侵入してきたSCAVをボコボコにする話   作:奥の手

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侵入者のSCAVをキレイにする話

 プロピタル注射器を刺して止血処理をしてから、俺はこの少女が気を失っているうちに持ち物と素性を暴くことにした。

 とはいっても都合よく所属や身分がわかるものは持っていないだろう。せいぜい財布か、あるいは名札か。いやそれすらないかもしれん。

 腕と足を本格的に治療するにしても、衣服は邪魔だ。脱がそう。

 

 とりあえず血と汗と小便でひどく汚れているジャージを剥ぎ取る。

 上着の前側はフルジップになっており、下はゴムパンツ。力無く完全に意識を手放している人間から衣服を脱がせるのは案外手間のかかることである。切れば楽だが、切ったあとこいつが着る服がない。ボディバックを解体して作った布ならあるが、そんなものを服として仕立てる技術はあいにく持ち合わせていない。ラグマンならできるか? 高くつきそうだからやめておこう。

 

 馬鹿なことを考えながらもジャージを剥ぎとると、少女の肌着が顕になった。つまりどうやら爆弾で体をぐるぐる巻きにしているわけではなさそうだ。

 

 肌着もひどい汚れだった。においもきつい。何日も洗わずに汗を染み込ませたような酢えたにおいと、血液の鉄錆のようなにおい。そして何より、肌着自体に違和感を覚える。

 

「…………これ、本当に肌着か?」

 

 素材は麻だろう。わざわざ手で編み込んだような作り方をしており、しかも貫頭衣だった。腰のところに麻紐を巻いて絞り込むように着ている。下端はちょうど股間のすぐ下で切ってある。

 下着をつけていない。ノーパンだ。なんだこいつ? 

 

 まるで数百年前のような格好の上からとってつけたようにセットアップのジャージを着ている。タルコフ市の若者はこういうファッションが好きなのか? いやでもこいつロシア語で命乞いしてこなかったな。

 んじゃドイツで流行ってんのか。そうかもしれん。ドイツ語はわからん。

 

 どっちにしてもこれは新しい服が必要だな。生かしておくと決めた以上、汚い格好のまま放置して言葉も通じないまま早々に死なれては困る。おもしろくない。

 

 意識が戻ってから暴れられたらやる気をなくす。殺したくなる前に治療を済ませて体を拭いておくか。

 俺は少女の汚い貫頭衣も剥ぎ取って全裸にしてから、まずは両手、次に左足の治療を施した。CMSとグリズリーで丁寧に処理する。

 この街は天国だ。外の世界とはどこか違う。死ぬ時はあっさり死ぬが、死なずに生き残れたらたとえ腕が飛ぼうが足が皮一枚になろうが復活する。

 

 原理やメカニズムはわからない。紛争初期にEMP攻撃を喰らった後くらいから、適切に処置をすれば時間経過で体の欠損、ダメージはひとまず元に戻ることが分かった。

 さすがに頭を撃ち抜かれたり、胴体のバイタルを抜かれたりしたら死ぬだろう。俺はそうして何百人と殺してきたからな。

 

 少女の手足に包帯を巻いて固定したら、次はこの汚い体を表面上だけでも綺麗にすることにした。

 水にウォッカを混ぜて布に浸す。

 軽く絞って、少女の体を拭く。衣服が激しく臭いだけで、体そのものからはあまりにおいがしない。もしかしたら体は定期的に自分で拭いていたのかもしれん。思ったより垢も出ていない。

 

 拭いている途中で気がついたが、薄汚いコンクリの地面で拭いたところで永遠に綺麗にならない。かといって俺の寝袋の上に移すのは抵抗がある。折衷案で、バックを解体して作った布の上に転がしてから拭き上げることにした。これならいくらか意味があるだろう。清潔かどうかはもはやどうでも良くなってきた。土埃が取れればそれでいいだろう。

 

 それにしても貧相な体だ。うちの娘もコールスローとバナナで体の八割ができていそうなダイエットに勤しんでいたが、ここまで細身ではなかった。明らかな栄養失調。肋も浮いてまともな筋肉も見られない。それこそ弾切れのトカレフを持ち上げても狙いが定まらないような腕である。

 

 この娘を生かして一体何に使うか考えたが、とりあえず何をさせるにしても飯を食わせてやらねば何もできそうにない。売春すら無理だろう。まして街に出てゴミ拾いをさせたら送り出して10分後には死んでそうだ。

 

 いや、しかし生き残っているのか。

 街がこんな様子になって数ヶ月経つが、この娘はここまで生きているのか。今日まで五体満足で。

 なぜだ? どうやって? 

 こんな体と、弾切れのトカレフの引き金を引き続けるような貧相な知識で、いったいどうやって生き残ってきたんだ…………? 

