ここのハイドアウトのセキュリティを強化した。
具体的には「生かさず殺さずの負傷を与えて情報を引き出す」という方針だった旧セキュリティから「入ろうとしたら即死する」レベルにした。
爆薬と釘、ボルト、ベアリングを前回の三倍量使用。加えて、ドアの仕掛けにダミーを設置して、俺以外の人間が装置を外そうとした瞬間にドア前を穴だらけにできるようにした。
ニーナをここに残す。ゆえに室内へ入られたら終わりだ。不届き者は既に部屋の中で「らゔれふらゔれふ」鳴いている。二人目は必要ない。
ドアのセキュリティを設定して、ニーナによく説明しておく。
ドアを指さし、仕掛けを見せて、ニーナのまだ生えそろっていない左手を指さす。
「ここから出ると死ぬ。外から入ってくるやつも死ぬ。出るな。動くな。この部屋で仕事をしていろ」
「らゔれふ、でる?」
「そうだ」
「ニーナ、いる?」
「そうだ」
「たりる」
何が足りるのかわからんがたぶんこいつは肯定の意味を「足りる」で覚えている。飯ばっかり食ってるからだぞ。
ここから出ると死ぬということを教え、それをおそらく理解したのを確認してから、俺は装備を点検してハイドアウトを出発した。
目的地はインターチェンジ。
回収目標は翻訳機と婦人服。いくつかの食料。あとはラグマンにPCB基盤を売りつける。
だいぶ溜まったからな。ネットワークを使うより直接持ち込んだほうが早い。
AK-12のマガジンを外す。弾を確認する。このマガジンにはBS弾を詰めている。あとは7N40だ。コスト意識は持っていたほうがいい。最近BSもイゴルニクも見なくなってきた。枯渇してんのか?
まぁいい。
見かけた人間は殺そう。弾が足りないなら現地で調達する。スカブでも5mmは持っている。頭に放り込めば正直弾の良し悪しなど関係ない。多くを殺すなら弾が手に入るか否かのほうが重要かもしれんな。
〇
ニーナが留守番しているハイドアウトからインターチェンジのショッピングモールまでは片道一日あればたどり着く。
車を使い、銃弾が飛んでこなければ本来40分ほどで行ける距離だろう。
死をもたらすプレゼントに警戒をしながら歩いて移動するというのは、それだけ人生の残り時間を食いつぶす行為ということだ。
ただこの街に残っている全員がそうしているのなら、相対的にこの行いは無駄ではない。それに良いところもある。
道すがら寄り道もできる。思わぬ拾いものをすることもある。出会いがあれば別れがあるのと同じように、遭遇しなければ物品は手に入らない。
五人で行動をしている元USECのPMCが居たので殺して持ち物を頂戴した。選別する。価値があろうと重いものは置いていく。この街で値打ちのあるものは天下の廻り物ということだな。合っているかは知らんが。
なかなかお目にかかれない武器アタッチメントや、何の戦略的アドバンテージもない装飾品に多額の金を出すイカレ野郎のための腕時計、俺は好みではないから使わないが大口径の高級弾をすべて拝借する。
お? 書類もあるな。頂戴しよう。その筋には高く売れる。
「……?」
見慣れないポーチに目が留まった。ポーチ自体は医療品を詰めるものだが重さがおかしい。ファスナーをあけて中身を見ると、
「ほう……お前凄いなこれ。どうやって集めたんだ」
顔の下半分が俺の弾で無くなっている死体に思わず称賛を送る。あの世で喜べ。
ポーチの中身は調味料だった。香辛料や香草を中心に、乾燥させたものをそのまま保存している袋、調合したと思しきスパイス瓶、見慣れない色の油もある。
こいつはもらいだ。たぶん料理に明るい奴だったのだろう。趣味で持ち歩くには凝りすぎている。大体どこで手に入れたんだこの香草類は?
戦場で飯が作れるやつは重宝される。ましてこんなストレスが服を着て歩いている街ではなおさらだ。こいつ〝だけ〟が死んで後の四人が逃げおおせなくてよかったな。みんな仲良く死ねたから明日からの食事に落ち込まなくて済む。
ありがたく頂戴しよう。
今後数週間の飯はグレードが上がる。スパイスの調合次第では狙って調達して配合してもいい。タルコフで手に入るスパイスだったらいい発見だ。
手早く持っていくものと置いていくものを選別してバックパックに詰めて立ち上がる。
死体も残す品もそのままにする。通りかかったスカブやほかのPMCが順次持ち去り、またこの街をめぐるだろう。
寄り道をした。これでいい。目的地へ一直線できる人生など面白くないというものだ。どうせ生きても死んでもそうたいして変わらんのなら、明日や明後日が少しでも楽しければそれでいい。
……ニーナがどんな顔をしてこのスパイスで作った飯を食うのか、それはそれは楽しみだな。
目的を果たそう。さっさと帰ろう。
ラヴレフはたぶんスパイスカレーとか作るのが好きなタイプの殺人鬼。