タルコフ市とそれ以外の主要都市を結ぶ高速道路の分かれ道に、それは鎮座する。
巨大ショッピングモール〝ウルトラ〟に繋がる高速道路と鉄道の交差点。辺り一帯の交通要所となっているこの場所を、地元住民はインターチェンジと呼んでいる。
タルコフ市がクソの掃き溜めになった後も、インターチェンジは主要な施設となっていた。
多くは非武装市民の避難場所。タルコフ市から彼らを安全に逃すために活動していたエマーコムの拠点として、紛争初期は機能していた。
だが完全にはその効力を発揮していなかったのだろう。あるいはなんらかの意図や策略に巻き込まれたのか、この街に取り残されて暴徒となった住民は数える気にならないほど大勢いる。
そしてインターチェンジは、安全を失う代わりに銃と自由を手にした素人集団の溜まり場になった。
粗末なバリケード、無計画な破壊と略奪、立て篭もることのみに集中した人間要塞男。
まるで動物園だ。あるいはテーマパークか。
飽きさせないと言う意味では、ここは言い得て妙な場所だろう。
人の通りが多いが故に物資が豊富にあるので、ここは定期的の訪れる価値のある場所だ。
元々あった店に残されたもののうち、値打ちのあるものはさすがに残っていないが、代わりに外部から持ち込まれたもの、持ち込んだが頭を吹き飛ばされて用済みになったもの、戦闘のために置かれたバックが持ち主不在のまま転がっている。そういうお宝がゴロゴロある。
俺の目的である女物の服なんてのは、取る理由もないのでほとんど手付かずで残っているだろう。
「ほらな」
見ての通りだ。ずらっと並ぶ服屋の婦人服コーナーの商品棚には、荒らされてはいるが誰からも興味を持たれなかったことがよくよく分かる状態で放置されていた。
ニーナの体格を思い出す。
平時に街中を歩いていたマダムの服では大きすぎる。脱ぎ着しやすく、かつ動きやすく、数もあるものを選びたい。
そうなるとスポーツウェアが最適だろう。
二、三分探してすぐに見つかった。ジャージの上下に吸水速乾の半袖シャツ。長袖もある。いくつかまとめて持って帰ろう。
あとは下着か。あのスマホケースみたいな薄っぺらい胸にブラは必要ないだろう。そもそもサイズがない。ショーツだけでいいか。
女物の下着コーナーなど、少なくともモスクワで歩くことはなかった。正直種類もサイズもわからない。一つの種類を何サイズか持って帰るのでいいか?
「どれだ…………」
と、思ったが、そうか女の股を覆う布というのはARシリーズのオプション並みに種類が豊富なんだな。
多分生理がある時とない時で履き替えるし、男に見せる時と見せない時でも履き替えるし、家にいる時と外にいる時でも違うんだろう。じゃなきゃこんな形も大きさも違うものが棚ごと何列も並ぶことはないはずだ。
嫁の下着を思い出す。
レースがついたものを履いていたような気もするが、正直思い出そうとしてもその詳細は全く頭に浮かばない。
しかたがない。
スポーツウェアと同列のものを探すか。少なくとも動きやすければそれでいい。生理があったら…………いや、衛生に関わるのか。そうだな。生理用品とスポーツ用ショーツでいいか。
早速探し、頭の中にはトレーニングルームに履いてきそうな下着を探す。
どこを見てもファンシーなフリルやスリットの入った下着ばかりだ。値段? あぁ…………結構したんだな。
どうでもいい。必要なのは機能性だ。
そんなこんなで探すこと数分。
女物の下着売り場で商品棚を物色する武装した男の姿はなかなか奇怪で面白いだろうな。笑ったやつは楽な死に方できると思うなよ。
目的のものは見つかった。ニーナが履くにはやや窮屈かもしれないものから、若干オーバーサイズだろうと思うものまで複数枚バックに詰め込んだ。
素材が伸び縮みするが故に、ジャストフィットがどこかわからない。一見小さそうなものが使用に耐える場合もあれば、それで動きが阻害される可能性もある。何より本人が納得した上で衛生が確保できなければここに来た意味もない。
選択肢があって困るものではない。重量もそう気にならない。服も合わせるとスペースは取るが、これを回収することが主目的であれば、やはり数は持って帰ったほうがいい。
適当に詰めて、同じ店舗内にあった生理用品も掻っ攫っていく。娘が何を使っていたか思い出そうとしたが、これも思い浮かぶメーカーや種類はなかった。つまり良識のある父親を演じることができていたのだろう。
タスククリアだな。もう一つ、翻訳機のあった場所を確認してまだ残っていたら回収する。なかったら別にいい。道すがらラグマンの部下に基盤を売りつけてから帰路に着く。
帰りを急ごう。