 

 違和感と疑問が絶えないが、それもおそらく言葉が通じないので今日明日でわかることではないだろう。

 まずは飯を食わせて栄養状態を確保して、それからある程度のロシア語を教えて話せるようにしないとな。

 オフラインの翻訳機をどっかで見たな。インターチェンジか。あれ拾ってくるか。まだあるといいな。

 

 体の前面を丁寧に拭き上げて土汚れと乾いた血液を取り去ってから、後ろ側を拭くべくひっくり返した。

 そして肩甲骨のあたりにおどろおどろしく浮かび上がっている火傷の後に目を奪われる。

 

 正確には、火傷ではなく焼印。熱した鉄で肌を焼かれ、一生消えない跡となっている。

「…………」

 

 本当に、何者だこいつ。

 焼印は二つ押されている。二つ合わせて10センチ四方ほどの大きさで、上が何かの紋様、下は読めない文字が押されている。ドイツ語とも思えない。もちろんロシア語でも英語でもない。

 どこかマイナーな国家の狂信的な宗教が生んだ、哀れな子供のなれ果てかもしれん。だとしたらなぜロシア連邦の経済特区に居るのか説明が難しいがな。

 

 とりあえず薄汚れている体を綺麗にする。土埃と乾いて変色した血液を拭い去り、ついでに腕と足以外の負傷箇所も確認する。まぁよく見る必要なんてない。一目で背中側は全体的に傷だらけだとわかる。

 

 焼印もそうだが鞭で打たれたような跡が無数にある。古いものから、つい先日つけられたような傷跡まで。あぁ切り傷もあるな。もう塞がっているが、明らかに自分で切るには腕の関節の数が足りない位置にある。

 

 つまり、だ。

 この娘、何者かに激しい虐待を受けている。受けていた、といった方が正しい。それがこの街での出来事なのか、そうではないのかまではわからないが、どちらにしても一般的なぬくぬくとした生活環境に身を置いてからこの死で囲まれた街に閉じ込められているわけではないのだろう。

 

 訳ありか。

 ちょうどいい。この街は良くも悪くも〝訳あり〟しかいない。人を殺して回ることすら生きるための選択肢の一つである。他じゃ考えられないような生き方を強いられていて、それは同時にこういう〝訳あり〟の存在を程よく包んで隠してくれる。どんな生き方をしてもいい。生きてさえいればいい。

 

 目的もなくとりあえず生きている俺から興味を引き出したこの娘の存在は、まさしくその〝訳〟のおかげで俺に殺されずに済んでいる。幸運な娘だ。ひとまず生かしてやろう。

 

 全身を拭き終わった俺は、少女の首にパラコードを巻いて、締まることも緩むことも外れることもないちょうどいい長さに結んでから、地下壕の配管にくくりつけた。こいつの両手はまだしばらく使えないので、このパラコードを解いたり切ったりすることもできない。であれば手足を拘束する必要もとりあえずはないだろう。

 まぁ手癖が悪かったら腕を切り落として放置するがな。めんどくさくなったら殺す。

 

 全裸で放置も風邪を引かれては困る。血のついたジャージを手に取って上からかけておこうとしたが、

 

「…………」

 

 せっかく拭いたのに元の小汚い服を使うのはどうもしっくりしない。こんなことなら丁寧に脱がせたりなどせず適当に切ればよかったと少し後悔した。

 

 とりあえず俺の服を被せておくか。

 替えのシャツと、USECの野郎から剥ぎ取った綺麗目なコンバットシャツを少女の上下に被せておく。ひとまず寒くはないだろう。

 

 仰向けで、規則正しい細い寝息を立てている顔を見る。整っている方だろう。東欧、ゲルマン人の血を感じるあどけなさと彫りの深い顔立ち。しかしどこか、なにか違和感がある。言葉にはできない〝なにか〟を感じる。この世のものではないような、まで言うと大袈裟だが。

 栄養の足りていないくすんでボロボロの髪の毛。おそらく金髪だが、何十年と放置した真鍮から味を抜き取ったような色だ。つまり汚い。洗えばどうにかなるのかこれ? 

 

 全身を見検めて、ひとまずこのバカで幸運な侵入者に抱いた印象は「奴隷」だ。

 他所で飼われて、逃げ出して俺のハイドアウトに潜り込み、両手と左足を穴だらけにされた哀れな奴隷だ。お仕置きやしつけにしては少々やりすぎだな。やったのは俺だが。

 

 まぁいい。

 起きるのを待つか。明日は休息日にしよう。幸い食料は溜め込んでいる。栄養失調だとしたら、そうだな……温めたミルクにパンでも浸すか。小麦粉はあったはずだ。それでいいだろ。なければスープでも作ってやろう。

 

 あぁ、そうだ。

 名前はどうするか。名乗れるのかこいつ? 名乗れなかったらなんと呼ぶ。

 起きるまでに考えておくか。

 




R-15指定だからね。
中学二年生以下は見ちゃだめよ(もう遅い)
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