴れない黒煙(・・・・・・・・・)へと向く。

 

「――――アンタたちの負けだよ」

 

「! 全員、黒煙から離れろ!」

 

 モーティマーの焦ったような声とともに、『黒煙』が爆発的に広がった。

 

「これは……?!」

 

「スプリガンの煙幕!?」

 

 そう、これはスプリガンが得意とする幻系統の初級魔法。最初の攻撃の時から、舞い上がった黒煙を利用して、フィールド全体を煙で覆い隠すことが、こちらの作戦だった。

 

 ここからは、こちらのターン!

 

「うあ!?」

 

「ワイバーンが!」

 

 アリシャとアルフの騎乗するワイバーンの翼を『矢』が突き破り、バランスが崩れる。やったのは、言うまでもなかった。

 

「シーちゃんカ!!」

 

 太陽を背に受け、天高く滞空したメアの背中から狙撃したのは、シノン。狙撃手たる彼女にとって、上を取ればもはや無敵に等しかった。

 

「よおし、行くぞ!」

 

「作戦通りにね、ササマル」

 

 さらに黒煙から、二人飛び出してくる。その二人は、ケイタとササマル。標的(ターゲット)はサクヤとレコンだ。

 

「ぐぅっ!」

 

「ま、マズイですよ」

 

 膂力に勝る二人の突進を受け、堪らず二人は横へと弾き飛ばされた。

 

「これで……仕上げ!!」

 

 そのタイミングに合わせて鍔迫り合いになっていたユージーン将軍を投げ飛ばし、一歩後ろに控えていたカゲムネごと後方へと吹き飛ばした。

 

「これは……!?」

 

 モーティマーの困惑する声が響き渡る。気づけば、モーティマーを中心に七人の敵集団が入り乱れる状態となっていた。

 

 そう。こうやって全員を集めて――――『一網打尽』にすることこそが、こっちの作戦。

 

 集まった集団の中心が揺らめき、まるで陽炎のように、二人の人物が浮かび上がる。

 

「幻使いの影妖精(スプリガン)と、音楽妖精(プーカ)だと……!」

 

 現れたのは、スプリガンのダッカーと、その手を引かれたサチ。ダッカーの魔法を使って敵からは不可視となり、予めモーティマーの近くに待機させておいたのだ。

 

「やっちまえ、サチ!」

 

「うん! ――♫!! ~~―♫―♪!!」

 

 手に持ったハープから響き渡る旋律と、彼女の得も言われぬ歌声。普段は味方を鼓舞するバックグラウンドミュージックが、今、敵へと牙をむいた。

 

「行動阻害と魔法耐性(レジスト)低下の≪呪歌(ソング)≫スキルか……!!」

 

 実は、音楽妖精(プーカ)特有の≪呪歌(ソング)≫スキルは、味方を強化する強化(バフ)能力を持った物も多いが、同じくらい相手を妨害する弱化(デバフ)能力のスキルも多い。もっとも≪呪歌(ソング)≫スキルの効果範囲は、どのスキルも演奏者を中心とした周辺限定のため、弱化(デバフ)スキルはめったに使われることがない。だからこそ相手の意表をつける、というのがウチの『策士(・・)』の作戦だった。

 

「――――≪エレクトリック・ソーン≫」

 

 そして、策士自らの仕上げの言葉が響き渡る。雷魔法限定で威力を高めることが出来る移動阻害の茨。闇色に光るソレが、全員を空中で縛り上げた。

 

「――成程。この作戦を立てたのはキサマか」

 

 そのとき漸くモーティマーの視界が、たった今自分たちを縛り上げ、ハンドサインで味方全員の退避を指示する、ウチのリーダーを捉えた。≪黒猫団(彼ら)≫を甘く見たこと、それこそが『敗因』だ。

 

「名を、聞いておこう。黒猫の策士」

 

 それは、彼を認めた証だった。

 

「≪月夜の黒猫団≫ギルドマスター、ケイタ」

 

「フ――」

 

 名乗りを聞き、空を見上げる。空中で静止していたメアから一人のプレイヤーが落ちてくる。ソレは、この乱戦にあって、姿を見せなかった七人目のメンバー。

 

 その左手にはタワーシールド。そして右手には、細かな造形が刻まれたアルヴヘイム有数の輝きを秘めた武器。

 

「――――見事だ」

 

 その言葉とともに襲い掛かったのはテツオ。その手のハンマーは、神威たる(いかづち)を迸らせていた。

 

「≪雷槌――」

 

 黄金のハンマーは、すべての色彩を全き白へと染め上げ。

 

「――――ミョルニル≫!!」

 

 轟々たる雷鳴とともに、すべてを引き裂いた。

 

 ≪キュクロプス・トーナメント≫第一回戦。勝者、≪月夜の黒猫団with猫カップル≫。

 




第一回戦、終☆了です!
少し短いかもしれませんが、今回の話では策士同士の作戦の掛け合いを書きたかったので、読みあいに勝った方が一気呵成に滅ぼしてしまうんですよ……ここら辺、作者が大好きな横山光輝『三国志』基準だったりしますww赤壁もいいが、孔明と司馬懿の読みあいは至高w

次回の対戦相手は誰にするかな……?
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